SDGsのツケはどこへ行くのか。ゴミ問題は誰のもの?
SDGsが注目される中、海洋プラスチックが大きな問題になっています。毎日色々なゴミが世界中で排出されるのに、なぜ、プラスチックのリサイクルだけが取り上げられるのか?大学の学友と話していて気がついた点をまとめてみました。
どこがリサイクルしているの?
日本では、プラスチックのリサイクルが推進されています。自治体でもスーパーでも、分別回収をしています。これは、環境負荷を減らすことを目的にしていますが、そうして集められたプラスチックは、本当にリサイクルされているのかな?そう思った人は少なくないと思います。
図1. プラスチックのマテリアルフロー
出典:環境省ウェブサイト(プラスチックを取り巻く国内外の状況
<参考資料集>)
上の表は、環境省のウェブサイトにあった資料です。このスライドの内容はちょっと古いのですが(2013年)とてもわかりやすいので、今回はこれを使って見てみます。着目したいのは、一番右端の[リサイクル・処理]の項目です。一番下の未使用(1,730千トン)もかなり衝撃的ですが、それはちょっとおいておいて、リサクル2.330千トンの内訳を見たいと思います。リサイクルとして回収されたプラスチックのうち、材料リサイクルされるのは2,030千トン、ケミカルリサイクル(科学的に分解して原料に戻して再利用するものもあれば、コークスのような燃料にされることもある)が300千トンとあります。。
ここから本題です。材料リサイクルのうち、1,680千トンが、再生樹脂輸出となっています。要するに、集めた廃棄物を外国に送っていたのです。これは、なにも日本に限ったことではありません。先進国はどこも、自国のごみ処理を資源という名目で他の国に「輸出」と称して後始末を押し付けていたのでした。これに業を煮やした中国やフィリピンが、プラスチックの輸入を禁止したのは、記憶に新しいと思います。
プラスチック・チャイナ
途上国がここまで強硬な態度に出る背景には何があるのか。それは、先進国のゴミ処理を押し付けられるという国の尊厳の侵害だけではなく、国民の経済格差を広げ、健康に深刻な悪影響を及ぼしていることが挙げられます。映画「プラスチック・チャイナ」では、幼い子供が親と一緒にプラスチックの山に登って処理をしている様子が伺えます。集められたプラゴミは汚れているだけでなく、医療器具である点滴の袋も含まれていることから、非常に不衛生です。映画のなかでは、これらのプラゴミを粉砕してペレットなどに再加工する様子が撮影されていのですが、その過程で空気中にプラスチックの屑が舞い飛び、水は汚染されているのがわかります。私達が「よいこと」としてリサイクルに出したペットボトルが、実は途上国に劣悪な労働環境を作り出し、地球環境を破壊しているのです。
ゴミ輸出の規制
バーゼル条約は、環境汚染を引き起こす有害廃棄物の国境の移動を規制する目的で、1992年に作成されました。もともとは、ヨーロッパの廃棄物をアフリカに送られて放置されることが、アフリカの環境破壊につながることから締結された条約ですが、これをプラスチックにも当てはめたのです。
図2. バーゼル条約の背景
出典:環境省ウェブサイト(プラスチックを取り巻く国内外の状況
<参考資料集>)
図2の環境省資料によると、廃棄物管理の能力が低い途上国の不適切な処理が、プラスチックの海洋流出につながる、との指摘があります。今のペースでプラスチック製品を作り続けた場合、2050年にはプラスチックの生産量が海の魚の量を超えるとの研究結果が発表されています(図3)。また、粉砕された極小のプラスチックが空気中に浮遊していることもわかってきました。私達は普段からホコリや粉塵を吸い込んだりしていることから、一定量のプラスチックを体内に取り込んでいるとの見解もあります。ただし、私達は、日常生活で砂や粉塵を吸い込んだりしていることや、プラスチックは吸収されずに消化管を通って体外に排出されることから、プラスチックの摂取が人体に影響を及ぼすことについては、明らかになっていません。
図3. プラスチック量の拡大と石油の消費量
出典:環境省「令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書」
気になるのは、自分の問題だけ
プラスチックがここまで大きな問題になるのは、「私達の生活に影響があるから」です。ここでいう私達に、途上国の人たちは含まれるのでしょうか?バーゼル条約は、ヨーロッパのゴミ問題がアフリカの環境を汚染していることが発端です。バーゼル条約のいう、アフリカの環境汚染の原因は、プラスチックではなくて、電子機器です。これらのゴミは、E-wasteと呼ばれています。スマートフォンやPCの最新モデルが出るたびに、買い替える風潮があります。私達は、古くなった機種をリサイクル料を払って廃棄して、ハイ終わり。ですが、そのゴミが世界から集められて一箇所に放置されていると考えたらどうでしょう?
ガーナは、E-wasteのために、土壌と大気が汚染されています。電子機器にはレアメタルなどの資源が含まれているため、これらを取り出して換金する事ができます。貧しい人たちがガーナだけでなく他の国からも、E-wasteの処理で収入を得るために、この地にやってきます。電子機器は小さく尖った製品も含まれているため、ゴミが集められた場所を歩くだけでも、非常に危険です。それだけでなく、金属や資源を集める過程で有害な化学物質に長期に渡って身体を晒すことになるため、E-wasteの処理をする人たちの寿命は大変短いのです。E-wasteの処理をする人たちだけが、化学物質に汚染されているわけではありません。ガーナは農業大国としても知られています。近辺には農園が広がり、ヤギや鶏が飼われています。こうした農産物や酪農製品にも、化学物質が含まれている危険性が高いとの研究もあります。このことから食物連鎖にE-wasteが入ってくるため、ガーナではゴミ問題が国全体の課題となっています。
出典:YouTube, ToxyCity
(英語ですが、見ているだけで息ができなくなります)
SDGsでは、バーゼル条約を念頭に置いたゴールを設定しています。それが、ゴール12:作る責任・使う責任、です。このなかの、「ターゲット12.4 2020年までに、合意された国際的な枠組みに従い、製品ライフサイクルを通じ、環境上適正な化学物質や全ての廃棄物の管理を実現し、人の健康や環境への悪影響を最小化するため、化学物質や廃棄物の大気、水、土壌への放出を大幅に削減する。」が、E-wasteの対策に該当するのです。けれども、日本ではあまり知られていません。それは、E-wasteが私達の生活に影響を与えないからです。
SDGsの罠
SDGsのカラフルなロゴを見ていると、世界のためになにかしなくちゃ、と思う気持ちが高まります。そうした動機づけはとても大切で、一人ひとりが環境問題を自分ごととして考えることが、よりよい世界を作ることに繋がります。しかし、そうしたロゴが貼ってあるからSDGsのゴール達成に貢献しているとは断言できないことも、残念ながらありえます。E-wasteの問題に目を向けず、前よりも省エネだからと、アップグレードした電気製品を買い続けることが、果たして本当に環境負荷を減らすのか?ガソリン車が販売されなくなることから、EV車に切り替える動きが世界で加速していますが、廃棄された車の末路をどうするのか?ペットボトルのゴミが、海や空気を巡り巡って私達に害を与えるから、プラゴミが「私達の問題」として認識されるようになりました。しかし、地球の反対側の、一生行くことがない場所に、私達の生活から排出されたゴミに苦しむ人達がいることを、忘れてはいけない。ゴミを出さないために、必要以上に作らない・持たない社会にシフトしていく必要があるのです。リサイクルされるから大丈夫、なのではなく、リサイクルは最後の手段、ということを、改めて認識する必要があるのです。
おわりに
先日、気候変動と気候正義のワークショップを実施しました。ここに参加してくれたガーナの留学生から、E-wasteの話を聞きました。それまで、私も恥ずかしながらE-wasteの問題を知りませんでした。調べたところ、日本人で活躍している方がいらっしゃるようです。ぷくし@pukushi トロント暮らし さんが、「#他己紹介 ガーナのスラム街を救うMAGOさん」にとても素晴らしくまとめてくださっていました。これを読んで、日本にいても私にできることはないかな?と考えた結果、同じアフリカ大陸のエリトリアの留学生も巻き込んで、アフリカのゴミ問題について考える会@筑波大(仮称)を立ち上げました。いつか、ここに報告できるような取り組みができるといいなと思います。がんばります!
参考文献
・テムズ中日株式会社 Kids環境ECOワード 【廃棄物】No.17 「ケミカルリサイクル」ってな―に?
・環境省 プラスチックを取り巻く国内外の状況<参考資料集> 令和2年11月20日 中央環境審議会循環型社会部会プラスチック資源循環小委員会、産業構造審議会産業技術環境分科会廃棄物・リサイクル小委員会 プラスチック資源循環戦略ワーキンググループ 合同会議(第7回)
・CNN Odd news 空気中のマイクロプラスチックは「地球を巡る」、汚染が循環 新研究, 2021年4月14日
・Nature マイクロプラスチックは有害なのか?, Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210825
・環境省 令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書
・IFIXIT E-Waste はこのデジタル時代の有害な遺産です。
・Moeckel, C., Breivik, K., Nøst, T. H., Sankoh, A., Jones, K. C., & Sweetman, A. (2020). Soil pollution at a major West African E-waste recycling site: Contamination pathways and implications for potential mitigation strategies. Environment international, 137, 105563.
・Gooddo 持続可能な開発目標・SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」のターゲットや現状は?
Youtube ToxiCity: life at Agbobloshie, the world's largest e-waste dump in Ghana - YouTube
・Note:ぷくし@pukushi トロント暮らし #他己紹介 ガーナのスラム街を救うMAGOさん
国立環境研究所地球環境研究センターニュース 地球環境豆知識 34 気候正義(climate justice)