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舞台 「学芸員 鎌目志万とダ・ヴィンチ・ノート」 観劇レビュー 2025/01/31
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公演タイトル:「学芸員 鎌目志万とダ・ヴィンチ・ノート」
劇場:サンシャイン劇場
企画・制作:スタジオコンテナ
脚本・演出:小林賢太郎
出演:鈴木拡樹、生田輝、中條孝紀、三枝奈都紀、古屋敷悠、前田友里子、辻本耕志、菅原永二
公演期間:1/29〜2/2(東京)、2/7〜2/9(大阪)
上演時間:約1時間40分(途中休憩なし)
作品キーワード:コント、コメディ、笑える、美術館、芸術、レオナルド・ダ・ヴィンチ
個人満足度:★★★☆☆☆☆☆☆☆
コントグループ「ラーメンズ」のメンバーでもあった劇作家であり演出家の小林賢太郎さんによる新作公演を観劇。
小林さんは「ラーメンズ」のメンバーということで兼ねてから知っていたが、彼の創作する演劇作品を観たことがなかったので、美術館がテーマであることや小劇場界隈の俳優もオーディションで起用されて話題になっていたので、今回の公演を機に観劇することにした。
物語は、閑散としていて存続の危機にある葛原美術館に、レオナルド・ダ・ヴィンチのことに詳しい鎌目志万(鈴木拡樹)が新しく学芸員として赴任する所から始まる。
夜、葛原美術館の中を警備員の小島小次郎(辻本耕志)が巡回していると、一人の男性を発見して話しかける。
小島は彼を警備室に連れて行く。
その男は鎌目志万と名乗り、明日からこの葛原美術館で働くことになっていること、レオナルド・ダ・ヴィンチのことについて造形が深いこと、そして絵画を見ただけでその画家がどんな気持ちで描いているかを見抜く特殊能力を持っていることを伝える。
翌日、鎌目は葛原美術館の館長を務める永田永作(菅原永二)などと会って挨拶を交わす。
しかし、鎌目は学芸員の資格を持っていないことから、唯一この美術館の職員の中で学芸員の資格を持っている森永リサ(生田輝)から見下される。
葛原美術館の親会社で葛原建設の社長を務める羅山和夫(古屋敷悠)は、葛原美術館にやってきてあまりにも閑散としている様子を見て、何か手を打たないとこの美術館を閉館させると言う。
葛原美術館を閉館させないために、美術館の職員が下した決断とは...というもの。
小林さん自身が今作の開幕に際して、普段あまり演劇を見慣れていない方でも楽しめるように、そして演劇というよりは長いコントを観ているような感覚で楽しめたら良いとおっしゃっていた。
そのため、舞台の作りも非常に舞台装置が作り込まれた感じではなくコントで登場するようなあまり装飾のないセットが仕込まれていて、物語性というよりはコメディを楽しむ要素に振り切っているような感触を受ける舞台だった。
故に、演劇好きな私個人としては今一つ物足りなく思ってしまったが、それは好みの問題も大きいだろうと思った。
普段お笑いやコントを見慣れている方にとっては、ストーリーも非常に分かりやすくて単純なので取っ付きにくさはないし、劇場で大笑いすることを主として観劇するのであれば十分満足出来る作品なのではと思った。
演劇好きで脚本を楽しみたいと思って観劇に来た私にとっては、レオナルド・ダ・ヴィンチをテーマとして据えるのであれば、もう少し鎌目がダ・ヴィンチのどんな所に惹かれたのか、ダ・ヴィンチのどんな点が凄いのかを深く掘り下げて欲しかったと思った。
たしかに、映像でダ・ヴィンチの名言を引用したり、彼が考案した軍隊が容易にかつ丈夫に作れてしまう橋を実演したりと工夫もあったが、もっと欲しかったなという印象だった。
それに、唯一の学芸員である森永のエピソードはもっと深掘りして脚本に大きく絡めて欲しかったなと感じた。
父親が森永を描いたという絵画が美術館内にあったが、そこから彼女の家族にもストーリーは繋げられたし、もっと鎌目との絡みを増やして欲しかったなと思った。
ただ、演出としての見せ方で面白いものは沢山あって、それぞれの登場人物が登場するシーンで映像を使って名前を丁寧にテキストで表示させる演出は、誰にでも分かりやすい構造になっていると思った。
また、絵画が舞台美術として登場するのは『モナ・リザ』のみで、それ以外の絵画は額縁しか登場しなくて観客の想像によって補わなければならないという演出は興味深かった。
例えば、和装をした女性の背景が近未来の絵画と台詞で出てきて、観客は小説を読む感覚と同じように文字からイメージを膨らまして観劇を楽しむという過程を取り込んでいたのが素敵だった。
出演者陣も皆全力で童心に返って演劇を楽しんでいる感じがあって良かった。
特に小劇場演劇界隈からオーディションで抜擢された「アガリスクエンターテイメント」の前田友里子さんは、かなり出番も多くて存在感もあって、割とステージのコメディ要素の大部分を担当している感じがあって素敵だった。
また、森永リナ役を演じた生田輝さんも、しっかり者の女性というキャラクター性が活きていて、そこから想像出来る家族との関係や過去も感じ取れるものがあって良かった。
そして鎌目志万役の鈴木拡樹さんは、一人だけ知的で冷静な感じの雰囲気とキャラクターで、だからこそ登場人物の中で際立った存在にも感じた。
演劇好きである私個人的には、脚本をもっと深いものにして欲しいと感じてしまって物足りなかったが、今作の上演意図としては普段観劇をしない人、コントを楽しみたい人、そして子供でも楽しめると思うので、そういった方には非常に満足のいく作品なのではないかと思う。
映画館でのライブビューイングやストリーミング配信もあるようなので、ぜひコントが好きな方には観て頂きたい。
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【鑑賞動機】
小林賢太郎さんは「ラーメンズ」から劇作家・演出家になった方で有名なので、いつかは演劇を観てみたいと思っていた。そして今作は、レオナルド・ダ・ヴィンチや美術館をテーマにしているミュージアムコメディということで面白そうだったのと、鈴木拡樹さんや「アガリスクエンターテイメント」の前田友里子さん、菅原永二さんなど個人的に馴染みのある俳優も出演していたので観劇することにした。
【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)
ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。
夜、葛原美術館の館内を警備員の小島小次郎(辻本耕志)が巡回している。懐中電灯で展示物を照らしながら、各絵画について言及する。その絵画の中の一つに、和装した女性の背後が近未来の風景になった絵画があり、これは一体どういうことだと首を傾げる。
そこへ、夜の美術館の館内に見知らぬ一人の男が現れるのを小島が発見する。不法侵入だと思い、小島はその男を警備室へと連れて行く。
小島がその男に事情聴取をした所、彼の名前は鎌目志万:かまめしまん(鈴木拡樹)と名乗り、明日からこの葛原美術館の職員として働くことが決まっているという。そのため、この美術館にやってきたのだと。小島は、だとしても来る時間間違えているでしょと突っ込む。鎌目は、レオナルド・ダ・ヴィンチのことに詳しく研究を続けており、彼のことについて書かれたダ・ヴィンチ・ノートを集めているのだと言う。そして鎌目は、絵画を見ただけで、その絵画を描いた画家がどんな気持ちでその絵画を描いたのかが分かる特殊能力を持っていると言う。
そんな冴えない感じの鎌目志万だったが、この後この閑散とした葛原美術館を救うことになるのだと述べれられる。
翌朝、鎌目は葛原美術館で働いている館長の永田永作(菅原永二)、経理の樫尾花子(三枝奈都紀)などと出会い挨拶を交わす。鎌目は、自分が学芸員の資格を持っている訳ではないが、レオナルド・ダ・ヴィンチに対する造詣が深く、ダ・ヴィンチの語録をまとめたダ・ヴィンチ・ノートを集めていることを伝えるが、彼が特殊能力として絵画からその画家の心理を読み解くことが出来ることは伏せていた。
そんな鎌目を見た、葛原美術館で唯一の学芸員の資格を持っている森永リサ(生田輝)は、鎌目を学芸員の資格を持っていないことを理由に見下してくる。
場面転換して、美術館には監視員の小池幸子(前田友里子)がいる。小池は海外ロマンスの小説を読むのが好きで、椅子に座って小説を読んでいる。鎌目は小池に話しかけると、小池は小説というのは文章からイメージを膨らませて楽しめるから良いと教えられる。ステージでは、海外ロマンス?と思われるようなコメディが展開される。そしてその後、小池は一人でああ面白かったと呟くが、小池が小説を全部語ってしまっていた分、鎌目にもダダ漏れであった。
葛原美術館に、葛原美術館を運営する親会社の葛原建設の社長である羅山和夫(古屋敷悠)がやってくる。羅山はビジネスを意識した経営者といった存在で、所蔵品も少なく来館者も少なくて閑散としている葛原美術館を見てこう言う。このまま葛原美術館を運営していても赤字が続くだけだから閉館してしまおうと。
しかし、館長たちは反発する。どうにか葛原美術館を存続させるために、来館者を増やすような企画を実施するから閉館させないでくれと。羅山は永田館長の言葉を聞いて、ひとまず様子を見ようということで去っていく。
葛原美術館の池、池には鎌目と葛原美術館に配属された大工の鰤田勘次(中條孝紀)がいる。二人で池で釣りをしながら、葛原美術館を存続させるために頑張らないとと考える。
鎌目はここで、レオナルド・ダ・ヴィンチが考案したという軍隊が川に簡単に作ってかけられる丈夫な橋の話を始め、それをこの池にかけてみようということになる。葛原美術館の職員たちは、材木を集めて橋を実演で作ることになる。そして、その橋を鰤田がスムーズに渡る。
出来上がった橋の材木を一本一本除いていくと、途中で一気に橋は崩れてしまう。
鎌目のモノローグが始まる。鎌目は、レオナルド・ダ・ヴィンチのダ・ヴィンチ・ノートを集めるためにイタリアを旅したことがあったが、ダ・ヴィンチもフィレンツェからミラノに移動していた。ダ・ヴィンチは芸術家、医者、発明家など複数の職業を持っていたが音楽家でもあり、彼の弟子にはシンガーになった人もいたという。
葛原美術館に集まって、職員たちは話し合う。森永はかつて自分の父親とこの美術館に来た時のことを語る。父親との良い思い出だったと言わんばかりに。そして、和装した女性と背景が近未来の絵画について語る。この絵画は、森永の父が描いたものだった。父が森永の母をモデルにして描いた絵だと。
しかし、鎌目はそれは違うと言ってしまう。この絵画は森永の父が母親をモデルにした訳ではなく、子供だった森永リサが大人になる姿を想像して描いたのだと。周囲の人間は、どうしてそんなことが鎌目に分かるのかと不思議そうにしている。
警備員の小島は、鎌目には絵画を見るだけでそれを描いた画家がどんな気持ちで描いていたのかを読み取る特殊能力があると言ってしまう。言った後に小島は、これみんなに言ってはいけなかったのかという素振りをしたが。
美術館の可能性を感じた職員たちは、一致団結して展覧会を企画し葛原美術館を存続させようと奮起する。職員たちは一丸となって手を重ね合わせて気合いを入れるが、そこに鎌目も入る。鎌目はステージの一番手前側で背を向けてしまい周囲に注意される。
職員たちは、「行こう!行こう!美術館へ」と替え歌を作ってCM音楽をまずは作成する。みんなで歌いながら踊る。
それから職員たちはみんなで一つの絵画を描き創作する。
展覧会まで30日から15日となり、その日が近づいてくる。鎌目は、レオナルド・ダ・ヴィンチのレプリカを葛原美術館に仕入れようと試みる。美術館の中には、レプリカを飾っている場所もあるからレプリカでも来館者はきっと喜んでくれるはずだと。ステージ上手側には『モナ・リザ』の絵画のレプリカが運び込まれる。鎌目は『モナ・リザ』について解説を始める。『モナ・リザ』には、その絵画の背後には別の女性が描かれていると。
そして、いよいよ展覧会当日になる。展覧会は、想像以上に来館者が訪れて好評であった。親会社の葛原建設の社長の羅山も、葛原美術館の展覧会の盛況ぶりに心動かされ、美術館を存続させても良いと言ってくれる。
展覧会の翌日、職員たちは展覧会の成功に歓喜している所へ、鎌目がやってくる。鎌目は、ダヴィンチアカデミーに合格して、そちらで学ぶことになったので、葛原美術館の職員であることを辞めることになったと告げる。職員たちは寂しそうにしていたが、今後の展覧会の運営は任せてとばかりに言う。
そして、職員たちは森永と鎌目が若い男女であるからということで、困難を乗り越えた後の恋愛感情的なものがないのか気にしていたが、森永は鎌目に対してそんな気持ちは全くないときっぱりと言う。そこから小池がふざけて鎌目に恋心があるかのようなギャグを言い出す。
それから1年後、葛原美術館はあの展覧会から来館者は増加していき、度々開催している展覧会も好評で忙しくなっていた。小池も、最近は小説を読んでいる時間はないと言う。
すると展覧会に鎌目がやってくる。あれは鎌目じゃないかと職員たちも鎌目を凝視している。職員は森永に対して、気持ちを早く伝えてこいと声をかける。森永も1年前はあんなことを言ってしまったが、今度こそはと声をかけ気持ちを伝える。
鎌目は、その言葉に対して「?」というリアクションをするが、そのまま落とし穴に落ちていってしまう。そして鎌目は、穴の中で森永に対して「好きだ」と告げる。ここで上演は終了する。
起承転結がはっきりしていて、脚本としてはとても分かりやすい構成で子供でも楽しめる内容になっていた。美術館が存続の危機になってしまい、みんなで一致団結してなんとかして復活させるという構造も分かりやすいし、なんと言ってもレオナルド・ダ・ヴィンチの名言や彼が成した偉業も分かりやすく登場するので、子供の勉強にもなると思う。
ただ、演劇としての脚本を楽しみたかった私にとっては、もっとダ・ヴィンチの偉業を研究してそれを上手く脚本に盛り込んで欲しかったし、玄人でもワクワクさせてくれる要素を盛り込んでくれた方が良かったが、多分今回の上演意図としては、そこはスコープ外なのだと思う。
そして、ラストの森永と鎌目の甘酸っぱい感じの終わり方はベタだけれど私は好きだった。
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【世界観・演出】(※ネタバレあり)
小林さんがコントを意識しているからか、思ったよりはシンプルな舞台セットに感じられ、舞台美術を楽しむというよりはコントを楽しむことに振り切った世界観・演出に感じた。
舞台装置、映像、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていく。
まずは舞台装置から。
ステージ後方には下手側から上手側まで横にずっと伸びた白い段が存在して2段舞台となっている。基本的には、ステージの一段目が美術館で美術品が展示されているエリアを想定していて、2段目では葛原建設の社長が登場したり、鎌目が最初のシーンや最後のシーンで登場するなど、ちょっと目立たせる立ち位置で使われていた印象である。
序盤では、警備員の小島が鎌目を連行して警備室に連れて行くが、その警備室が割と具象舞台装置として作り込まれていた。そのシーンになるとステージの捌け口から移動して現れて、机や椅子など色々なセットが運び込まれていた。
また、天井からは複数の額縁だけが吊り下げられて、何か絵画が展示されていることを表現していた。この演出は個人的には好きだった。もちろん、そこには何らかの絵画があるという想定なのだが、その絵画に対して登場人物が口頭でしか説明をしないので、観客はそこにどんな絵画が飾られているかを想像するしかない。そうやってイマジネーションさせることこそが、美術館においては大事だし、もちろん演劇においても、芸術鑑賞というものでは大事であることを示唆した演出になっていて良かった。たとえば、和装した女性が描かれていて、その背景が近未来の風景であると台詞で登場しても、観客はそれぞれにその絵画について想像すると思う。特に、近未来の風景というのは人によってもイメージしているものが異なると思う。これに正解や不正解などなくて、観客が想像した数だけイメージも存在すると思うし、だからこそ芸術鑑賞は良いのだよなと思わせてくれる演出で好きだった。
一方で終盤では、上手側の奥のパネルにかの『モナ・リザ』が展示された。『モナ・リザ』は誰もが知る有名な絵画だとは思うが、子供たちにとっては教養になって良いのではないかと思う。『モナ・リザ』と言うと、観客はみんな同じあの『モナ・リザ』をイメージすると思うが、和装した近未来が背景の絵画というと人によってイメージはバラバラで、そこがイマジネーションの良さだよなと改めて思う。
さらに、ダ・ヴィンチが考案したとされる軍隊が簡易的に丈夫な橋が作れるという技術も、実際に木材を持ち込んで実演していたのも良かった。ダ・ヴィンチの橋と呼ばれて有名な橋で、接着剤を使わずに人間が渡れる丈夫な橋を簡単に作れるというもので、こういうのも子供たちの教養になっていて、かつ演劇としての良さも活かした演出になっていて良いなと感じた。
次に映像について。
今作では、背後に白いパネルが設置されていてスクリーンとして機能させることが出来るのを良いことに、様々な映像演出を用いて分かりやすく視覚的に表現していたと感じた。
一番良い例が、ダ・ヴィンチ・ノートに書かれているダ・ヴィンチの名言を映像にテキストで表示させて読み上げる演出である。非常に大人でもグッとくる名言も多くて良いなと感じた。
また、登場人物が初めて登場するごとに役名とビジュアルが同時に映像で説明されるのも良かった。普段の演劇だとそこまで分かりやすくしてしまったら悪手だと思うが、今作では多くの人に親しみを持って演劇に触れて欲しいと言う意図であるならば、そんな演出もありだと思った。
あとは、『最後の晩餐』を原寸大で映像として投影したり、『モナ・リザ』の背後には実は別の女性が描かれているというのも映像で表現していて視覚的に分かりやすかった。
次に舞台照明について。
一番照明にアクセントがかかっていたのは、葛原建設社長の羅山和夫の登場シーン。まるで悪役でもあるかのような紫の照明と光が斑点模様で大きな円を描くような照明を映し出していて、非常に邪悪な存在に感じさせるのが良かった。
あとは、割と白いスポットで照らしたい出演者に対してスポットライトが当たる演出が多かったように思う。序盤の夜のシーンでの鎌目に当たる照明とか良かった。
次に舞台音響について。
比較的楽しい音楽を挿入しながらの演出で、コント見ている感覚として楽しい気分でいられた。
「行こう!行こう!美術館へ」のCMの替え歌音楽もベタだけれど、子供には受けやすいと思う。こうやってみんなで歌って踊って演技をするのは、観ている側も楽しく感じてしまう。
あと、ダ・ヴィンチ・ノートのダ・ヴィンチの名言を読み上げる際の男性の声が威厳あって好きだった。
最後にその他演出について。
小林さんの脚本のコメディは、割と台詞で笑わせてくる系の演劇なのだなと感じた。言葉遊び的な、言葉のずれによって生じる笑いが多く、そこで会場も沸かせていたと感じた。
しかし、それでもラストの鎌目が落とし穴に落ちていってしまう演出には驚いた。こういう仕掛けがあったのだと驚かされた。鎌目がクールなキャラで、そういうのにリアクションできる感じではないからこそ、余計に意外だったしびっくりした。
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【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)
割と初めて舞台で演技を拝見する方も多かったが、皆割と童心に返って演技をしている所に、役者陣が楽しんで演技をしているところからエネルギーをもらえて素晴らしかった。
特に印象に残った役者について見ていく。
まずは主人公の鎌目志万役を演じた鈴木拡樹さん。鈴木さんの演技は今作で初めて観劇する。
普段は鈴木さんがどんな演技をされているか知らないが、今回の役はかなりクールな役だったのでその味が十分に出ていて良かった。クールで知的なのだけれど、どこか抜けている所がある。割と人気の出そうな(というか出ているか)俳優さんだし役柄だなと思った。アニメでもよくありそうなキャラクターだった。
鎌目志万という字面だけ最初見た時は何やら格好良さそうな役だななんて思っていたが、実際に観劇時に音として役を聞いた時に、「かまめしまん(釜飯マン)」か!となって笑った。釜飯マンに全然音ととして聞くまでは変換出来なかったので、ネーミングセンスも良いなと思った。一見格好良さそうに見えて実はズボラだったみたいな感じが良かった。
ただ、鈴木さん演じる鎌目がレオナルド・ダ・ヴィンチの功績を知的に説明したりすると、それは非常に格好良くも見えて舞台映えもしていて良かった。
ラストの落とし穴に落ちて、結局森永に好きと伝える終わり方は何だかアニメっぽかった。確かにこう言う脚本の作り方だと、演劇を普段観ない観客にも受けそうではあるから良いのだと思う。
次に、森永リサ役を務めた生田輝さん。生田さんも今作で初めて演技を拝見する。
森永に関しては非常にキャラクター設定が好きだった。まず、父親をおそらく亡くしているが、父親とこの美術館に小さい頃に訪れた記憶が彼女にとって忘れられないのである。だからこの美術館に対して特別な愛着を抱いている。また、父親が描いた絵画が実は自分の大人になった姿だったと知ったのも衝撃的だったと思う。
非常にしっかり者で学芸員の資格も持っているくらい勉学に対しても真面目に励んできたのだと思う。だから人に頼ることが苦手で、なんでも自分で解決してしまうくらい自立していた。
しかし、どこかで誰かに頼りたい欲求もあったのかなと思う。だから徐々に鎌目に対して正直でいたいと思ったのかもしれない。
そんなしっかり者的な若い女性役が生田さんはハマっていて良かった。
そして、監視員の小池幸子役を演じた劇団「アガリスクエンターテイメント」の前田有里子さんも非常に素晴らしかった。
まずオーディションで、小劇場界隈から前田さんがキャスティングされたことから嬉しかった。小林賢太郎さんの作品に出演されるのだと嬉しかった。
小池は、小説からイマジネーションによって物語の世界に浸ることが好きなキャラ。でもこれって絵画を鑑賞する時とも同じだよなと思わせてくれて良い。小池がイマジネーションした世界がステージ上にコメディとして立ち上がってくるシーンは好きだった。
また、小池という役によって会話をコメディへと上手く導いていて場を盛り上げる感じも上手くて、この座組みにハマっているなと感じた。あそこまでナチュラルにコメディを演じられるの凄いなと思いつつ、さすが小劇場で長年やってきた人だとも思えた。
最後は、葛原建設社長の羅山和夫役を演じた古屋敷悠さん。古屋敷さんも今作で演技を初めて拝見する。
あのビジネスマンとしてカリスマ性の高い感じで葛原美術館を脅してくる演技が好きだった。威圧感あって悪者のようにも感じられて、インパクトがとても強かった。
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【舞台の考察】(※ネタバレあり)
ここでは今作に関する私個人の感想と、レオナルド・ダ・ヴィンチについて記載しておく。
今回初めて小林賢太郎さんの演劇作品を拝見したのだが、今作に限って言えば、非常に演劇を初めて観る方や子供、そしてライブビューイングやストリーミング配信といった映像としても楽しめる形で上演された演劇作品に感じられた。これは、小林さんが今作で目指したい作品の理想像でもあるような気がしたので、狙い通りの作品になったのではないかと思う。
コントの要素が強くて、観客を笑いの渦に包み込むような演出が多かったのでコント風の演劇だったと思う。私がコント風の演劇だったとしてもイマイチ楽しめなかったのは、コント風の演劇というと「ダウ90000」の作品が強くて、そこと比較してしまうと脚本の面白さ的に見劣りしてしまったからかもしれない。「ダウ90000」はコントとしても大爆笑して楽しめるが、それ以上に脚本がしっかりしているのが素晴らしく、演劇好きでもその物語性に心動かされることも多いので凄いなと思う。正直今作を観劇して、改めて「ダウ90000」は凄いのだなとも思った。
ただ、小林さんの主戦場は、今作のような外部公演というよりは、「シアター・コントロニカ」だと思うので、今度はそちらで小林さんの作品を拝見してみようかなと思う。
レオナルド・ダ・ヴィンチは、あらゆる職業を兼ね備えた万能の天才というイメージで、『最後の晩餐』や『モナ・リザ』やダ・ヴィンチの橋は有名なのでよく知っていた。個人的には、もっとなるほどと思わせるダ・ヴィンチのエピソードを期待したが、万人向けであるなら今作くらいが丁度良いのかもしれない。
それにしてもダ・ヴィンチ・ノートには、今の私たちにもグサッと刺さるような名言が多いことは驚かされた。もちろん、刺さるようなものをピックアップしているのだと思うが、それを脚本に落とし込んで映像で投影するのは面白いなと感じた。
どうして鎌目がそこまでレオナルド・ダ・ヴィンチに固執するのかは気になった。もしかしたらストーリーの中で触れていたかもしれないがもう少しその辺りを知りたかった。
かつて映画『ダ・ヴィンチ・コード』というのを見たことがあって、ダ・ヴィンチをモチーフにしたミステリーサスペンスだったので、今作でもそういう推理的な要素も含まれるのかと思ったが入ってこなかった。
ダ・ヴィンチは、ダ・ヴィンチ・ノートを鏡文字という形で左右を反転させて残していたり、『モナ・リザ』もその背後に別の女性が描かれていたり、その微笑はどういう意味を持っているのか、モチーフは誰なのかなど分かっていない。だからこそ、その絵画を描いた画家の心情を読み取りたいという強い欲求と特殊能力が、鎌目をレオナルド・ダ・ヴィンチに固執させていたのかもしれない。
森永が本当は父が母をモデルにして描いたと思っていた絵画が、実は自分をモデルにしていたと分かったように、きっと『モナ・リザ』ももしかしたら驚くべき人物をモデルにしていたかもしれない。
芸術とは、存続させ残していくものである。学芸員はそれを担う役割がある。それは例えば面白い企画を打ち出して、多くの来館客を呼び込むことなのかもしれない。
確かにこうやって色々書いていると美術館へ行って、その作品がどういった意図で描かれたのかを深く観察してみたいなという気持ちにさせてくれる。
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↓前田友里子さん過去出演作品
↓菅原永二さん過去出演作品