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舞台 「vitalsigns」 観劇レビュー 2021/12/28

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【写真引用元】
パラドックス定数Twitterアカウント
https://twitter.com/pdx_labo/status/1459521563079110657/photo/1


公演タイトル:「vitalsigns」
劇場:サンモールスタジオ
劇団・企画:パラドックス定数
作・演出:野木萌葱
出演:西原誠吾、神農直隆、植村宏司、小野ゆたか、堀靖明
公演期間:12/17〜12/28(東京)
上演時間:約110分
作品キーワード:会話劇、シリアス、海底、パニック
個人満足度:★★★★★☆☆☆☆☆


野木萌葱さんが脚本と演出を手掛けるパラドックス定数の舞台公演を初観劇。
野木さんの脚本、演出作品の観劇も初めて。
ずっと一度は観てみたいと思っていた劇団であり、今回は野木さんの新作公演ということで観劇することにした。

物語は、水深800メートルの直径3メートルほどの小さな球体密室空間で交わされる会話劇。
(おそらく沈没してしまったと思われる)バラエナと呼ばれる船に取り残された者を救出するために、葉山(西原誠吾)と六浦(神農直隆)の2人の男は取り残された者と無線でコミュニケーションを取りながら救出するのだが、救出された者が3人ではなく4人なのではないかと思わせるような不可解な現象が起きたり、救出された者がバラエナの方へ向かった六浦を置いて球体を出発させてしまう行動に出ることによって、葉山たちは恐怖し救出された者たちを疑い始める。

私がこの舞台を観劇して思った伝えたいテーマというのは、人間は極限状態に置かれるとよく分からないモノに対して危険を感じて断固拒絶してしまい、周りが見えなくなってしまうということを描きたかったのかなと思える。
野木さんが公演のリーフレットでも書かれていたのが、海に行った時に理由も分からず感じた恐怖についてであった。海に限らず、危険な高山の山頂であったり南極や北極であったり、はたまた宇宙空間といった、人間が人間のままでは生きられない空間で生きることに対する恐怖心との戦いを描いた作品だと解釈した。

ただ個人的には前半は物凄く会話劇に引き込まれていって面白いと感じていたのだが、後半はひたすら救出された3人と葉山・六浦の口論に終始していた感じがあって面白い進展が感じられず退屈してしまった。
ちょっと後半部分が面白くなかった点が勿体なく感じた、もう少し面白い会話劇に出来なかったものかと、時間も凄く長く感じた。

前半引き込まれた要因としては、舞台音響と舞台照明によって海底の潜水艇のような球体の内部を高いクオリティで再現出来ていたからだと思っている。
特に潜水艇が進んだり停止するときに巻き起こる機械音の再現性は尋常じゃないほどリアルで、まるで映画館にいるような感覚で「ゴーッ」という重低音が響き渡っていて、小劇場で映画館のような迫力をあそこまで出せるものなのかと驚いた。

お金をかければ映画化も可能な作品だと感じたが、もっと後半の会話劇を面白くしてほしかった。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/458274/1726328


【鑑賞動機】

パラドックス定数の舞台作品を観たいと思っていたから。昨年(2020年)に上演されたパラドックス定数の「プライベート・ジョーク」の評判が良かったので、今回の新作公演も期待値高めで観劇することにした。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

水深800メートル、海底から5メートルほど上を球体の潜水艇は進んでいた。中には葉山達平(西原誠吾)と操縦士の六浦剛介(神農直隆)の2人がいて、近くに沈没しているバラエナから取り残された者を助けに向かっていた。
ノート型パソコンを使って周囲の海中の状況を確認すると、何やら砂のようなものが流れているらしく海底から5メートルも上がった所でここまで砂が舞っているのは妙だと話す。もしかしたら潮流によるものではないかとも話す。
葉山はバラエナに取り残された者と無線で通信する。どうやら汐入という男が応答した模様で、彼がそう名乗っている。汐入の方には他に2人、つまり3人取り残されているのだと。
しかし、何やら先ほど話していた汐入とは別人の声が再び無線から聞こえてきた。その彼も汐入と名乗っている。葉山は4人目がバラエナにいるのではないかと疑う。

球体の潜水艇をバラエナ付近に停止させて、取り残された者が潜水艇に移動出来るようにする。
バラエナから取り残された3人が球体の潜水艇へ入ってくる。汐入知也(植村宏司)、鳥浜明彦(小野ゆたか)、堀ノ内正(堀靖明)の3人である。一人がノートを取りに行きたいので戻って取ってきても良いかと葉山たちに尋ねる。葉山はむしゃくしゃしながら、この潜水艇には重量制限があってそこに収まるのであればと認める。3人はノートなどバラエナに置いてきたものを取りに行く。
葉山と六浦は、やはりあの3人の他にもう一人バラエナに取り残されているんじゃないかと疑い話を始める。汐入たち3人はノートなどを持ってきて球体の潜水艇に戻ってくる。葉山は、汐入、鳥浜、堀ノ内の3人にまだバラエナに取り残された人、つまり4人目がいるんじゃないかと追求する。しかし彼らはいないと答える。では声色が変わった汐入は何だったのかと尋ねるが、それについては答えてくれない。

葉山は六浦を、本当にバラエナに人がいないか確認するためにバラエナに一人向かわせる。ノート型のパソコンで無線でバラエナにいる六浦とコンタクトを取る。どうやら他に誰もいないらしい。しかし、先ほどの汐入と同じように、先ほどの六浦とは声色が異なる者が無線で応答し、六浦を名乗り始める。葉山は六浦ではないなと疑って確認するが、六浦だとその声色の違う男は答える。
その時、球体の潜水艇内にいた鳥浜が操縦席の方に向かって勝手に潜水艇を出発させてしまう。六浦をバラエナに置き去りにしたまま。その時の衝撃で葉山は潜水艇内で気を失う。

暗転して明転し、気を失っていた葉山は目を覚ます。そして六浦をバラエナに残したまま潜水艇を出発させている鳥浜たちを止める。そして彼ら3人をうつ伏せにさせて手を頭の後ろに組ませ、もう何もさせないようにする。そして潜水艇をバラエナの方へ向かわせる。
六浦をバラエナから潜水艇へ帰還させると、葉山は3人にキレ始める。なぜ六浦を置いて潜水艇を出発させたのかと。しかし彼ら3人は明確な理由を答えてはくれなかった。そして六浦に対して葉山は、先ほどの汐入と同じように無線から聞こえてきた声が、六浦とは別人の声として聞こえたものがあったと話す。やはりもう一人バラエナに取り残されているんじゃないかと。しかし六浦は、確認しに行ったがそのようなことはなかったと答える。
葉山はこの目で確かめようと、一人でバラエナに向かう。無線を通して葉山は潜水艇に残る六浦たちと会話をするが、特に異常はなさそうだった。葉山も潜水艇へ戻ってきて、バラエナに誰も取り残された者がいないことを認めた。

ではなぜ鳥浜たちは六浦をバラエナに残して潜水艇を出発させたのかと、やはり強い口調で追及した。そして葉山は彼ら3人を密入国者だと決めつける。汐入は六浦に自分の手を触るように促し、六浦が彼を触ると「冷た!」と叫ぶ。どうやら彼の体温は20度くらいらしく、もはや人間ではなくなっているのだと答える。3人とも。
汐入はその説明を始める。この海底の付近では「ブラックスモーカー」と呼ばれる、熱水と硫化物が海底から吹き出す現象が起きている。そのため、海底から5メートルも離れているにも関わらず砂のようなものがずっと舞っていた。その「ブラックスモーカー」から吹き出してきた硫化物が、人間の喉に付着することによって、どうやら人間ではなくなって低体温になってしまったらしいのである。
最初は鳥浜がその現象に陥り、次に堀ノ内、そして最後に汐入がその現象にかかって今では人間ではなくなってしまったのである。
そんな不気味な現象の起こる海底から早く抜け出したい、その一心から潜水艇をいち早く出発させようとしたのだと語るのである。
そのため、六浦と葉山もずっとこの海底にいるとやがて人間ではなくなり、汐入たち3人と一緒になると言う。

葉山はその突拍子もない話を疑う。どうして彼ら3人が人間でないと言い切れるのか、その証拠「vitalsigns」を示せと葉山は追及する。
彼らはそのようなもの、つまり彼らが人間ではないことを証明する確固たるものは存在しないと言うが、逆に葉山が人間であることの証明も難しいのではないかと問いかける。
葉山と汐入たち3人はひたすらに口論をするが、葉山が一先ず汐入たち3人を地上へ救助しようと決断し、六浦の操縦によって潜水艇を海上へと進ませる。しかし、突然六浦は操縦を停止してしまう。どうした?と葉山が声をかけると、人間でなくなった汐入たち3人を日光に当ててしまって良いのだろうかと疑う。葉山は、六浦まで汐入たち3人が人間でないと信じるのかと、葉山と六浦で口論になりかける。

六浦はどうやら潜水艇内の二酸化炭素濃度が上がっていることを確認し、電力の節約のために照明を暗くする。赤く不気味な感じの照明に変わる。六浦は、どうせ自分もそのうち人間でなくなるんだからと、汐入たちの話を信じ込んでいるようである。
すると今度は、鳥浜と堀ノ内、汐入で対立することになる。鳥浜は最初に人間ではなくなった面子だが、その人間ではなくなった順番の関係で亀裂が生じる。

この照明は不気味過ぎると葉山が言い出し、照明はもとに戻る。潜水艇も海上に向けて出発し始める。人間は希望に向かって進んでいきたいものなのだと。
海上に付き、汐入たち3人は地上へと帰還する。

葉山と六浦は、汐入たちを地上へ帰還させて2人だけで再び駿河湾の海中へ向かった。ここで物語は終了する。

改めて振り返ってみると、やっぱりこの脚本を通じて作者が観客にどう思って欲しいかはよく分からなかった。水深800メートルという海の中で、酸素も薄くなる中で正直生きていることが不安になる環境であり、精神的に参ってくる感覚、募る恐怖心はそれはあるとは思うけれど、葉山が次第にパニックになって汐入たちに強く当たってしまったり、六浦とも口論する状態になるあの下りが凄く冗長に感じてしまって面白さが削がれた感じがした。これは自分がそういう極限状態に立ったことがなくて理解が追いつかない部分があるのだろうか。
「ブラックスモーカー」による硫化物の付着によって人間でなくなるという設定にも、正直面白さを感じられなくて、もちろんリアリティがないとかそういう問題ではなくて、もっとやりようがあったような気がしてしまった。
前半のテンポは凄く良かったし作品にも凄く惹き込まれた。無線で応答する声色が今までと違う不可解な現象、六浦を置き去りにして潜水艇を出発させてしまう汐入たちの行動の謎。舞台音響の迫力も相まって葉山がバラエナから戻ってくるまでは退屈せず観劇出来たので、前半の勢いと面白さを維持したまま終盤まで持っていってほしかった。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/458274/1726331


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

今作の舞台美術は、舞台照明と舞台音響が本当に素晴らしくて、水深800メートルの球体の潜水艇の世界へと上手く誘ってくれた。まるで映画館にいるような迫力で小劇場で舞台を堪能出来るという経験も珍しい。
舞台装置、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていく。

まずは舞台装置から。
ステージは大きく分けて3つの箇所に分かれている。舞台中央の球体の潜水艇のメインの空間と、下手側の二酸化炭素の濃度などを測定している管理室と、上手側の操縦室である。
まず下手側の管理室には、一番下手の壁際に二酸化炭素の濃度などが示されるという体の測定器が備え付けられており、その管理室を壁で囲われるようにしている。その壁は中からも外からも様子が分かるような造りになっている。
上手側の操縦室も同様で、中からでも外からでも様子が分かるような壁で囲われており、机と一脚の椅子が置かれている。
そして会話劇のメインとして使われるのが、舞台中央部分の空間である。球体を想起させるような天井に向かうにつれてカーブを描くような梯子のような形をした4本の柱が4隅にあって、天井には輪状のオブジェが据え付けられていた。4つの柱に囲われた空間の中には、中央を囲うかのようにベンチが円状に据え付けられていて、その中央にはバラエナに通じる通路に続く穴が床に開けられている。
とても直径3メートルしかないという球体の潜水艇をイメージ出来る舞台装置で素晴らしかった。最初水深800メートルの世界を舞台で表現するってどんな感じだろう、映画でもあるまいしと思っていたのだが、たしかにこれなら舞台として再現できる!と納得した。

次に舞台照明。
舞台照明はまず照明の吊り込みの仕方が上手かった。舞台装置に合わせて、中央の円状のオブジェの真上に固まって照明が吊り込まれていた。
また照明による色彩も今回の世界観に非常に合っていた。白味がかった強い黄色の照明が煌々と舞台上を照らしていて、まさに潜水艇の中にいるような感じを演出出来ていたと思う。
また、物語後半で登場する赤くて不気味な照明も印象的だった。まるでパニック映画の世界のようなあまり舞台作品では味わえないような照明の入れ方。この赤さも、赤色が強い感じの照明ではなくて暗い感じがあって、人の影形を把握するのが少し難しいくらい暗かった。これは不気味に感じるし恐怖心が煽られると思う。
あとは、ラストのシーンで一向が海上にたどり着いて日光が差し込むシーンがあるが、あの描写が良かった。ついに海底付近から海面に戻ってきたという希望と安堵を感じた。みんなで日光を眺める感じも好きだった。照明の当て方も強い白色の照明が日差しをばっちり表現出来ていた。

そして一番今回の舞台美術で驚きハイクオリティに感じた舞台音響。
今回の舞台音響で素晴らしいと感じた点は、大きく分けて2つある。
1つ目は、球体の潜水艇が進む時のエンジン音と停止する時の音。この「グオーン」ていう重低音が本当にクオリティが高くてびっくりした。まるで映画館の音響クオリティだと思った。小劇場で映画館並の音響を聞けるとは思っていなかった。物語序盤からいきなり暗転中にこの音がするのだが、もうその時点で舞台に惹き込まれた。どうやってこの音源を流しているのだろう。スピーカーをどう吊り込んでいるのか分からなかったが、舞台全体から「ゴー」という音が聞こえて、スピーカーの性能はもちろん高いのだろうが、音作りも凄く丁寧であることを感じさせられた。聞いていて、すぐにこれは潜水艇が停止する音だ、動き出す音だと違和感なく分かる。なかなか再現できないと思う。
2つ目は、ノート型パソコンのようなものから聞こえてくる無線のやり取りで使用される、バラエナにいる人物の声の音質に圧倒された。本物の無線通信をしているようなちょっと聞き取りづらい感じに音編集されている加減が凄く良い。好きだった。さらに、汐入と六浦の声では、声色の違う別人のような声音も登場するのだが、そこもしっかりこれは今までの汐入、六浦とは違うと判断出来るように工夫されている点も素晴らしかった。若干こちらの方が音がクリアに聞こえたのだけれどそこには意図があったのだろうか。いずれにせよあの高いクオリティの録音を持ってこれるって素晴らしいと感じた。
あとは、「ピー、ピー」という無線通信が開始する時の効果音があったくらいだろう。本当に今作の舞台音響は記憶に残るくらい上位に入るんじゃないかと思う。

その他の演出としては、やはり恐怖感を観客にヒリヒリと感じさせる演出が多かったかなという印象。
例えば、序盤のシーンで中央の床に開けられたバラエナに通じる穴から手だけを覗かせる演技があったり、「ピー、ピー」と無線通信開始の効果音だけが鳴る演出があったり、そうやって徐々に観客と役者を恐怖に陥れることによって、平常心を保てなくする感じの演出意図を感じた。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/458274/1726329


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

今作は特に球体の潜水艇の乗組員であった葉山役の西原誠吾さんと、六浦役の神農直隆さんの名演技が印象に残ったので2人を中心に書き記していこうと思う。

まずは、葉山達平役を演じた西原誠吾さん。演技拝見は初めて。
今回の役柄がバラエナに取り残された者たちを嫌悪し叱りつける役だったので、非常に存在感を持っていたし彼の演技だけでもずっと観ていられるくらい魅了されるものがあった。
得体の知れないものがこの海底には存在するかもしれない。そういった恐怖が十分に伝わるくらいの迫力ある演技をされていた。基本的には大声を出して怒っている感じを受けるのだが、きっとその憤りは恐怖心から来るものなのだろう。あとは、潜水艇のもうひとりの乗組員が後輩で、自分がリーダー役を務めなければいけないという使命感と責任もあったからより恐怖を感じていたのかもしれない。
西原さんの声は非常に劇場に響き渡って聞き取りやすかったので、そういった意味でも迫力を感じて惹きつけられる演技だった。

次に、六浦剛介役を演じた神農直隆さん。彼の演技拝見も初めて。
葉山とは対照的で、六浦は妙に落ち着いているキャラクター性が印象に残った。自分もいずれは人間でなくなるのかもしれない、いやもしかしたら今既に人間ではないのかもしれない。そういった諦観した印象も持っていて非常に冷静な点が良かった。それがまた神農さんの役としてもハマっていた。
神農さんの台詞には凄く心がこもっているというか優しさを感じさせるニュアンスが声色にあって、非常に役者として好きだった。

あとはバラエナに取り残された、汐入知也役を演じた植村宏司さん、鳥浜明彦役を演じた小野ゆたかさん、堀ノ内正役を演じる堀靖明さんたちは、あまり口数も多くなくておとなしいあたりが、謎めいた部分がありつつで作品としてハマっていたと思う。
汐入さんが「ブラックスモーカー」について話すあたりも、本当に?と疑ってしまうくらい突拍子もないことなのだが、なんかあの雰囲気で話されると意味深に感じてきて不思議な感覚にさせられる。
しゃべり方だったりオーラだったりが絶妙で良かったのではないかと思う。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/458274/1726330


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

公演のリーフレットには、以下の3つの海底・潜水艦にまつわる書籍が紹介されていた。


amazonの書籍のレビューにも記載されていたが、なかなか海底調査をしている人って日本には数少ないので、過酷な海底でどう生活をしていくかなんてことはほとんど知られていなかったりする。そういったこともあり、今回のような海底での出来事を舞台に起こすという試みは非常に面白い取り組みだったと思う。

この舞台では、ずっと水深800メートルという海底付近で物語が進行していて、そこで突如起きる不可解な現象に恐怖して、自分が人間であるかという自信すらも失っていく過程が描かれているが、私が観た限りではこれは海底だけではなく、標高の高い山の山頂付近もそうであると思うし、はたまた北極や南極といった極寒の地であったりとか、宇宙ステーションの中であったりとか、そういった人間が普通にしていたら生きていけないような環境でも同様のことが起こるんじゃないかと思っている。
極限の環境の中では人間というものは精神状態がおかしくなってしまうものみたいである。高山病などがそうで、酸素が薄くなることによって吐き気や頭痛など体調不良が出てしまったり、場合によっては死に至ることもある。
また、八甲田雪中行軍遭難事件では数多くの人が凍死によって命を落としているが、その死亡当時衣服をまとっていなかったと聞いている。矛盾脱衣というものらしく、以下のようなメカニズムらしい。


恒温動物である人間は、あまりに寒い環境下に長時間いると、体温の熱量は外気に奪われ、その結果体温が下がる。体温が一定以下に下がると、体は生命の維持のためにそれ以上の体温低下を阻止しようとして、熱生産性を高め、皮膚血管収縮によって熱放散を抑制することにより、体内から温めようとする働きが強まる。このとき、体内の温度と外部の気温(体感温度)との間で温度差が生じると、極寒の環境下にもかかわらず、まるで暑い場所にいるかのような錯覚に陥り、衣服を脱いでしまうといわれる。 法医学では、これはアドレナリン酸化物の幻覚作用によるとも、体温調節中枢の麻痺による異常代謝によるとも説明している。(「矛盾脱衣」wikipediaより)


こういった現象は、映画「エベレスト3D」でも描かれていたと記憶している。


今作でも、バラエナに取り残された汐入、鳥浜、堀ノ内は、非常に体温が低くなっているということが分かるシーンがあった。物語では、体温は20度くらいで既に人間ではなくなっているという話をしていたが。
でも矛盾脱衣みたいなことが実際起こりうるということを考えると、海底という特別な地で体温がどんどん下がっていく事態に陥ると、人は正常な判断が難しくなっていきそうである。
そこでこの物語では、自分が果たして人間なのかという部分に疑問を抱くことが興味深い。普段生活をしていたら、絶対そんな疑問を抱くことはないのに、本当に人間なのか?と疑い始めるという心理現象は凄く信じられないことだけれど、極限の地ではそうなってしまうのかなと想像を巡らせてしまう。

果たして、自分が標高の高い山だったり、北極南極だったり、宇宙ステーションだったり、海底だったりと現実とはかけ離れた環境に身を置いたことはないけれど、今回の観劇体験を通じてもし自分がそういった場所に身を置いたら、そうなってしまう可能性があるんだよと優しく教えられたある種特別な経験を授けられた気がした。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/458274/1726327

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