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舞台 「THE STUBBORNS」 観劇レビュー 2024/10/04


写真引用元:THE ROB CARLTON 公式X(旧Twitter)


公演タイトル:「THE STUBBORNS」
劇場:三鷹市芸術文化センター 星のホール
劇団・企画:THE ROB CARLTON
作・演出:村角太洋
出演:村角ダイチ、ボブ・マーサム、高阪勝之
公演期間:10/4〜10/14(東京)、10/25〜10/26(大阪)
上演時間:約1時間20分(途中休憩なし)
作品キーワード:シチュエーションコメディ、会話劇、笑える
個人満足度:★★★★★★★☆☆☆


三鷹市芸術文化センターで演劇企画をされており、今年(2024年)からは読売演劇大賞の選考委員も務めることになった森元隆樹さんによるオリジナル事業「MITAKA "Next" Selection」による公演を観劇。
「MITAKA "Next" Selection」は毎年2団体が選出されて、三鷹市芸術文化センター星のホールで公演が上演されている。
過去には、このフェスティバルから「ポツドール」「モダンスイマーズ」「ままごと」「iaku」「劇団アンパサンド」などが選出され公演を行っている。
25回目の開催となる「MITAKA "Next" Selection 25th」では、「かるがも団地」と「THE ROB CARLTON」が選出され、今回は「THE ROB CARLTON」の新作公演を観劇した。

「THE ROB CARLTON」は2010年に京都で誕生した劇団であり、wikipediaによると劇団名の由来は、当時京都で開業することが発表されていたホテル名「ザ・リッツ・カールトン京都」と、「Rakusei Old Boys」の頭文字を取って、「ROB CARLTON」としたそうである。
そこからプロデューサーの入江拓郎さん以外が経験者である「ラグビー」と、主宰のボブ・マーサム(村角太洋)さんが長年勤めた「ホテル」をコンセプトに、喜劇的な演目を作り出すエンターテイメント集団として公演を行ってきた。
今作は劇団として18回目の公演だが、私自身は「THE ROB CARLTON」を初めて観劇する。

物語は、国際会議に参加するために集まったバッソ(ボブ・マーサム)、ドルベルト(高阪勝之)、ファロニア(村角ダイチ)の有力者3人の30年前の一夜と30年後の一夜を描くシチュエーションコメディである。
30年前、会議の控え室にバッソ、ドルベルト、ファロニアの3人が集まる。3人は初対面で、皆片言で日本語を話しているのでぎこちない様子である。
ファロニアは飲み物を取りに行く。
ドルベルトはファロニアのことを「スキを見せないようにしないと」と言うので、バッソはドルベルトがファロニアに対して好意を抱いていると思い、そこからドルベルトとファロニアをくっつけようとするが...という話である。

この後、バッソ、ドルベルト、ファロニアの3人の会話から、それぞれの勘違いが勘違いを呼んでいって事態は思いもよらぬ方向へと進んでいく。
そして今作の後半にあたる30年後の一夜では、30年前に3人が初対面だった記憶を必死で思い出そうとするのだが、彼らの記憶違いで思いもよらぬシチュエーションが思い浮かび上がってしまう。
このお互いの勘違いと記憶違いのボタンのかけ違えたような状態が非常にコミカルで素晴らしかった。
人間は誰しもが間違いを犯すものだし、論理的ではなくあべこべなことをする生き物である。決して全てに理由があって物事が進む訳ではない。
そういった人間の予期せぬエラーを上手く劇中に取り込んでここまで会話劇として面白く観せられるのは凄いなと驚いた。
また、登場人物3人の日本語が片言だからこそ、日本人にとって「それはないでしょ?」という覚え違いやミスをしていて、そこにも笑いの要素があったのが新鮮だった。

世界観も物凄く好きで、シットコムなので舞台セットは転換することはないのだが、高級な有力者の会議の控え室というだけあって、非常に上品な感じを漂わせているあの空間も好きだった。
その上品な空間で、シットコムが展開される雰囲気も好きだった。

そして出演者は3人しかいないのに、どの方も演技が非常に上手くて非常に見応えがあった。
日本語が片言な役柄なので、どこか話し方が良い意味でぎこちなくてそれを聞いているだけでもクスクス笑えてしまう。
それだけでなく各キャラクターの個性も豊かで、特にバッソ役を演じたボブ・マーサムさんの頑固でおせっかいなおじさんらしい個性が、物語をコミカルな方に導いていたのが印象的だった。
また、ファロニア役を演じた村角ダイチさんの、アメリカンな女性を演じるオーラが凄く似合っていて、少しドジだけど憎めないキャラクターであるのが凄く良かった。

本当に「MITAKA "Next" Selection」で観る公演にハズレがないなと思う。
ここまで初めての団体なのに絶大な期待と信頼を持って観劇に臨んで期待を裏切らないのは、森元さんの劇団の見る目が素晴らしいからだとつくづく感じる。
そして「THE ROB CARLTON」も、ニール・サイモン、三谷幸喜さん、「アガリスクエンターテイメント」のような硬派なシチュエーションコメディの系譜を継ぐ新たな喜劇集団として、今後飛躍して行くこと間違いないのではないか。
まだチケット予約も出来る上に3000円と破格のチケット代で観劇出来るので、是非多くの人に観てほしいと感じた。

写真引用元:ステージナタリー THE ROB CARLTON 18F「THE STUBBORNS」より。(撮影:今西徹)




【鑑賞動機】

「MITAKA "Next" Selection」に選出される演劇にハズレはほとんどないから。そして、このオリジナル事業まで無名だった団体でも、ここでの上演を皮切りに飛躍していくことも多いので、その瞬間を観ておこうという気持ちで観劇した。
尚、「THE ROB CARLTON」という団体は、「MITAKA "Next" Selection」に選出されるまで全く知らなかった。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

ボブ・マーサムさんが一人登場する。そしてこの作品のタイトルについて語る。「STUBBORNS」とは「頑固」という意味だが、『THE STUBBORNS』に決まるまでは、様々なタイトルの候補があって紆余曲折あってこのタイトルになった。タイトルの候補に上がったもので一つ印象に残っているものがあるので、今回に限り(限らないかもしれないけれど)紹介するという。それは『シルベスタ・スタボーン』。ボブ・マーサムさんが捌けて開演する。

高級ホテルの会議の控え室、そこにバッソ・フェルポーミ(ボブ・マーサム)、ドルベルト・デュマック(高阪勝之)、ファロニア・デッドライン(村角ダイチ)の有力者3人が入ってくる。どうやら3人は初対面らしく、日本語も片言で話し慣れていないようである国際会議があったらしく、明日もその会議が続くようで宿泊するらしい。
バッソが「シャバシャバ」という言葉を使う。他の2人は「シャバシャバ」という言葉を知らない。バッソ曰く、「シャバシャバ」は「どうでも良いこと」という意味で使うらしい。
バッソが、ある日観劇に劇場へ行った時のことを話す。バッソは、13時からの舞台を観るために、12時50分の電車に乗ったのだと言う。他の2人は、それでは開演に間に合わないではないかと言う。開演を14時だと勘違いしていたのか、電車の時間を勘違いしていたのかどちらなのかとバッソに聞く。するとバッソは、どちらも勘違いしていた訳ではなく、12時50分の電車に乗ろうと思って乗り、13時から始まる舞台を観ようと思っていたようである。2人はポカンとしているが、バッソはこれこそ「シャバシャバ」だと言う。

ファロニアが飲み物を取りに行く。バッソとドルベルトの2人になる。
2人は先ほどの会議の話をしていて、ドルベルトはファロニアに対して「スキを見せないようにする」と言う。バッソは、そのドルベルトの言葉を聞いて、ドルベルトがファロニアのことが好きなのだと思う。バッソは、なんとかしてドルベルトとファロニアをくっつけさせようと心に決める。
ファロニアが飲み物を持ってくる。ドルベルトは、飲み物を手に取ると、その飲み物が温かい飲み物であることに気づく。ドルベルトは、ファロニアが持ってくるのは冷たい飲み物だと思ったと言う。しかしファロニアは、自分が冷たい飲み物持ってくるねと言ったっけと聞く。ドルベルトは、確かに冷たい飲み物を持ってくるとファロニアは言ってなかったかもしれないと思う。
バッソは、2人で冷たい飲み物を取りに行って来なさいと指示する。しかしドルベルトは、冷たい飲み物は自分が飲みたいからと1人で取りに行ってしまう。

バッソとファロニアの2人きりになる。バッソは、先ほどドルベルトと2人で話していて、ドルベルトがファロニアのことが好きだと言っていたと言う。ファロニアは驚く。そしてファロニアは話の流れで、私はバッソのことを「ホウれている」と言う。バッソは、ファロニアが自分のことを惚れていると言ったと思い、自分はもう既に結婚していると告げる。しかしバッソは嬉しそうだった。
ドルベルトが戻ってくる。氷を探してみたが、今用意されていないらしく手ぶらで戻ってきた。
3人は椅子に座る。いつの間にかファロニアとドルベルトは隣に座って、バッソの座る位置が移動している。先ほどの会議で議論されていた話の続きを話始める3人。ファロニアはA案を提案する、しかしドルベルトはB案を提案する。ドルベルトは状況を鑑みるとB案の方が良いだろうと言うが、ファロニアはA案にはオプションが付けられるのでA案の方が良いと言う。しかし、ドルベルトはA案はマクロな話をしているが、B案はミクロな話でよりこちらの方がスコープが絞られて適していると言う。2人はバッソに意見を求める。A案とB案どちらが良いかと。バッソはA案が良いと述べる。
ドルベルトはどうやら調子が悪くなってしまったらしく、その場でじっとしている。ファロニアは、何かドルベルトのために飲み物を持ってくると言って席を立とうとするが、バッソはファロニアとドルベルト2人で行ったら良いと言う。しかし、体調の悪いドルベルトが行くのは違うだろと反論される。それなら、バッソは自分が飲み物を取りに行けば良いのかと部屋を出ようとするが、飲み物がどこにあるか場所が分からないと言う。ファロニアが飲み物を探しに部屋を出る。

バッソとドルベルトが2人きりになる。ドルベルトは、先ほど何で援護射撃をしたのだとバッソを追及する。バッソは何か話が噛み合っていないようで、話の流れでファロニアはどうやらバッソのことが好きみたいだとドルベルトに言う。だからドルベルトは、ファロニアがドルベルトに好意を抱いてくれるように仕向けないとと言う。その手助けをバッソはすると言う。
ドルベルトは、ファロニアが帰ってこないと言って部屋を出る。しかし、丁度入れ違いで別の扉からファロニアが戻ってくる。バッソは、ドルベルトが丁度君を探しに部屋を出た所だと言う。すぐにドルベルトは戻ってくる。
3人の会話で、バッソが一つ言葉の意味を勘違いしていたことに気が付く。そしてそのまま、ファロニアがバッソのことを「ホウれていた」と言ったのは、決して惚れていたのではなく、「呆れる」の「呆」を「阿呆」の「呆」だと言うことで「ほうれる」と誤読していたことにも気づく。つまり、ファロニアはバッソのことを呆れていただけだった。さらに、ドルベルトの「スキを見せないように」と言うのは、決してドルベルトがファロニアのことが好きだったのではなく、お互い異なる案を持って対立していたので、油断してはいけない、つまり「隙を見せないように」と言う意味だったことにも気が付く。だからこの3人は、誰かに恋愛感情があると言うことはなく、ただただバッソが勘違いしていたのである。
ファロニアとドルベルトは一つずつ勘違いしていたが、バッソは2つ勘違いしていた。お互いに笑って一件落着となる。

音楽と共に長い時間暗転する。

30年後の同じ高級ホテルの控え室になる。歳を取ったバッソは、1人で仕事を電話をしている。マーケティングがどうとかそういう話をしている。
バッソが電話を終えると、歳を取ったドルベルトとファロニアもやってくる。3人は、30年前にこの控え室で出会ってそこから仲良くなったことを思い出す。では、実際どのようなステップで仲良くなったのか、その時の記憶を思い起こしてみようとなる。
ドルベルトは、確か自分はこの場で「うまのめをぬく」と言った記憶があると語る。そんな不思議な日本語はなかなか出てこないので、それをこの場で言ったのは間違いないと言う。しかし他の2人は誰も覚えていない。そしてバッソは、確かこの控え室で自分は大きな勘違いをした記憶があり、「瓜」と「爪」を間違えていたはずだと言う。そして「爪」を「バケ」の「ケ」と勘違いした記憶があると言う。しかし、他の2人は誰も覚えていない。
確かファロニアとドルベルトでA案にするかB案にするかで対立していたと思い出し、たしか席をその時バッソが一番上手側に移動したと思い出す。しかしどうして上手に移動したのか思い出せない。それは、バッソの左肩が臭かったからだと言う。そんな左側の肩だけ臭くなることあるかと2人とも疑問に思うが、確かにそうだったとバッソは言う。
そして、確かファロニアが部屋の下手側の隅にいて、バッソが上手側の隅にいた構造があったと思い出す。その間、ドルベルトは部屋を後にしていたと。しかし、バッソはファロニアが部屋を出て行くのと入れ違いでドルベルトが入ってきたのを覚えていると言う。
バッソは、最後の方は自分は気絶していたので覚えていないと言う。自分が気絶している間は、ファロニアとドルベルトの記憶から辿ってほしいと。

重たい扉が開かれるような不気味な音と、不気味な照明と共に長い暗転をする。

30年前にファロニア、バッソ、ドルベルトが出会った時のことを3人で思い出してマージした記憶である。
ドルベルトは「うまのめをぬく」と言う。そしてバッソは話の流れを無理やり作って「瓜」と「爪」を勘違いして「バケ」の「ケ」だと思っていたと言う件にする。バッソは左肩が臭いから一番上手側の椅子に座り、ファロニアとドルベルトは隣同士になる。ファロニアはA案を提唱し、ドルベルトはB案を提唱する。バッソに意見を仰ぐとバッソはB案が良いのではと言う。
そのままドルベルトは部屋を出ていって、ファロニアは部屋の左隅に、バッソは部屋の右隅にわけもなく行く。ファロニアが部屋を出ようとすると入れ違いでドルベルトが入ってくる。そしてその後、バッソは気絶する。

思い出してみた結果、全然意味の分からない思い出になってしまったと言う。絶対こんな感じではなかったと3人とも語る。何かの記憶が間違っていると。ここで上演は終了する。

前半の30年前のシーンで、勘違いしていた内容が「ほうれた(呆れた)」と「スキを見せないように」の他にあと一つあったと記憶しているのだが、観劇中にメモを取っている訳ではないのでどうしても思い出せず忘れてしまった。
私の記憶も、この登場人物の3人と同じようにどこか間違っていたり、これは絶対にこうだと思って書いているのに実は違ったりしそうだが、このように劇中に登場するシーンは実際に私たちも日常生活で遭遇しそうなほどあるあるが詰まっていて面白かった。
タイトルが『THE STUBBORNS』だが、まさにこのタイトルこそドンピシャだなと感じた。人間歳を取ると誰しもが頑固になるものである。これは絶対にこうだったと思い込んでいても実は違ったと言うことは自分にだってあるし、きっと歳を取ったらもっと増えるんじゃないかと思う。歳を取れば、今までの経験則で生きていくことも増えていくので、その思い込みによって思わぬトラブルを起こしかねない。そんな人間には普遍的に共感できる頑固さを上手くコメディに落とし込んでいて素晴らしかった。
また脚本の構成も良いなと思った。前半の30年前のシーンでは、日本語が片言であるという設定を活かして、日本人だったら絶対に間違えないであろう言葉の使い方でエラーを起こして笑いを取り、後半は歳を取ったという設定で頑固者になったが故に、様々な記憶違いから笑いを取って、人間がよく起こすエラーからコメディを形作るのが凄く上手いと感じた。30年前の実際の出来事を前半のシーンとしてやっているから、それらが全部伏線となって、終盤の30年後の3人が思い出した記憶で笑いを取るという構成が素晴らしかった。

写真引用元:ステージナタリー THE ROB CARLTON 18F「THE STUBBORNS」より。(撮影:今西徹)


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

高級ホテルと思われる上品な空間でシットコムが繰り広げられると言う世界観が素敵だった。私はとても好きだった。
舞台装置、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていく。

まずは、舞台装置から。
ステージ上には高級ホテルの会議の控え室が一つ仕込まれている具象舞台である。下手側と上手側に扉がそれぞれ一つずつ取り付けられていて、そこがデハケとなっている。ドルベルトが出ていった直後にファロニアが入ってくるというシチュエーションもこの二つの扉によって繰り広げられる。二つの扉の間には、大きな世界地図が飾られている。アメリカ大陸が左にあって、ユーラシア大陸が右にある世界地図である。上手側の壁側には、高級な瓶が置かれていた。
ステージ中央には、3人が座れるような大きなテーブルが置かれていた。このテーブルに向かって座って3人はA案、B案の話をしたりしていた。
天井にはシャンデリアが吊り下げられていて、いかにも高級ホテルの控え室という印象を受けた。
舞台装置は全体的に高級感があって上品な雰囲気を醸し出していた。

次に舞台照明について。
基本的にシチュエーションコメディが展開されるシーンは、黄色く明るい照明に照らされて変化はなかった。シャンデリアからの明るい照明も雰囲気を明るくしていた。
特徴的な照明演出は、30年後に3人の記憶をマージして30年前の過去を再現しようとする時の転換の照明。その時の照明だけ紫だったり緑だったりピンクだったりとカラフルで印象的だった。おまけにスモークマシーンのようなものも吹き出していた。
あとは、序盤でボブ・マーサムさんが1人でタイトルについて話すシーンで、ボブさんにだけ白くスポットが当たって、他は真っ暗という証明も素敵だった。

次に舞台音響について。
客入れの音楽、暗転中の音楽、終演後の音楽、どれもおしゃれなピアノの陽気な音楽で雰囲気にマッチしていて好きだった。
そして、30年前の記憶を繋ぎ合わせたシーンを作る時の転換の時の音響は、あの重たい扉がゴゴゴゴと開くような音が鳴っていて迫力があった。

最後にその他演出について。
今作はコメディであるにも関わらず、ドタバタでは全く笑いを取らず会話だけで笑いを取る所に凄みを感じた。それだけ役者さんの演技力に依存していて素晴らしく思えるのと、脚本の台詞に面白さが詰まっているんだろうなと感じた。
それと、3人の役者さんが日本語を片言で話していて、外国人が日本語を話すように話すのが耳に残った。80分間ずっとそんな喋り方をし続けるのは大変だろうなと思う。話し方も含めて色々研究して本番に臨んだんだろうなと思う。
30年後のシーンで、3人とも白髪だったりとカツラを被っているのも何気に面白かった。

写真引用元:ステージナタリー THE ROB CARLTON 18F「THE STUBBORNS」より。(撮影:今西徹)


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

出演者は3人しかいなかったが、本当にどの方の演技も個性的で素晴らしかった。長年の経験を積んできた団体なんだなあと思わせてくれた。
出演者全ての方について記載していく。

まずは、バッソ・フェルボーミ役を演じた「THE ROB CARLTON」のボブ・マーサムさん。ボブさんの演技を拝見するのはもちろん初めて。
ちょっと髭を生やした格好をつけたおじさんと、勘違いや記憶違いといったミスの多いおじさんというキャラクター性が絶妙に素晴らしかった。調べてみたら、ボブさんは40歳くらいだそうだが、割と貫禄のあるような演技をされていて引き込まれる。
顔の表情や身振り手振りとか非常に細かい部分までインパクトのある演技で、まさに喜劇俳優といった感じだった。こんなに面白い俳優が、まだ多くの人に知られず眠っているというのが個人的には胸熱で、こういった方が活躍されるきっかけを作る「MITAKA "Next" Selection」は素晴らしいものだと思う。
また、日本語を片言でぎこちなく喋るのもツボだった。あの喋り方があるからこそ、台詞の内容や会話の内容もスムーズに入ってきたのかもしれない。そういう絶妙な演出とセンスが今作を何十倍にも魅力的にしていた気がする。
バッソは、3人の中で一番頑固でエラーの多い登場人物だった印象。そして、たぶん30年前のシーンでは一番会議のことについて深く考えていなそうである。すぐに恋愛に持ち込もうとしてしまう感じがダメ男で笑った。

次に、ファロニア・デッドライン役を演じた「THE ROB CARLTON」の村角ダイチさん。村角さんの演技ももちろん初めて観劇する。
アメリカ人らしい女性というキャラクター設定で、村角さんは男性であるが女装が凄く似合っていた。
ファロニアはバッソほどエラーの多い登場人物ではなかったが、やはり「呆れる」を「ほうれる」と覚え間違いしていたのは笑った。こんな間違いは、日本人だと絶対しなくて外国人だとしそうな間違いなので、そこをコミカルに描いているのが面白かった。
こういうネタって外国人にもウケるのだろうか。日本語の覚え間違いとかは外国人にとってあるあるだと思われるので、むしろ今作は外国人にも見て欲しいなと思ったり。
あとは、話し方も凄く引き込まれて好きだった。日本語を片言でぎこちなく話すのだが、それが本当にアメリカ人が日本語を一生懸命話そうとする姿に近くて良い芝居だった。
ファロニアは勘違いはあっても、3人の中で一番頑固には見えなかった。

最後に、ドルベルト・デュマック役を演じた「男肉 du Souleil」の高阪勝之さん。高阪さんの演技も初めて拝見する。
3人の中では割とまともに見えたドルベルト、しかし勘違いや頑固さもバッソほどではないがあった。「うまのめをぬく」なんて言葉どこから出てきたんだよ思わせるくらい唐突にぶっ込まれたし、しかもそれは絶対にこの場で30年前に言っていたという自信がどこからともなくあって頑固だった。実際そんなこと言っていないのに。
私はバッソとドルベルトのコンビが凄く好きだった。バッソはいつもふざけていて陽気で調子に乗った感じ、ドルベルトは真面目で少し怒りっぽく、会議のことに対しても真面目。自分が提唱しているB案を承認させたく必死だった。だからバッソに、B案に賛成するように根回しをしたつもりで「スキを見せたくない」と言ったのに、バッソに勘違いされて台無しに。挙げ句の果てに、ファロニアとドルベルトの意見対立の最中に、ドルベルトの心境を何も分かっていないバッソが、「A案に賛成する」と言って、ドルベルトの援護射撃をしてしまう。実際には、バッソは援護しようとも射撃をしようとも思っていなかったのだが、ドルベルトにはそう捉えられてしまった。

写真引用元:ステージナタリー THE ROB CARLTON 18F「THE STUBBORNS」より。(撮影:今西徹)


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

ここでは、今作の魅力について自分なりに考察をしていきたいと思う。

ちょっと的外れなコメントになるかもしれないが、全体的なテイストとしてはニール・サイモン、三谷幸喜さん、「アガリスクエンターテイメント」の冨坂友さんが描くシチュエーションコメディの系譜ではあるのだが、一番最後の3人の30年前の記憶を統合させたシーンは、ちょっとナンセンスっぽさを感じるコメディだとも感じた。
もちろん、それまでのストーリー展開は、同じ空間でただただ勘違いからお互いにボケを連発させてとんでもない展開になっていくという会話中心のコメディでシチュエーションコメディだと思っている。しかし、一番最後の記憶の統合シーンは、長い暗転で不気味な効果音が流れたり、舞台照明が凝っていたりと、間違いなく今までのシーンとは異なりますよという演出がなされていたので、そこからは現実のシーンというよりは演劇でしか表現できない架空のシーンであるという前置きをしているように感じた。
この一番最後の3人の30年前の記憶を統合したシーンでは、もちろん3人の記憶の中に残っている思い出しか表現できないので、非常に支離滅裂なストーリー展開になっている。いきなり「うまのめをぬく」という言葉が登場したり、左肩だけ臭いという意味わからない設定、そしていきなり気絶したりと。
ここに非常にナンセンスな要素があって面白かったと感じた。普通のナンセンスコメディは、どうしてそんな支離滅裂な展開になるのかの説明はなく、その理由もなかったりするのだが、今作はナンセンスっぽくなることにちゃんとした理由がある。3人の30年前の記憶を寄せ集めたシーンという理由である。そこに、普段のナンセンスコメディでは味わえないような新鮮な面白さがあったように個人的には感じられて好きだった。
ナンセンスコメディとしての新しい形というか、そもそもナンセンスコメディと言って良いのかさえわからない作品で、こうやって新しいジャンルが生まれていくのだなと思った。

あともう一つ今作で特筆すべきは、高齢化社会が叫ばれている日本において、おじさんとおじさんの性質をコメディに活かして創作している点だと私は思う。
人間、歳を取れば誰でも長年の経験を元に良し悪しを判断しがちなので、その経験則に反しているものは受け入れにくくなり頑固になるというのがあると思う。いわゆる老害というやつなのだが、そこを上手くコメディとして描いている点が素晴らしく、年齢層の上がっている日本社会にダイレクトに刺さりやすい作品になっていると感じた。
タイトルも『THE STUBBORNS』で、まさしく頑固を意味していて、特に30年後の世界では頑固であるが故におかしなエラーが頻発しているのが面白かった。こういう作風は、絶対若手の団体には真似できない、キャリアを積んできた団体dからこそ出来る、そして自虐しているからこそ腹を立てずに笑えるのだと感じた。

最近では、中年の団体でもエンタメの世界で売れ始めるということが起きていると思う。チャンスは何も若手だけにあるとは限らないと思う。2021年のM-1グランプリでは中年のお笑いコンビ「錦鯉」が優勝してそこから売れたりしていることが何よりの証拠だと思う。
「THE ROB CARLTON」はぜひ今回の「MITAKA "Next" Selection」の上演を機に活躍していって欲しい。

写真引用元:ステージナタリー THE ROB CARLTON 18F「THE STUBBORNS」より。(撮影:今西徹)


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