舞台 「あたらしい朝」 観劇レビュー 2023/05/05
公演タイトル:「あたらしい朝」
劇場:こまばアゴラ劇場
劇団・企画:うさぎストライプ
作・演出:大池容子
出演:清水緑、北川莉那、木村巴秋、小瀧万梨子、亀山浩史、菊池佳南、金澤昭
公演期間:5/3〜5/14(東京)
上演時間:約1時間5分
作品キーワード:夫婦、旅行、会話劇、同時発話
個人満足度:★★★★★☆☆☆☆☆
劇作家の大池容子さんが主宰する劇団「うさぎストライプ」の公演を観劇。
「うさぎストライプ」は「どうせ死ぬのに」をテーマに、演劇の嘘を使って死と日常を地続きに描く作風が特徴であると劇団公式HPで紹介されている。
「うさぎストライプ」の公演は、2021年3月に『熱海殺人事件』を観劇して以来、2年ぶり2度目の観劇となる。
今作は、2020年10月に初演されている作品の再演で、CoRich舞台芸術まつり!2023春最終選考作品にもなっている。
物語は、叶わなかった旅についての話。
夫(木村巴秋)と妻(清水緑)は、新婚で二人でドライブしていた。
そこへ、「羽田空港」という看板を掲げている女(北川莉那)が立っていた。
ドライブしていた二人は、何度もそのヒッチハイカーの前を車で通って、やがて彼女を車に乗せる。すると、そのヒッチハイカーの女性は、実は先ほど7年付き合っていた彼氏に浮気されて別れたばかりで、その彼氏と行くはずだった旅行に一人で行こうと羽田空港に向かおうとしていたというもの。
物語は、そこから旅行先の話になっていくのだが、この話は単なる旅行の話ではなく、過去に旅行した思い出や、空想上での旅行の話などが混在して描写されながらストーリーが進行していくため、今って空想上の旅行だろうか?と疑ったりと良い意味で観客を混乱させるような演出がなされている。
舞台装置が抽象的であったり、役者が一人複数役をこなすのもあって、その演出方法は非常に演劇的に感じられて、これまた初めての観劇体験をした心地になった。
とはいえ、同時多発的に会話が進行するなど、演出手法としては平田オリザさんが主宰する「青年団」の系統に近いかなと思う。
今作は、2020年10月のコロナ禍真っ只中に初演を迎えていて、当時は旅行、ましてや海外旅行になんてなかなか行けるご時世ではなかったので、そういった意味では旅行の擬似体験が出来るような観劇体験になっていて、初演時に観ていれば、より旅行を通じてのリアルでの体験や交流を刺激されて、今回の上演以上に楽しめたのではないかなと思う。
ただ、今回の上演でも旅行欲は刺激されて楽しめた。ツアーで旅行先で一緒になった人と交流出来ることもオンラインではなくリアル旅行の良さだと思うし、食べ物も音楽も体験も、五感をフル活用して楽しめる魅力がそこにはあると改めて思い知らされた。
キャスト陣も、アゴラという小劇場だからこそ、演技の迫力を間近で感じられて良かった。
夫役の木村巴秋さんと妻役の清水緑さんが新婚のカップルとしてイチャつくシーンには見入ってしまった。
解釈までを考えると難しい作品だが、全てを理解しようとせず、自分がかつて体験した旅行経験や、自分が行ってみたいと思う旅行先に思いを馳せながら今作を観劇することで、旅行の良さというものに浸ることで、良い観劇体験になるのではないかと思う。
【鑑賞動機】
前回観劇したうさぎストライプの『熱海殺人事件』は、佐藤滋とうさぎストライプの共同開催だったので、いつかうさぎストライプの単独公演を観てみたいと思っていた。それに加え、2020年10月に初演を迎えた今作は、当時非常に評判が良かったので再演したら観に行きたいと思っていた。というか、2021年3月に上演された『熱海殺人事件』も、今作の初演が評判だったこともあってうさぎストライプが気になって観劇を決めた節もあった。
今回は、前回評判で気になっていた公演の再演である上、うさぎストライプの単独公演の観劇が叶うチャンスでもあったので観劇することにした。
【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)
ストーリーに関しては、私が観劇して得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。
夫(木村巴秋)と妻(清水緑)は、夫の運転で二人でドライブしている。二人は結婚指輪をしていて、夫婦のようだがまだ結婚して日は浅そうである。夫は、おそらく今運転している車が妻のもので、その車の色に対してうっかり口を滑らせて妻を傷つけるようなことを言ってしまってどつかれる。
そこへ、「羽田空港」と書かれたダンボールを掲げた仮面をした女性(北川莉那)が車の外に立っているのを見かける。おそらくヒッチハイカーのようである。夫と妻は、そのヒッチハイカーを乗せようか乗せないかで色々言い合いをしながら、何度もその女性の前を車で通り過ぎる。その結果、二人はそのヒッチハイカーを車に乗せる。
後部座席に座っているヒッチハイカーの女性はイライラしながらチュッパチャプスを舐める。妻が女性のことについて色々尋ねようとすると、なんで見ず知らずの自分のことに興味を持つのかと苛立っている。女性は、7年間付き合っていた彼氏に浮気され、今日の朝ふられたばかりだった。本当は、彼氏と二人で羽田空港から飛行機に乗って旅行に行く予定だったが、彼氏と別れたので旅行デートはなくなり、こうなったら一人で旅行に行ってやると思い、ヒッチハイクを始めたのだと言う。
三人は車を降りて、食事処でご飯を食べる。夫は、店員(金澤昭)に料理と酒を注文して持って来てもらう。そこへ、近くに座っていた霊服姿のカップルがいて、その葬式帰りの男(亀山浩史)は店員に対して注文した食事が来ていないと叱りつける。その様子に葬式帰りの女(菊池佳南)は葬式帰りの男に対して呆れている。
妻は、女性の別れた彼氏のことをロクでもない男だと色々話を聞く。そしてそのまま、夫と妻は仲良くイチャつきながら会話をする。その間、葬式帰りの男と女は、葬式での出来事に対して非常に腹を立てていて文句を言っていた。女性は、その二つの会話の温度感を取り持つように、夫と妻に仲が良いのですねとわざとらしく言う。
店員は、葬式帰りの男の料理を持ってくるが、注文していないものを持って来たらしく激怒する。激怒した葬式帰りの男の頭に、葬式帰りの女は水をかけて退出する。葬式帰りの男も出ていく。ヒッチハイカーだった女性は、元カレはあそこまで酷くなかったと言う。妻は女性に一緒に旅行に二人でついていくと言う。
飛行機の中、妻はずっと座席についたモニターで「あいのり」を観ている。しかし、モニターの調子が悪くなって夫に相談する。夫は仕方なく英語でCA(小瀧万梨子)を呼んで、モニターの不具合を説明する。しかし、夫はCAの英語を聞き取ることが出来ず、結果的に何も解決せず終わってしまった。二人はまだ到着まで時間があるとのことで眠りにつく。
夫と妻は、ヒッチハイカーだった女性によって起こされる。着いたようだと。しかし、女性が持っていたのは旅行券2枚、なんで夫と妻二人でついて来ているんだろうと不思議に思うと、夫の分はないと言われる。
旅行先に着いた一同は、あいのりのようにバスに乗車する。ヒッチハイカーの女性は、旅行先で素敵な出会いがあると良いなと呟く。そこへ、ギターを持ったあいのりの男(金澤昭)が乗車してくる。女性はその人のことを好きになる。
そのままバスは動き始めて移動し、バスに一同は揺られながら、下車すると今度はゴンドラに乗る。ベトナムに来た一同は、メコン川を渡っている。どうやら妻は途中から気持ち悪くなってしまったらしく、ずっとうずくまって口に手を当てている。
それから、夫は葬儀会社の女(小瀧万梨子)に呼び出されて、夫に対して旅行者は一斉に合唱し始める。妻はまだ気持ち悪そうである。葬儀会社の男(金澤昭)は、万国旗を用意して、ご飯茶碗の上に箸が刺さったものとサバ缶を添えて、ギターを弾きながら歌う。
ガイドの女(小瀧万梨子)曰く、ここに手を当てて回すと良いといったような体験が出来るオブジェを紹介され、旅行に来ていた旅先の男(亀山浩史)は試してみて楽しむ。同じように、夫もそこに手を入れて回してみたが今度は手が抜けなくなってしまう。しかし、夫のことは気にせず、妻も女性も他の旅行者も夫を置いてきぼりにして立ち去ってしまう。
一人残された夫の元へ、旅先の女(菊池佳南)が現れる。旅先の女は、久しぶりと声をかけてきてどうやら夫の学生時代の友人のようである。旅先の女は、一緒にいた旅先の男も同じ学校だったよと紹介する。旅先の男の方は夫のことを覚えていたようだが、夫は彼のことを覚えていなかった。いつの間にか夫は、挟まっていた手が抜けていた。
夫は妻と再会する。新婚旅行なのにいじけている妻を励ます夫。手でキツネを作ってつっつきながら励ます。
ガイドの女は、今度はベネチアの離島の墓地について紹介する。夫が何か踏んづけたところに対して、そこを踏んではいけないと注意される。
妻は車掌の帽子を被って、自分が小さい頃に両親と行った旅行先で写真を撮った時が描写されたと思ったら、今度はヒッチハイカーだった女性の旅行先で好きになった男性のことで相談される。
逆に妻は、旅行先で夫を亡くしてしまった。気がついた時は手遅れで、母親も駆けつけてくれたけれどダメだった。だから一人でそのあとは旅行することになったのだと。
そして一同は旅行から帰ってくる。
妻とヒッチハイカーだった女性が二人で車に乗って運転していた。そこへ「龍之介」とダンボールに文字を書いたものを掲げてヒッチハイクしている男性を見つける。男性を車に乗せる。そして三人は、どこかへ向かって車を走らせた。ここで上演は終了する。
この役者は、今誰役を演じているのか、どこのシーンとどこのシーンが同じ配役なのか混乱しながら観劇していた。それと同時に、今ステージ上で描かれているものは、現実なのか空想なのか、それもよくわからない感覚に陥っていて、まるで観客が夢の中に入ってしまった気分だった。まさにこの演劇体験が、「うさぎストライプ」特有の描写なのだろう。なんとも形容しがたい不思議な観劇体験で、物凄く自分にハマった訳ではなかったけれど、凄く新鮮でまた新たな演劇のスタイルに出会えた気分になれて良かった。
亡くなったはずの夫がまるで生きているかのように登場して出て来たり、妻の子供時代の記憶と今の記憶がごっちゃになってシームレスに描写されていたり、それがまるで夢を見ているかのような感覚で、現実世界ではありえないような時空がぐちゃぐちゃな描写なのだけれど、そこに不思議と違和感はなくて没入出来るところに素晴らしさを感じた。これは演劇でないと表現できない描写なので、演劇って面白いなと思った。
あとは、こちらは世界観・演出パートでも触れるが、現実世界における旅行体験の素晴らしさも謳っている作品だと思った。コロナ禍で少し話題になったオンライン旅行では決して体験出来ないことも沢山あることを気づかせてくれる、そんな脚本だった。
細かい描写の解釈は考察パートで触れることにするが、どこまでが現実で、どこからが空想なのだろうかというのは議論が巻き起こる部分だと思う。私も観劇しながら非常に混乱していて、今でもまとまりきっていない。最後のパートで振り返りながら自分の解釈をまとめようと思う。
【世界観・演出】(※ネタバレあり)
作り込まれた舞台セットはなく、抽象的なステージだからこそ解釈の余地の広い演劇に感じられて、だからこそ夢を見ているかのような不思議な観劇体験に繋がったのだと思う。
舞台装置、舞台照明、舞台音響、その他演出についてみていく。
まずは舞台装置から。先述したように、具象的な舞台装置はなく、床面も壁面も黒いステージ上に点在するような形でモノが置かれている。
下手側には、多種多様な靴が周囲に置かれた地下へと続くデハケがある。そこからヒッチハイカーの女性が登場したりなどする。上手奥には、一段高くなったエリアがあり、そこが夫が葬式で弔われるエリアとなっている。そこには、万国旗が掲揚出来るようにロープのようなものも床から上部へ斜め方向に用意されている。また、その少し高くなったエリアの周囲には、大量の酒が置かれていた。
あとは、ステージ上にパイプ椅子が複数点在しているくらいだった。そのパイプ椅子は、車の座席になったり、食事処の座席になったり、飛行機の座席になったり、バスやゴンドラの座席になったりと、シーンによって移動させて何かの椅子として使われていて、非常に抽象度の高い演劇作品に感じられて好きだった。
全体的に、具象的な描写がないので、基本的に観客が情景を想像力で補いながら観劇する部分が多くて、余白が多い点が演劇的好きだった。だからこそ、夢見心地的な曖昧なシーンや描写を作り出せるのだろうなと思った。小劇場で演劇をやっている方々は、こういった演出手法を見習って欲しいと思った。
次に舞台照明について。
照明がおしゃれで、天井から複数の豆電球が吊り下げられ、それらによって全体的にオシャレな空間作りがなされていた。豆電球も高さが様々だったように記憶している。
とても可愛らしい照明で、だからこそ全体的にファンタジーのような旅行体験にも感じられて、夢を見ているようにも感じられたのかもしれない。
次に舞台音響について。
なんといっても今作の音響は、葬儀会社の男を演じる金澤昭さんによるギター演奏。なんという曲かは分からなかったが、フォークソングのような楽曲を金澤さんは弾き語っていた。その哀愁漂う感じが、東南アジアの旅行先のイメージにぴったりな感じがした。この劇中音楽が、演劇への没入感をより高めてくれた気がした。
それと客入れも非常にアットホームな音楽がかかっていて、心地よい感じで上演がスタートしたので良かった。
最後にその他演出について。
今作は、要所要所に旅の魅力を演劇に詰め込んでいる節を感じられた。
例えば、今作では度々恋愛バラエティ番組「あいのり」が登場する。私自身、「あいのり」という番組自体は知っていたもののちゃんと観たことはないのだが、この番組は男女がワブワゴンと呼ばれる自動車によって世界中を旅して、その道中で恋愛が芽生えていくというものである。旅というのは、非日常な時間である。だからこそ、恋愛も育まれやすいのだと思う。旅行者たちが、同じ場所へ行って同じものを体験する。それは、非日常的な体験であるからこそ心も動かされやすくなる。気になっている人との距離を縮めやすくなる、そういった魔力が旅行にはあって、そういった旅行の魅力を「あいのり」という番組を組み込みながら演劇に落としているように思えた。だから、ヒッチハイカーの女性は、旅行前に彼氏に浮気されて別れて、新たな出会いを旅先で見つけたのである。
また、旅行というものが五感を使うものであって、決してオンラインによっては代替不可能であることもしっかりと描かれているように思えた。たとえば食べ物がそうである。ガイドの女から説明を受けて、一緒にその空間で食事することが何より大切だなと感じられた。もちろん、オンライン旅行ではデリバリーで食事が届けられるというのを聞いたことがあるが、やはりその場で食べることによって、同じ空間で体験を共有するということが旅行の醍醐味であると感じた。また、夫が手を抜け出せなくなってしまったというオブジェがあったが、ああいった体験もオンラインでは体験することは出来ない。それに伴うトラブルも旅行へ実際に行くことで体験出来るものだから良いのだなと感じた。
きっとコロナ禍真っ只中の2020年10月に今作を観劇していたら、旅行に行きたいという切望がわくと共に、きっとなんて酷いご時世になってしまったのだというショックも同時に味わっていただろう。だからこそ、これを書いている本日にWHOからコロナ緊急事態宣言の終了がアナウンスされたが、元の旅行が可能なご時世に戻ってこられて本当に良かったなと思う。
【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)
うさぎストライプ所属の役者5人、客演2人の合計7人のキャストでの上演だったが、皆素晴らしい演技だった。アゴラという小劇場だったので、役者との距離感も近くて臨場感がすごかった。
特に印象に残った役者さんについて記載する。
まずは、妻役を演じたうさぎストライプの清水緑さん。清水さんの演技は、2022年7月に上演された青年団リンクやしゃごの『きゃんと、すたんどみー、なう。』で観劇したことがある。
結婚指輪をはめて、いかにも結婚したばかりであるかのような夫婦で、序盤はずっと夫とイチャイチャしている。そしてかなり夫の優しさに甘えている感じがグッとくる。かなりの時間、夫役の木村巴秋さんと顔を合わせたり、スキンシップしたりするので、演技だったとしてもこんなに長い時間イチャついていたらお互い好きになってしまうのではないかというほど、観ているこちら側がドキドキしてしまう。
清水さんが作る表情のバリエーションが豊富で素晴らしかった。甘えたりムッとしたり、いじけたり、困ったり、それだけでも夫は心動かされてしまうかもしれない。
次に、夫役を演じた青年団所属の木村巴秋さん。木村さんの演技は、2020年2月の青年団『東京ノート』と、2021年3月のうさぎストライプ『熱海殺人事件』で拝見している。
本当に良い性格の夫だなと思いながら観ていた。いつも優しくて、ずっと妻のご機嫌を取ろうと、キツネを手でやって見せて面白がらせたり、でも時には言葉選びを間違えて妻をムッとさせてしまう一面もあったり、ユーモアある感じが本当に好きだった。あんな夫がいたら妻はさぞ楽しいだろうなと思ってしまう。
しかし、夫は旅行中に死去してしまう。でも、まるで死んだとは思えない存在感を最後まで見せているのがまた良かった。
ヒッチハイカーの女役を演じた北川莉那さんも良かった。
1998年生まれとお若いのに、ベテラン風の落ち着いた演技が出来る点が素晴らしかった。登場シーンの、チュッパチャップスを舐めながら別れた彼氏に対してキレている感じが良い味を出していた。あの存在感は好きだった。
くだらないことだが、あのチュッパチャップスって毎公演ごとに味が違うのだろうか。そうすれば、毎公演気分を変えて出来そうだし、楽しみがあって良いななんて思いながら観ていた役だった。
あとは、金澤昭さんのギターによる弾き語りが良かった。あの哀愁漂ってくる感じが旅行の雰囲気と今作のイメージにもあっていて、心地よい空気にさせてくれた。
【舞台の考察】(※ネタバレあり)
今作を観劇して、改めて旅行って素晴らしいなと感じられたし、コロナが収束し始めて、徐々に旅行も自由に出来る世の中になってきたことは大変良かったなというふうに感じている。逆に、2020年10月の初演時点で私が今作を観劇していたら何を感じていたのだろうか。いかに普通に旅行に行けていた日常が素晴らしいものだったのかを痛感したのだろうか。きっとコロナめ!って心の中で舌打ちをしていたかもしれない。
ここでは、今作が叶わなかった旅を描いた作品ということで、演劇評論家ではない一般観劇者の視点で、細かい描写についての考察をしていこうと思う。
当パンで書かれている「叶わなかった旅」というのは、ヒッチハイカーの女性視点でみれば、彼氏と一緒に行くはずだった旅行のことである。結局は、一人で行くことになり、旅先で素敵な人に出会うというもの。そしてもう一つの意味が、旅の途中で亡くなってしまった夫が亡くならなかった世界線での夫と妻の旅のことでもあると思う。
ヒッチハイカーの女性の旅行券は2枚しかないので、誰かを誘うとしてももう1枚しかない。そこから、夫が途中で死んでしまうということを暗示する飛行機内の描写になっている。
そして、妻が気持ち悪くなっている間に、夫の葬儀が行われている。この妻が気持ち悪くなって体調を崩しているという描写が、ある種今後の旅行のシーンの空想と現実を曖昧なものにさせる入り口のようにも思える。
それから、夫は手が抜け出せなくなっても、誰からも心配されたりせず、まるで自分が見えていないかのように周囲の人間は去っていく。つまり、もうそこには生きた夫はいないということではないだろうか。そこからの夫と妻のやりとりは、全て妻の空想の旅行で、もし夫が生きていたらの話なのではないかと思って観ていた。
そしてラストシーンでは、妻と女性が二人乗った車に、「龍之介」という看板を掲げて夫がヒッチハイカーのように乗り込んでくる。今作でいうヒッチハイカーは、旅行に行きたいけれど、なんらかの事情で一緒に旅行に行く相手を失ってしまった人かなと思っている。つまり、最後の描写はもちろん夫は亡くなってしまっているので空想なのだが、妻の中の空想で、本当は夫は亡くなってしまっているけれど、旅行に行く時はこうやって乗り込んできて欲しいなという願望なのではないかとも思う。
あと気になったのは、劇中前半で登場する食事処の霊服姿のカップルのこと。たしか彼らは龍之介の葬式がどうとか話していた気がする。だから、彼らは同じ役者が演じているというのもあって、旅先の男、女と同一人物でもあるのかなと思う。
夫婦やカップルには、出会いと別れがある。今作は旅行をテーマに描いた作品でもあるが、出会いと別れをテーマにした作品でもあるように感じた。妻は夫を旅行中に死別という形で別れている。ヒッチハイカーの女性は、旅行前に彼氏と別れているが、旅行先であいのりの男に出会っている。葬式帰りの男と女は、食事処で別れている。
結局自分自身の頭の整理はついていないので、解釈が間違っていたり誤認識している描写があるかもしれないが、私にはそのように今作は感じた。
↓うさぎストライプ過去作品
↓清水緑さん過去出演作品
↓木村巴秋さん過去出演作品
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