見出し画像

【地域の決断を追う#2】「揺れた」柏崎刈羽原発20年史

前回の記事はこちらから

今回は、柏崎刈羽原子力発電所に関連した事故・事件について、2002年の事件以降から取り上げたいと思います。

なお、2002年以前、原子力発電所の運転開始から現在にいたるまでのトラブルは柏崎市のホームページに記載してありますので、こちらをご確認ください。



2002年:東電原発トラブル隠し

事件の概要

2002年8月29日、原子力安全・保安院(当時)が福島第一・第二、柏崎刈羽原発で、炉心隔壁(シュラウド)やポンプのひび割れ・摩耗を自主点検で見つけたにも関わらず、記録を改ざんした上で国に報告しなかった疑いがあることを発表した。

原子炉等規制法(炉規法)では運転上のトラブルについて国への報告義務を課し、作業記録の保存も義務づけていたため、規制法違反になる。(1)
改ざんは1980年代後半から1990年代前半の自主点検記録のうち29件のトラブルで行われたとされる。柏崎刈羽原発では1号機にシュラウドのひび割れ、2号機・5号機にジェットポンプの固定用部品にすき間や摩耗の疑いがあるとされた。1号機と5号機では修理や取り替えが行われたが、2号機では修理がされていないことが明らかとなった。(2)


地元自治体の対応―「事前了解」の撤回

柏崎刈羽原発と福島第一原発では当時、プルサーマル計画の一環としてプルトニウム燃料を利用するプルサーマル発電の実施が計画されていた。柏崎刈羽原発では新潟県、柏崎市、刈羽村が1999年に事前了解を与えていた。

東京電力の南直哉社長(当時)はトラブルが発覚した当日にも、同計画の延期について言及をした。(2)
トラブルを受けた新潟県や柏崎市、刈羽村においてもトラブル隠しに対して不信感を強めた。平山征夫新潟県知事(当時)は計画の見直しに言及し(3)、刈羽村の品田宏夫村長は事前了解の見直しにも言及した(4)。柏崎市長も東電幹部らの訪問に際し、「今回の不祥事はいくら言い逃れしてもカバーしきれない」と述べた(5)。

刈羽村議会ではプルサーマル実施に対する事前了解を撤回するよう求める決議が全会一致で可決、柏崎市議会でも撤回の決議が可決となった(6)。
一方で1999年の事前了解は、1983年に締結された「東京電力株式会社柏崎刈羽原子力発電所周辺地域の安全確保に関する協定書」に基づいたものであるが、撤回や凍結などの取り決めは当時の協定には無かったため、判断が首長らに委ねられることとなった。事前了解に基づき東京電力も準備を進めていた以上、撤回によって損害賠償が発生する可能性があるなど、行政手続き上の問題も指摘された。(5)(7)

結局、新潟県知事が事前了解を取り消すことを表明した。

なお同協定では、新潟県や柏崎市、刈羽村が立ち入り調査を行うことができ、立ち入り調査の結果に応じて国を通じて原子炉の運転停止を求めることができるとする条項が含まれている。条項に基づく調査は2002年10月に新潟県が実施した。

2003年には議会の要望を踏まえ、また点検の必要性から柏崎刈羽原発は全基運転停止となったが、安全の確認された原子炉から順次運転が再開された。


2007年:新潟県中越沖地震

地震の概要

2007年7月16日午前10時13分、新潟県上中越沖を震源とするマグニチュード6.8の地震が発生。柏崎市・刈羽村の気象庁震度観測点では最大震度6強を観測した。東北・北陸地方の沿岸部では最大で32cmの津波も観測している。

柏崎刈羽原発で起きたこと

地震当時、柏崎刈羽原発のうち、1号機・5号機・6号機は定期検査のため停止中、3号機・4号機・7号機が運転中で2号機は起動中の状況だった。いずれも原子炉とも地震の揺れにより自動停止した。

一方、3号機では、変圧所で火災が発生した。10時15分に東京電力も煙を確認し消火活動を行ったものの対応できず、鎮火まで約2時間を要した。

6号機・7号機では放射能漏れが発生した。

6号機では放射能を含んだ使用済み燃料プールの水が電線の配管を伝って非管理区域に漏れ出し、排水設備を通って海に放出された。7号機では原子炉が止まった時に行われる措置を実施しなかったことにより、排気筒から放射性物質が漏洩した。いずれも、自然界から受ける放射線量に比べて極めて低い値の物質漏洩だった。

IAEAが策定した国際原子力事象評価尺度(INES)によれば、中越沖地震で起きたトラブル事象はいずれも評価対象外、ないし0-(ゼロマイナス、安全に影響を与えない事象)と評価されている。

また、1号機敷地内に設置された新時計では、設計時に想定していた想定の加速度(273ガル)を大きく上回る680ガルが観測されたことも、大きく報道された。

なお、地震により停止となった原発だったが、2009年2月に県・柏崎市・刈羽村の地元了解を得たことにより、同年7号機の運転を再開、以降6号機、1号機、5号機の運転も再開されている。


地元自治体の対応:消防法に基づく「緊急使用停止命令」

柏崎市は翌18日、発電用タービン関連の屋外貯蔵タンクなどの安全性確保ができていないことを理由として消防法に基づく緊急使用停止命令を出した。

原子炉に対しては停止命令を出すことはできないものの、関連施設に対して使用停止命令を出すことができ、実質的な運転停止命令となった。なお、命令発令に際しては前日に柏崎市消防本部が立ち入り調査を実施した。

また、柏崎市と刈羽村は安全協定に基づき、運転再開にあたっては地元自治体の同意を得るように申し入れも行った。(8)

第十二条の三 市町村長等は、公共の安全の維持又は災害の発生の防止のため緊急の必要があると認めるときは、製造所、貯蔵所又は取扱所の所有者、管理者又は占有者に対し、当該製造所、貯蔵所若しくは取扱所の使用を一時停止すべきことを命じ、又はその使用を制限することができる。

消防法第十二条の三

また、会田洋柏崎市長は18日に東京電力勝俣社長と柏崎刈羽原発高橋所長(人物はいずれも当時の肩書)を呼び出し、直接停止命令を出している。

朝日新聞の記事は、直接呼び出した背景には2002年のトラブル隠し事件の不正が背景にあると分析している。(9)


2021年:テロ対策の不備発覚

事故の概要

2021年1月23日、東京電力HD社員が他人のIDカードを使い原発の建屋内に侵入していたことが明らかとなった。これは原子炉等規制法に基づく核物質防護規定違反の可能性があるとし、原子力規制委員会に報告をした。

東京電力側は2020年9月21日に問題を把握し、原子力規制庁に連絡を行ったものの、原子力規制委員会に対して報告がなかった。原子力規制庁「四半期ごとの報告の中で伝えればいいと判断」していたとする。原子力規制委員会は2020年9月23日に東京電力に対して原発を動かす「適格性」を与えていたことから、問題隠しともとられかねない行動に批判が集まることになった。なお、規制委員会はその後10月30日に保安規定を認可するなどし、国による審査を終えていた。原子力規制委員会の委員からは適格性の判断が変わっていた可能性に言及する意見もあったとされる。

2021年1月には侵入検知に関わる核物質防護設備の一部が損傷しており、さらにこれらの設備の点検・保守が適切に行われていなかったこと、代替措置も不十分であったことが明らかとなっている。

2021年3月、原子力規制委員会は、これらのトラブルが安全確保に対する影響が大きいとし、原子力規制検査(核物質防護)における重要度評価を「赤」(4段階の中で最も深刻なレベル)であることを発表した。

これを受け、原子力規制委員会は東京電力が原子炉等規制法に違反したとして、是正措置命令を出すとともに、規制委員会が判断するまでは原子炉に核燃料を入れることを禁止する命令を行った。これにより実質的に柏崎刈羽原子力発電所は再稼働ができなくなった。

地元自治体の対応:不快感示す

柏崎市長はIDカード不正問題に対して2021年1月25日に「(原発を)運転する資質、適格性に関わる大きな事件」と認識を示した。一方で、再稼働の価値を認めるとする考えが変わらないとしつつ、正確な事実関係の報告を求めた。

新潟県知事も同様にセキュリティ対策の不備を「しっかりと見直してほしい」と述べ、改善を求めた。

また、上記の安全協定に基づき、2021年3月22日には県・柏崎市・刈羽村は立ち入り調査を実施した。

いずれも地元自治体の反応や対応が2002年時よりも弱いことが気になるかもしれないが、これらは当時と状況が異なる点で説明ができる。
2002年の時と状況が大きく異なるのは、地元自治体に対して決断を求める状況が生じなかったことだ。2002年のトラブル隠しの事件の際には、地元自治体がプルサーマル発電の計画に対し事前了解を与えていた。これを取り消したりする規定はなかったものの、与えた事前了解を取り消すという判断が可能だった状況には結果としてなったことが大きい。

一方で、2021年IDカード不正の際には、地元判断の一段階前である国の判断の段階で判明したトラブルだった。また、トラブルの発覚と国の審査が交差する状況にあったため、メディアの報道も規制委員会や規制庁とトラブルが明らかになったタイミング、原子炉等規制法違反に基づく措置命令といった点に焦点が集まることとなった。

これ故に地元自治体が判断するまでもなく、実質的な運転禁止措置が出されることになったのである。


2025年:再稼働へ向けて

2023年12月27日に原子力規制委員会は事実上の運転禁止命令を解除すると、翌年には経産省が新潟県知事、柏崎市長、刈羽村長へ再稼働の地元同意を要請した。

11月には柏崎市長選挙が行われ現職が当選、刈羽村長選挙は無投票で現職が当選した。柏崎市議会、刈羽村議会はいずれも再稼働を求める請願を24年3月に採択しており、柏崎市・刈羽村は地元同意に向け用意は整ったといえる。

一方で新潟県知事は2025年の定例会見で地元同意に関して具体的な言及を避けている状況で、再稼働の時期が見通せない状況が続いている。2024年8月には「遅くとも(次の)知事選までに判断できる」と表明しており、2022年5月に再選となった知事は任期満了となる2026年5月まで判断が先延ばしされる可能性もあるといえる。

2024年1月1日に発生した能登半島地震では、柏崎刈羽原発では使用済み燃料プールから水があふれたものの管理区域外への漏洩はなく、直接の原発事故は避けられた。一方で、北陸電力・志賀原子力発電所の立地する石川県志賀町では震度観測点において震度7を観測した。避難を要する事故などは発生しなかったが、志賀町においても道路の損傷が生じ、有事の避難という視点では課題になりうることが明らかになった。

柏崎刈羽原発においても、2024年6月に地元自治体が要望した避難道路整備について全額国費で着手する方針を表明している。


参考資料一覧

(1)「東電、原発損傷など隠す 29件、記録改ざんか 11件なお未修理」,読売新聞,2002年8月30日付朝刊,p.1。
(2)「東電、原発トラブル隠す 80~90年代に29件、点検記録に虚偽」,朝日新聞,2002年8月30日朝刊,p.1。
(3)「安全性への不信が爆発 東電、原発不正でプルサーマル見送り/新潟」,朝日新聞,2002年8月30日朝刊,p.27。
(4)「刈羽村長「事前了解見直しも」 (偽りの「安全」 原発不正)/新潟」,朝日新聞,2002年8月31日朝刊,p.31。
(5)「プルサーマル「凍結」確認へ(偽りの「安全」 原発不正) /新潟」,朝日新聞,2002年9月10日朝刊,p.31。
(6)「プルサーマル事前了解撤回、刈羽村議会が議決――きょう知事・村長ら」,日本経済新聞,2002年9月12日朝刊,p.22。
(7)「プルサーマル白紙の波紋(上)「立場をなくした」――推進派の信頼も失う。」,日本経済新聞,2002年9月13日朝刊,p.22。
(8)「中越沖地震 柏崎原発に停止命令 市、消防法に基づき」,読売新聞,2007年7月18日夕刊,p.1。
(9)「(時時刻刻)原発城下町、不信の末 柏崎市が停止命令 トラブル相次ぎ決断」,朝日新聞,2007年7月19日朝刊,p.2。

なお、ホームページ上などで掲載されている資料や記事については記述した箇所の下にリンク先を掲出することで代えた。


次回は1月16日19時、「事前了解」をめぐる地方自治体の関係などを分析したいと思います。お楽しみに!

最後までお読みいただきありがとうございました!

いいなと思ったら応援しよう!