舞台 「ドクター・ブルー 〜いのちの距離〜」 観劇レビュー 2021/01/30
公演タイトル:「ドクター・ブルー 〜いのちの距離〜」
劇場:神奈川芸術劇場 <ホール>
作・演出:モトイキ シゲキ
医療監修:北村義浩(KYK 医学研究所・医学博士)
出演:内博貴、松下優也、室龍太(関西ジャニーズJr.)、吉倉あおい、黒田こらん、喜多乃愛、杉浦琴乃、麻実れい、ヒデ(ペナルティ)、富岡弘、大谷朗、石井智也、天宮良、高島礼子他
公演期間:1/23〜2/7(東京)、2/13〜2/14(愛知)、2/26〜2/28(大阪)
個人評価:★★★☆☆☆☆☆☆☆
新型コロナウイルスが流行した地方の病院の実話をベースにして作られた、感染症と戦う感染医と看護師の医療ヒューマンドラマ。まだまだコロナ禍が落ち着いておらず、医療崩壊によるトリアージも起きている最中にどのようにして上演されるのか興味を抱きながら観劇。
たしかにこれは感染症と戦う医療従事者へ向けたエールとして捧げられる献身的な作品だが、実際の医療現場に即していない場面設定があることはさておいて、演出が個人的にはかなりいまひとつだった。
音楽が多くのシーンを語り過ぎていて、ちょっと個人的にはキャストの演技を阻害している気がした点と、医療現場における逼迫感がキャストからはあまり感じられず茶番と化していた印象。また、突然お笑い要素的なシチュエーションもあったりと拍子抜けするシーンがあって正直物語に入り込めずにいた。
この感染症に本気で向き合って作品作りをしていくのなら、生半可な演出は避けて緊迫感ががっつり伝わるような悲劇にしてほしかった。
ただ、主人公の内博貴さん、松下優也さん、富岡弘さん、ペナルティのヒデさん、喜多乃愛さんなど非常に演技力の高いキャストも沢山出演していたので、演技に心を打たれる箇所はあって良かった。
個人的には、もっと身が引き締まるような医療ヒューマンドラマを観たい。
【鑑賞動機】
以前から気になっていたキャストが出演しているからというのがきっかけで、テーマソングとして私の好きなアーティストである松任谷由実さんの新曲「ノートルダム」が選曲されていたことも大きい。
ただこの舞台が開幕してみると、Twitterでは賛否両論あって炎上しているものもあったので、いかがなものかと期待値はやや下げて観劇した。
【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)
ナンシー濱本(麻実れい)という声楽家が、曙市という地方の大病院で入院していた。彼女は夢を見ていた。知らない街へやってきて声をかけてもみんな知らん顔をする。
目が覚めると、そこは病室。彼女は本来なら即刻退院してフランスへ行ってコンサートへ出場するはずだったが、もしコンサート中にいきなり倒れてしまっては大変だと、手術して様子を見てから退院した方が良いとの主治医である水木一真先生(松下優也)の進言で、ナンシーは退院せず手術を受けることになった。
この病院は非常にアットホームな病院で、看護師たちも先生たちも非常にみんな人が良かった。しかし大病院なので、多くの重篤な病人や交通事故に遭って重症な患者が運び込まれて来る事態は沢山訪れる。そして、命を救うべく看護師たちは必死に治療や措置を行っている。どんなに必死に看護士たちが頑張ったとしても救うことの出来なかった命もあった。
そんな時に病院の屋上で、「バカヤロウ」と叫んで鬱憤を晴らしてお互いに助け合って過ごしてきた。
ある日この大病院で不可解なニュースが飛び込んでくる。病院で亡くなった患者から中国由来の新型ウイルスが検出されたというニュースである。曙市の市長である黒咲優(天宮良)は、この街にも新型ウイルスが蔓延している可能性があるから十分警戒するように告げられる。
そこへ大病院に、感染医の専門家の北里正秀(内博貴)がやってくる。彼は、今世界で流行している中国由来の新型ウイルスについて研究している医師で、この街でも感染が確認されたとのことでその実態を調べにやってきたのだと言う。
北里は、この大病院の院長(高島礼子)から他の医師や看護師たちに向けて、この新型ウイルスは非常に恐ろしいもので致死率もよく分かっていない未知のウイルスであるということ、そして今後そういった患者が増える可能性があるので、その患者を受け入れて治療できる環境を提供することを求める。
多くの看護師たちや医師たちは、未知のウイルスと戦うために陽性患者の受け入れに賛成したが、ナンシーの主治医の水木だけは反対した。水木の後輩医師である原賢一郎(室龍太・関西ジャニーズJr.)は、水木に対して未知のウイルスと戦うためにお互い頑張ろうと声をかけたが、「日本は100年前にスペイン風邪が流行して38万人の死者を出しても教訓を活かせていない。医師は未知の感染症に対しては無力、メスとは訳が違う」と頑なに参加を拒否した。
しかし、水木主治医は参画しないまま新型ウイルス受け入れ体制の準備が、北里主導のもと進められていた。看護師たちは慣れない防護服を装着する訓練を、北里と医療ケースワーカー医局長の立花雄輔(ペナルティ・ヒデ)の指導のもと受けていた。
そこへ、看護師長の櫻井慶子(黒田こらん)が倒れてしまったという情報が入る。夜勤が続いて疲れているだけだと本人は言っているだけだが、新型ウイルスに感染した可能性もある。そしてすぐにPCR検査を受けた結果、彼女は陽性であることが分かった。彼女はすぐさま隔離施設で治療を受けることになった。
深夜の病院、1人の女子高校生が忍び込んでいた。そして部屋を間違えてナンシーの病室へ。ナンシーは彼女に声をかけると、どうやらその女子高生は母が新型ウイルスにかかって入院しているのでお見舞いに来たらしい。
朝、その女子高生は櫻井良美(喜多乃愛)といって櫻井看護師長の娘であることが分かる。北里は新型ウイルスに感染した母と面会させることは出来ないが、母の携帯電話を預かって通話は出来るように手配をしてくれた。良美は母に電話をかけると、泣きながら「頑張って」と必死に声をかけるのだった。良美は父親も亡くしているので家族が母1人だった。そんな母にはもっと会いたいし元気でいてほしかった。
ナンシーは医療従事者たちにエールを送る歌を歌った動画を作成していた。
ここで、幕間に入る。
櫻井看護師長はまもなく息を引き取る。顔に白い布を被せた状態で遺体安置所に運び込まれる。家族にも面会させることが出来ない最期となってしまったことに、看護師たちも涙し、葬儀屋の田辺守(石井智也)も普段は見せない涙を流す。
ECMOが病院内に1台だけ導入される。ECMOは人工肺とも言われ、一時的に患者の肺の機能を補ってくれる。しかし如何せん高価な機材なので1台手に入っただけでも幸運だったという状態である。
そこへ、ECMOが必要な新型ウイルスの患者が二人現れる。1人は75歳のお婆さん、もう1人は73歳のお爺さんである。ECMOは1台しかないので、どちらかにしか与えることは出来ず、そこの判断は医師は出来ないので、患者の親族同士で相談して決めて欲しいということになる。お互いにECMOの使用を譲り合う親族だったが、結果的にじゃんけんをすることになり73歳のお爺さんの親族はじゃんけんに負けてしまう。
原は、大阪にいる母が危篤であるということを知る。しかし、自分は病院に残って感染症と戦わなければならないという使命があり、帰りたいにも変える決意は出来なかった。そこへ全てを知った水木がやってくる。水木は相変わらず未知の感染症と戦うことは無力だと唱え続けていたが、原に大阪に帰るように促し、自分が原の代わりを務めると約束する。原は水木に頭を下げて母の元へ向かう。
そこへ、今度は手術を控えるナンシーが新型ウイルスの陽性になったという知らせが入る。手術という選択を選ばず、すぐに退院させてあげればこのようなことにはならなかったかもしれない。ナンシーが隔離病棟に移る時、最後にお茶を飲みたいと言う。いつもナンシーのもとに遊びに来ていた病院施設長のロペス田島(富岡弘)は、彼女にお茶を飲ませてあげて満足させて、それから隔離病棟に移ることになる。
しかし、ナンシーはまもなく息を引き取る。彼女の葬式はひっそりと行われ、彼女の生前の姿の写真が数多く映し出される。
一方、母を亡くした高校生の良美は、母の骨壷を持ち歩きながら街中を散歩している。家までは遠いので車で行きましょうと声をかけるも彼女は無視する。彼女は、骨壷を抱えて街中を歩くことによって、新型ウイルスの恐怖と悲惨さを訴える。たとえSNSにアップされて誹謗中傷されても、この辛さ、苦しみを多くの人に訴えて伝わってほしいと必死だった。
そして今度は、院長が倒れたという情報が入る。院長は櫻井看護師長と同じように勤務中に突然倒れた。これは不吉だと感じた看護師たちは院長がPCR検査で陽性だと分かると直ちに隔離施設で治療に取り掛かった。看護師たちは院長を新型ウイルスで死なせてはならないと必死だった。
院長の心臓の音が怪しくなる。そこへ亡くなったナンシーの歌声が響く。そして院長はなんとか峠を超えて落ち着き始める。
病院の屋上で、北里と水木が会話している。北里は、自分がこの病院を感染者を受け入れる指定病院にしてしまったがために、このような悲劇を起こしてしまって申し訳ないという。そして、水木がずっとこの病院に留まり続ける理由がよく分かると語る。非常にアットホームで地元と密着したとても良い病院だと。北里自身もこの病院でずっと働き続けたいという。そして水木は病院を去るのだが、お互いに頑張ろうと励まし合って物語は終了。
看護師たちの善意から感染症患者を受け入れてきたが、思わぬ形で感染は拡大して大事な人を失ってしまう。そしてその大事な人を失ってしまうがために、自分たちの責務を全うできなかったと多くの看護師たちが非常に苦しい思いをする。そういった、医療従事者の苦悩は痛い程よく分かる作品だった。
ただ、今は新型コロナウイルスのニュースが毎日のように流れているので、そのくらいの知識は一般の観客にだって分かるので、より深く入り込んだ医療従事者の苦悩を描いているともっと良かったと思う次第。ちょっと想像が出来てしまうストーリー展開に、目新しさはなくて期待値よりは心動かされなかった。
あとは意外と新型ウイルスに感染してから死亡するまでが早くて、あまり治療に追われている病院内の光景とかがシーンとして導入されていなかったから、なんか人の死を軽く描写しすぎている気もして、その点に関しても違和感があった。
【世界観・演出】(※ネタバレあり)
今作の演出は全般的に個人的にはしっくりいかないものが多くて、ちょっとがっかりだった。具体的にどこがしっくりいかなかったのか、舞台美術と演出部分に分けて見ていく。
まずは舞台装置だが、これはまあクオリティ自体は高かったのだが舞台が広々とし過ぎているせいか、あまり緊迫感というのが伝わって来なかった。舞台装置としては、パネルが数枚舞台上を下手→上手、上手←下手に動かせる仕組みになっていて(野田秀樹さん潤色でプルカレーテ演出の「真夏の夜の夢」を思い出した)、その後方には灰色の階段付きのステージのような台が設置されていた。そのステージにナンシーが病棟で横になったり、病院の屋上のシーンとしても使われたりする。
この灰色の冷たい感じの舞台装置は、舞台の雰囲気を表していておかしくはないのだが、舞台上が広々としているという点では、今回の演出では医療現場の逼迫感は空間に吸収されてしまっている感じがしてちょっと迫力不足だった。
衣装に関しては、白衣は物凄く医師たちを映える感じにしてカッコよくて良かったと思うし、防護服に関しても私自身は本物は見たことないが違和感はなかったと思う。
映像に関しては、序盤のナンシーの夢を表すシーンの映像は、映像自体は特にクオリティとして申し分なかったと思うが、演出的な箇所として如何なものかと思ったので後述する。
ナンシーが自分で撮影して作った歌動画は非常に心動かされるもので良かったし、彼女が亡くなったシーンで流れた生前の映像に関しても、凄く葬式っぽさが伝わる雰囲気を作り出していて良かったと思う。
照明は基本的には青い照明を多用していて、医療従事者を象徴している点で申し分なかったし好きだった。
また、幕間直前のナンシーの歌の動画が流れる時の青いライトが客席まで照らされた演出は個人的には好きだった。あそこの演出、舞台美術が全体を通して個人的にはピークだった。
音響はテーマソング以外は微妙であるといった所。ベタな選曲であるのは必ずしも悪くはないのだが、この作品に限った話で言えばちょっとこれはベタ過ぎてマイナスだった。まず音楽がストーリーを語りすぎていて、悲しいシーンでは悲しい曲、コメディなシーンでは軽快な曲みたいなのが分かりやすくて個人的には好きではなかった。それによってキャストの演技も阻害されている箇所があって、キャストの演技をもっと観たいと思ってしまった所感。特に、ECMOをどちらが使うかのじゃんけんのシーンの音楽はマッチしてすらいなかった。
演出部分でいうと、個人的に好きだったのは幕間直前のナンシーの歌の動画シーンとブルーの照明くらいで、他は心動かされなかった。
まず序盤のナンシーの夢のシーンは、序盤にしては迫力不足なシーンだったし、コロナウイルスが具象的に映像で流れてしまうだけで陳腐な演出に見えてしまった。それから、布を被った複数人の見知らぬ人物の設定の人たちが登場するが、動きにあまりキレや変化がなくて違和感を感じた。何してるの?という感じに端から見ると思えてしまう。
あとは、重症患者が舞台中央に運び込まれてくるシーン自体が迫力がなかった。もっと看護師たちは必死だと思うし、舞台空間が広いせいか緊迫感が打ち消されてしまった印象。
ECMOのシーンはちょっとこれはあまり言いたくないが酷いと思ってしまった。ECMOをどちらの患者に使用させるかというある意味トリアージ的な緊迫感ある状況であるにも関わらず、コメディっぽく演出した意味が正直分からなかった。そういうウケを狙う作品ではないと思うし、そんな演出はいらないと思う。興ざめしてしまった。
櫻井看護師長の娘が、骨壷を抱えながら街中を歩きながら誹謗中傷の問題を提起するシーンも、本筋から逸れている気がしてよく分からなかった。この作品は医療現場の緊迫感とか感染症の恐怖を描いた作品だったはずなのに、全く関係ないSNSの誹謗中傷の問題をここだけ取り上げているのが正直蛇足だと思ってしまった。勿論、SNSの誹謗中傷も新型コロナウイルスに関する問題で扱いたいならもっと全般的に丁寧に扱うべきだと思う。付け足したように作品に盛り込むのは違和感あった。
最後の、松任谷由実さんの「ノートルダム」をみんなで歌うシーンがあるが、物凄く歌唱力が乏しくて最後の最後でがっくりときてしまう。これなら、BGMとして「ノートルダム」を流して歌わずに終わりで良いと思う。麻実れいさんは声が出ていないのに無理に歌わせるのは違和感だった。
という感じで、モヤモヤした演出が多くてちょっと勿体無い作品だと個人的には思っている。
【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)
脚本や演出は少々評価し難い作品だったが、キャストに関しては素晴らしい役者さんが多く、特に素晴らしかった人をピックアップして見ていく。
その前に、基本的にこの作品は感染症を扱った作品なので、役者がマスクを着用した状態で台詞を言うことが多いのだが、全然聞き取りづらいことはなくクリアに聞こえていた。マスク内の口元に各々マイクでも仕組ませているのだろうか。そうでないといくら俳優とはいえ、マスクをした状態ではあの大ホール中に響き渡る発声は出せないと思う。
まず今作品の主人公である、感染医の北里正秀を演じた内博貴さん。彼の明晰な頭脳を持ったようないかにも事態が深刻であるような口ぶりの演技はとても素晴らしいと思った。彼の演技はラストが印象的、水木先生は自分には協力してはくれなかったが、彼のずっと同じ病院で働き続ける理由にリスペクトし、病院への愛を尊重するシーンが凄くじんわり来た。決して冷徹ではなく、しっかりと温かみのある言葉をかけられる医師には心を惹かれるものだ。
次に外科医の水木一真を演じた松下優也さん。彼はとても女性から好かれそうなキャラクターを演じていて、この初志貫徹して感染症と戦うことに対して諦観している姿が、とても冷ややかだがなぜか魅力を感じてしまう。それは松下さんの演技力が高いからだろう。クールなキャラクターは北里と被るのだが、しっかり違った味を出し切れている感じがあって個人的には好きなキャラクターだった。
そして、水木の後輩医師である原賢一郎を演じた、関ジャニJr.の室龍太さん。彼は北里や水木とは全く異なるキャラクター、素直な後輩といった感じで先輩の意見に従順でとても真面目そうで明るい性格の彼も素晴らしい役だった。
一番印象に残っているのは、母が危篤状態で帰りたいにも帰れない状態の中、水木に声をかけられて母の元へ向かうシーン。先輩に対する礼儀正しさが非常に良くて、女性ファンから「可愛い」と声が上がりそうな演技だった。
個人的には、ケースワーカー医局長を演じたペナルティのヒデさんも素晴らしかった。主役級の医師たちまで存在感を出さずに、ナチュラルに医師の役を演じていた彼も良かった。時々笑いを取る内容を入れてきたのも程よかった。
それから、ロペス田島を演じた富岡弘さんも個人的には好きだった。やはりナンシーとのやり取りが印象的、凄く他愛もない会話が楽しそうでほっこりする。お茶の話とか特にそうである。
女優で見ていくと、まずナンシーを演じた麻実れいさんが良かった。あの経験値を沢山積んできたプライドの高いおばあさんといった感じが良い。声楽をこよなく愛して人に優しく接する様子を見ているとほっこりする。ロペスとのやり取りも。
ただ、最後のシーンで「ノートルダム」を歌唱する際にあまり声が出てなかったのが残念。
そして、今作で一番心動かされ感動したのが、櫻井看護師長の娘の女子高校生役を演じた喜多乃愛さん。彼女の演技は本当に今作品でピカイチ、凄く感動した。
まず、彼女は病院に忍び込んで間違えてナンシーの病室に入って一夜を過ごすのだが、あの時の不安気でか細い声が非常に好き。そして、母との電話でのやり取りは見ているだけで涙が出てしまうくらい演技に迫力があった。「お母さん、頑張ってね」それが凄く胸に突き刺さる。一番の盛り上がりシーンを自分に授けてくれた。
そして母が亡くなると、泣きわめいたりせずに感染症の恐怖を世間に伝えて歩く強い少女に成長している点も良かった。本当に、喜多乃愛さんの演技力は抜群、次も出演作品を観てみたい。
【舞台の考察】(※ネタバレあり)
新型コロナウイルスが猛威を奮い、まだまだ収束する見込みがないどころではなく、緊急事態宣言が発令されて医療危機も叫ばれている中、このような感染症をテーマとした今作が上演されるべきだったがどうかも含めて、一個人として思うことをつらつらと書いていく。
まず、そもそも緊急事態宣言が発令されている最中で、感染症と戦う感染医と看護師の医療ヒューマンドラマを上演したことについては、私は何も間違った選択ではないと思っている。勿論、これに関しても賛否両論あるのはそれは当然だと思う。そもそも本気で医療現場のことを考えているのだったら、この時期に舞台を上演することは控えるべきという考えもあるし、必ずしも舞台ではなく映像作品として今作品を収録して多くの人々に観てもらうことだって出来たと思う。
しかし、しっかり感染症対策をしていれば飛沫が観客に飛ぶことのない舞台だったら問題ないと思うし、生の舞台だからこそ伝わる緊張感や逼迫感というものもしっかりあると思っていて、それによって医療現場の現状や感染症への恐怖が正しく伝わるというのはあると思う。
しかしである。もし、仮に医療現場で必死に戦っている医療従事者へのエールとして唱われる作品として描くのであれば、その責任はしっかり全うしてほしいかなと個人的には感じた。医療現場における緊迫感を適切に描く、トリアージというものがいかに残酷な選択であるのかを正しく描くことが問われていると思う。だが、この作品は少々そこに対する意識が甘かったように思える。
特にECMOのシーンでは、トリアージが凄く滑稽な状況のように描かれている箇所は、個人的には医療従事者へのリスペクトとしては感じられなかったし、ストーリー全体としても蛇足感があったと思っている。もちろん、ECMOという高価な機材があってみんながみんな使える訳ではないんだというメッセージを伝えたかったのだと思う。であるとするなら、もう少し医療従事者に配慮した演出があったのではないかと思う。
このタイミングでこういったタイムリーな題材を扱うには、相当の覚悟が必要だと思うし相当の配慮も必要である。万が一観客の中で感染者が出てしまってクラスターなんて発生してしまったら一溜まりもない。それでも上演する必然性、上演しなければいけない使命感というものが必要で、そこを無下にしてしまったら普通の舞台作品以上に問題となってしまう作品だと思っている。
そこに対する意識がもう少しあっても良かったのかなというのが個人的な印象だった。医療現場の緊迫感、悲惨さをもっと正しく説得力のある形で今上演してほしかった。
【写真引用元】
フライヤー:舞台「ドクター・ブルー」公式HP
https://doctor-blue.jp/
劇中写真:ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/413600/1523968