「お前の作ったプログラムは信用しない。本職が作ったものではないから。」
農業機械の研究所へ入所して6−7年だったか。かれこれ20年ほど前の話。
農業機械の検査や鑑定を行う部署に始まり、某農林水産省の「くだものがかり」への出向を経て、私は農業機械、主にトラクターと言われる農用車両の情報化と自動化についての研究開発を行う部署におりました。
当時の研究テーマのひとつは「農業機械のカーナビ」。
畑や田んぼの中で真っ直ぐ・等間隔に走るのは実はとても難しいのです。加えて、作業の跡が重なると資材や燃料が無駄になるなど、経営にも大きな影響が。
そのため、だれでも真っ直ぐ・等間隔に走行・作業ができるようにと、ノートPCに画面表示を行うソフトウエアと、現在位置を正確に計測するためのGNSS装置をセットで研究開発していたのでした。
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一般的に。(公的な)農業機械の研究所が新しく研究開発した成果を実際に農業生産の現場で役に立てようと思うと、必ず農業機械メーカーに製造と販売をお願いしなくてはなりません。
「あんまり売れなさそうだから」「高くなってしまうから」など、農業機械メーカー側の都合で日の目を見なかった有望な技術は数多くありました(今でも多いだろうと思います)。ビジネスの世界では収益を上げることができるかどうかが最重要、とアタマでは分かっていても、何年も経ってから海外の同様の技術・機械がさも最先端として紹介されるのはやっぱり悔しい。
「コンピューターのプログラムならば、自分が作った成果を直接農業者のみなさんに届けて役立ててもらえるのでは」という、それはそれはすてきなアイデアに魅せられたハマダ青年(当時)。某ブラック官庁のくだものがかりとして馬車馬のように働いていた時以上に心血を注いでプログラムを書いていたわけですが、そんな私に向かって上司の口から出てきたのが標題の言葉。
今にして思うと「研究者の本分は論文を書くことであって、ソフトウエアを改良することではない。目を覚ました方が良いのでは。」と親切心で言ってくれたのかも?と思ったりはするものの、どのみち当時の自分には全く届かない(笑)
本職、いわゆるIT企業に金を払って作ったものしか信用しないというその言葉に絶望しつつも、「じゃあ資格があれば信用してもらえるのでは?」と情報処理技術者試験を受けにいったり、あるいはプログラミングに関する名著を夜な夜な読んではプログラムをブラッシュアップする、などという明らかに明後日の方向に向かって突き進み、最終的に研究者の世界からはドロップアウトすることになったのでした。
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資格と勉強と地道な改良の結果、自分に対する評価が変わり仕事もやりやすくなった!…などとという「週刊少年ジャンプの後ろに載っているブルワーカーの広告」みたいなことは一切なく、その後も研究所内では「いつまで(そんな売れないテーマを)続けるの?」とちくちく言われ続けたわけですが、起業した際に研究所とライセンス契約を結んで自ら引き継いだこのプログラムは、「AgriBus-NAVI」というスマホ用のアプリとして生まれ変わり、自社の主力プロダクトになりました。
現在、AgriBus-NAVIのダウンロード数は150万以上。当時まだなかったスマホ、タプレットとインターネットのおかげで世界中(約140か国)で使ってもらうまでになりました。「自分の作った成果を直接届けて農業生産に役立ててもらう」にまわり道をしつつもたどり着いたわけですが、考えてみるとここまでやって来れたのは、あの言葉が原点だったのかもしれません。
ショックのあまり、逃げるように早退して県道大宮栗橋線を涙を流しつつクルマでぶっ飛ばす。などという若気の至りを思いだすたび穴を掘って隠れたくなるわけですが(笑)、まあでもそれだけ一生懸命に仕事をしていたんだよな…とちょっと懐かしくもある今日この頃。当時生暖かく見守ってくれていた関係の皆さんも、ほんと、ありがとうございます。
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