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舞台 「いちおう捨てるけどとっておく」 観劇レビュー 2022/10/13


【写真引用元】
ダウ90000 Twitterアカウント
https://twitter.com/daw90000/status/1568177519215476736/photo/1


公演タイトル:「いちおう捨てるけどとっておく」
劇場:新宿シアタートップス
劇団・企画:ダウ90000
作・演出:蓮見翔
出演:園田祥太、飯原僚也、上原佑太、道上珠妃、中島百依子、忽那文香、吉原怜那、蓮見翔
公演期間:10/5〜10/19(東京)
上演時間:約100分
作品キーワード:コメディ、コント、予備校、大学生、青春
個人満足度:★★★☆☆☆☆☆☆☆


お笑い業界でも演劇業界でも人気が急上昇中である、8人組のコントユニット団体「ダウ90000」の演劇公演を観劇。
「ダウ90000」の演劇作品は、今年(2022年)1月に上演された第3回公演「ずっと正月」以来2度目の観劇となる。

今作の物語の舞台は、とある予備校。
予備校に務める男女7人の塾講師と9年間連続で浪人し続ける生徒のコント風会話劇となっている。

劇中の物語のネタバレは厳禁みたいなので、冒頭部分でのあらすじへの言及については一切控えるが、全体的な私個人の感想は会話が物凄くコントに寄りすぎている感じがして、あまり演劇らしさを感じられず前作よりは満足度は下がった。
前作の「ずっと正月」は、コント風な会話劇に加えて、ラストの展開にはロマンチックな一面を感じられたし、凄く私たちの学生時代の日常に根ざしたリアリティがあって面白かった上、ショーウインドウケースや小道具を使ったモノボケ風な演出も相まって、非常に作り込まれていた印象を受けていた。
しかし今作は、塾講師同士の表面的な会話劇に終始していた上に、キャラクター同士の絡み合いも薄さと粗さがあった印象で、あまり心にグッと刺さらなかった。
個人的には終始展開されていたネタについても大学偏差値を使ったものなどあって、その大学に当てはまる学生たちはどう思うのだろうとヒヤヒヤしてしまったりと、ちょっときまり悪いネタである印象を感じた、つまり個人的にはネタ自体もイマイチだったということ。
モノボケのような演出へのこだわりも今回はあまり感じられず、全体的に作品への作り込み度合いも前作と比べると非常に下がっていると感じた。

ただ、今作は「ダウ90000」の4人の女性陣が大活躍なコント風会話劇だった。
塾講師をしている女性4人の殺伐とした人間関係は、女性観客が見ると色々考えさせられるかもしれない。
前作よりも道上珠妃さん、中島百依子さん、忽那文香さんの出演シーンが多くて、前作よりも彼女たちは役者としての肝はだいぶ座っていたように感じられて良かった。徐々に頼もしくなってきた印象を受けた。

「ダウ90000」は若年層に人気もあるので、客席は20代の観客で溢れていて終始笑いが絶えず湧いていた。
個人的にはネタが合わなかったので、そのような空気感にはアウェイに感じた。
演劇好きな観客や、「ダウ90000」が初見の観客にはあまりおすすめ出来なくなっていたが、人気絶頂期の「ダウ90000」ということで今後の活躍も一演劇好きとして期待していきたい。

【写真引用元】 ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/496442/1914354



【鑑賞動機】

お笑い業界からも演劇業界からも大注目の若手コント団体の「ダウ90000」の演劇公演だったから。前作の「ずっと正月」も、ただのコントという訳ではなくしっかりと演劇作品としての要素も盛り込まれていて面白かったので、次回公演も観劇しようと思っていた。
チケットもなかなか取りにくくなっていて、抽選先行で予約したのだが第3希望が一枚当選したという状況で、公演日も平日になってしまうくらい人気が出てきている。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

以下はいつも通りネタバレを含んでストーリーを記載していくので、まだご覧になっていない方は、ここから下はお読み頂かないことをオススメする。観劇・配信視聴された方はぜひお読み頂ければと思う。
また、今作には公演パンフレットやリーフレットが存在せず、配役が劇中で聞き取れて覚えているものに留まるため、ストーリー展開も含めて不確かな部分もあるがご容赦頂きたい。

舞台は、とある予備校。室長(蓮見翔)は、塾講師であるにも関わらず髪をポイントカラーで緑に染めてきた女性塾講師(吉原怜那)を叱る。室長は、なんで髪なんか染めずに黒髪のままでも十分素敵なのに、わざわざ髪を染めようとするのかと思い、「お酒の入ったパフェ」と比喩する。室長は女性陣塾講師から顰蹙(ひんしゅく)を買う。黒髪の女子高校生のことをパフェ扱いするなんてと。
そこへ女性塾講師のタカシマ(道上珠妃)がやってくる。タカシマは髪を全体的にピンク色に染めていた。室長はタカシマに対しても叱る。なんで塾講師なのに髪の色を染めるのだと。まるで「お酒の入ったパフェ」だと言う。タカシマは悪びれる訳でもなく室長の言うことを無視して、その比喩にも冷たかった。
その後、今度は男性塾講師(飯原僚也)が髪を全体的にパーマをかけてやってくる。室長は彼に対しても髪型の件について叱るが、「焼きプリンみたいだ、プリンは焼かなくても美味しいのに焼いてしまって」と比喩するが場はしらけてしまう。

オープニング音楽が流れ、予備校のシャッターを閉めると「いちおう捨てるけどとっておく」の文字が浮かび上がる。

女性塾講師たちは、予備校の生徒たちの志望校の話をする。拓殖大学に進学する生徒を馬鹿にしたり、慶應義塾大学を目指す生徒を変人扱いする。その流れで、今塾講師として勤めている女性たちの出身大学はどこなのかという話になる。髪を全く染めていない女性塾講師(中島百依子)は、青山学院短期大学、略して青短だと言う。
もう一人の髪を染めていない女性塾講師であるオオハシ(忽那文香)は出身大学が慶應であることを言い、先ほどまで青短の塾講師と髪を緑に染めた塾講師で慶應の悪口を言ってしまったことに凍りつく。また、タカシマの出身大学を聞くと拓殖大学と答えていて、また青短の塾講師と髪を緑に染めた塾講師二人は、拓殖大学の悪口を言ってしまったことに凍りつく。

昼休憩のチャイムが鳴る。すると、一人の予備校男子生徒(園田祥太)がやってくる。彼は、自転車が道の横に止めてあるのを移動させてくれないかと塾講師たちに要望する。その自転車が気になってしまって勉強に集中が出来ないのだと言う。
しかし、この予備校生徒は9年連続で浪人をしていて、塾講師たちからは早く志望校を下げたら?と言われていたり、タカシマが学生時代の時も同じように予備校生をやっていたことを話す。また、9年連続浪人の予備校生は昼休みになるといつも塾講師たちの居室にやってきて、何かしら英語の演習課題の例題を課してくるのである。前回は付加疑問文だったが、今回はto不定詞を織り交ぜて会話を持ちかけていた。
予備校生は、自転車は移動させるように言うからと居室から追い出す。

昼休憩ということで、青短の塾講師と髪を緑に染めた塾講師の2人は、仲良く昼食をとる。2人ともコンビニで買ってきたロックアイスのカップにストローをぶっ刺して、少し蓋を開けて炭酸飲料を流し込む。そして「いただきます」と言って飲み始める。飲み終わると2人は居室を去っていく。オオハシとタカシマが取り残される。
タカシマはインテリアコーディネーターの資格を取るために、塾講師をしながら空いた時間は勉強に当てていた。オオハシは、大学生になってからも勉強を続けられるタカシマに対して「凄い!」と尊敬する。タカシマはオオハシに、どうして慶應義塾大学に入学したのかについて尋ねる。
オオハシは、いきなり四国で出会ったイカ釣りのおじさんの話を始める。タカシマはイカ釣りの話を聞きたいのではないと遮るが、オオハシは大学へ入学した理由はそこにあるのだと続ける。しかし、オオハシはイカ釣りの話からなぜ勉強して慶應義塾大学を目指したのかについて話をしたのだが、タカシマはしっくりいってなかったようだった。
タカシマは、自転車を道の横に止めないように忠告するポスターのイラスト作成を頼まれていて、オオハシに手伝ってもらうことにする。オオハシは、イラストで印刷する文字をホワイトボードに書くが、文字数的に中途半端になってしまうと、怒りマークを入れようとしたり、途中の漢字にルビを振ろうとしたりするがタカシマに止められる。
その後、オオハシは自転車の「自」の文字を一枚の紙いっぱいに書いた紙をラミネーターで加工する。しかし、タカシマはそういうことをやりたかった訳ではないと叱る。

【写真引用元】 ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/496442/1914356


別の日、青短の塾講師は遅刻してしまい昼休憩の直前の時間にやってくる。室長は遅刻を叱る。
そして9年連続で浪人している予備校生がやってきたので、みんな昼休憩の時間だと思って退散していく。予備校生は室長と会話をする。予備校生は赤本が並んでいる棚からゲームの攻略本を取り出してゲームの話を始める。そこから過去問の話もする。

居室に塾講師たちが戻ってくると、室長はエリアマネージャーがやってきて写真撮影をする旨を皆に伝える。タカシマは明日が試験の当日だから早く帰って良いと室長は言う。
タカシマはひょんな会話から、自分が拓殖大学であることを馬鹿にされたことを根に持っており、他の女性塾講師たちにキレて喧嘩が始まる。お互い大学の偏差値での言い合いが始まり、そこを室長が宥めるが、室長は実は高卒だったことが暴露される。そして自分が高卒であるのに、大学に進学している塾講師たちの上の立場にいることを自虐する。
喧嘩は、次の彼氏の悪口を言う方向に発展する。彼女たちがイメージする彼氏の中で、ズボンに鎖を繋いでいる奴という言葉があったので、9年連続浪人中の予備校生はハッとしてズボンについていた鎖をポケットに突っ込む。
そこへオオハシもやってきて、自分に対しても言いたいことを言ってくれと言う。他の女性塾講師たちが戸惑う中、オオハシはバシバシと他の女性塾講師たちの次の彼氏の悪口を言っていく。オオハシも彼女たちから反撃される。

居室にはタカシマと、髪色が黒色の男性塾講師(上原佑太)だけが残る。タカシマとその男性塾講師は会話することによって距離を縮める。
そして男性塾講師は、タカシマに資格試験の合格祈願としてお守りを渡そうとする。しかし、そのお守りは2人で持っていようという話になり、そのお守りを半分に切ることになる。男性塾講師はお守りを半分に切ってラミネーターで加工して半分をタカシマに渡す。そして2人は去る。

後日、結局タカシマは試験に不合格だったようだが、女性塾講師4人は仲良くコンビニのロックアイスのカップと炭酸飲料を買ってきて、ストローをぶっ刺してカップに炭酸飲料を入れてストローで飲むのだった。ここで上演は終了する。

ストーリーを要約すると、塾講師としてバイトしている女性たち4人は大学もバラバラで、勉強に対する意識もそれぞれで、意識高い系だと心の中では敬遠したり、学歴が自分よりも高いのだろうと壁を作ってしまったりしていて、普段はギクシャクした人間関係だったけれど、タカシマが学歴のことについてキレたことでお互いの鬱憤が晴らされ、最後は雨降って地固まったかのように4人全員が仲直りしたという内容だろうか。私は経験がないが、おそらく大学時代に塾講師としてアルバイトをしていた人にとっては、あるあるな人間模様なのかもしれないが、個人的にはしっくりこなかった。まず大学偏差値を使ってネタにしたりしている時点で個人的にはヒヤヒヤしてしまったし、このネタを何も知らず拓殖大学出身の方や大東文化大学(劇中では大東文化大学を揶揄するネタもあった)出身の方が観たら、笑えず傷つくんじゃなかろうかと思ってしまうくらい、センシティブな内容をネタにしているような気がして好きになれなかった。タカシマ自身が拓殖大学出身で、劇中でキレることによって拓殖大学生の気持ちを代弁するかのようなシーンは見受けられるが、それが登場するのが物語後半なので前半は笑えない感じにアウェイを食らうのではなかろうか。
また、あれだけ塾講師同士が次の彼氏の悪口を言い合って、少し時間が経って何事もなく仲良く昼食を取るようになるという展開自体も?がついてしまう。あれだけ言い争ってしまったら、大学生ぐらいの大人であったら人間関係の修復は困難ではなかろうか。そこにリアリティを感じられなくて、ストーリー展開にも納得がいかなかった。女性塾講師たちが言い争ったあとに、何か互いの人間関係を修復するようなシチュエーションが明確にあれば、まだ納得したかもしれないが特になかったので、何も心が動かされなかった。
それに加えて、ネタ自体も前作の「ずっと正月」の方が面白いものが多かった印象。前作では声を出して笑えた箇所が沢山あったが、今作は数えるほどしかなかった。会話のテンポもあまり良くなかった印象で個人的には残念だった。

【写真引用元】 ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/496442/1914357


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

世界観はダウ90000らしく、大学生たちを主人公とした令和時代のとある日常で、予備校が舞台となっている。
ほとんど舞台照明による演出はなかったので、舞台装置、舞台音響、その他演出の順番で見ていこうと思う。

まずは舞台装置から。
舞台セットは予備校の塾講師たちが仕事をする居室を再現している。舞台下手には巨大な棚が置いてあり、そこには赤本(各大学ごとの過去問集)がずらりと並んでいる。舞台下手には手前側と奥側にそれぞれデハケが存在し、手前側の捌け口はおそらく廊下側へと続くであろう出口となっていて、9年連続浪人の予備校生が登場するのは、いつもこのデハケからである。奥側のデハケは、おそらくこの居室の奥へと続く捌け口だと思われ、塾講師たちが昼食を取りに行く時はそこから出入りしていた。
舞台上手には、手前側に背の低い本棚が置かれていて、そこにも赤本がずらりと並んでいた。こちら側の本棚には東大や一橋大といった難関大学の赤本が並んでいたように思われる。しかし、中にはゲームの攻略本も紛れ込んでいて、9年連続浪人の予備校生がそれを取り出していた。
その奥側には大きな机と複数のデスクチェアが置かれていて、塾講師たちのデスクになっていた。基本的には4人の女性塾講師たちがこの大机で2人、2人で向き合って会話をしていた。その手前側には下手から上手へ横に長い机が置かれていて、塾講師たちの昼食用の机となっていた。
デスクチェアの置かれた机の奥側には、ホワイトボードとシャッターがあり、シャッターの下にはラミネーターが置かれていた。このシャッターは閉めると「いちおう捨てるけどとっておく」の文字が浮かび上がるような仕掛けになっていた。上手側の壁には予備校らしくポスターが貼られていた。
全体的に小綺麗で、前作の「ずっと正月」の舞台装置とも通じるセットだった。赤本がずらりと並んでいるので、大学生であったら自分の大学の赤本はあるだろうかと探したくなってしまうような好奇心の唆るセットではあったのかもしれない。でもやはり、それは大学生にウケる舞台セットな訳で、万人ウケのするものではないのかなと感じた。特に大学進学をしなかった方が観たら、あまり馴染みのない世界でウケない気がする。

次に舞台音響について。
なんといっても今作の見どころは、オープニング曲とエンディング曲で使われていたスカートの澤部渡さんの新作書き下ろしの楽曲。雰囲気はスカートらしさもありつつ、ダウ90000のコントに合った楽曲だと思った。ただ、予想以上に作品に対して楽曲が使われていた時間が短いように感じて、あれだけ告知でかなり重要なエッセンスであるかのように宣伝しているのであれば、もっとオープニングとエンディングの演出を凝っても良いのになと物足りなさを感じた。
あとは昼休憩を示すチャイムの音。耳に残る感じで良かった。

その他演出について。
特に吉原怜那さんと道上珠妃さんは髪色を染めていたので、その奇抜な髪色を活かしたネタとストーリー展開は凄く印象に残って良かった。2人とも凄く髪色も似合っているし、20代前半のコントユニットらしさを活かしたネタにも感じられて良かった。そしてその髪型を気にする男性陣の気持ちもめちゃくちゃよく分かるから、そこは凄く好きだった。室長は、別に髪色なんて染めなくてもそのままでも良いのになんで髪を染めるんだって気持ちは男性の私自身も抱いたことがある感情で感情移入した。「お酒の入ったパフェ」のたとえはまあまあだったが、凄く印象に残るくだりだった。
女性陣が昼食にロックアイスのカップに炭酸飲料を入れて飲むのも良かった。まずあの音が良かった。ロックアイスの蓋にストローをぶっ刺す音、そしてビリビリとロックアイスの蓋を開ける音、炭酸飲料の缶を開ける音、炭酸飲料をロックアイスカップに注ぐ音、この一連の音が舞台上に響き渡る感じがシュールで面白かった。またそれを中島百依子さん、吉原怜那さんの女性陣がやるのも面白かった。凄く印象に残って好きだった。
ラミネーター加工を使ったボケは、なかなかユニークだった。そもそもラミネーターというものの名前を初めて知った、見たことはあったが。予備校には普通にラミネーター加工の機材が置いてあるものなのだろうか。そこはさておき、ラミネーターにお守りを入れるボケとか、「自」と書いた紙をラミネーター加工するとか挑戦的なネタを入れてきている感じはあったのが良かった。もう少しラミネーターで遊んでも良いのではとは思ったが、発想は素晴らしいと感じた。

【写真引用元】 ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/496442/1914353


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

今作は特に女性陣が大活躍した舞台作品だったと感じたので、ダウ90000の女性陣を中心に触れていくことにする。

まずは、今作でキーマンとなったタカシマ役を演じた道上珠妃さん。道上さんはダウ90000の女性陣の中では一番垢抜けている感じのする方。
今作ではピンク色に染めた髪で登場して会場を湧かせていた。まず髪型が本当に似合っていた。他の髪色でもきっと似合うだろうなと思うけれど、ここまで垢抜けても全く違和感を感じさせない道上さんのオシャレなオーラは素敵である。
今作のキャラクター設定は、出身大学は拓殖大学だけれど塾講師としてバイトをしながら資格試験を受験する真面目な学生。一見髪色が奇抜で遊んでいるように見えるけれど、実際は非常に勉強熱心で真面目であるという設定は個人的に好きだった。こんな感じの大学生はいそうだし、ちょっとした憧れは誰もが持ちそうで、そのギャップが非常に良い味を出していた。
周囲の塾講師たちは、お喋りばかりしていて拓殖大学をけなしていたりするが、片耳でそれを聞きつつ熱心に自分の机に向かう感じに、なんとなく感情移入もしてしまうし凄く応援したくなるキャラクターに感じられて良かった。
そんな味のある役柄を演じきった道上さんは非常に素晴らしかったし、前作「ずっと正月」に比べて魅力的な女優に全体的に感じられた気がする。

次に、前作でも非常にキャラクターとして存在感を発揮していて、今作でもその存在感は十分に伝わってきた、緑色にポイントカラーで染めた塾講師役(名前を聞きそびれた)を演じた吉原怜那さん。
吉原さんは、あのサバサバした感じの演技が本当に堪らなくハマっていて良い。前作でもその持ち味を十分に発揮していて素晴らしかったが、今作でもその持ち味を十分に出していて良かった。
青短出身の塾講師役を演じる中島百依子さんとの掛け合いのテンポが物凄く良かった。終始会話していて、デリカシーなく大学名で人をバカにしたりする感じが、らしいと言ったら褒め言葉ではなく聞こえてしまうが、そこが役とハマっていて良かった。
逆に次回公演以降は、もっと違う役作りでコント演劇に登場して欲しいかなとも思った。吉原さんの違った一面を演技で拝見してみたい感じもあるので、益々のご活躍を祈りたい。

そして私が今作でMVPだと感じたのが、青短出身の塾講師役をやっていた中島百依子さん。中島さんは前作ではそこまで登場シーンが多くなかった分、今作では登場シーンが多くて大活躍だった。
中島さんは女性陣の中でもお笑い芸人ぽさが一番少ない、といったら失礼な言い方になってしまうが、凄く可愛らしくて女子大学生らしい感じのあるメンバーである。前作でも、割と普通な役をやっていた印象なのでお笑い芸人という印象はあまり感じていなかった。
しかし、今作ではこれでもかというくらいお笑い要素をぶちかましてきた感じが個人的には凄く嬉しかったし、非常に良かった。今作の一番の見どころは中島さんと言ってよいほど、中島さんのキャラに注目していた。
青短出身で、バイトにも遅刻してしまうくらい真面目という感じではないが、話し方とかはハキハキしていてこんな感じの塾講師はたしかにいそうと頷けるキャラ設定。しかし、びっくりした時に目を丸くするひょうきんさ、そして昼食にコンビニで買ってきたロックアイスのカップにストローをぶっ刺して炭酸飲料を注ぐみたいな、ワイルドなことをしてしまうギャップが非常に面白かった。これを中島さんがやるっていうのが面白いし、こういうネタは好きだった。
個人的には、こういったギャップを更に引き出して演劇やコントをしていって欲しいなと感じる。凄く良い意味でのギャップ、そして演技自体もナイスだった。

塾講師であるオオハシ役を演じた忽那文香さんも、彼女しか出せない味を今作でもしっかり出していて素晴らしかった。前作でも忽那さんしか出せない味を定員役で出していたのだが、あまりストーリーに絡んでこない感じが勿体なかったが、今作はしっかりとメインのストーリーに乗る形で登場していたので良かった。
イカ釣りからの慶應義塾大学入学エピソードは、?になること想定のエピソードだとは思うが、個人的には笑いも起きずしっくりこなかった。しかし、そんな不思議な話を語るのにぴったしなのは忽那さんが演じる役しかないと思う。
特にオオハシのシーンでグッと来たのが、終盤の自分にも次の彼氏の悪口を言ってこいよのくだり。なんか凄く格好良さを感じた。あのブッコミ方も忽那さんだからこそしっくりくる気がした。
それと、タカシマが作成しようとしていたポスターのイラストが全然方向違いになってしまうくだりも忽那さんらしい天然ボケっぽさが面白くて良かった(褒めてます)。

女性陣以外でいくと、室長役を演じた蓮見翔さんが良かった。
蓮見さんのあの安定の脱力感のあるツッコミが好き。おそらく自然体でも蓮見さんはあんな感じなのではと思う。面倒くさがりながら女性陣に対してツッコミを入れて、反撃を食らう感じがとてもらしくて良かった。たしかにダウ90000のファンであるならば、あんな展開を期待して観劇にも行くだろうし、そこはファンも大満足だったんじゃないかなと思う。

【写真引用元】 ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/496442/1914352


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

蓮見翔さんが主宰するコントユニット「ダウ90000」は、2021年のM-1グランプリでは準々決勝まで進出、2022年のキングオブコントでも準々決勝まで進出、そして2022年の第43回ABCお笑いグランプリでは決勝進出と、お笑い系グランプリでも華々しい功績を残し始めている。それに加えて、2022年の岸田國士戯曲賞では蓮見翔さんの「旅行じゃないんだからさ」がノミネートされるなど、演劇界隈での躍進も目覚ましい。
さらに最近では、テレビドラマの脚本も担当するようになった蓮見さん。ダウ90000の初冠ドラマとしてフジテレビで9月29日に放送された「深夜1時の内風呂で」では、脚本を蓮見さんが手掛けて、出演にはダウ90000のメンバーに加え、勝村政信さんを迎えてのコメディドラマとなった。
私もTVerで「深夜1時の内風呂で」を拝見したが、やはりダウ90000の会話のテンポの良さは映像だと若干端切れが悪くなるものの、ラストの男性風呂と女性風呂での壁を挟んでの会話のやり取りにはグッとくるものがあったし、普通にドラマとしても面白く感じた。「勝村さんに何をさせているんだ笑」というシーンもあったが、テレビドラマの良さに加えて、大学生の男女のリアルなやり取りとコントといったダウ90000らしさもしっかり要素としてあって良かったと思う。

ただ今作に関しては、ちょっと手を抜いたんじゃないかと思わせるような部分が多く、作品としてのクオリティや完成度が低いのかなと感じた。
道上珠妃さんを始めとする女性陣を中心にキャラクターを深掘って物語を作るのは良いのだが、ラストの締めくくりにしっくりこなかっただけでなく、ストーリー展開もあまり緩急がないように感じたし、そもそもネタ自体もそこまで面白いと感じたものが数えるくらいしかなかった。さらに言えば、前作の方が演出面の工夫要素も沢山見られて、例えばショーウインドーケースを使っての落書きや、ショーウインドーのモノを使ったモノボケだったりと、凄く工夫を感じていたのだが、今作では演出面の工夫もそこまで見られなかった。スカートの澤部渡さんに新曲を書き下ろしてもらったにも関わらず、そこを上手く活かしたオープニングにはなっていないように見えたし、ただ音楽をかけただけになっている感じが否めなかった。

ここでは、私が今作を観劇していてしっくりこなかった点について具体的に述べておく。
しっくりこなかった点は、ストーリー、コントとしてのネタ、演劇としての演出の3つが大きく感じられた点である。
まずストーリーは、先述した通り一番しっくりこなかったのがラストのくだり。4人の女性塾講師が最後に仲良く昼食を取れるようになる締めくくりがしっくりこなくて。あんなに喧嘩しておいて、あそこまで雨降って地固まったかのように仲良くなることに違和感を感じてしまった。私はコントであると同時に演劇を観に来ていた訳なので、キャラクターの感情の変化にもしっかり破綻がないことを求めてしまう。今作ではそこに破綻を感じてしまって疑問符が残ってしまった。
塾講師同士でありがちな、お互いの大学偏差値のプライドと学業の意識の高さと。そこはリアリティがあって人間関係をしっかり描いていて良かったのに、最後にまるで無理やりハッピーエンドに持ち込んだかのように綺麗サッパリ仲良くなってしまうのがどうしても納得がいかなかった。
それ以外の話の展開部分についても、正直緩急がなくて前作よりは楽しめなかった。

次にコントとしてのネタについて。
ネタに対する違和感は、まず大学偏差値を扱ってのネタにずっとヒヤヒヤしていた。多くの大学生が観に来るであろう今作でありながら、特定のしかも実在する大学名を使って偏差値の低さを揶揄するような点をネタにするのは、正直どうかと思ってしまった。きっと拓殖大学の学生や大東文化大学の学生たちは傷つく人もいるんじゃないかと。ネタにされて会場から笑いがこみ上げるのにもネガティブな感情を抱いてしまう人がいるのではと思う。
物語では、道上さんが演じるタカシマが拓殖大学の学生であり、その傷つけられた感情を表に出すが、それも物語後半になってからの話なので、傷つけられた感情をすぐに癒やしてくれるものでもない気がした。そういった意味で、明らかに大学の偏差値によって二極化を作ってしまうネタは、多くの学生たちが観にくる演劇ではやってはいけないかなと思う。
それ以外のネタについても、前作の「ずっと正月」ほど秀逸なネタは多くなかった印象で、もっと笑わせて欲しかった。今の大学生や塾講師を経験したことがある、もしくは女性であれば分かるネタもあったのかもしれないが、三十路手前の男性の私には面白さが分からないネタが多かった。

次に演劇としての演出について。
ここに関しては、正直クオリティが低かった、というか完成度が低かったのかなと思った。前作の「ずっと正月」に比べて、「おお!」と心動かされる演出が要素として少なかった印象。
今作で印象に残った演出は、ラミネーターを使ったネタくらいで、もっと舞台上にある道具を使って遊んで欲しかったし、そういった軸でなくても、もっと舞台照明や舞台音響を工夫して使って、前作とは違ったアレンジを入れるでも良かったかもしれない。とにかく、演劇としての演出面での工夫ポイントが少なくて物寂しかった印象だった。
折角、スカートの澤部渡さんにも新曲を書き下ろしてもらって流したのに、ただ音楽を少し流しただけの勿体ない使い方をしていたので、もっと曲を中心にオープニングやエンディングの演出をリッチにしてほしかった。

こんな感じで、かなり今作への不満を書いてしまったが、もちろん前作と比較して良かった点もある。先述したように、ダウ90000の女性陣の活躍が今作は目覚ましかった。女性陣全員が前作よりも舞台に熟れてきた感じがあって、凄く自然な演技に見えたしキャラクターとしての面白さも一層感じられた。
そう思うと、今作は演劇としての完成度を高めるという方向性よりは、もう団体としてファンを多く獲得出来ているので、ファンサービスにフォーカスした作品に仕上げたのだろうか。ダウ90000の演劇を観にくるような観客は、きっとダウ90000の熱狂的なファンが多いと思うので、演劇作品としてのクオリティを高めるよりも、女性陣にフォーカスを与えてファンを喜ばせる方が良いと判断した結果かもしれない、憶測でしかないが。
女性陣と蓮見さんとの掛け合いも、きっとダウ90000のファンであったら一番求めているシチュエーションでもある気がするので、そうなのかもしれない。

ダウ90000は非常に人気ユニットになりつつあるので、お笑いグランプリにテレビドラマ出演にとにかく忙しいだろうし、そんな中新作公演を企画して上演するのは大変素晴らしいことだと思う。
だが一観劇者としては、ダウ90000にはコントというよりは演劇を求めたいので、やはり脚本のクオリティや舞台演出のクオリティにもそれ相応の水準であって欲しいなと感じる。蓮見さんは岸田國士戯曲賞にノミネートされるほどの才能を持っているので、絶対もっと素晴らしい舞台は作れると思っている。
今後のダウ90000の躍進に期待しつつ、次回以降で私が観劇する時は、演劇の良さをしっかり引き出した公演を打って欲しいと願う。

【写真引用元】 ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/496442/1914355


↓ダウ90000過去作品


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