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舞台 「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!」 観劇レビュー 2025/02/01


写真引用元:爍綽と 公式X(旧Twitter)


写真引用元:爍綽と 公式X(旧Twitter)


公演タイトル:「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!」
劇場:浅草九劇
劇団・企画:爍綽と
作・演出:萩田頌豊与
出演:内田紅多、海上学彦、佐久間麻由、清水みさと、髙畑遊、土本燈子、てっぺい右利き、東野良平、吉増裕士、ブルー&スカイ
公演期間:1/29〜2/2(東京)
上演時間:約1時間40分(途中休憩なし)
作品キーワード:ナンセンスコメディ、熱量、青春、ラブストーリー、笑える
個人満足度:★★★★★★☆☆☆☆


俳優の佐久間麻由さんが2023年に立ち上げたソロユニット「爍綽と(しゃくしゃくと)」の第二弾として、萩田頌豊与さんが作演出を務める劇団「東京にこにこちゃん」の代表作である『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!』が上演されたので観劇。
「爍綽と」は、第一弾として安藤奎さんが作演出を務める「劇団アンパサンド」の新作公演『デンジャラス・ドア』(2023年4月)を上演して話題になったので、その時から気になっているソロユニットだった。
また、「東京にこにこちゃん」も以前から注目を集めている劇団であり、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!』は2022年7月に初演を迎えており評判も良かったので、今回観劇することにした。
私自身、「爍綽と」はもちろんのこと、「東京にこにこちゃん」の作品自体初めて観劇する。

物語は、バルコニーでロミオ(海上学彦)とジュリエット(佐久間麻由)が薬を前に言い合っている。
ジュリエットは、手にしているものが薬であることをロミオに自覚させ、昏睡状態に陥ってしまう危険なものであることを教え込んでいる。
ロミオとジュリエットは薬を飲むと、二人はとある幸せそうな日本風の住宅に住んでいた。
ロミオとジュリエットには子供がいた。
息子でいじめられっ子のペレッタ(てっぺい右利き)、長女でクラスでもモテそうなミア(清水みさと)、そして次女のマグノメリア(土本燈子)、そしてこの家に家政婦として働きに来ているのに何もしないチューシー(髙畑遊)。
この三人兄妹の家族は朝ごはんを食べて学校に向かう。
しかし、ペレッタは学校でいじめられてタンクトップがビリビリに破かれたりして大騒ぎである一方、ミアはボヌー(吉増裕士)に夢中だった。
その頃、マグノメリアは学校帰りにゾイ(ブルー&スカイ)という謎の男性に出会い、彼はチューシーを探しているから案内してくれとお願いされるが...というもの。

初めての「東京にこにこちゃん」の萩田さんの作品が観られるという楽しみと、口コミも非常に良かったので期待値高めで観劇に臨んだ。
作風もよく知らなかったので果たしてどんな感じかとワクワクしていたが、序盤から小劇場演劇の良さを詰め込んだかのような熱量に圧倒された。
序盤はロミオ演じる海上さんとジュリエット演じる佐久間さんの掛け合いなのだが、佐久間さんのジュリエットになりきって力一杯出し切っている感じの演技が凄く伝わってきて、それですぐに引き込まれた。
あそこまで恥ずかしみもなく振り切ってジュリエットを演じられてしまう佐久間さんから、自身のユニットである「爍綽と」で思う存分やりたいことを発揮している感じが伝わってきて、小劇場演劇の醍醐味を感じた。

そこから、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』のストーリーはどこにいってしまったのというくらい破茶滅茶な物語が展開されていく。
どの登場人物もキャラクター的にぶっ飛んでいて、全ての台詞にナンセンスにも程があるというくらい脈絡のないボケがかまされていく。
特に脚本自体に深い考察が出来るような戯曲ではなく、ただやりたいことを脈絡なく繋げて爆笑をとるような作品に感じられた。

今作の作風で特徴的に感じたのは、役者たちが同時発話的に台詞を大声で発し続けることによるコミカルさがあった。
もちろん、同時発話的に台詞が展開されるので、観客は全てを聞き取ることが出来ない。
しかし各々がお互い大声で全く違うことを怒鳴りあっているというシチュエーションにコミカルさがあって、これはあまり他の団体の作品ではないように感じた。
「青年団」も同時発話的な演出はあるが、作風が全く異なるので、ナンセンスコメディで同時発話演出がここまで使えるのは新鮮に感じた。
そして「青年団」のことも作品中で言及していて面白かった。

役者陣はとても豪華で且つ、こんなに熱量の感じる小劇場演劇を久しぶりに観たという感覚を得るくらい迫力ある演技で拍手喝采だった。
これを1日2ステージもやるのかと思うと、とんでもないカロリーだなと思う。
特に素晴らしかったのは、ジュリエット役を演じた佐久間麻由さんの熱のこもった演技は勿論のこと、いじめられっ子のペレッタ役を演じたてっぺい右利きさんの彼にしか出せない味、そしてゾイ役を演じたブルー&スカイさんの良い意味で不審者っぽくて怪しくて近づき難い感じのキャラクター性が良かった。

笑いのボキャブラリーとバリエーションは確かにもっとあれば満足度は上がったと思うが、ここまで熱量だけで押し通すコメディもそうそうなくてこういう小劇場演劇を久しぶりに観ることが出来たので観劇出来て良かったと思えた。
配信がもしあればやって欲しいし、また再演して欲しい。


写真引用元:ステージナタリー 爍綽とvol.2「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!」より。




【鑑賞動機】

割と公演の情報解禁が遅めだったので、正直感激しようか迷ってしまったのだが、「東京にこにこちゃん」はずっと観てみたいと思っていた団体だったし、「爍綽と」で豪華キャストでやるのであれば間違いなしであろうと思い、無理やり予定を空けて観劇することにした。期待値は高め。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

ロミオ(海上学彦)とジュリエット(佐久間麻由)がバルコニーで二人で何か言い合っている。ジュリエットはロミオの前に薬の入った瓶を突き出して、これは何?とロミオに尋ねる。ロミオはそれが最初は薬だと分からず違うことを言うが、ジュリエットは厳しくこれが薬であることを教え込む。
ロミオは、それが薬であることを理解するとジュリエットが嬉しそうに反応する。そしてロミオは、その薬をコーヒーに入れて飲もうとするが、そんな飲みやすいような扱いをしないでとジュリエットは警告する。そしてロミオはその薬を飲む。
ここでオープニング映像が流れる。

とある日本の民家の縁側に、老人(ブルー&スカイ)と老婆(内田紅多)が座っている。二人は呑気で外の景色などをみてゆっくりとした時間を過ごしている。
この民家は、ロミオとジュリエット夫婦の家で二人が朝ご飯の支度をしながらちゃぶ台を囲い始める。そこへ、長女のミア(清水みさと)、次女のマグノメリア(土本燈子)、長男のペレッタ(てっぺい右利き)、そして家政婦のチューシー(髙畑遊)がやってくる。家中は一気に賑やかになる。チューシーは家政婦なのに何もせず、食事の準備をジュリエットがやっている。
そこへ、ペレッタの友達のクルル(東野良平)が外からやってくる。クルルは、朝ご飯は食べたのかとジュリエットたちに聞かれるが、食べてないと言う。本当は食パンを食べるはずだったのだが、猫がいたので食パンを与えたが、猫ではなく空き缶だったと言う。
ロミオとジュリエットの家族は、青年団ではないから音を立てて朝ごはんを食べると言って、カチャカチャとお茶碗を鳴らしながら食べている。ミア、ペレッタ、マグノメリアは学校へ行ってしまう。

ペレッタは学校でいじめられてタンクトップ姿になっていた。そして、その1枚になったタンクトップもビリビリに引き裂かれてしまって大泣きしている。そしてペレッタはそのまま家に帰る。
一方、ミアは友達のトット(内田紅多)と一緒にいた。すると、学校がどちらの方向にあるか分からない男子学生のボヌー(吉増裕士)がやってくる。ミアはボヌーに夢中で好意を抱いており、彼に優しく学校の方角を教えてあげる。ボヌーは教えられた方向に向かっていく。ミアは、ボヌーが学校の方向が分からなくて3年留年したと言っており、可愛いとキュンキュンさせている。トットは、そんな男を好きになっちゃダメだと注意する。
マグノメリアは学校帰りに、一人の男性に話しかけられる。その男はゾイ(ブルー&スカイ)と言う。ゾイは、ゾイは名前であり決して語尾ではないゾイと言う。ゾイはチューシーという女性を探していると言う。マグノメリアは、チューシーという女性なら家で家政婦をしているという。ゾイはマグノメリアについていく。

ペレッタは泣きながら家に帰り、ジュリエットに心配される。ペレッタは学校でいじめられたと言って、ずっと茶の間で泣き続けている。ペレッタは、帰ってきたみあからは邪魔者扱いされるが、決して茶の間からは出て行かない。
そこへマグノメリアが、ゾイを連れて家に帰ってくる。ゾイはチューシーを探していたので再会する。
ペレッタのことで兄妹で揉めているので、ロミオは学校の先生なのだが、明日は学校へ行ってミアに代わりに授業をしてもらい、ロミオはペレッタとマンツーマンで授業をすることにする。

次の日、ロミオはペレッタとマンツーマンで授業を、ミアはトットやマグノメリアたちに授業を教え、いじめていたボヌーはまた違う場所で授業を受けていた。3人が同時に授業を別々でしているから、誰が何を言っているか全然聞き取れないとトットは言う。
ロミオの家では、チューシーが北斗の拳のパチスロをちゃぶ台の上に持ってきてやっている。そこへマグノメリアが帰ってくる。マグノメリアはチューシーに何かご飯を作って欲しいと頼む。しかしチューシーは、給食食べてこなかったのかと聞かれる。マグノメリアは給食は少なかったと答える。もっと沢山食べてこいよとチューシーは言う。

ミアはボヌーに振られる。ミアは大泣きして自分の家に帰っていく。そしてボヌーはトットに近づいていく。ボヌーは言う。禁断の恋の方が良いのだと、不倫とか浮気とか。とっとは気味悪く思う。
しかしボヌーは、どこからか出てきた植物のような奴に捕まえられて連れ去られてしまう。

ミアは自宅に帰って、ジュリエットに泣きついて振れられしまったことを話す。その時、同時にマインスイーパーも始まって同時発話的になる。
一方、クルルもペレッタと話していて植物のような奴に捕まえられて消えてしまう。消えてしまうと誰と話していたかも忘れてしまう。
みんなが自宅にいる時、植物みたいな奴が登場して大暴れし、色々な人間を連れ去っていく。そしてそのまま映像になって、植物のような奴が人間を八つ裂きにする映像が流れる。

ロミオとジュリエットは幻覚を見ていた。ロミオとジュリエットが家庭を持って子供がいてと言うのは全て幻覚だったようだった。
そこへモリアン(吉増裕士)が現れる。モリアンがその薬を仕込んだのだった。
最後は、みんなで夏祭りに行って輪になって踊る。ここで上演は終了する。

非常にメチャクチャなストーリーでさすがナンセンスコメディであったが、それでも普通に飽きずに楽しむことが出来た。それは、各登場人物たちの個性が輝いているからかもしれない。役者の演技の熱量もあって、どの登場人物もどこか憎めない。だからこそ、人を好きになれるからこそ観てしまえるのだと感じた。
設定としては、ロミオとジュリエットが薬を飲んで、二人で幸せな家庭を築く幻覚を見るという設定だったが、そう来たかと思わずにはいられなかった。ロミオとジュリエットがお互いに毒薬を飲むのは『ロミオとジュリエット』のラストのシーンなので、それまでの物語とかあまり関係なく、最後に二人は幻覚の世界で幸せになるという悲劇を喜劇に変える発想が素晴らしかった。
そして幻想の中の世界では、色々な創作物の世界が紛れ込んでいてカオスな状態だった。サザエさんとか、マインスイーパー、北斗の拳、なんでもありでもう少し統一感があっても良かったが。
コメディ要素もちょっとワンパターンな気がしていて、もっとどっと笑いが起こるシチュエーションを用意して欲しかったかも。

写真引用元:ステージナタリー 爍綽とvol.2「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!」より。


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

ナンセンスコメディは、昨今の若手演劇団体でも数多あるが、その中でも「東京にこにこちゃん」主宰の萩田頌豊与さんの作風は、熱量と意味の分からなさで突っ走るナンセンスコメディで観ていて爽快だった。
舞台装置、映像、舞台照明、舞台音響、その他演出について見ていく。

まずは舞台装置から。
ステージ上には大きな可動式のパネルが2つある。序盤と終盤のシーン、つまりロミオとジュリエットが幻覚を見ていないシーンでは、二つのパネルがステージ中央前方でくっついており、映像のスクリーンの機能をする。それ以外のシーンでは、ロミオとジュリエットの夫婦が住む家の茶の間になる。
そこまで作り込んでなくて豪華な舞台装置ではなく、特にロミオとジュリエット夫婦家族の幻覚のシーンは、上手側には何も舞台装置が仕込まれていなくて簡素だったがそれが良かった。浅草九劇という小劇場で、いかにも手作り感と粗さのある舞台装置でやるからこその良さがそこにはあった。
ロミオとジュリエットの家族が暮らす日本家屋は、まるで『サザエさん』などの大衆的な家族が暮らす家のような手作り感あふれる感じが良い。もちろん金銭的なコストをかけず作っているというのも予算の関係上あるのかもしれないが、それが逆にこの作品には合っていたと思う。
また、上手側からはまるで手がシザーハンズみたいな怪獣がいきなり登場する演出も凄く作風に合っていた。まるで仮装大賞的なクオリティで、小劇場演劇だからこその良い意味での粗さが良かった。
あとは目立った舞台装置でいくと、北斗の拳のパチスロの作り物が登場したのには驚いた。ビジュアル的なインパクトが凄かった。そしてそのパチスロをやるチューシーも似合っていた。

次に映像について。
熱量で押し通すなセンスコメディの作風とは打って変わって、映像演出は比較的繊細で綺麗なアニメーションだった。オープニングの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!」のタイトルロゴも良かったし、ロミオとジュリエットらしく華麗な感じが漂うのが好きだった。
ラストの映像は、植物の怪獣みたいな奴が人間を八つ裂きにするアニメーション映像がインパクト強かった。アニメーションで華麗にビジュアル化しておいてグロテスクな描写をするのは好きだった。

次に舞台照明について。
小劇場なのでそこまでクオリティの高い演出はなかったが、夜のシーンの月光を表すブルーの照明は印象的だったし、終盤の植物の怪獣みたいな奴が大暴れするシーンの照明の暗い感じも良かった。
また、序盤と終盤のロミオとジュリエットがバルコニーで言い合っているシーンでの薄暗く怪しい感じの照明も格好良くて好きだった。
また、一番ラストのシーンで、夏祭りで盆踊りを踊る時の明るい照明もラストを思わせて好きだった。

次に舞台音響について。
比較的役者たちの熱演のボリュームが物凄くて、音響が入るタイミングは映像が流れるシーンが一番記憶に残っている。

最後にその他演出について。
衣装についてだが、ロミオとジュリエットはシェイクスピアの時代の豪華な衣装を着ているのに、それ以外の出演者が現代の服を着ているギャップが良かった。どんな世界だよとツッコミたくなるも幻覚なのでなんでも受け入れられるなと思った。
登場するネタが北斗の拳、サザエさん、マインスイーパーなど多種多様過ぎてあまり統一感を感じなかった。雑多な感じにしたいならもっとそうして欲しいし、統一感を持たせたいなら何らかのルールが受け取れるようにして欲しかった。これだとなんでもありになってしまう。
劇中、度々ロミオとジュリエットがあのバルコニーと言っているシーンがあったが、幻覚を見ている最中でも現実の記憶を呼び戻そうとする時があることを示していたのかなと思う。

写真引用元:ステージナタリー 爍綽とvol.2「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!」より。


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

本当に今作の役者陣は豪華であることも勿論なのだが、それよりもあそこまでの熱量を100分間、ぶっ続けで披露していた体力に拍手喝采を送りたい。これこそ小劇場演劇の醍醐味だし、久しぶりに熱量で突き通す芝居が観られて感無量だった。
特に印象に残った役者について記載する。

まずは、ジュリエット役を演じた「爍綽と」主宰の佐久間麻由さん。佐久間さんは画餅『ホリデイ』(2023年1月)で初めて演技を拝見してとても印象に残るくらい素晴らしい演技を披露された俳優さんで、その後ぱぷりか『柔らかく搖れる』(2023年9月)でも演技を拝見している。
今作では、佐久間さんが初演を観劇して自らこの作品を選んでプロデュースしただけあって、非常に佐久間さん自身の力の入れようが半端なかった。まず、冒頭のジュリエットがロミオに薬を飲ませようとしているシーンでの、あの熱のこもった演技には圧倒された。今まで観たことなかった佐久間さんの芝居を観られた喜びもあったのだが、それ以上に序盤から猛スピードですっ飛ばしていくような速度で演技されていて、これ100分間持つのかと本気で心配になった。そのくらい序盤でアクセル全開でそこで持って行かれた。
佐久間さん演じるジュリエットは、今までの『ロミオとジュリエット』の清楚なジュリエットのイメージでは全くなく、情熱的で真っ赤に燃えるような女性で、愛が深かった。言葉ひとつひとつに心がこもっている感じがして、もちろんロミオに対しても愛情深かったのだが、それ以上にミア、ペレッタ、マグノメリアといった子供達に対する愛情も見応えがあって好きだった。
佐久間さんのあの小劇場演劇でしか観られない、熱のこもり過ぎた演技はまたどこかで観たいと思った。早くも「爍綽と」vol3が楽しみである。

次に、ロミオ役を演じた海上学彦さん。海上さんも画餅『ホリデイ』(2023年1月)に出演されていたので、そこで演技を拝見したことがある。
別に悪い意味ではないが平凡な感じのロミオが物凄く海上さんが演じるロミオとして似合っていた。佐久間さん演じるジュリエットに言われてばかりの、かかあ天下の夫婦を上手く表現していて面白かった。そんなロミオとジュリエットがあっても面白いなと感じた。

ミア役を演じた清水みさとさんも素晴らしかった。清水さんの演技はオーストラ・マコンドー『someday』(2019年9月)、山口ちはるプロデュース『快物』(2019年11月)で演技を拝見したことあるが、かなり久しぶりの演技拝見となる。その間にサウナ女子として売れてサバンナの高橋さんとも結婚して、かなり知名度を上げた上で、本人の芝居が観劇できるのは感無量である。
清水さんはかつては(というかこの芝居以外では)、割とおとなしめの芝居をするイメージしかなくて、ここまで強烈に甲高い声を出して演技するとは思わなくてびっくりした。かなり背伸びをして演技をしている感じがあったが、そうやって精一杯演技をしようとしている姿が小劇場演劇は良いのである。素晴らしかった。

ペレッタ役を演じたてっぺい右利きさんも素晴らしかった。てっぺい右利きさんは、くによし組『ケレン・ヘラー』(2024年12月)に出演されていたのを拝見したばかりである。
『ケレン・ヘラー』を観劇した時にも思ったが、本当にてっぺい右利きさんは、貧乏な家庭のいじめられっ子の少年みたいな役が似合うよなと思う。本当に芸人みたいなレベルの役者だなと思う。
タンクトップ姿も非常に似合っていて、それをいじめられてビリビリにされて大泣きすると言う、てっぺい右利きさんにドンピシャな役だったと思う。
逆に次回は、てっぺい右利きさんを違うキャラクターの役で観てみたいなとも思った。

ゾイ役を演じたブルー&スカイさんも素晴らしかった。ブルー&スカイさんは、ジョンソン&ジャクソン『どうやらビターソウル』(2022年11月)で演技を拝見したことがある。
いかにも不審者みたいな男性としてマグノメリアに近づいてきて、それだけでも面白いのだが、あの独特な話し方とオーラが強烈で演技が上手いブルー&スカイさんだからこそ務まる役だなと思う。
結果的に、ゾイはチューシーを探していて彼女と再会する。その二人の掛け合いも良かった。

写真引用元:ステージナタリー 爍綽とvol.2「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!」より。


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

ここでは、「東京にこにこちゃん」の作風と今作の脚本についての個人的な感想について記載していこうと思う。

先述した通り、私は初めて「東京にこにこちゃん」の萩田頌豊与さんの作品を拝見したが、これだけ数多あるナンセンスコメディの若手団体の中で、しっかりとオリジナリティを確立していて凄いなと思った。ナンセンスコメディの若手団体だと、「コンプソンズ」「劇団アンパサンド」「排気口」「ほりぶん」などを観劇したことがあって、どの団体も面白いのだが、「コンプソンズ」はナンセンスコメディでも狂気を感じるシーンがあってややシリアスに映るシーンもあって特異性がある。「劇団アンパサンド」のナンセンスコメディは、B級ホラー感ある物理的なインパクトを伴いながらの作品で怖面白いところがあって特異性がある。「排気口」のナンセンスコメディは、どちらかというと会話にウェイトが置かれた作風で、ホラー要素や怖さ、狂気さはなく青春を感じさせる点に特異性がある。「ほりぶん」(もしくは「ナカゴー」)は、作演出の方が亡くなってしまったが、全く狂気や怖さは感じさせずに、ほのぼのとナンセンスな会話劇が繰り広げられて特異性があった。
一方で「東京にこにこちゃん」はというと、熱量に振り切ったナンセンスコメディと言えるだろう。シリアスっぽいシーンは無きにしもあらずだが、「コンプソンズ」や「劇団アンパサンド」と比べると怖さや狂気さ、グロさはない。割と爽快で疾走感のあるナンセンスコメディである。その点が「東京にこにこちゃん」を唯一無二の作風にしていると感じる。
特に今作の演出で驚いたのは、ステージ上で同時発話的に役者が演技をするシーンが割と多いこと。その時点で、観客が全ての会話に耳を傾けることは出来ず、全ての言葉を聞き取れないと物語として楽しめないことは全くないということでもあるのだが、「青年団」以外にこの同時発話的な演出を上手く活かしている団体を初めて目撃したかもしれない。
「青年団」の会話劇は、とても繊細で静かなのでまるで日常に溶け込んでいるかのような同時発話的な演劇をお目にかかれる。自分が喫茶店にいて、両隣の席の会話が同時に聞こえてくるような感じ。それが「青年団」の同時発話的な演出だった。
しかし、「東京にこにこちゃん」の同時発話的な演出は、熱量でお互いの声量を競い合っているかのような同時発話演劇で、「青年団」とは全く雰囲気は異なるがこれはこれで面白いと思った。お互いに声が張り裂けそうになりながら同時に大声を出しているので笑える。まさに熱量で突っ走るナンセンスコメディだった。

今作の脚本について言及しておく。
今作のテーマの一つが、『ロミオとジュリエット』を引用しているということで恋愛があると思う。もちろんロミオとジュリエットの恋愛に関してもそうだが、それ以外にも様々な形で男女の関係が登場する。
まずは、ミオとボヌーである。ミオはボヌーに対してずっと恋心を抱いていた。まさに青春の恋愛といった甘酸っぱい感じの感情がそこにはあった。しかし、ボヌーは次第にミオではなくミオの友達のトットに手を出していく。それは浮気であり、禁断の恋の方が熱くなれるからと言っている。『ロミオとジュリエット』の物語もまさに禁断の恋の物語なので、こういう所に恋愛のテーマの本質が見え隠れしていたりする。
さらに、チューシーとゾイの二人が結ばれる件も好きだった。チューシーもゾイも端から見れば明らかに難ありな人間のように思う。チューシーは家政婦なのに全然仕事をしないし、ゾイは明らかに不審者のようだ。しかし、二人が再会を果たすとなんだか二人が報われて良かったなと思える。
男女の愛の形は色々な形で存在する。それをナンセンスコメディに上手く落とし込んでいるように感じた。

劇中登場するモリアンという医師は一体何者だったのだろうか。度々幻覚の中でも登場するが、間違いなくロミオとジュリエットに薬を渡した医師でもある。二人がその薬を飲んだ時に、二人が思い描いていた家族の像を幻覚として見せてくれたモリアン。脚本を買って理解を深めたかったなと思った。
ラストは夏祭りで終わるのも良かった。春の甘酸っぱい青春を経て夏に向かうのは良いなと。

本当に唯一無二のナンセンスコメディが観られたので、今後も「東京にこにこちゃん」「爍綽と」の活躍を応援したい。「東京にこにこちゃん」のMITAKA "Next" Selection 26thは絶対観にいきたい。

写真引用元:ステージナタリー 爍綽とvol.2「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!」より。


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