フルリモート演劇 「あの夜を覚えてる」 鑑賞レビュー 2022/03/20
公演タイトル:「あの夜を覚えてる」
劇団・企画:ニッポン放送、ノーミーツ
総合演出:佐久間宣行
プロデューサー:石井玄
脚本・演出:小御門優一郎
出演:千葉雄大、高橋ひかる、吉田悟郎、山口森広、工藤遥、入江甚儀、鳴海唯、山川ありそ、相田周二
公演期間:3/20、3/27
上演時間:約145分(途中休憩10分)
作品キーワード:オンライン演劇、ラジオ、オールナイトニッポン、泣ける
個人満足度:★★★★★★☆☆☆☆
ニッポン放送と、オンライン演劇で一斉を風靡してきた劇団ノーミーツ改めノーミーツがタッグを組んで、オールナイトニッポン55周年記念公演を上演。
ノーミーツが企画・製作に入っているということは、もちろん生配信の舞台作品であり、舞台はニッポン放送局内で実施される物語である。
ADの植村杏奈は、いつも深夜にオールナイトニッポンを聴いて元気を貰っていて大のラジオ好きだった。
そのためオールナイトニッポンのラジオADに就職したものの、ドジを踏んでばかりでディレクターの堂島稔(吉田悟郎)に叱られてばかりいた。
パーソナリティを務める藤尾涼太(千葉雄大)は、丁度100回目の放送を迎えたが彼にはある秘密があったという設定になっている。
ノーミーツの生配信舞台は、旗揚げ公演となる「門外不出モラトリアム」から「むこうのくに」「それでも笑えれば」と3度視聴してきて今回は4度目の視聴となるのだが、劇団ノーミーツの時代と比べて圧倒的にカメラワークだったり音響だったりがブラッシュアップされて、非常に落ち着いて視聴出来た印象。
Twitterを見る限り裏では沢山ハプニングがあったそうだが、視聴者側からすれば全くトラブルなんて起きている気配を感じなかった。
今回の鑑賞にあたって私自身が一番気になっていたのがリアルタイムによる配信ならではの演出で、正直終盤に差し掛かるまではただのテレビドラマを観させられているようで期待値は正直やや下がっていた。
途中幕間があるのだが、前半の物語構成もやや単調気味でこれなら以前の劇団ノーミーツの作品の方が面白かったのではないかとさえ思った。
しかし、終盤で見事に裏切ってくれて満足度は一気に上がった。
そこで用意されていた演出は、リアルタイムによる配信ならではの演出だけではなく、演劇とラジオの一体だった。
これは絶対ラジオ好きには堪らない演出だろうと思いながら私も感動していた。
ネタバレになってしまうので多くは語れないが、この舞台作品がキャストとリスナーたちの双方で形作られているんだなと感じ、非常にラジオへの愛情を感じた。
ラジオ好きには必見の作品、そうでない方もラストは感動すると思うので多くの人に観て欲しいと思った。
↓小説『あの夜を覚えてる』
【鑑賞動機】
2020年12月に上演された「それでも笑えれば」以来暫く劇団ノーミーツの作品からは遠ざかっていたが、今回は総合演出に佐久間宣行さんを迎えてオールナイトニッポンの記念公演を行うということで、これはきっとノーミーツが総力を上げて創作する作品だと思い視聴することにした。
そしてフライヤーデザインも、ノーミーツの目黒水海さんのデザインということで非常に素敵だったので決めての一つとなった。
【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)
新米ADの植村杏奈(高橋ひかる)は、オールナイトニッポンのADとして働いていたが仕事でいつも失敗ばかりで、スタッフやディレクターの堂島稔(吉田悟郎)にいつも叱られていた。植村はいつも深夜に藤尾涼太(千葉雄大)がパーソナリティを務めるオールナイトニッポンを聞いていて励まされていた。藤尾が、映画やドラマに出演している時の自分は役としての自分だけれど、ラジオ番組に出演している自分は素の自分であると言っていたことに植村は彼の人間性、その人らしさを感じていて好きだった。だからラジオが好きでそれが動機となって今の職業に就いた。藤尾は植村にとって憧れの存在だった。
しかし、植村は雑誌に藤尾が女性と深夜デートをしているとスクープされているのを見つけ衝撃を受ける。嘘であることを願いつつも浮ついていて仕事になっていない植村であった。
今日は藤尾がパーソナリティを務めてから丁度100回目の放送日だった。堂島は100回目の放送も通常通りでいくとスタッフに指示する。
植村が本番が始まる直前にバタバタと局内を走り回っていると、フードを被った謎の男がエレベーターに向かっていくのを目撃する。その直後、藤尾と彼のマネージャーの小園真由美(鳴海唯)が到着し現れる。スタッフたちが、今日は100回目の放送日だが通常通りやると藤尾に伝える。準備が整うと、今夜のオールナイトニッポンの放送が始まる。
藤尾がパーソナリティを務めて100回目の放送ということで、リスナーから送られてきた100回の中で一番印象に残った回を読み上げ、そのエピソードが果たして実在したか否かを藤尾自身が当てるという企画だった。しかし、どのリスナーからのメールもオンエアしていない架空の内容で、藤尾は全て「実在しない」と解答して正解している状況だった。
その間、植村は番組内で使用する音楽を探してくるように堂島に依頼され探していた。しかし、彼女の頭の中は藤尾のスキャンダルのことで一杯で浮ついていた。そんな様子を知っていた堂島とミキサーの一之瀬尚樹(山川ありそ)は、彼女のことを心配していた。
植村は番組で使用する音源を堂島に渡す。
ラジオ番組はCMが入った後、藤尾のスキャンダルの件について直接本人に伺うという企画だった。植村は放送中に恐る恐る藤尾の前に例のスキャンダルの雑誌を持っていった。しかし藤尾は、このスクープされた熱愛報道は誤解であり、この隣で歩いているキャバ嬢のような派手な女性は、実はマネージャーの小園であり仕事がらみの出来事であると説明した。
植村は藤尾のスクープが誤解だったと聞いてホッとした。
その後ラジオ番組では、藤尾と放送作家の加野徹也(山口森広)によって「銀河鉄道の夜」のような物語を朗読し合っていた。そしてその朗読の途中で、先ほど植村が探してきた音楽が流れる。しかし、その植村が探してきた音楽は堂島が依頼した音楽とは全く違う曲で、場違いな曲がオンエア中に流れ放送事故になってしまった。
堂島と一之瀬は慌ててその音楽を誤魔化そうと試行錯誤する。しかし、藤尾と加野が音楽に合わせて多少朗読の台詞を変えてくれたので、なんとか丸く収まった。植村は放送事故を起こしてしまった自分に強く罪悪感を感じていた。
CMに入り、植村は一同に頭を下げていた。そしてその場をアドリブで乗り越えた加野を堂島は褒め称えていた。
植村は別室でプロデューサーの野々宮代助(相田周二)に出会い、野々宮からこれはどういうことだと、一冊の台本を突きつけられる。そこには、藤尾がラジオ番組で話している内容と全く同じ台詞が書かれていた。植村はそれを見てびっくりする。なぜなら植村は、オールナイトニッポンで語っていた藤尾の言葉は全て藤尾自身の言葉だと信じていたから。そうでないと知って裏切られた気持ちになっていた。
その時、ラジオ番組ではもう一つ驚くべきことが起こっていた。それは今回の放送を持って藤尾はオールナイトニッポンのパーソナリティを卒業すると番組内で宣言したからである。
番組が終了すると、藤尾の後を植村は追いかけていく。そして彼に、パーソナリティを卒業してしまうことと、なぜずっと台本を読みながらラジオ番組を進行していたことを隠していたのかを追求した。藤尾は、自分はアドリブで自分の言葉で話すことが出来ない人間で、そんな自分がこんな形でパーソナリティを務めていることに罪悪感を感じていたのだと。自分は過去のパーソナリティのようにはなれないと悟り辞めるのだと言った。
植村は引き留めようとするが、藤尾はそのまま放送局を去ってしまった。
堂島と加野は、今までずっと内密に藤尾を放送局に呼び出して、オールナイトニッポンの番組の稽古をしてオンエアに望んでいた。このことを知った野々宮は2人にブチ切れる。
そして堂島はこれを持ってオールナイトニッポンのディレクターを辞めることを決意する。加野に対して植村をよろしくと伝えて去っていく。
ここで幕間に入る。幕間では、Creepy NutsのDJ松永と三四郎の小宮がそれぞれ一人でラジオ番組のパーソナリティを務めて場を繋いでいた。
2年後、植村は真面目で優秀なオールナイトニッポンのディレクターへと成長していた。植村には2人の後輩もいた。一人は相原萌花(工藤遥)というADで、性格は植村とは真逆で生意気だが新米でもやるべき仕事をしっかりこなしていた。その更に後輩にサブ作家の神田龍二(入江甚儀)がいて、彼はいつも頭を抱えながらラジオ番組のシナリオを書いて、植村に指摘されていた。神田もオールナイトニッポンへの愛は強く、「イエスマン龍」というラジオネームで頻繁にメールを送って読まれていた。
植村に色々指摘された神田を見た相原は、植村が去った後にもっと彼女にガツンと言ったら良いとアドバイスをする。
その時、植村は今日のパーソナリティを務めるマイコが体調不良のため欠席するという連絡を受ける。慌てる植村、誰か代理のパーソナリティに当てはあるのかと相原に聞かれるも、ないと答える。そこで相原は、今日だけ藤尾にパーソナリティをお願いしてみないかと提案する。相原も藤尾のファンであったのもあろう。
植村はまずは、マネージャーの小園に電話をして依頼してみることにする、小園が藤尾に直接電話を変わると、藤尾はパーソナリティの代理を務めることに消極的で自分には台本がないと無理だと言う。そこで植村は台本を用意するから今日だけ戻ってきて欲しいと強く依頼して引き受けてもらえる。
藤尾と小園が放送局へ到着し、藤尾は再びオールナイトニッポンのパーソナリティとして向かう。ラジオの台本は、加野が準備してくれていた。
オールナイトニッポンは急遽藤尾をパーソナリティに迎えてスタートする。
しかし、本番中に植村に一本の連絡が入り、欠席したマイコからボイスメッセージが送られてきていてこれを絶対に番組内で流して欲しいと依頼される。しかし、そのボイスメッセージを流すと加野に書いてもらった台本を全て読むことは時間的に不可能で、残りの時間を何か別に用意しないといけない。
神田は急いで何かシナリオを書こうとするが、植村に送った原稿は「フリートーク」と大きな文字で書かれた紙だった。
植村は、藤尾がアドリブが苦手なことは承知していてどうなるか分からないと思ったが、この「フリートーク」に全てを掛けることにした。
マイコからのボイスメッセージが流れた後、植村は藤尾に「フリートーク」という紙を渡す。藤尾は急に凍りつく。しかし彼はそこから自分のことについて語り始める。
藤尾は学生時代演劇部に入っていたが、友達がいなくて誰ともクラスで話す機会がなかった。しかし、たまたま席替えで隣になった生徒もいつもMDで耳にイヤホンを当てて音楽を聞いている奴だったため、彼に話しかけてみたのだと。そしたら音楽の話を彼とすることが出来たのだと。
フリートークを始めた藤尾の元に沢山のメッセージが寄せられる、そこにはハガキ職人からの彼を思いやる優しい言葉が沢山あった。藤尾はそれらを一つひとつ読み上げながら涙した。
そして最後に、2年前植村ADが間違えて違う曲を流してしまったが、本来はその場面で流したかった音楽をかけて終わりたいと言い、Creepy Nuts×Ayase×幾田りらの「ばかまじめ」という楽曲が流れて物語は終了。
正直前半までは、この物語はどこに向かうんだろうと疑問符を浮かべていて、物語も単調に感じていたしなにせ今までのノーミーツ作品の中では一番テレビドラマに近い感じがして、これをリアタイで配信して視聴する意味をずっと考えてしまっていた。
しかし、終盤の展開と演出によって一気に満足度が上がった。まさに演劇とラジオが一体となるのを目撃した。ハガキ職人たちがこの舞台作品を視聴していて、もちろんこのハガキ職人たちはラジオを聞いている人なら誰もが知っているハガキ職人たちで、彼らがこの生配信を観て即座にメールで送った内容がそのままオンエアされるという素晴らしい演出だった。こんな作品は今まで観たことがない。
これ、おそらくハガキ職人でなくても一般のリスナーが藤尾にメールを送っても作品上で読まれる可能性もありそうである。そうなると、まさに視聴者つまりリスナーと共に創る舞台作品ということになる。これは面白い。
そしてこの演出は、パーソナリティとリスナーのインタラクティブな作用によるラジオの面白さをしっかりと満たした、まさにラジオ好きのためのラジオ愛に満ちた舞台作品にもなっている。そこが本当に素晴らしかった。
まるで演劇を配信で観ながらラジオを聞いている感じ、素晴らしくてそして新しい演出手法で感動した。
【世界観・演出】(※ネタバレあり)
今までノーミーツ(というか創業期の劇団ノーミーツ)の作品は、各キャストが自宅にいながらオンラインで演劇をするというスタイルが主流だった。しかし今作はニッポン放送の放送局内でリアルタイムで撮影しながら配信するというスタイル。ピューロランドでワンカット撮りでオンライン演劇に挑んだ「VIVA LA VALENTINE」を視聴していない私には、とある現場で生配信で演劇をやるというスタイルが正直どんなものなのか非常に楽しみにしていたが、先述した通り終盤に差し掛かるまではテレビドラマを観ているような感覚で、これって生配信でやらなくてもよくない?と思っていた。しかし、終盤の工夫された演出によって生配信だからこそ味わえる舞台作品として仕上がっていて、さすがはノーミーツの作品だったと満足することが出来た。きっとこういった独創性のある演出を仕込めないと、ただただ生配信を行うだけでは映像コンテンツとの差別化は図れない、つまりオンライン演劇は非常にハードルの高い演出手法だと思っている。その高いハードルを超えることの出来るノーミーツはさすがと言えるだろう。
カメラワーク・映像演出、音響演出、UI/UXデザイン、その他演出の順番でみていこうと思う。
まずはカメラワーク・映像演出から。
先述した通り、基本的にはニッポン放送のスタジオ現場内で撮影がされていた。植村ADが、特に前半の新米ADだった頃のシーンは、彼女がバタバタと放送局内を慌ただしく駆け回るシチュエーションが多かったので、カメラが植村を撮影しながら動き続けるのだが、決してブレたりせずに移動して撮影がなされていたので、おそらく何か台車のようなものにカメラを乗せて撮影していたのだろう。以前のノーミーツ作品と比較したらとんでもなくお金をかけて配信されていることが伺えた。
また、たまに回想シーンが登場し、例えば植村ADがまだラジオのヘビーリスナーだった頃、深夜にオールナイトニッポンを聞いて元気を貰っていた頃のシーンは、ちょっと画面の隅がボヤボヤと加工がされていたのが印象的、個人的には好きだった。
また映像も全体的に、なんだろう、オールナイトニッポンなので夜という感じを残しながらどこか温かみのある編集の仕方がされている気がする。私は映像の編集の仕方について詳しくないのだが、非常に温もりを感じさせる映像の撮り方も好きだった。ラジオってリスナーたちの拠り所になる温かさみたいなものってあると思う。そういう優しさを感じられる映像編集に素晴らしさとセンスを感じた。
次に音響演出。
全体的にテレビドラマ風で、基本的に多くのシーンで何かしらの音楽が流れていた印象。もちろん音楽といっても、歌詞付きの楽曲ではなくBGMがメインだったが、オールナイトニッポンの番組内で様々な音楽は流れていた。
例えば星野源さんの「Pop Virus」が流れるあたりは凄くラジオっぽさを感じられた。星野源さん本人を含め彼の楽曲ってどこか温かく落ち着きがあってラジオに向いているなと感じる。実際オールナイトニッポンのパーソナリティもやってらっしゃるし。
そして今回の楽曲の目玉は、Creepy Nuts×Ayase×幾田りらの「ばかまじめ」というオリジナル楽曲。ラストシーンで番組内でこの音楽がかかるタイミング、そして2年前に本来なら番組内でかかるはずだった楽曲が、植村ADのミスによってかかることはなかったが、こうやって藤尾が一つのコンプレックスを克服して乗り越えた先にかかることでエンディングとしてグッと心に沁みた。
あとは、音の編集という観点で、普通のシーンとラジオ番組中のシーンで音声の入れ方を変えていたりと、凄くラジオに近づける編集・演出を感じられて好きだった。
そしてUI/UXデザインだが、オンライン劇場ZAで配信していることもあって、「それでも笑えれば」を鑑賞したときに近い感覚を味わっていたが、そこからさらにブラッシュアップされていて、非常に落ち着きのあるUIデザインに感じられた気がした。
客入れ時の諸注意やグッズ販売をまとめた画面は、ノーミーツらしく可愛げがあって好きだった。進化して洗練されつつもノーミーツらしさをしっかりと感じられたデザインで良かった。
あとはchat機能、やはりオンライン演劇のchat機能って素晴らしいと思った。今回の作品に限っては、視聴者のニックネームがラジオネームにもなるという設定は本当に素晴らしい。そして、皆がchatでその時その時のリアクションを投稿することによって、リアルタイムで観ていることへの楽しさも感じられるし、普段の劇場での観劇よりも一人じゃない感覚を与えてくれる気がする。
またパーソナリティへメール投稿出来る機能が今作では追加されていて、これも素晴らしい機能となっている。ラストの場面におけるハガキ職人によるパーソナリティへの励ましのメッセージは、おそらくこのメール機能を使ってリアルタイムで投稿されているものと思われる。この仕掛は、リスナーももちろん裏方たちもきっと楽しんでいることだろうと思うとにんまりしてしまう。ラジオの良さを存分に引き出してくれる新しい演出手法で素晴らしかった。
最後にその他演出について。
ストーリーが幕間を挟んで前半と後半で分かれているが、その間に2年間の空白があって、植村が新米のADから慣れたディレクターへと成長している見せ方が好きだった。後半がスタートしたシーンで、最初に登場するのはADの相原なのだが、なんの紹介もなしに彼女が主人公であるかのように撮影されるので、一瞬彼女を植村ADだと勘違いする。2年前ではスタッフに会議室をばらしておくように注意されたり慌ただしくしていた一方、2年後には同じスタッフに仕事面で感謝されて成長を感じさせる演出かと思ったら相原だったという視聴者を良い意味で裏切ってくる演出は印象に残っている。
幕間でのCreepy NutsのDJ松永と、三四郎の小宮のラジオパーソナリティは、幕間中もラジオを聞いているような感覚で好きだった。幕間でも飽きさせない演出だった。
また、どんな脈絡で登場したか忘れてしまったが、乃木坂46の久保史緒里さんがパーソナリティを務める回が流れたのも印象的だった。あのジブリの話をするくだりが好き。凄くラジオの楽しさを感じさせてくれるシーンに私は心動かされた。
【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)
普段テレビ出演されていたり、ラジオ番組に出演されているキャストが多かった印象。特に注目したい方をピックアップしてふれていく。
まずパーソナリティの藤尾涼太役を演じた千葉雄大さん。正直千葉さんがラジオのパーソナリティってイメージは全然なかったのだけれど、今回の作品を視聴してその包容力のある優しさと落ち着きを凄く感じられて好きになった。これはリスナーも増えるなと納得してしまうくらい。
そして一番の見どころはやはりラストの号泣シーン。今までは台本に沿ってラジオのパーソナリティを務めていたが、フリートークというスタッフからの指示で初めてラジオ番組でアドリブで話をすることになる。その時、ちょっと自分に対して自信のないような面持ちで過去の学生時代の全然いけてなかった過去を語り始めるのだが、そこに初めて藤尾らしさというものが現れて、そしてハガキ職人たちに慰められて、自然と生配信で号泣する千葉さんの演技が本当に素晴らしかった。chatのコメントにも絶賛の嵐で非常にキャスト陣もリスナーも盛り上がっている一体感みたいなのを感じられて素晴らしかった。
次に、植村杏奈役を演じた高橋ひかるさん。とにかく前半の新米ADのダメダメっぷりドジっぷりと、後半の出来るディレクターの変化をしっかり演じられていて素晴らしかった。
まず前半の一人芝居が面白かった。自分でまるでパーソナリティを務めて妄想ごっこをするシーンが、凄く印象に残っている。毎度毎度ドジを踏んでばかりの植村を観ていると、誰もが自分が新米だった頃を思い出すんじゃないだろうか。「頑張れ」と心から応援したくなってしまう。
しかし後半になると、落ち着きをもって安定したディレクターに変わっている。このギャップはファンだったら間違いなく堪らないだろう。
今回私が一番好きなキャストだったのが、AD相原萌花役を演じる工藤遥さん。工藤さんは元「モーニング娘。」のメンバーだそうで、舞台にも多数出演経験がある。
客入れ時のフリートークで、自分のチャームポイントがハスキーボイスで伊藤沙莉さんと親近感を感じている的な話をされていたが、たしかに思った以上に演技をされている時はハスキーボイスだった。
彼女は後半になって初めて登場する役だが、あのサバサバした性格が観ていて非常に好きになるキャラクターだった。特に印象に残っているのは、神田に対してなんでもっと植村に対して大きな態度が取れないのかと言ってくる生意気ぶりが堪らなかった。全然作風は違うけれど、「PSYCHO-PASS」に登場する常守朱と霜月美佳を見ているかのよう。もちろん、植村が常守で相原が霜月みたいなポジション。出来るし且つ生意気な後輩は鼻につくけれどなんか魅力的に感じてしまう。
そして演技がとても素晴らしかった。あの生意気でませた感じを上手く演技出来るって素晴らしいし魅力的に映った。他の舞台でも拝見したいと感じる。
サブ作家を演じる神田龍二役の入江甚儀さんも良かった。あのいつも頭を抱え込む感じが好き。非常にキャラクターが立っていて面白かった。
ラジオをこよなく愛していて、「イエスマン龍」というラジオネームでヘビーリスナーとしてラジオを聞いていたのも、あの雰囲気からなんとなく想像できる。あと彼のパソコンがシールで埋め尽くされているのも好きだった。オタクって感じで好きだった。
【舞台の考察】(※ネタバレあり)
ここではラジオの魅力と、オンライン演劇の魅力について語った上で、この舞台作品について考察していこうと思う。
私は普段ラジオをあまり聞かなくて、「オールナイトニッポン」というラジオ番組が深夜帯に存在して、パーソナリティがリスナーからのメッセージを読み上げたりなどして、それを聞きながら何かを頑張るみたいなそんな立ち位置というイメージだけ知っていた。たまに自分が投稿したメッセージが読まれたりなどして一喜一憂するのがラジオ番組の魅力なのかなと、ふんわりと想像していた。
今回実際この「あの夜を覚えてる」を視聴してみて、ラジオってパーソナリティを始めとするスタッフたちと、リスナーの皆さんと共に作り上げられる心温まるものなのだなと痛感した。それによって、パーソナリティにとってもこのラジオを通して気づきがあると思うし、リスナーも元気をもらうことが出来る相乗効果の場なのだと。
そして、ハガキ職人という方々をこの作品を通して初めて知った。ハガキ職人とは、要はラジオ番組のヘビーリスナーなのだけれど、番組宛てに多くのメッセージを送っていて、リスナーたちは誰もが彼らのラジオネームを把握している。そしてハガキ職人たちのメールの内容は非常に素晴らしく、彼らによって番組自体も支えられていると言っても過言ではない。
こうやってラジオが好きな方たちが集まって、番組を通して一つのコミュニティを形成しているような感じなのだろう。そこにはラジオへの愛と温もりをヒシヒシと感じさせてくれる。
一方、そういったラジオの魅力をどうやってオンライン演劇として発信して作品に仕上げるか。ノーミーツの方たちは必死で模索して今回の作品にたどり着いたに違いない。
オンライン演劇は当然リアルタイムで生配信が行われる演劇なのだけれど、下手すればただ高価なチケット代でテレビドラマを観ている感覚にしかならない。リアルタイムで配信を観るからこその楽しみを見いださないといけない。そのためには、高いアイデア発想力と技術力が両方備わっていないと実現できないというかなりハードルの高い敷居がそこにはある。
しかしオンライン演劇の先駆者ノーミーツは、その高いハードルを今回しっかりと飛び越えたんじゃないかと思っている。
彼らが出した答えというのは、演劇とラジオの一体感だった。まるでラジオを聞いているような感覚でオンライン演劇を楽しむという演出手法である。
具体的には先述した、ハガキ職人たちがリアルタイムでパーソナリティにメッセージを送ることで、今その場で感動が巻き起こるという仕掛けである。その瞬間をリスナーたちはまるでラジオを聞いている感覚で楽しみ、感動を共有することが出来た。
またこれって、何もリスナーだけが感動したのではなくて、この作品を一緒に作り上げてきたスタッフたちも感動したのではと思っている。スタッフたちも今回のラストシーンでハガキ職人たちからどんなメッセージが送られてくるのか、誰も知らなかったであろう。誰もがどんな結末を迎えるか分からない中で、アドリブで藤尾がメッセージに答えていく、そして涙する。そうやって彼は苦手だったフリートークを克服していく。まさにオンライン演劇とラジオというものが一体となって、人々を感動の渦へと誘った作品だったのではないかと思っている。
そこにはラジオへの愛も詰まっていて、本当にラジオ好きには堪らない、そして今まで体験したことのない映像体験になったのではないかと思っている。
今回私がリアルタイムで視聴した回は、のべ6700人の方が視聴されていたと記憶している。以前私が「それでも笑えれば」を視聴した時は1回のリアルタイムの視聴で4桁はいっていなかったと記憶しているので、ノーミーツの作品はますます多くの方に観て頂けるようなステップアップを果たしたと言って良い。
Netflixなどの動画配信サービスが一斉を風靡する中、オンライン演劇という作品は非常に難しい状況に立たされている。ぜひノーミーツには新たなイノベーションを起こして日本のエンタメをしっかり引っ張っていって多くの人に大きな感動を与え続けて欲しい。
↓ノーミーツ過去作品