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舞台 「独鬼」 観劇レビュー 2021/10/24

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公演タイトル:「独鬼(ひとりおに)」
劇場:萬劇場
劇団:劇団壱劇屋
脚本・演出:竹村晋太朗
出演:竹村晋太朗、岡村圭輔、柏木明日香、小林嵩平、西分綾香、丹羽愛美、長谷川桂太、日置翼、藤島望、椎名亜音、真丸、吉田紗也美、岩田レイ、浦谷賢充、黒田ひとみ、熊野ふみ、高橋空、羽多野瑛一、石原正一、美津乃あわ
公演期間:10/20〜10/24(東京)
上演時間:約90分
作品キーワード:殺陣、ワードレス、切ない、ラブストーリー
個人満足度:★★★★★★★☆☆☆


関西で結成された演劇エンタメ集団である劇団壱劇屋の舞台作品を初観劇。本来であれば2021年8月に上演されるはずだった「二ツ巴」で初観劇となるはずだったのだが延期となってしまったので、今作で満を持して観劇。

今作は殺陣作品なのだが、ワードレスといって一切劇中台詞を発されることがなく物語が展開していくという異質な作品となっている。
ただ「わー」とか「ぎゃー」とか悲鳴のような声は発せられるので無言劇ではなく、あくまで台詞だけが存在しない舞台作品だった。
沈黙する時間も存在するが、基本的にはBGMがかかった状態で進行していく。

物語は不老不死の鬼と人間の女性の話。
不老不死の鬼(竹村晋太朗)は、その見た目と格好から人間たちから恐れられ、ずっと樹木の下に閉じ込められていた。
しかしその目の前で夫婦が惨殺されるのを目撃し、殺された夫婦の赤子を鬼が親代わりとして育てることになる。
赤子は若き娘へと成長し、とある男性に恋をするがそこには悪党たちの手が迫ってくるというもの。

ストーリー構成は非常に単純明快で、ワードレスでも十分に内容を理解することが出来る内容だった。
そして私は鬼というのもあってか野田秀樹さんの戯曲「赤鬼」を思い出し、そちらとも通ずるテーマだと感じた。
鬼は人間とは違うからこそ心優しくても嫌われ抹殺されそうになる。
しかし鬼の優しさを知っている育てられた女性は必死で鬼を庇う。
人間とは恐ろしい生き物だと改めて感じたのと、鬼と人間の一生理解し合えないもどかしさに最後は非常に切なくなった。

殺陣のアクロバティックな演出、BGM、照明は小劇場で刀剣乱舞のミュージカルのような2.5次元を観ている感覚にさせられ、とても見応えがあり素晴らしかった。
一方で個人的に気になったのが、なぜこの作品をワードレスで上演したのか、その理由が知りたいと思った。
各々のキャラクターから台詞があれば、もっと心動かされる作品になったんじゃないかと、物語としてはワードレスでも成立しているが、台詞がある方がより心に訴えかけてくる作品になったんじゃないかと感じた。

ただ今作品は万人ウケするであろう皆が楽しめるエンターテイメントなので、多くの人に配信であっても観て欲しいと思った。

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【鑑賞動機】

劇団壱劇屋は以前から気になっている劇団の一つで、2021年8月に「二ツ巴」を観劇するはずだったが延期となってしまったので、満を持して今回初観劇することにした。また、以前劇団KAKUTAに所属していた吉田紗也美さんを久々に拝見出来るのも決めての一つ。
Twitterでの前評判が非常に良いので期待値は高め。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

どの役がどのキャストかを明示した情報が見当たらなかったので、分かる範囲で役とキャスト名を記載し、分からないものは記載せずにストーリーの内容を追っていく。

日本がまだ武士の時代だった頃、死ぬことがなくずっと独りで生きてきた鬼(竹村晋太朗)がいた。人間たちと仲良くなろうと人間の集団の中で踊っていた鬼だったが、人間ではないことがバレてしまうと、鬼は人間たちの手によって樹木の下に閉じ込められてしまう。鬼は暫く樹木の下でおとなしくしていた。
その樹木の元に、とある女性(西分綾香)が季節が変わる度に何か願い事をしにやってきた。その女性はやがて一人の男性に恋をし、二人で樹木の元にやってきてお願い事をしていた。そして二人の元には赤子が授かった様子で、赤子を抱えて樹木の元を訪れた。
しかし、そこに大きな日本刀を持った侍がやってくる。その侍は、村人たちを切りつけ惨殺し、その夫婦の元にやってくる。男性は応戦するが夫婦共々斬殺されてしまう。
その光景を目の当たりにした鬼は、両親を亡くした赤子を救い上げて鬼が面倒を見て育てていくことになる。

赤子は少女(吉田紗也美)へと成長した。樹木の元へ人参を泥棒した少年(柏木明日香)がやってくる。後から村人たちが泥棒をした少年を追いかけてやってくる。鬼は泥棒した少年から人参を村人へ返すように仕向けて、人参は村人の元に返される。しかし、その時丁度少年は少女とぶつかったことをきっかけに恋をし、二人は仲良くなる。
しかしその頃、周囲の村人を無惨にも斬殺する鬼婆(藤島望)が登場し暴れていた。鬼婆の矛先は少女と少年にも向けられる。鬼婆が襲ってくるのに対し、鬼が必死で少年少女たちを庇い応戦する。
少年、少女、そして村人たちは、鬼が鬼婆に思い切り刺されるも、みるみる刺された傷が回復して再び元通りになり鬼婆と一騎打ちを続ける光景を目の当たりにし、ずっと人間だと思いこんでいた彼を化け物だと初めて認知する。
鬼は鬼婆を始末する。しかし、鬼が人間ではなく不老不死の化け物であったことを知った少女は大泣きする。少年も複雑な心境で鬼を見つめる。

時間が経ち、少女は若き娘(西分綾香)へ少年も立派な青年(真丸)へと成長する。しかし娘を育て上げたのは人間ではなく鬼であったという事実は村中に流れたらしく、鬼を退治しようと攻撃してくる人間が現れる。
鬼はいきなり銃弾を顔に食らう。そしてまた一発くらう。遠くには、拳銃を抱えた男(小林嵩平)がこちらを目がけて発砲して来ていた。
鬼と拳銃を抱えた男の集団との戦いが始まる。彼らは互いに拳銃を素早くバトンパスしながら様々な角度から交互に鬼に向かって攻撃を仕掛けてくる。多勢に無勢、鬼はどう考えても不利な状況で戦い続け、何度も拳銃で撃たれたり切りつけられたりするも、不死身であるため衰えることなく戦い続ける。
そして激しい戦いの末、拳銃を抱えた男とその仲間たちを成敗する。娘と青年は何度も命の危険に晒される羽目になり疲弊してしまった様子である。青年は娘の簪を持って、こんな危険な所にはいたくないと思ったのか娘と鬼の元を立ち去ってしまう。しかし娘は鬼は自分を育ててくれた親のような存在と捉えて、これからも鬼と共にいようと決意する。

また時間は経過する。娘は成長して立派な女性(椎名亜音)になる。女性の前に一人の髭を生やした長身の男(岡村圭輔)が現れる。彼は女性のことを一目惚れしたらしく、彼女と仲良くなろうと近づいてくる。
しかし鬼は、今女性に近づいてきた長身の男が、女性の両親を斬り殺したり鬼を斬り殺してこようとする悪人であるという夢を見る。
夢は正夢となる。長身の男は女性に近づいて二人きりになると、長身の男の部下が鬼をぐるぐる巻に縛り上げてしまう。そして長身の男は、女性を庇うような存在が誰もやってこない状況になったことを良いことに、女性に対して力任せに性行為を強要し暴力を振るう。
鬼はもがいてなんとかぐるぐる巻にされた布から逃れると、長身の男と戦いを始める。戦った末に長身の男を討ち取って女性を救う。

さらに時間は経過し、女性は年を取って婆(美津乃あわ)になる。婆となっても鬼と一緒に時を過ごして生活した。
婆は息絶えてしまう。そこへ以前彼女のことが好きだったが姿を消してしまっていた男が爺(石原正一)となって樹木の元へやってくる。彼は鬼と彼女の元を立ち去ってしまったが、彼女のことをずっと忘れられなかったのだろう。彼は樹木に簪を使って彼女の絵を描く。
彼は幼い彼、青年の彼、年老いた彼に分かれて鬼と一騎打ちを仕掛けてくる。そして爺も死んでしまう。鬼は彼と彼女を供養し、再び樹木の元に居座る。樹木の前には村人が通りかかり、若き女性が襲われるようなことがあればそっと救ってあげる。しかし、もう二度と救った女性に恋なんてすることもなく、ただひたすら孤独に鬼は生き続けていくのだった。ここで物語は終了。

非常に物語は単純明快であるが、女性の成長過程が4人のキャストによって表現され、春夏秋冬のような演出になっている点が好きだった。凄く時間の経過を感じさせてくれるし、日本の舞台と春夏秋冬は非常に親和性があるなと改めて感じた。
そして、その春夏秋冬に沿ってそれぞれ鬼と対峙する悪役が登場する点も素晴らしく、その悪役もそれぞれ個性・キャラクター性があって面白かった。なんとなくそのキャラクター性の部分に関してはアニメ「鬼滅の刃」を想起させる節もあった。鬼が不死身で刺されても傷がすぐ回復してしまう様は、「鬼滅の刃」に登場する猗窩座(あかざ)を想起させる。
ただテーマとしては、一方的に人間から疎外される独鬼ということで、野田秀樹さんの戯曲である「赤鬼」を思い出さずにはいられない。こちらに関しては、考察パートで深く書くことにする。
それにしても、「鬼」と時代劇とハートウォーミングの組み合わせって、凄く万人うけする作品に仕上がりやすいと改めて思った。「鬼滅の刃」然り、扉座の横内謙介さんの戯曲である「いとしの儚」然り、日本人なら凄く感動しやすい題材なんじゃないかと思う。

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【世界観・演出】(※ネタバレあり)

噂では聞いていたが、流石は劇団壱劇屋だけあって小劇場演劇とは思えないくらいの迫力ある殺陣、照明、音楽、演出で非常に舞台美術として素晴らしい作品だった。これは生でも非常に楽しめるのだが、配信でも作品の良さが十分伝わるんじゃないかと感じた。
舞台装置、衣装、照明、音響、その他演出について見ていく。

まずは舞台装置から。舞台装置は至ってシンプルで舞台中央奥に墨絵で一本の大きな樹木が描かれた白い幕が垂れ下がっている。そして舞台上手、下手にはそれぞれ3つずつ人一人が両手でやっと持ち上げられるような黒い立方体のボックスが置かれていた。
まず墨絵で描かれた樹木だが、勿論これは鬼が居座る例の樹木を表す。凄く雰囲気があって立派な大樹でインパクトがあった。終盤になって、その樹木の幹の部分にちょっとした空白部分があったのだが、そこに男が彼女の似顔絵を描くという演出も良かった。
そして黒い立方体のボックスもかなり印象に残るオブジェクトだった。それらを素早く動かすことによって、舞台が物凄く躍動感を持って展開していってる感じがする。こうやって抽象的な舞台装置を上手く効果的に使える舞台作品って発想として素晴らしい。
後は舞台装置ではなくなるが、終始舞台上方から降ってくる桜の花びらがなんとも素敵だった。一体どれくらいの量の紙吹雪を用意しているのだろうと思うくらい大量に降り注がれていたので凄く見応えがあった。

次に衣装。衣装は時代設定が日本の武士の時代ということもあって、村人たちは基本的にベージュ色の貫頭衣に近いような衣装、そして鬼は非常に目立った着物を羽織り、女性もその時代にしては豪華なきものという感じだった印象。
特に女性は、春の幼少期の衣装がとても可愛らしかった。春の幼少期の女性を演じた吉田紗也美さん自身がとても可愛らしい方なので、凄く衣装が似合っていてずっと見ていたいくらいだった。
そして個人的に格好良いと感じた衣装は、春夏秋で登場する悪役たちの衣装。まず春に登場する鬼婆の黒い着物の衣装、豪快な髪型も相まって非常にキャラクター性の濃いビジュアルとなっていて良かった。
そして夏に登場する拳銃の男の衣装と、秋に登場する長身の男の衣装。衣装というよりは、キャストのビジュアル的な魅力が存在感を引き立てて格好良く見えるのかもしれない。特に拳銃の男の腕のまくられている感じが印象的。

次に照明。照明の迫力は凄まじくて流石は壱劇屋といった感じ。
一番インパクトのある照明演出は殺陣シーンかと思うが、殺陣シーンで使われる照明のあのストロボのように白い照明をチカチカさせながら迫力を与える感じ、それだけでも私は大興奮だった。そして、そんな演出の中でよく殺陣の演技をキャストたちは演じられるなと尊敬してしまう、絶対目がチカチカして殺陣もやりづらいと思うが。
また春夏秋冬を思わせる照明演出も素晴らしかった。女性幼少期の春のシーンでは、桜を吹雪かせながら温かみのある照明を、拳銃の男が登場する夏のシーンでは日光が強く照りつけるような白く眩しい照明を、長身の男が登場する秋のシーンでは、紅葉を思わせるような黄色とオレンジの照明を(ここが一番分かりやすい)、婆になってしまう冬のシーンでは寒さを思わせるような白く青い照明が使われていて、四季の美しさを感じさせてくれる演出が好きだった。

次に音響。音響はBGMと効果音の2つに分けて見ていく。
まずはBGMから、凄くベタだけど非常に今作品のハートフルな内容と合致する選曲だったのではないかと思う。イメージとしては、ゲーム「戦国無双」で流れるようなエレキギターなどの楽器を使った勢いのあって格好良い感じの楽曲。琴や尺八のような和の楽器による演奏というよりは、ガンガン殺陣のインパクトを押し上げていくような勢いある曲といった感じ。
感動シーンなどは、英語による歌詞も入っていて音楽はかなり現代的だと思った。それでも非常に作風とマッチした楽曲に聞こえた。
そして効果音のクオリティは半端ない。クオリティとして驚いたのが、音質という観点とタイミングという観点。まず音質としては、例えば人が斬られる音の「グサッ」という音、人を殴るときの「ドン」という音、銃声、全てがクオリティ高くて迫力があった。
そしてタイミングが本当に素晴らしくて、よくここまで音響スタッフが演技に合わせて効果音を入れられるなとびっくりした。どうやってやってるのだろう。オペレーターがシーンを見ながら効果音を入れるのは不可能だと思っているがそうしているのだろうか。いずれにせよ、見事に演技と効果音がタイミングとして合っていて素晴らしかった。

最後にその他の演出部分についてふれていく。
何と言っても今作は殺陣であろうか、私自身は殺陣に詳しくはないので、どのキャストの動きが素晴らしいとか分からないし、動き方も自分が演じたことがある訳ではないので言えないが、少なくとも素晴らしいと感じたことは、殺陣シーンの時間ってこの作品非常に長い(何分かは分からない)のだが、その動きが全て決まっていてどのキャストもスムーズに熟している点が素晴らしい。
特に拳銃を抱えた男が登場するシーンの殺陣は、複数のキャストが拳銃を投げてパスしながら攻撃するという、とてもアクロバティックな演出で非常に興奮した上、相当稽古回数を重ねたのだろうなとキャストたちの苦労も垣間見えた。
あとは、序盤で一生を描かれる女性の母親が春夏秋冬で樹木にお参りに来るシーンがあるのだが、あそこで春夏秋冬の照明はこれですよと明示してくれる演出が、後のシーンでも活かされていて非常に親切な演出だと思った。その後のシーンが春夏秋冬で構成されていると良く分かる工夫だった。
また、女性が成長するにつれてキャストが変わっていくのだが、その時に羽織をバトンのように受け継いでいく演出が印象的だった。女性を演じる各キャストが次に受け継がれるキャストに対して、頭を優しく撫でて羽織りを着せてあげるという演技が本当に愛おしくて心温まり癒やされた。

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【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

ワードレスな舞台作品でキャスト誰一人として台詞を発したシーンがなかったものの、体の動かし方、表情の作り方という演技面に関しては皆素晴らしかった。
特に今作で目立った活躍をされていたキャストにフォーカスして見ていくことにする。

まずは、鬼役を演じていた劇団壱劇屋所属の竹村晋太朗さん。舞台「鬼滅の刃」にもアンサンブルとして出演されたこともある。そしてなんと今作の脚本と演出と主役を務めているという、素晴らしき俳優である。
非常にがたいは良いのだが、女性をかばったりと優しい一面を見せてくれる鬼に多くの人が惹かれてしまうだろう。凄く愛嬌があるからこそ、人間に虐げられて孤独にさせられてしまうとこちら側も辛く切ない気持ちになる。
特に印象に残っているのは殺陣のシーンの格好良さも勿論そうなのだが、女性に笑ってと促されるがごとく、口元をクイっとスマイルにさせられる時の表情、あれが凄く好きだった。
そして赤い髪型というのが凄く似合っている。ゲーム「無双OROCHI」の酒呑童子を想起させられるような風貌だった。また、敵に斬られた後の「ギク」といって体が元に戻る時の体の使い方が好きだった。あそこだけ人間離れしているような演技だからこそ良くて、それ以外は人間とさして変わりはないのに排除されてしまうというのが切ない。

次に、秋のシーンの敵役である長身の男を演じていた劇団壱劇屋所属の岡村圭輔さん。岡村さんは長身で髭を生やしていていかにも悪役という感じの印象だからこそ、最初に登場した際にこの人絶対悪いやつだと分かる点が良かった。
あのどっしりと構えた出で立ちとオーラが凄く好き。そして鬼を縛り上げておいて、女性にとことん手を出していく演技が本当に悪いやつなんだけど、非常に見応えがあって素晴らしかった。
殺陣演技も素晴らしい、流石は殺陣をやり慣れている壱劇屋の劇団員だと思った。

個人的に男性キャストで一番格好良く感じたのは、秋のシーンの悪役である拳銃を抱えた男を演じた劇団壱劇屋の小林嵩平さん。男性でも惚れてしまうくらい格好良い役だった。
まず衣装が腕をまくった感じの割と体育会系っぽい感じの出で立ちで、拳銃を持ってこちらに向かって撃ってくる。そしてその銃バトルを代わる代わる仲間からパスされて受け取ってすぐさま撃つという躍動感といったら凄まじい。
本当に彼が出演しているシーンは、他のキャストに目を向け忘れたというくらい彼に釘付けになってしまった。そのくらい魅力的な役だった。
アフタートークでは、随分とクールな印象から相反して陽気なキャラクターの男性だったので、もっと他の側面でも演技を観てみたいと思った。

女性陣で印象に残ったのは、まずは夏のシーンでの女性役を演じていた劇団壱劇屋所属の西分綾香さん。西分さんも舞台「鬼滅の刃」でアンサンブルキャストとして出演されたことがある。
西分さんは物語前半で特に出番の多い役だったが、まず序盤の季節で代わる代わる樹木に向かってお参りをするシーンで、凄く若い女性の透明感のあるような演技に惹かれてしまった。その女性が赤子を産んですぐに殺されてしまうのだから凄くショッキングだった。
しかし、もう一度赤子が成長して西分さん演じる女性が登場するので個人的には嬉しかった。
何と言っても彼女に簪が物凄くよく似合う。その簪が物語において重要な役割を果たすので、簪の似合う女優が女性として演じていて非常に良い配役だと思った。
ワードレスな舞台だったため、カーテンコールで彼女の声を初めて聞いたのだが声も非常に素敵な女優さんだったので、次回はワードレスでない普通の芝居を観てみたいと思った。

そして、春のシーンの幼少期の女性役を演じていた吉田紗也美さんも非常に素晴らしい演技だった。吉田さんはかつて劇団KAKUTAに所属されていて、2020年2月に「往転」で演技を拝見したことがあり、その時に非常に素晴らしい演技をされていたのが印象に残っている。
なんといっても彼女の演技が愛おしくて好きだった。今回の演技は「往転」で演じられていた普通の若き娘という感じではなく、「鬼滅の刃」の禰豆子的な可愛さを感じさせる演技。マルチな女優さんだなと今作を拝見して思った。
衣装も幼い感じで可愛らしいというのもあるのだが、子供のように必死で鬼を敵から守ろうとしたり、舞台上を駆け回る姿が本当に子供のように元気いっぱいで愛おしく感じてしまう。最後「うわー」と泣き出す感じも子供のようで好きだった。
こういった前作で拝見した演技とは全く違うものを拝見出来て、新たな一面が見られた気がして嬉しかった。

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【舞台の考察】(※ネタバレあり)

前述した通り、今作品は非常に野田秀樹さんの戯曲「赤鬼」の影響も強く受けているだろうと感じられる作品だった。「赤鬼」のストーリーはざっくり説明すると、村八分にされた赤鬼と、赤鬼と仲良くなって赤鬼を守ろうと一緒に村を後にすることになる女性の物語である。孤立した鬼と鬼に寄り添う女性という構図も非常によく似ている。
「赤鬼」のテーマとしてよく取り上げられるのは、「鬼」と「人間」の対比構造である。この型に当てはめて今作も「鬼」視点と「人間」視点で考察していこうと思う。

まずは「鬼」視点で考察していこう。
今作に登場する独鬼は、決して死ぬことはないがそうであるがゆえにずっと孤独な生き物として描かれている。
まず序盤では、鬼は自分も人間と同じように歌って踊りたいと人間の輪の中に入ろうとするが、鬼であることがバレて牢獄のような場所に閉じ込められてしまう。この時点で鬼が孤独であるということが強く印象付けられる。さらに赤子を育てて少女を守るために敵と戦う際に、自分が不老不死の鬼であることが周囲の人間にバレることで、今度は鬼が人間たちから命を狙われることになる。少女や少年も鬼が不老不死であることを目の当たりにして良い気分にはならなかった。こういう人間と違う点が鬼にはあることによって、鬼は仲間はずれにされ、除け者にされてしまった。
ここで注意したいのが、鬼の方からは人間を襲ったりはしたことがなく、むしろ人間たちを助ける優しい心を持っていた点がある。これは非常に「赤鬼」とも共通する点だと思っている。鬼は人間と違う特性を持っているというだけであって、決して人間に危害を加えたりするような存在ではない。にも関わらず、人間は一方的に鬼を除け者にしようとするのである。

その点については、「人間」視点での今作品の考察ということで見ていきたいと思う。
今作品には様々な人間が登場する。しかし人間の多くに共通して言えることは、非常に貪欲でその欲を満たすためには手段はいとわないという点ではないかと思う。
例えば、夏のシーンや秋のシーンに登場する悪役(拳銃を抱えた男と長身の男)は、前者が鬼を徹底的に始末したいという欲求、後者が女性を自分の思いのままに扱いたいという欲求の元に行動している。それは自分自身の欲を満たすために他ならない。
そして言ってしまえば、女性の幼馴染で途中で逃げ出してしまった男も、結局は自分の欲のままに動いている気がしている。子供の頃一目惚れをしてからずっと彼女のそばにいて、やっぱり彼女の近くにいるのは危険だからと離れるが、年を取って彼女のことが忘れられずに戻ってくる。そして鬼のことが憎くなってしまい鬼と争い始める。物語全体では善良な役に見えるが自分の欲に従って行動しているような気がする。
一方で鬼に関しては、基本的に自分のためではなく人間のために行動をしている気がする。赤子を育てたり、困っている人間の女性を助けたりと。その点で鬼は人間よりも他人想いで優しい存在だと言える。

こう考えてみると、改めて人間とはなんと邪悪で恐ろしい生き物なんだと思ってしまう。この結論は、「赤鬼」を観劇したときにも感じた感想である。人間の恐ろしさ、愚かさ、それは自分の欲求を満たすためなら何でも出来てしまうという部分にあるような気がする。
今作品を観劇してこんな感想を抱く人はおそらくいないと思うが、私は非常に「赤鬼」と近い人間の恐ろしさをこの作品を通して感じた気がする。

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