舞台 「平和によるうしろめたさの為の」 観劇レビュー 2024/12/06
公演タイトル:「平和によるうしろめたさの為の」
劇場:下北沢 小劇場B1
劇団・企画:城山羊の会
作・演出:山内ケンジ
出演:古舘寛治、中島歩、福井夏、岩本えり、笠島智、岡部たかし
公演期間:12/4〜12/17(東京)
上演時間:約1時間55分(途中休憩なし)
作品キーワード:会話劇、ラブストーリー、コメディ、アダルト
個人満足度:★★★★☆☆☆☆☆☆
2015年に『トロワグロ』で岸田國士戯曲賞を受賞している、山内ケンジさんが主宰する演劇プロデュースユニット「城山羊の会」を観劇。
「城山羊の会」は、2022年11月に『温暖化の秋 -hot autumn-』を、2023年12月に『萎れた花の弁明』を観劇したことがあり、私は今作で3年連続3度目の観劇となる。
物語は、2024年の秋も深まるとある公園で起きた1日の出来事を描いた会話劇である。
ベンチで男1(古舘寛治)と女1(笠島智)が二人で座っている(※当日パンフレットにも役名は記載されておらず男1、女1と書かれている)。
女1は男1ともっと性的なことをしたいと欲してそうだが、男1はあまり乗り気ではない様子である。
男1は世界では戦争も始まっていて、そんな淫らなことをしている場合なのかと言うが、女1には戦争とこれとは関係ないでしょと言われる。
そんな中、公園に男2(中島歩)がやってくる。
男2は仕切に誰かと電話をしている様子である。
そんな中男1と女1はベンチでそのまま良いムードになってキスをする。
男1がこの場から去った後、女1と男2が二人きりになるが、実は男2と女1は元々恋仲にあった者同士で...というもの。
「城山羊の会」の演劇作品は、毎年1作品を11〜12月に上演することが多く、2022年に上演された『温暖化の秋 -hot autumn-』では、コロナ禍を経て徐々に日常が戻ってきて人と会う機会が増えるタイミングの群像劇を描いたり、2023年の『萎れた花の弁明』では、コロナ禍の最中ずっと溜め込んで我慢してきた欲望を発散するかのような会話劇を描いたりと、その当時の世の中の状況を反映した演劇作品になっている点に面白さを見出していた。
そして今年(2024年)の作品のタイトルは『平和によるうしろめたさの為の』ということで色んな期待を勝手に込めていた。
世界では戦争がどんどん激化していて、それなのに日本人はこんなに呑気に暮らしているといった世の中を皮肉った会話劇なのだろうと楽しみにしていた。
しかし、個人的には過去観劇した2作品に比べてタイトルがあまり絡んできていないように感じて物足りなさを感じた。
まず、世界観は非常に『温暖化の秋 -hot autumn-』と似ていて秋の公園で色々な夫婦や恋仲の二人が変わる変わる登場する形で既視感があった。
そこに『萎れた花の弁明』で登場したような性欲をコメディチックに描くという「城山羊の会」ワールドが展開していた。
過去2作品を足して2で割った感じがあって、それだけであまり新鮮さを感じなかった上に、2024年の社会情勢とあまり結びつかない描写が多くて、もっと今の私たちが感じている感覚を演劇作品に投影して欲しかったと感じた。
そしてこれは好みの話なのだと思うが、やはり性欲をコメディチックに描く「城山羊の会」ワールドが個人的にはあまり刺さらなかった。
大笑いしている観客も一定数いたので刺さる人には刺さる描写なのだと思うが、こんなに次々と人を好きになっちゃうものなのだろうかと、性欲の強さに納得がいかない感じがあって共感があまり出来なかったからかもしれない。
それとストーリー展開も割と読めてしまうものが多く、客席からは笑いが起きていた所も、事前に予想出来てしまったので感情があまり動かなかった。
あとは「城山羊の会」の演劇特有で、非常に日常の会話に近い台詞で展開されるのが素晴らしかった。
「あー」や「うん」などが頻出していて、だからこそ会話劇に登場する人物が本当にリアルにいそうだという実感があり、展開されるシチュエーションにもかなりリアリティを感じられると思った。
古舘寛治さんが演じる男1のような初老は日本中に沢山いるだろうと思いながら観ていた。
出演者は非常に豪華で、この座組で「城山羊の会」はどうやって描かれるのだろうと非常に楽しみにしていた。
男2(添島)役を演じた中島歩さんの座組の中で唯一の若い男性としての存在感が非常にリアルで良かった。
また劇団「柿喰う客」にも所属している女2(アキ)役の福井夏さんも、「城山羊の会」の作品での演技は初めて拝見したのだが、好きな人に浮気されたくない、奪われたくないという強い感情がメラメラと滲み出していて凄く良いキャラ設定だった。
そして一番私が注目していた男3(増淵)役の岡部たかしさんもずるいくらいに良い役回りだった。
物語前半では普通のおじさんという印象があっておとなしい存在だなと思っていたのだが、物語終盤でキャラが炸裂していて、やっぱり岡部さんは普通のおじさん役はやらないのだなと改めて思った。
「城山羊の会」に対して私自身が期待していた方向にはいかなかったので、そういった意味で自分は物足りなく感じたのだが、前作の『萎れた花の弁明』が好きだった人には絶対刺さる作品だと思うし、エロやコメディが好きな方には刺さる作品なのではないかと思う。
【鑑賞動機】
「城山羊の会」は毎年その年の社会情勢を反映した演劇作品を上演するので、今年はどんな作品になるのだろうか楽しみだったので観劇することにした。また、出演者が岡部たかしさん、中島歩さん、福井夏さんなど個人的に豪華だったのも観劇の決め手。
【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)
ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。
2024年の秋の公園、ベンチに男1(古舘寛治)と女1(笠島智)が座っている。二人は先ほど性的行為をしたようでその話をしている。しかし男1は、あまり性的行為が乗り気でなかったようでどうも興奮はしてなさそうである。そのため女1は、男1があまり興奮しなかったことに対して不満を持っている様子であった。男1は、今は世界で戦争が起きていて、こんな淫らなことをやっている場合ではないんじゃないかと言うが、女1は世界で戦争が起きていることと私たちが性的行為をやって良いかどうかは関係ないでしょと言う。
そこへ、男2(中島歩)が公園に一人でやってくる。男2は、誰かと仕切にスマホで電話をしている様子だった。男1と女1は、公園に誰か別の人間がいるが構わずイチャイチャし始める。そして男1と女1はキスをし始める。男2がヒソヒソと電話している横で。
暗転して工事現場でチェーンソーを使っている時のような音がする。
明転すると、ベンチには先ほどの女1と男2がいた。男2は添島というらしく、女1と面識がある所か二人はかつて付き合っていたみたいである。添島は女1に対して、あんな年齢のいった男性と性的行為をするなんてよくやるなあと言って、添島と女1は二人でベンチに座る。添島は電話をしながら、二人の会話を聞いていたようであった。
女1はタバコが吸いたくなったと言う。添島は自分が持っていた一本のタバコを女1に渡す。女1はタバコをふかし始める。そして吸い終わったタバコを地面に落としてヒールのかかとで粉々に踏みつける。
そこへ女2(福井夏)がやってくる。女2はアキというらしく添島の彼女であり、この公園で待ち合わせをしていたようである。アキは女1を見るなり、添島に知り合いなのかと聞く。添島は知り合いではなく、先ほど初めて会った女性なんだ、タバコを吸いたいと女性が言っていたからタバコを渡したんだと嘘をつく。
アキは不思議に思う。まず添島がタバコを吸わない男だと思っていたのでタバコを持っていたことにも驚いたし、初対面の人にタバコを渡すだろうかと。そしてこの公園はタバコの吸い殻を捨てる灰皿がある訳ではないので吸おうと思うだろうかと、そして地面にはタバコの吸い殻が誰かに踏みつけられたかのように粉々になっていて、初対面の人からもらったタバコをこのようにするだろうかと。
アキは続けて質問する。女1がタバコを吸っている間、二人はどんな会話をしたのかと。添島は女1と初対面だったし何も会話をしていないと言う。アキはそれも驚く、流石にお互い無言でしばらくこの公園にいたのかと。しかもタバコを渡しているのに初対面だったとしてもそれ以外のことを何か話すものじゃないかと。
男3(岡部たかし)がやってくる。男3は増淵と言い女1の夫である。女1は夫の増淵と待ち合わせていたようで、これで失礼しますと言って二人は立ち去る。
公園には添島とアキの二人だけが残る。アキはあの人かなりヤバそうな人だったよねと添島に言う。添島は女1のことだと思ってうんそうねと言うと、そうではなくアキがヤバい人と感じたのは増淵の方だった。添島はあまりそうは思わなかった素振りだった。
どうやら今日は、アキが自分の母親に対して彼氏である添島を紹介する日であったようで、添島とアキは公園でアキの母親を待っていた。しかし母親が現れるまでにはまだ時間がありそうだからと、アキは添島に性行為をやろうと迫ってくる、誰もいないし。添島は、ここは公園で誰が来るか分からないし、性行為はちょっと...という感じであった。
しかしアキは、そんな添島が乗り気になっていない様子も構わず、大胆に上着を脱ぎ始めて添島の体を掴んで押し倒し性行為を迫っていく。
そこへアキの母親である女3(岩本えり)がやってくる。添島とアキは慌てて服を着て何もなかったかのようにする。アキは女3に早かったねと声をかける。添島は初めましてと女3に挨拶する。イケメンだねなどと女3は添島を褒める。
本当は今日は女3、添島、アキの三人での会食の予定だったのに、先ほど女3は夫にばったりで出くわしたので今から夫も来ることになりそうだと言う。女3は、まさか夫がこの近くにいると思わなかったので何してるのとか思っちゃったと言う。
女3は添島のことについて色々尋ねてくる。女3は添島に対して非常に好印象を抱いているようである。その時、アキはベンチの後ろにスマホが一台落ちているのを発見する。添島はそれは先ほどベンチにいた女1の忘れ物だと言う。女3は何も知らないので、添島は状況を説明する。添島が公園でアキを待ち合わせていると、初対面の女性がやってきてタバコを吸わせてほしいと言ったので渡したのだと。その吸い殻は地面に落ちている。
その光景を見て女3は、公園でタバコを吸ってその場に捨てて行って、おまけにスマホも忘れるなんてどんな女なんだと言う。そして女3は、自分もタバコを吸いたかったが、やっぱり吸う気が失せたと言う。自分はそんな女と同じようになりたくないから、自分もタバコを吸うとスマホを忘れるんじゃないかと思うから。
その時、アキが拾った女1のスマホから電話がかかってくる。アキは電話に出る。電話の相手は増淵だった。増淵は今妻のスマホに電話をかけているのだけど、先ほどの若い女性の方ですよね?と増淵が言ってくるので、アキは(たぶん)そうですと答える。そしてそのスマホは、やっぱり女1の物で公園に忘れてきてしまったと言う事実も確認が取れる。増淵はこの後公園に取りに行くので待っていてもらえますかと聞かれるので、アキは大丈夫ですと答える。
問題はそこからで、増淵は続けて今付き合っている男性(添島)いるじゃないですか、実はその男性私の妻の元カレなんですと言う。アキは「え?」と驚く。そして電話が切れる。
アキは増淵からのその言葉を聞いて、そこからずっと添島に対して信用できなくなってモヤモヤし始めてしまう。
アキの父である男1がやってくる。女3とアキは、添島に対して父ですと紹介するが、添島と男1はお互いに驚く。なぜなら添島はアキの父親が自分の元カノの不倫相手だと言うことに驚き、男1は先ほど公園のベンチで別の女性とキスをしたことを添島に見られてしまっているからである。しかしお互いに最初は驚くも、その後は初対面ということがバレないように接す。
アキの両親は添島に対して、どんな仕事をしているのかなど質問する。添島の上司はレバノン出身で、故郷を追われてしまっていると言う。そして男1によく似ている顔立ちだと。アキの両親は、それってカルロス・ゴーンじゃないかとザワザワする。
男1はこの後4人で遊歩道に行こうと言う。しかし、女1がこの公園でスマホを忘れたので、誰か残ってスマホを渡さないといけないと言う。その女1というのが、どうやら男1の不倫相手であることが会話から分かってきて男1はなんとしてでも遊歩道に行こうとする。しかし妻である女3からは、あなたはばったり出くわして今ここにいるだけで、本当は3人で会うはずだったのだから残りなさいと言われる。男1は、最近運動してなくてとか色々遊歩道に行くべき理由を見つけようとする。
その時添島は、自分が遊歩道行きたいと言ってしまうと男1をこの公園に置き去りにして女1と遭遇させてしまうので、ここは自分が残ると言った方が良いと思い、自分残りますと言う。みんなに驚かれる。あなたはむしろ主賓ではないのかと。
女3は、誰が残るか決まらないからここでみんなで待っていようと言い、添島と二人でコンビニでお酒などを買って来ようと公園を去ろうとする。その時、増淵一人だけが現れる。妻のスマホを受け取りに来たと。添島と女3はそのままコンビニへ行ってしまう。
増淵はアキから女1のスマホを受け取る。お騒がせしましたと。男1はあまり接したくなさそうで公園の隅で本を読んでいる。増淵はアキに提案する。今妻とレストランで食事をしていて、そのレストランに3席の空席があるみたいである。その空席に案内して食事が出来るのだがいかがかと。アキは今この場にいるのは4人だし、遊歩道に行こうとしていたしどうしようと考える。
添島と女3が手ぶらで戻ってくる。コンビニでお酒など買って来なかったのかと尋ねるが、もう増淵さん現れたしお酒を買う必要もないねということで手ぶらで戻ってきたと言う。アキは添島と女3に、増淵からレストランで空席が3席あるから食事にどうかと聞かれていると言う。その時になって初めて男1が会話に入ってきたので、増淵が男1がアキの父親だったとは知らずびっくりする。
男1は、自分は今日たまたまこの場に居合わせただけなので、レストランは遠慮しておくと言う。妻である女3は、そうよね本当は3人で食事するはずだったのだからねと嬉しそうに言う。添島も、おそらく男1と女1を会わせない方が良いと判断してそうした方が良いと言う。しかしアキは添島に対して、あなたはレストランに行きたいものね、と添島が女1とかつて恋仲だったことを実は知っているという素振りで添島に迫ってくる。
結局レストランへは、女3、添島、アキが行くことになり、増淵も一緒にレストランに戻ることになって公園を後にする。男1だけが公園に取り残される。
男1が公園のベンチで一人でいると、そこになんと女1が一人で現れる。お互いにびっくりする。どうして今ここにいるのかと。そして男1は嘘をつこうとしたが、横に女3が買ってきたお土産があるのを見られて何も隠せなくなり、自分が増淵がレストランに誘った家族の父親であることを述べる。しかし女1も夫と自分の家族と食事をしていたのではないのかと質問する。
女1は事情を説明する。実は今の夫である増淵とは離婚したいと思っていると。そして今日のレストランでその旨を伝えようと思ったが、色々はぐらかされて話を持ち出すことが出来なかったと、そして挙げ句の果てには増淵は3席空席があるから他の人誘おうと言うし。それはおそらく、増渕自身が離婚の話をされるのを避けてそうしているのではないかと言う。だから増渕がレストランから去った隙を見計らって逃げてきたのだと言う。
公園も夜になっていて、女1は男1に対して性行為を求めてくる。夜だし公園に誰も来ないだろうからやてしまおうと。そして二人は公園の草木が生い茂る方に行って、男1はズボンを脱ぐ。女1がそれを舐める。男1が声を出す。
するとその時、増渕、女3、添島、アキの4人が食事を終えて公園にやってくる。そして男1を発見してしまう。アキは何やっているの?と男1の方に向かってしまうとその光景を見てしまい叫び声を上げる。
暗転する。
一同は非常に険悪なムードで公園にいる。アキは現実逃避してスマホでゲームをしている。増渕が女1を怒鳴りつけている、これはどういうことなのかと。増淵はただじゃ済まないと言って、自分の母親に言いつけてやると言っている。そういう所が嫌なのだと女1は増淵に言う。
増淵は男1に襲いかかる、何してくれているんだと。そんな増淵の凶暴さを周囲の人間は制して増淵の頭に紙袋を被せてぐるぐる巻きに縛り上げる。そんなことをしている間に、女3は添島と良い感じのムードになって二人でベンチで座っている。その光景を目撃したアキは上着を脱いで添島を睨みつけながら自分の胸をアピールする。ここで上演は終了する。
改めて脚本を書き出してみたら面白い脚本だなと思ったが、私個人的には自分の期待する方向に向かわず、戦争の話とか冒頭で少し出てきたくらい(終盤でも男1が少し言及していたかも)で、あんまり絡んでこなくて、別に2024年だからこそ描かれた作品という感じがしなかった。それに加えて、性行為をコメディチックに描く癖が満載でそれに乗れなかったので、今回に限ってはnot for meだったなというのが個人的な感想だった。
あとは、男1がアキの父親なのだろうというのが事前に読めてしまったので、というか観客が予想しやすいような伏線を張ってきたのだと思うが、そうであるが故に男1が再度父親として現れた時は予想通りすぎてあまり笑えなかった。ちょっと冷めてしまった。
ただ、伏線の張り方は非常に巧妙で、それぞれ登場人物が何を知っていて何を知らないか、誰に好意を寄せているのかがバラバラだからこそズレる会話劇の構成が素晴らしかった。山内さんの描く会話劇はいつもロジカルで、だからこそ面白いよなと思わせてくれる。
この脚本の巧妙さを維持しつつ、もう少し2024年の戦争の兆しのあるご時世に響くような日常会話劇だったらもっと私は面白く感じられたんじゃないかと思った。
【世界観・演出】(※ネタバレあり)
過去作の『温暖化の秋 -hot autumn-』を想起させる秋の公園が舞台になっていて季節にぴったしの舞台美術だった。
舞台装置、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていく。
まずは舞台装置から。
下北沢小劇場B1(以下B1)という2面舞台の劇場で、どちらの客席に座るかによっても見え方が全然違って来そうな舞台装置だった。B1は、入り口から入ると左手奥側の客席ブロックと、右手手前側の客席ブロックがあるが、右手手前側客席から見て奥側のステージにベンチが3つほど置かれていて、その手前側にもベンチがあるといった作りだった。そして奥側の3つのベンチの後ろ側には草木が生い茂っており、終盤で男1と女1がその雑木林で性行為をするシーンが展開される。
最初に男1と女1が座っていたベンチも奥側のベンチで、その後女3と添島がやり取りすベンチなど基本的には奥側のベンチがメインで使用されていた印象だった。ラストに増淵が頭に紙袋を被せられて縛り上げられるのは手前側のベンチだった。
入り口側から見て、下手側の捌け口はレストランなどがある方向で、増淵、女3、添島、アキがレストランに向かう時に歩いて行ったりやってくる捌け口として使われた。上手側の捌け口は、それ以外の登場シーンで主に使われ、添島がやってくるのも、アキや増淵が最初やってくるのも、男1が父親としてやってくる時も、コンビニに行く時も全て上手側の捌け口が使われていた。
観客も左手奥側のブロックに座って観るか、右手手前側のブロックに座って観るかでだいぶ光景が変わる構造になっている。私は左手奥側のブロックで観劇していたのだが、序盤の男1と女1のキスが添島の影になってしまって観えなかったりした。この二面舞台の構造も『温暖化の秋 -hot autumn-』と似ている感じがあった。
次に舞台照明について。
秋の公園の1日を描く会話劇なので、日中から夕方になって夜になっていく徐々に変化していく照明が好きだった。その照明が秋らしくてちょっと寂しげにも思えた。
特に終盤で夜に男1と女1が雑木林で性行為している光景に月の光が当たっているのは、どことなく夜の怪しい雰囲気があって良かった。
あとは暗転するタイミングがユニークに感じた。何かやばい光景に出くわした時に暗転する作りになっていたような。例えば、序盤では女1と男2(添島)がバッタリ会ってしまった時に暗転し、終盤では男1と女1が雑木林で性好意をしているタイミングを増淵たちに見られてしまって暗転したり。
次に舞台音響について。
音楽は流れなかったのだが、効果音や音声が舞台音響として流れていた。
例えば効果音でいくと、暗転しているタイミングで工事現場でチェーンソーが鳴り響いているような効果音が流れていた。工事現場の音にどういった意味があったのかは分からなかった。
また、岡部たかしさん演じる増淵の電話越しの声が音声として流れるのもちょっと不気味な感じがあって好きだった。そこから、アキに実は今の彼氏、自分の妻と付き合っていたんだぜとか言ってくる声が余計にヤバかった。
次にその他の演出について。
これは「城山羊の会」の作風の一つでもあると思うが、全ての会話が非常に日常の会話に出て来そうな良い意味で洗練されていない感じの台詞なのが、よりリアリティを感じられて良かった。特に男1を演じた古舘寛治さんの台詞は本当にその辺にこんな感じのおじさんいそうだなと思わせるくらいリアルで良かった。「あー」とか「うーん」とかそういう台詞が割と劇中にナチュラルに描かれていて、こうやって自分の言いたいことが上手くまとまっていなくてよくわからないけれど、そういう人ってよくいるよねというキャラクター像がしっかり描かれていて良かった。
途中で戦争に関する言及があったのと、カルロス・ゴーンの件はどうして会話に登場したのか謎のまま最後まで回収されなかった。確かに戦争の話をしているので、この作品の舞台が2024年なんだなというのは分かるものの、それがこの作品全体に対してどういう風に影響を及ぼすのか分からなかった。男1の主張としては、世界が大変なことになっているのに自分たちは呑気だなと言いたいのだろうが、それが直接的に本編とあまり深く結びついてこなくて、なんで入れたのだろうと思った。カルロス・ゴーンの件に関してはもっと謎だった。カルロス・ゴーンの事件自体も数年前で今年の話でないし、それを持ち出してきた意図は分からなかった。もしかしたら意図も何もないのかもしれないが。だとしても引っかかる描写なのでもう少し回収して欲しかった。
【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)
非常に豪華なキャスティングで、この座組で「城山羊の会」ってどんな作品になるのだろうと楽しみだったので観られて良かった。そして皆どの出演者の方も素晴らしかった。
特に印象に残った俳優についてみていく。
まずは、男1役を演じた古舘寛治さん。私は古舘さんの演技を拝見するのも初めてだし、今作を観劇するまで存じ上げなかったのだが、小劇場演劇出身の俳優で幅広く映像作品にも出演されていて有名だった。
古館さん演じる男1は、いかにも日常でよく見かけるおじさんといった感じで、妻の尻に敷かれていてずっとタジタジとしている感じにリアリティがあった。自分が不倫をしていることを家族に隠していて、それでどうしてここにいるのかと家族にも疑問に思われていて、色々と家族間で自分の居場所を失ってしまっているヒリヒリした感じがずっと漂っていて好きだった。
世界では戦争とか色々起きていて、自分はただただ日常を呑気で生きていて、そして不倫もしているというなんとも居心地の悪い感じが古館さん演じる男1からずっと漂っていた。だからこそ色々と気分的にも落ち込んでいて性欲も萎れてしまっている、そんな感じがあった。
アキを不必要に叱るシーンが好きだった。そしてアキには説得力もなくて何も響いていない感じに、おじさんの虚しさを感じた。
あとは、女1と雑木林でフェラをしてもらっているシーンで、叫び声を上げているのが忘れられない。
次に、女1役を演じた笠島智さん。笠島さんは、『温暖化の秋 -hot autumn-』(2022年11月)と『SHELL』(2023年11月)で演技を拝見したことがある。
色々な男性と性行為しようとする性欲の強い女性というのが印象的だった。タバコを吸って地面にそのまま吸い殻をヒールの踵で踏みつけたり、離婚を持ち出そうとしたレストランでも夫との会食で途中で店を出て行ってしまったりと、なかなかに図太い女性の役がハマっていて素晴らしかった。男1のフェラをした後に、さりげなく口についていたものを払ったりと細かい仕草まで良かった。
そして、夫である増渕にもう耐えられないといった感情を爆発させる感じのラストも良かった。夫があんなにマザコンだったらそれは妻も嫌になってしまうよなと思う。
そして今作で一番好きだったのが、やはり増淵役を演じた岡部たかしさん。岡部さんの演技は、『萎れた花の弁明』(2023年12月)、『温暖化の秋 -hot autumn-』(2022年11月)と「城山羊の会」でいつも演技を拝見している。
朝の連続テレビ小説『虎に翼』に出演したりなど、岡部さんはこの1年大きく俳優として活動の幅を広げている印象である。岡部さんはいつもヤバいおじさんの役をやるイメージがあって、例えば『萎れた花の弁明』でも息子と同年代くらいの女性と付き合って甘えてしまうくらいのヤバいおじさんをやっていた。
そして今作では、割と前半はまともなおじさんの役をやっていたのでこれは意外と思っていた。前半はそこまで登場シーンは多くなかったというのもあるのだが、妻を公園まで迎えに来たり、妻が忘れたスマホを公園まで取りに来たりとまともだった。だからこそ、アキが序盤で増淵をやばそうな奴と言っているのにピンと来なかった。
しかし増淵の強キャラっぷりが露呈するのは今作のラスト。非常にマザコンで妻が離婚したいと思ってしまうくらいのヤバさっぷりで、本人自身もそれに気がついてなかった。そして妻に大声で怒鳴りつけたり、男1と取っ組み合いしそうになるDV的な感じが露呈してヤバかった。それはグルグル巻きに縛り上げられるよなと思う。
最後にそんなヤバさっぷりが観られて個人的には満足だった。そしてそういう快演をしてしまう岡部さんはさすがだなと思った。
そして、アキ役を演じた福井夏さんも素晴らしかった。福井さんは劇団「柿喰う客」所属の俳優で、今まで「柿喰う客」の作品である『禁猟区』(2022年12月)、『夜盲症』(2020年11月)や、今はなき「しあわせ学級崩壊」の『終息点』(2021年7月)で演技を拝見したことがある。
福井さんは、今年(2024年)の大河ドラマ『光る君へ』にも出演されていて活躍のフィールドもどんどん広がっていて嬉しい限りだが、福井さんは以前から「城山羊の会」にも出演経験があって一度この団体で演技を観てみたいと思っていたから観られて良かった。
彼氏である添島のことが非常に好きで、好きであるが故に他の女性のことが好きなのではと信用を無くしていくと同時に怒りが込み上がってくる感じの感情の起伏が露骨に演技に表現されていて良かった。上着を脱いで体で添島に迫ってくる感じとか、ラストのシーンで添島と母が良い感じになっているのを見て、睨みつけながら上着を脱ぐシーンとか良かった。
【舞台の考察】(※ネタバレあり)
ここでは「城山羊の会」の作風と過去作に触れながら今作についてつらつらと私見を述べる。
冒頭で記載した通り、会話劇としての構成は絶妙に素晴らしくて、非常にロジカルで伏線の回収の仕方とか巧みで面白いなと感じた。しかし私は、2024年に今作を上演するからこそ意味があるものに仕上がっていると期待を込めていたので、そこに関してはやや期待とは外れていた。
タイトルからして『平和によるうしろめたさの為の』なので、世界で起こる戦争の兆しに触れながら、それらに対して直視しようとしない私たちの日常をコミカルに描いてくるのだなと思ったのだが、冒頭で男1が少し戦争について触れたくらいで、それ以外はほぼ戦争との絡みがなかった。個人的には、もっと2024年の社会の雰囲気を取り込んだ物語にして欲しかったと感じた。
『温暖化の秋 -hot autumn-』や『萎れた花の弁明』はそれに比べて、その当時に上演したからこその良さを活かした作品になっていたと思う。
『温暖化の秋 -hot autumn-』が上演された2022年は、まだコロナ禍からようやく元の世界に戻り始めた段階で、みんなマスクをしていてずっと人と会う機会がなかったからこそ、大声を出したり馬鹿騒ぎできないような自分の欲求を押し込めたようなご時世だったので、そういった空気感が会話劇に上手く反映されていて素晴らしかった。
コロナ禍真っ只中のタイミングでは、咳をするだけで人に睨まれたり、大声で馬鹿騒ぎするだけでも世間から阻まれた。マスクをしていないと非国民みたいな扱いをされるご時世で、なかなか自分がやりたいように出来ない時代だった。そんな期間が長かったからこそ、人と対面で話をするということが久しぶり過ぎて声が小さくなってしまう、色々遠慮がちになるみたいな描写が会話劇に上手く落とし込められていて、それが非常に素晴らしい作品だったとも思うし、2022年だからこそその良さがあったように感じた。
『萎れた花の弁明』は2023年に上演された作品だが、ではそういうコロナ禍でずっとやりたいことが出来ずに自粛させられていた期間があって、ようやく日常が元に戻り始めて、そのストレスや鬱憤を晴らしましょうという作品に見えてそれが素晴らしかった。だからこそ性欲の話になるのも頷けた。性欲描写にそこまで興味関心のない観客でも、コロナ禍で溜め込んだストレスを発散しようとする描写には共感出来るので、そういった意味で普遍性は持っているように感じた。
そういった過去作品の流れがあったからこそ、今作は余計にそれを見出せなくてちょっと期待外れだった所があった。
おそらく今作で描きたいであろうことは、世間にバレてはいけないコソコソやっていることをいかに世間にバレずにやるか、そしてそれがいつバレるか分からないからこそ、ずっと縮こまっているような感じの人々を描きたいのだろうなと思う。
昨今は非常にコンプラが厳しい世の中になっている。これがバレたらおしまい、昔なら全然OKだったけれども今ならアウトみたいなことは沢山あって、それをいけないと分かっていながらバレずにやるしかない居心地の悪さを会話劇に落とし込んでいるのかなと思う。だからこそ今作の会話劇のテーマが不倫なのだと思う。
男1が、必死に不倫がバレないように色々と誤魔化そうとしてよく分からない感じになっていたり、添島も世間にバレたくないことを必死で隠そうとして色々ボロを出してしまう感じがあったり、そういう構造に面白さを見出して会話劇にしている感じがあった。
ただ、それと戦争はやはり繋がらないのでそこは消化不良に感じてしまったので、2024年だからこその意味合いはやはり弱かったのかなと思う。
どうやらまた2025年の11月に「城山羊の会」の新作公演があるようなので、そちらもぜひチェックして次回はどんなテーマでどう作品に落とし込むのか楽しみにしたい。
↓城山羊の会過去作品
↓中島歩さん過去出演作品
↓福井夏さん過去出演作品
↓岩本えりさん過去出演作品
↓笠島智さん過去出演作品