舞台 「ガラクタ」 観劇レビュー 2024/11/22
公演タイトル:「ガラクタ」
劇場:上野ストアハウス
劇団・企画:TRASHMASTERS
作・演出:中津留章仁
出演:星野卓誠、倉貫匡弘、長谷川景、島本真治、石井麗子、千賀功嗣、佐藤絵里佳、みやなおこ
公演期間:11/18〜11/24(東京)
上演時間:約2時間30分(途中休憩10分を含む)
作品キーワード:核燃料ごみ、地方、ヒューマンドラマ、家族、考えさせられる
個人満足度:★★★★★★☆☆☆☆
中津留章仁さんが作演出を務める劇団「TRASHMASTERS」の公演を初観劇。
「TRASHMASTERS」は劇団公式HPによると、2000年に中津留さんとひわだこういちさんを中心に旗揚げしており、現在では現代社会が抱える問題等を取り入れた骨太な物語を、観る者の魂を揺さぶる重厚な人間ドラマを中心に描いている。
近年では2021年に『堕ち潮』で、2023年に『入管収容所』で読売演劇大賞上半期ベスト5に選ばれている。
また、元広島県安芸高田市長の石丸伸二さんをモデルにした映画『掟』でも中津留さんの作品は話題になったことで知られている。
今作は、2021年11月に下北沢駅前劇場で初演した『ガラクタ』の再演であり、初演の時のSNSでの口コミも評価が高く、核燃料のゴミ処理を巡る物語と聞いて興味を持ったので観劇することにした。
物語の舞台は北海道のとある財政難の港町。
スナックのママである津曲寿都江(みやなおこ)が経営する店から物語は始まる。
寿都江は13年前に夫を癌で亡くしており未亡人であったが、お店によく来ていた漁師の松下史郎(長谷川景)と再婚することを決意した。
その報告を、二人を引き合わせた食堂を経営する櫛田英介(星野卓誠)にしている。
この人口2000人の港町は、核燃料によるゴミの最終処分場として賛成するか反対するかで真っ二つに割れていて、その会話もされる。
英介も松下も反対していたが、寿都江はそれによってこの町の財政難が解決するのなら嬉しいことと賛成を主張していた。
そこへ核燃料の最終処分場としての受け入れを推し進めようとする町長の和久井芳郎(島本真治)や町役場の職員であり寿都江の息子の津曲有起哉(倉貫匡弘)、そして「原子力発電環境整備機構(NUMO)」の職員である矢口浩継(千賀功嗣)が店にやってくる。
また、この港町出身で、現在は札幌で新聞記者をやっている櫛田玲奈(佐藤絵里佳)もやってくる。
玲奈は新聞記者として町長にどうしてそこまで最終処分場として賛成して推し進めようとするのか鋭く追及するが...というもの。
客席には公演の当日パンフレットの他に、「NUMO 核のゴミ最終処分場勉強会」と書かれた資料も折り込まれている。
劇の一番最初では、NUMOの職員である矢口が一人現れて、まるで観客が核のゴミ最終処分場勉強会にやってきたかのように、核燃料によるゴミの最終処分場をどのようにして決めるのかを丁寧に解説する所から始まる。
まず、今作は物語を観劇したことで核燃料のゴミ問題に対する知識が沢山ついて勉強になった。
最終処分場として決定するために、文献調査やボーリングや地質調査など20年もの歳月を経ることや、地下300mほどの所に埋められることも初めて知ったので、改めて核燃料ゴミ問題について考えさせられる良い機会になった。
一方で、そこから今作の物語が進行していくのだが、たしかに津曲家の家族の問題や有起哉と玲奈の恋愛関係などヒューマンドラマとして見応えあるシーンも沢山あったのだが、凄く核燃料のゴミを巡る対立シーンがど直球で説教臭く感じてしまったのが個人的な感想。
もっと脚本に余白を残して欲しかったなと思っていて、難しいテーマを扱いながら分かりやすく物語を構成してはいたのだが、研修会でよく流れるドラマを見ているようになってしまったので、もっと脚本的に寄り道をして欲しかった。
中津留さんが非常に真面目な方なのかもしれないが、全ての描写がストレート過ぎてちょっとグッタリしてしまった。
役者陣の演技の迫力は凄まじかった。
特にスナックのママである津曲寿都江役を演じたみやなおこさんの演技力は凄かった。
いかにも癖の強いスナックのママといった感じで、いつも酔っ払っているんじゃないかと思わせるくらい呂律が回っていないのも演技のうちで本当に圧倒された。
また、個人的には新聞記者の櫛田玲奈役の佐藤絵里佳さんも素晴らしかった。
あの鋭く町長を追い詰める感じと正義を貫こうとする姿勢が清々しかった。
実際現実世界であんな新聞記者がいたら嫌いになってしまうが、演劇の中での登場人物であると凄く魅力的に感じた。
町長の和久井芳郎役を演じた島本真治さんも非常に町長らしい言動の演技がハマっていた。
核燃料によるゴミの最終処分場に関して大変勉強になったし改めて考えさせられるきっかけにはなったものの、説教臭さが強くてもう少し人と人との温もりや人情を見たいなと思ったが、役者陣の演技も迫力あって素晴らしかったので多くの人におすすめしたい。
配信もConfetti Streaming Theaterで2024年12月27日〜2025年1月10日まで予定されているようなので年末年始にゆっくり味わって欲しい。
【鑑賞動機】
「TRASHMASTERS」は社会問題を描く劇団で、読売演劇大賞にも度々名前が上がるので以前から気になっていた。ただ、「TRASHMASTERS」に出演されている俳優さんは、他の演劇作品であまり観ない印象があって観劇のきっかけになることが今まであまりなかった。2021年11月に上演されていた『ガラクタ』は核燃料ごみの最終処分場を巡る作品で、そんな「TRASHMASTERS」が打ってきた公演の中でも一番興味を唆られる作品だった。そんな作品が再演されると知ったので観劇することにした。
【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)
ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。
NUMOの職員である矢口浩継(千賀功嗣)がやってくる。NUMOは「原子力発電環境整備機構」、矢口は観客に向かって手元にある「NUMO 核のゴミ最終処分場勉強会」という資料について解説する。
原子力発電所で排出された核燃料のゴミは、基本的には安全性の観点から地層処分される。地下300mの所に埋められる。また、地下300mの所に放射性廃棄物を埋めても問題ないのか、文献調査、物理調査やボーリング調査といった概要調査、精密調査を20年かけて実施し、ようやく問題ないと分かったら最終処分場として決定する。
しかし、そのような核燃料のゴミの最終処分場として受け入れてくれる自治体なんてない。そこでNUMOでは、日本全国の科学的特性マップを公開し、どのエリアが最終処分場として好ましいのかをプロットし、好ましそうな自治体に直接赴いて最終処分場として受け入れてくれないかの交渉をしているのだという。
北海道の人口2000人しかいないとある港町のスナック。そこにはスナックのママをやっている津曲寿都江(みやなおこ)と、常連客で漁師をやっている松下史郎(長谷川景)と近所で食堂を経営している櫛田英介(星野卓誠)がいる。今日は、どうやら寿都江は松下と再婚することになったのだと英介に報告している様子であった。英介は、未亡人だからこそ寿都江のスナックは繁盛していた部分もあって寂しいものもあるが、二人が相思相愛なら喜ばしいと祝福していた。寿都江と松下の出会いは、もともとこの店の常連だった英介が松下を連れてきた所から出会った。寿都江も松下も、英介が二人を引き合わせてくれたことに感謝している。ただ、この再婚はまだあまり周囲には言っておらず、内緒にしていて欲しいと英介は言われる。
その話の流れで、今この町は核燃料のゴミの最終処分場として町長が名乗りを上げており、それを推し進めるべく動いているという話になる。英介も松下もこの町が核燃料のゴミの最終処分場になることを反対している。もしこの町がそれを受け入れてしまったら、海産物も汚染されていると思われて売れなくなってしまうことを心配しているからである。
町長はこの町の町長を20年近くやっている方だが、財政難を打開するためにはそう舵を切るしかなくなっていて、今まで慕われていたのに一気に反対する者を増やしてしまっていると言う。本来なら自家発電でこの町の財源を確保しようとしていたが、それが上手くいかなくなってしまったから。
一方で寿都江は、核燃料のゴミの最終処分場としてこの町にすることに賛成している。英介も松下も驚く。受け入れれば、この町に沢山お金が入ってきて町も活性化するはずだと、財政難を乗り越えられると。しかし、核燃料のゴミを地下に溜め込んでいる町だと知ったら誰も観光客はやって来ないでしょうと二人は寿都江に反対する。寿都江と松下は再婚するも早くもその意見の違いで対立していた。寿都江は、漁師なんて所詮この町が財政難になろうが生活に支障がないからでしょうと。松下は、漁師は所詮刑務所から出てきても再開できるヤクザのような仕事だと吐き捨てて店を去ってしまう。英介も出ていく。
そこへ、寿都江のスナックに町長の和久井芳郎(島本真治)、寿都江の息子で町役場職員を務める津曲有起哉(倉貫匡弘)、そしてNUMOの職員である矢口がやってくる。町長たちがやってきたことで、一気に核燃料のゴミの最終処分場としてこの町を推し進めて財政難を乗り越えようみたいな流れになる。有起哉は母の寿都江に、そろそろ父の13回忌だよねと言うが寿都江は忘れていたようだった。
さらにスナックには、櫛田英介の娘である櫛田玲奈(佐藤絵里佳)がやってくる。玲奈は今は札幌で新聞記者をやっているのだが、この町が核燃料のゴミの最終処分場として名乗りを上げていると聞き、それの取材をするために帰省していた。玲奈と有起哉は同じ学校の先輩後輩同士で久しぶりとなる。
和久井町長の町長室。町長と有起哉が二人で話している。町長は玲奈に新聞の取材を受けることが決まっていて心配していた。鋭い質問をしてきそうだと。有起哉にとって玲奈は学生時代の後輩だったが、何かあったらサポートすると言う。
玲奈が入ってくる。和久井町長への核燃料のゴミの最終処分場を推し進めていることについて色々質問攻めをする玲奈。最初は穏やかに質問に受け答えしていたが、玲奈の姿勢はどんどん鋭くなっていって、町民の中には反対意見を持つ人も多数いるのにどうしてその決断を急ごうとするのかや、財政難を乗り越えるために町民の生活を犠牲にするのかなど批判のような質問に変わっていく。町長は怒りを露わにし、一体この取材の目的は何なのだと玲奈に対して反論する。有起哉は玲奈に対してそれは言い過ぎだと制する。
町長に電話がかかってきたので、電話に出ている間に有起哉と玲奈は二人だけで話す。有起哉と玲奈は学生時代付き合っていたようで、喧嘩をして玲奈は海に飛び込んだ経験があるようである。その時、二人の親(寿都江と英介)も海岸で二人で口論をしていたらしい。おそらく不倫か何かをしていたんだと思う。それもあって二人は別れたと。今度二人で食事にでも行こうという話もする。
町長は電話から戻ってくる。玲奈は引き上げる。町長はやれやれと言わんばかりにため息をする。有起哉は、玲奈が学生時代の後輩というのもあるので二人で今度会ってくると言う。そこへ町長は、核燃料のゴミの受け入れに反対する町民たちは署名活動を行なっていると聞くから、その署名がいつ提出されるのか探ってきて欲しいと有起哉に頼む。
櫛田家が経営する食堂。櫛田英介と妻の櫛田美加子(石井麗子)が食堂を切り盛りする中、有起哉と玲奈はひっそりと二人で会って食事をし食べ終わる。どうやら櫛田家の食堂は、感染症の影響もあってお客さんが入らなくなって売り上げが芳しくなく、ずっと貧しい状況であった。
有起哉はそれとなく、櫛田家の両親に核のゴミの最終処分場として反対の署名の提出はいつになるのか聞く。どうしてそのようなことを聞いてくるのかと二人は最初は疑っていたが、上手く誤魔化して今週末には提出するということを聞き出し店を後にする。
櫛田家の食堂に寿都江がやってくる。玲奈は有起哉が去ったので店を去ろうとしたが、店の隅で寿都江と櫛田夫妻の会話を盗み聞きしている。寿都江のスナックの売上は繁盛している、しかし櫛田家の食堂の経営は傾いている。それは感染症でお客さんが来なくなったのではなく、この食堂に町長などの町役場関係者が出入りしているのを目撃されて、核燃料のゴミの最終処分場の受け入れ反対の町民たちに悪い噂を立てられて、あの食堂にはいかない方が良いと言われているからだと告げる。その事実に櫛田夫妻は愕然とする。この町の町民からそうやってこの食堂は避けられているのかと。
そこから英介と寿都江は言い争いになっていく。寿都江の亡くなった夫は福島原発で働いていた。しかし東日本大震災で福島原発があのようになってしまい、夫は癌になってしまった。周囲の人々はみんな夫が癌になったのは福島原発から排出された放射性物質が原因ではないかと言っていた。しかし、病院で診断を受けた結果、夫の癌の原因は生活習慣と診断された。
英介は寿都江に追及する。結局、国から寿都江に対して夫の癌による死亡によって賠償金は支払われたのかと。寿都江は支払われていないと言う。では、今のスナックの店を開業するにあたってどこからお金を得てやったのかと聞く。寿都江は語る。寿都江の夫は、福島原発作業者のリストを持っていた。国はそのリストを渡すように指示された、そしてその代わりにこの事実の口封じ代として巨額のお金を寿都江は手にしたのだと言う。つまり、寿都江は国から賠償金ではなく口封じ代でお店を開業して経営していたのだと言う。一同は驚く、そして盗み聞きしていた玲奈も驚く。
英介がかつて海岸で寿都江に対して口論したことがあった。夫のことについて、福島原発で働いていたにも関わらず癌の原因は生活習慣だと言われてなんで何も行動を起こさないのかと、しかしそれは国から口封じされていたからだったのかと。それを聞いていた玲奈は、海岸であの時英介と寿都江が口論していたのは、お互い不倫関係にあったからではなく、この事実についてだったのかと気づく。
有起哉の自宅。有起哉はベッドと思しき場所にいる。そこへ玲奈がやってくる。玲奈は、今日英介と寿都江の間でやり取りしていた事実を全て有起哉に伝える。有起哉は驚く。英介と寿都江が海岸でかつて口論していたのは、不倫をしていたからではなかったというのもそうだが、自分の母である寿都江は、父の癌のことについての口封じ代でお金を受け取っていた事実が初耳でショックを受けていた。有起哉はてっきり父の死因が生活習慣による癌だと思い込んでいたので、原発に勤めていた人でもそれが原因で死ぬことはなかったと知っていたからこそ、この町の核燃料のゴミの最終処分場として町役場の職員として賛成で推し進めていた。しかしそうでないのなら絶対に反対だと。
そして二人は、かつて学生時代に二人の両親の不倫をきっかけとして別れるに至ったが、決して不倫関係にあったわけではないと知ると、有起哉と玲奈が30歳になるまでお互い独身だったら結婚しようと約束したことを思い出し、キスをし始める。
そこへ寿都江がやってくる。寿都江は二人がキスし合っているのを見て面白おかしそうにする。玲奈はその場を去る。
有起哉は寿都江を激しく非難する。そんな事実を息子に隠し通しておくなんて許さないと。息子を裏切ったと。父の13回忌も忘れていたし、家族として行動があり得ないと。寿都江は泣き崩れる。
その時、周囲からサイレンの音が聞こえる。消防車が沢山出動しているようである。どうやら町長の自宅に放火があったようで二人は急いで家を出る。
ここで幕間に入る。
2年後の櫛田家の食堂。相変わらず英介と美加子が店を切り盛りする中、お店には松下と寿都江が来ていた。英介と美加子は以前よりは明るい様子でいた、それはこの町の核燃料のゴミの最終処分場として町が分断してしまった2年前よりはその過激さが落ち着いているということと、食堂の売上も回復してきたからである。おかげで一時の貧しい状態からは脱却出来たようである。
松下と寿都江もいよいよ入籍することになったと英介たちに報告する。一先ず世間も落ち着いてきたので、そろそろ入籍しても良い頃だろうと二人で判断したからである。
しかし、対立が激しくなくなったというだけであって、この町の核燃料のゴミの最終処分場受け入れの是非が決着した訳ではなかった。町長も以前放火が会って一時的にこの町から離れた場所で暮らしていたが、この町に戻ってくるらしく、しかし町長の自宅には護衛を置くようである。みんな表に出さないだけで最終処分場の受け入れの是非で分断はあることは事実だった。
寿都江も、決して核燃料のゴミの最終処分場への反対に意見を変えた訳ではない。依然としてその賛成反対の対立は残っているのだった。
しかしこの是非については住民投票をすることになったようで、町役場職員だけで決定することにはならずに済んでいた。
町役場で、NUMOの職員の矢口による核ゴミ最終処分場の勉強会が開かれる。町長、矢口を中心に、町民である寿都江、英介、美加子、松下が出席した。町役場の職員として有起哉も出席していて、新聞記者の玲奈は取材のために来ていた。
町長が始めに、まだこの町で核燃料のゴミの最終処分場として受け入れるか受け入れないか決まっておらず、それを決めるためにも核燃料ごみに関する勉強会をした方が良いということで開いたと説明する。
矢口がNUMOの職員として勉強会を始める。東日本大震災があってから、原子力発電所の稼働は減少傾向にあり、今後は廃炉になる発電所も多く、数十年後、数百年後は原子力発電所自体が無くなっているかもしれない。しかし、原子力発電所が無くなっても、核燃料のゴミの最終処分場には放射性廃棄物が残り続ける訳で、それが自然の放射線量レベルになるまで10万年ほどかかるという。
それに対し、町民たちが色々と質問する。結果的に核燃料のゴミの最終処分場としてこの町がそれを受け入れてしまったら、自分の子孫たちに迷惑をかけてしまうかもしれないなど。そして、どうして地下に埋めることが核燃料のゴミの廃棄で最も適した処理方法なのかと聞く。
NUMO職員の矢口は地下に埋めることが最も適した処理方法であるとしている理由として、これは地震が少ないアメリカが行った研究結果から言われていることだと言う。それに対し、町民たちは日本は地震大国でいつどのような地殻変動が起きるか分からない国であるにもかかわらず、地下に埋めることが最善策だとして良いのかといった疑問も提示していた。もし大地震などで地下に埋めていた核燃料のゴミが地下水などによって染み出してきたら、その土地は瞬く間に汚染されてしまうのではないかと。
しかし町長は、どの自治体も自ら手を挙げてこの問題に取り組んでいこうとしないからこそ、この町は最初に手を挙げて核のゴミを受け入れ模範となっていこうと言う。しかし町民たちは反発する、NUMOの職員には今の話を聞くと誠実さを感じるが、町長はただただ私利私欲のためにそれをやろうとしているに過ぎないのを感じると言う。核燃料のゴミを受け入れるか受け入れないかと、この町が財政難であるのは別問題であるはずなのに、お金を得るために町民の生活に目をやっていない気がすると言われてしまう。
寿都江も今までは受け入れに賛成してきたが、この勉強会を踏まえて考えを改めて反対意見になった。夫の松下も反対した。ここで上演が終了する。
冒頭で書いたように、核燃料のゴミの受け入れは断じてやってはいけないという主張が全体的に強くて、割と説教臭さを個人的には感じてしまったが、それでもヒューマンドラマにおいても見どころは沢山あったと思う。
どの登場人物たちも、結局町長だけでなくみんなにとって正しいか正しくないかではなく、自分たちの都合に合わせて意見を持つよなと思った。寿都江は国から口封じとしてお金をもらっているから賛成な訳であって、これに反対してしまうと、自分が裏切ってしまうような気持ちになるから反対出来なかったのだと思うし、松下も自分が漁師で核燃料のゴミが持ち込まれることによって海産物の売り上げに打撃を受けるリスクがあるから反対する訳だし、玲奈もあそこまで新聞記者として躍起になるのも、この町に学生時代の未練があるからなんじゃないかと感じた。だから昔好きだった有起哉に対してガツンとやりたかったのかもしれないと思った。そのように、客観的に何が正しいか何が間違いかを判断するのは難しく、結局自分の主観に基づいて意思表示することになってしまうよなと思った。
また、核燃料のゴミを受け入れることが悪というのが主張として強すぎる気がして、本来はもっとそんな単純な話ではなく、町長としてもそれを受け入れざるを得ない財政難の苦しみなどのヒューマンドラマを盛り込んで欲しかった。これだと割と単純なストーリーになり過ぎていて、町長が悪、町民が善みたいな構造になってしまって、世の中そんな単純な話じゃないでしょと首を傾げてしまった。
今まで原子力発電所を稼働してきた訳で、仮に廃炉を辿るとしてもどこの自治体かがこの危険な核のゴミ処理場を引き受けなければならない、そのどうしようもない深刻な現実をもっと描いてほしかった。
【世界観・演出】(※ネタバレあり)
上野ストアハウスという小劇場に、小劇場演劇にふさわしい手作り感のある舞台セットが用意されていて引き込まれる美術だった。
舞台装置、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていく。
まずは舞台装置から。
ステージの下手側、奥側、上手側は全てパネルが設置されていて壁で三方位が囲まれているようなセットだった。
ステージ下手側には扉が一つあってそこから役者たちがでハケできるようになっていた。寿都江のスナックや櫛田家の食堂では、この扉は店の出入り口として機能していた。また、ステージ上手側にも扉はついていないが、デハケになっている箇所があり、スナックや食堂であったら、店の奥や自宅側へと通じる入り口になっていたり、町長室や有起哉の自宅では入り口として機能していた。
ステージ上には、背の高い(といっても1mくらい)の直方体のボックスが複数置かれていて、これらを移動させることでお店のテーブルにいたり、町長の机にしたり、有起哉の家のベッドになったりしていた。お店のシーンになると飲み物や食べ物の器が出現する。
ステージ手前部分の下手側と上手側には、核燃料のゴミの廃棄物と思われる真っ黒いゴミ袋が山積みになったセットがあった。特に劇中で言及されることはない美術だったが、劇場に入ってくると真っ先に目につく舞台セットなので、そこで一気に作品に引き込まれた感じがあった。
あとは全体的に舞台セットの配色が黒色であるのも印象的だった。ただ黒いのではなく、黒い大理石のような装飾のようにも見えれば、核燃料のゴミの放射線廃棄物を表しているような黒にも感じられてちょっと気味悪い感じもあった。
次に舞台照明について。
舞台照明に関しては劇中で大きく印象に残る演出は見られなかった。割と様々な場所での会話劇がメインとなり、何か特別な空間を演出する訳でもなかった。
次に舞台音響について。
比較的BGMは多めにあった印象だった。個人的にはそこまでBGMを入れなくても良いのではと思ってしまった。逆にこのBGMの選曲だと一昔前の昼ドラのような印象を受けた。ちょっと古臭い感じの演出に思えた。そんな演出が功を奏すこともあるが、今作ではそこまで昼ドラや日中テレビでやっているサスペンスによせなくても良いのではと思った。
BGMは、サイレンの音だったり電話の音だったりが流れていた。
最後にその他演出について。
まず観客に当日パンフレット(配役表や専門用語の解説)だけでなく、「NUMO 核のごみ最終処分場勉強会」と書かれた資料が入っていたのが興味深かった。もちろん今回の観劇を通じて、核燃料のゴミの最終処分場がどう決められるのか、そのことについて勉強になる材料も沢山あるという意味でも良いのだが、それを観客が手にしながら劇序盤にNUMOの職員の話を聞くというスタイルが良くて、観客参加型の演劇に感じられる点が良かった。
今作の初演が2021年の11月で、まだこの時期はコロナ禍の影響も強くて、だからこそ櫛田家の食堂は感染症によってお客さんが来ないという設定にして上演したのだと思う。そして今回の再演で間違いなく加筆がされていて、2024年の現代の視点で幕間後の話が語られている。この脚本の構成が良かった。確かに2年前と比べると色々状況も変化して良くなっていることもあるが、うやむやにして結局解決しないまま誰も何も言わなくなったことは沢山ある。それを上手く幕間後の後半パートで反映させて描いている点も興味深かった。
あとは自宅がシーン(例えば有起哉の自宅のシーン)で役者が裸足だったのは屋内という理由以外に何かあるのだろうかと気になった。劇中の季節が夏ということでもないから靴下を履いていても良かったが、滑るし靴下を履いてしまうと靴でも歩く床面なので色々不都合だったのだろうか気になった。
有起哉と玲奈のキスシーンは驚いた。結構感情的にそこまでいくのが急だったのでびっくりした。もっと良いムードになってからキスの方が心動かされた気がした。
【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)
初めて拝見する役者さんばかりだったが、みんな熱量が凄まじくて驚いた。実に素晴らしかった。
特に印象に残った役者について見ていく。
まずはスナックのママの津曲寿都江役を演じたみやなおこさん。
非常に癖が強くて熱量のある演技にずっと圧倒された。調べてみたら、みやさんは生瀬勝久さんや山西惇さんが所属していた劇団「そとばこまち」出身の俳優で、舞台役者としてのキャリアも非常に長い。そして、2022年には『堕ち潮』で読売演劇大賞優秀女優賞を受賞している。
話し方といい振る舞い方といい、本当に夫を亡くした未亡人で色々人生経験があるような貫禄ある女性役が見事だった。いつも酔っ払っているんじゃないかというくらい、ちょっと呂律が回ってないような感じで、そういう演技を意図的に出来るのは凄いと思う。夫を亡くして色々な事情を抱えて今があるのだろうなというのが、何も説明されなくてもその態度を見ただけでよく伝わる素晴らしい演技だった。
夫を癌で亡くして、国から口封じ代でお金を貰う、しかし事情は誰にも話せない。こんな辛い状況をどうしたら受け止められるだろうか。それは、そんな事実忘れ去った方が得だと思って、店を開いて亡き夫のことを考えなくなる方がよっぽど楽だったのだろうなと思う。きっと寿都江は松下と再婚することで、夫のことを別に嫌いだったとは思っていないけれど、現実逃避するが如く忘れ去りたかったのだと思う。スナックもまあまあ上手く言っているし。
非常に人物像として共感出来るからこそ色々うごめく感情があった。
次に、新聞記者の櫛田玲奈役を演じた佐藤絵里佳さん。
非常に正義感の強い勢いのある女性役が凄く良かった。流石に現実世界でここまで真っ直ぐな女性がいたらちょっと引いてしまうが、演劇だからこそその熱量がグッと観客に伝わってきて惹かれた部分があった。
今では札幌で新聞記者をやっているが、出身はこの港町である。そして町役場職員の有起哉は学生時代の先輩で付き合っていたこともある。しかし、両親同士の不倫を疑って別れてしまった。きっと玲奈の方がより強く有起哉に対して未練があったのだと思う。だからこそ、今回の核燃料のゴミの最終処分場を巡る問題で対立した時に、自分の過去のこともあってより感情的になっていったのかなと思う。
町長をあそこまで質問攻めにする演技は凄かった。どこまで質問攻めにするのだろうと観ているこちら側もヒヤヒヤした。いつ町長が激怒するのかとビクビクしてしまった。
有起哉の自宅での玲奈との掛け合いも印象に残った。もう少しエモーショナルに見せて欲しい場面ではあったが、お互いに感情的になってぶつかり合っているので観ているこちらも興奮させられた。
町長の和久井芳郎役を演じた島本真治さんも素晴らしかった。
いかにもどこにでもいそうな町長という感じが良かった。お役所のトップという感じがあって、権力を持った存在という象徴な感じがあった。
そして私はこの島本さんの演技を見ている限り、凄く町長が悪人のようにも思えない。確かに金のことを考えていて私利私欲に走っているのは分かるが、町民とは意見は食い違っているが、町のことを考えていると思うし、20年町長を務めてきたんだから、それなりの人物というオーラもあった。
個人的にはもう少し町長の葛藤が見たかった。きっと町長がそうならざるを得ない事実もある訳で、それがあってこそこれは難しい問題なんだと説得力をさらに上げられたんじゃないかと感じた。
町役場職員の津曲有起哉役を演じた倉貫匡弘さんも良かった。
やはりなんといっても玲奈との掛け合いが良かった。二人のシーンは本当に惹きつけられるものがあった。
そして、父が原発事故が原因で癌になって亡くなった可能性があると知った時、それを母が黙っていた時、どれだけ強いショックを受けたのだろうかと想像した。母に騙されたと知った時、どれだけ辛いものを感じたのだろうと想像すると胸が痛くなる。母親が信用できないからこそ、尚更玲奈のことを好きになっていくのかなとも感じた。
【舞台の考察】(※ネタバレあり)
ここでは、今作のテーマである核燃料のゴミの最終処理場について考察していく。
私も今作を観劇して、今までなんとなく知識としてあった原子力発電と核燃料ゴミの廃棄処理に関する知識がより深まって観て良かったと思えた。
上記のNHKの記事が、核燃料のゴミの最終処分に関する一番新しい記事だと思うので、こちらを参照しながら見ていけたらと思うのだが、まず、無知すぎて恐縮なのだが核燃料のゴミの最終処理の方法が地層処分といって、地下300mの場所に埋められるということを知らなかった。NHKの記事によれば、核燃料のゴミの処分方法は「地層処分」のほかに検討されていたものとして、深い海底や海溝部に捨てる「海洋投棄」、南極などの氷の下に処分する「氷床処分」、宇宙にロケットなどで打ち上げる「宇宙処分」が考えられるという。しかし、「氷床処分」については1961年に発効した南極条約で、「海洋投棄」については1975年に発効したロンドン条約により認められないため、残る選択肢としては「地層処分」か「宇宙処分」しかなかった。そして「宇宙処分」に関しては、ロケットを打ち上げるコスト面などから現実的ではなく、「地層処分」が最も適しているとされている。
しかし今作の物語でもあったように、それはヨーロッパやアメリカといった地震が比較的起こりにくい地域による処分方法である。地震大国の日本において、同じ方法が適用できるのかは疑問視されている。
それ以外にも、2017年に実際に政府が文献などをもとに火山や活断層の有無などを確認し、調査地点として好ましい、好ましくないといった特性で全国を色分けした「科学的特性マップ」を公表していることも初めて知った。この適正マップは、手元の「NUMO 核ごみ最終処分場勉強会」の資料にも掲載されていた。地図を見ると、海沿いのエリアで好ましいと判断されているエリアが多い印象があった。理由を調べてみると、それは海に面していることで輸送面でも好ましいからなのだと分かる。今作の舞台になっている町もたしかに港町である。
↓適正マップ
https://www.numo.or.jp/kagakutekitokusei_map/pdf/kagakutekitokuseimap.pdf
この適正マップをみると、比較的好ましいとされている地域は、四国や近畿地方、それから北海道の北東部、南部に多い印象がある。また、能登半島も全域が適しているエリアとしてプロットされているが、2024年1月に能登半島地震が起きているので色々考えさせられる。
2007年には、高知県の東洋町が全国で初めて調査に応募したが、賛成派と反対派の対立のすえ、選挙で町長が落選し調査が始まる前に応募は撤回されている。そして、2020年に北海道の寿都町と神恵内村が調査への応募や受け入れを決め、全国で初めてとなる「文献調査」が行われた結果、2024年2月、次の「概要調査」に進んだ。今作は割と寿都町がモデルになっているといえるだろう。
そして、つい先日の2024年11月22日のニュースでは、ボーリングをして地質を調べる概要調査には自治体の同意が必要で、両町村長は住民投票などで民意を確認して判断する考えだが、鈴木直道知事は反対の意向で、果たして本当に概要調査が進めのだろうかといった様子である。このように非常にタイムリーなテーマを今作では扱っているのである。
今作では、原子力発電は東日本大震災の後、稼働が減少傾向になっていると述べていた。2024年11月現在、日本国内で原発が稼働しているのは13基であり、そのほとんどが西日本にある。
しかし、その13基のうちの1基は東日本にあり女川第二原発である。こちらは、2024年10月に再稼働された。このように徐々に原発も縮小していく訳ではなく、再稼働に踏み切るものも出ている。それは日本の電力の供給不足があり、どうしても原発に依存せざるを得なくなっていることを示唆する。
東日本大震災であのような事故があったにも関わらず、原発を稼働しないといけないという難しい問題に直面している。
そしてそれは日本だけでなく世界でもその傾向があるようである。私も今作を観劇してから調べて驚いたのだが、かつて原発事故を起こしたアメリカのスリーマイル島で原子力発電が再稼働されることが決定した。その理由は、マイクロソフトのAIで使用するデータセンターに電力を供給するためである。
温室効果ガスを排出する火力発電に代表されるような発電方法は、地球温暖化を加速させることになってしまう。化石燃料を頼ることなく安定的に電力を供給するためには、どうしても原子力発電に依存するしか世界的に見てもないようである。
また、アメリカだけでなく欧州も近年では原子力発電を再稼働しようという兆しを見せ始めている。温室効果ガスを出すことなく、AI技術を向上させるため、ロシアが始めたウクライナへの戦争によるエネルギー危機を乗り越えるためにも、再生可能エネルギーだけではなく原子力発電の安定した供給がやっぱり必要なのだということを示唆している。
核燃料ごみの問題に加えて、原発の再稼働に関する問題も極めて重要な問題であると言える。そのような事実を知るきっかけになったという意味で、今作に出会えて良かったと思う。