見出し画像

アメリカの流通視察を経てスーパーマーケットが提供できる「顧客への価値」を改めて考える。

YRK&に入社3年目の私、阿比留は現在国内の大手流通小売業様の販促支援を中心にコンサルティング支援しており、コンサルタントとしての視野を広げるため、アメリカの最新流通小売業の実態を学ぶために、アメリカ視察へ行ってまいりました。

視察では、アメリカで大手の3つのスーパーマーケット「ウォルマート」「アルディ」「トレーダージョーズ」をメインに見て回り、各々独自のマーケティング戦略や"顧客への提供価値の在り方"を学ぶことが出来ました。

日本のスーパーしか知らない私にとってはとても驚かされる事ばかりでした。
現代の日本のスーパーでは、各社際立った戦略や他社との明確な差別化ポイントなどは感じにくい現状なのに対し、アメリカでは各社の明確化したマーケティングや戦略、販売戦略、小売り市場のポジショニングに至るまでが店頭を見ればわかるというレベルまで徹底的に展開されているのです。

本コラムでは、このアメリカ視察で実際に見てきたスーパーマーケットの実態と、そこから学ぶ『スーパーマーケットが提供できる「顧客への価値」』を独自の解釈で解説していきます。



■世界最大の小売企業ウォルマート

ウォルマートは世界最大の小売企業として君臨し、現在も進化を遂げています。
ウォルマートの主なマーケティングは「Everyday Low Prices(EDLP)」を中心に据え、低価格と幅広い商品のラインナップを提供することやプライベートブランドを強化する事によって、多様な顧客層のニーズに答え、ワンストップショッピングを実現しています。
また現在は新店の出店数を減らし、既存店舗の大規模な改装やより顧客のニーズに答える施策、DXの強化を行うなど自社サービスの強化に注力をしております。

その他にも市場によって様々な層の顧客を取り入れができる様に店頭や取り扱いの商品を変化させていくなど、大規模な企業でありながら細かく市場のポジショニングを変える柔軟性も感じられました。
実際に視察を行った店舗では店全体の装飾に圧倒され、買い物をする事以上に売場を回るだけで楽しめる細工など、日本のスーパーには感じられない店頭演出の強さを感じました。
それではウォルマートについて下記に紹介させていただきます。

・低価格戦略(Everyday Low Prices)の展開

ウォルマートの最も特徴的で主となるマーケティング戦略は、常に低価格で商品を提供する「Everyday Low Prices(EDLP)」戦略であり、現在の日本でもよく耳にする戦略を展開しております。
ウォルマートは大型店舗が多く、大量の仕入れ力と効率的な物流ネットワークを活用してコストを抑える事で、消費者に対しても常に安く買い物ができるという一貫した価値を押し出す事で、顧客からの信頼の構築に繋がっています。

・プライベートブランドの展開・強化

ウォルマートは、プライベートブランド「Great Value」を通じて消費者に高品質で低価格な商品を提供しています。
プライベートブランドの展開により更に低価格での顧客への提供を可能としています。
また現在では新しいプライベートブランド「ベターグッズ」を展開しており、「ワンランク上の料理体験」を掲げ、これまでのプライベートブランドを覆した、高価格帯のプライベートブランドの展開に力を入れ、低価格帯~高価格帯までを抑える事に成功しています。
現在の日本ではプライベートブランドは安いという印象があるのに対し、ウォルマートでは安さだけでなく、高品質で高価格というブランド展開に成功し、現在のプライベートブランドの在り方にも変化を加えています。

・デジタルとオムニチャネル戦略

海外流通が力を入れている流通のデジタル化、この領域においてもウォルマートは他企業に比べ最前線を走っています。
具体的なサービスは「Walmart+」アプリから始まり、ECの充実化、ピックアップサービス強化などのデジタル化に総投資の70%投資するなど積極的に行っています。
「Walmart+」ではアプリ会員になる事でスキャン&ゴーというレジを待たず決済を完了させるサービスを提供するなど、会員に向けたサービスを充実させ、顧客の囲い込みを行っています。
またオンラインストアと実店舗を連携させることで、消費者はオンラインで注文した商品を店舗で受け取ることができるなど利便性の向上を行っております。
このオムニチャネル戦略は、特に忙しい消費者にとって魅力的であり、顧客体験を向上させファン化を実現しています。
さらに今後は、決済やEコマースなど各種のサービスを統合したアプリが重なることで、様々なサービスがアプリで展開する事が可能になります。今後は更に「顧客とデジタルでつながり続ける」企業になると考えられています。

【結論】

ウォルマートのマーケティング戦略は、低価格戦略、プライベートブランドの展開、デジタルとオムニチャネル戦略が大きな軸となる戦略を取っています。
この戦略によりウォルマートは消費者から厚い信頼を得ており、現在の世界の小売り業界で1位に君臨しています。
私自身強く感じたことは、店頭演出、顧客のニーズに答えるデジタルの進化はこれまで行ったスーパーで圧倒的だと感じました。
更に今後も明確な戦略をうちだし、成長を続けるウォルマートには流通小売りの更なる進化に期待してしまいます。

■徹底したローコストオペレーションで店舗拡大を行うアルディ(ALDI)のマーケティング戦略

アルディ(ALDI)は、ドイツ発祥のディスカウントスーパーマーケットチェーンであり、アメリカを含む多くの国で展開しています。その成功は、徹底したローコストオペレーションに基づいており、低価格で高品質な商品を提供することに重点を置いています。

実際に店舗を視察した時には、店舗はコンパクトで300坪程度である事を活かし、可能な限り人件費がかからないオペレーションの工夫が施されていました。
そのオペレーションの中には、日本のスーパーでは中々見られない工夫がありました。以下に、アルディの戦略やオペレーションについて詳しく説明します。

・低価格戦略の実現

アルディの最も顕著なマーケティング要素は、ウォルマートと同様に常に低価格で商品を提供する「Everyday Low Prices(EDLP)」戦略です。

ただウォルマートと異なり、大規模な店舗で大量仕入れを行っているわけでは無く、店内の商品数を少なく保ち、商品の大量入荷を行う事で仕入れ単価を下げる事により低価格で商品を提供する事を可能としております。

また同時に効率的で人件費を可能な限り削減する事を突き詰めた店内オペレーションを行い、不必要な作業を省いた販売戦略を展開し低価格戦略を実現しております。

・徹底的にコスト削減を行った店舗運営

アルディの店舗は約300坪程度とコンパクトな店舗が多く、人件費や広告費を最小限に抑えることで徹底的に店舗運営に関わるコストの削減をしています。
実際に店舗では、陳列は各商品を大量にパレットでの陳列、加工が必要なお肉などもアウトパックで仕入れるなど店内での一切加工をしなくて良いオペレーションを実現しています。

さらには価格変動の多い生鮮商品には電子棚札を採用し売価変更作業をカット、バックヤードから直接品出しをできる構造にする事で、総じて作業の効率を行い、運営コスト削減するなど徹底し効率化が図られていました。

ここまでオペレーションや仕入れを徹底し、顧客に一貫した価値伝えることは素晴らしいと思ったと同時に、店舗は人の活気や従業員が少ないこともあり、人の温かみなどは感じられづらく、買い物をするという事を楽しみたい人にとっては不向きなスーパーであり、スーパーにおいては人の温かみが感じられる瞬間をどう作り出していくかが重要だと考える。

・プライベートブランドの強化

アルディは全体の商品割合の80%はプライベートブランドが取り扱われており、現代の日本では考えられない程の割合だと思います。
プライベートブランドの強化を行う事で低価格・高品質な商品を実現することが、低価格戦略を行う上で重要な要素となります。
ではアルディーはどの様にこれまでのプライベートブランドの割合を締めても売上が確保できているのか?
それはプライベートブランドの良く陥りがちな似たような商品が多く消費者が飽きてしまうという課題に対し、各商品ごとで異なるパッケージを採用する事や同じ商品を1つにとっても複数SKUを展開する事でプライベートブランド内でマルチブランド戦略を展開し、プライベートブランドを消費者に飽きさせない工夫が施されていました。
日本では海外に比べプライベートブランドの普及していない現状があり、そこには市場の違いや多くの環境的な要因があると考えますが、海外のブランドづくりから学ぶ事は多くあると改めて感じさせられました。


【結論】

アルディのマーケティング戦略は、徹底的に効率化を行ったオペレーションを行い、PBを強化する事で低価格で高品質な商品を顧客に提供し続けています。
更にアルディーは過去に友人に紹介したいスーパーランキング1位に選ばれるなど安さから信頼をつかみお客様に高く評価されています。
店舗を視察した際に、自社の掲げている戦略が店頭から感じ取れる事で、一貫した価値を提供できる事は同時に顧客のファン化に繋がって行くと思い知らされました。

■圧倒的な独自価値を提供し続けるトレーダージョーズ(Trader Joe's)

トレーダージョーズ(Trader Joe's)は、アメリカのスーパーマーケットチェーンとして独自のマーケティング戦略を展開し、これまでのス―パとは異なったユニークな顧客体験を提供することで多くの消費者から支持を得ています。

これまでの紹介させていただいたスーパーと違い、デジタルなどを駆使せず店頭での演出や接客にこだわったスーパーとなっていました。
今回のアメリカ流通視察を通して、一番好きなスーパーになりました。
それではトレーダージョーズについて下記に紹介させていただきます。

・PB製品を用いた顧客のファン化

トレーダージョーズは、アルディーを超える約90%がプライベートブランド商品の提供に成功しております。
これだけのプライベートブランドを提供できている理由は、プライベート商品のユニークさとその戦略にあると考えます。
プライベートブランドで提供している商品は国際色豊かな商品を取り揃えており、パッケージもカラフルなど様々な角度で価値を提供しています。
また戦略の部分では、トレーダージョーズはオンライン販売は一切ないため、購入したい商品がある場合は店頭に足を運ぶ必要があり、そこで新たな商品の発見の機会を提供できるこの循環を実現でき、90%以上のプライベートブランドが提供できていると考えられます。

・徹底した顧客中心のサービス

トレーダージョーズ最大の特徴でもあり、他社との明確な差別化ポイントは、店舗スタッフのコミュニケーションと顧客中心のサービス、温かみの感じる店頭演出が複数展開されている事です。
トレーダージョーズの店舗にはたくさんの従業員が在中しており、全員が声をかけてくれるなど、とにかくフレンドリーで親切な接客を行っていました。

私がこのスーパーを好きだと思ったポイントは、店員さんからのフレンドリーなコミュニケーションにあります。
その他にも現在もセルフレジを1台も採用せず、全て有人レジでの対応を続けている事や店舗では複数の試食コーナーが設置されているなど従業員と顧客のコミュニケーションをとにかく重要視した店舗造りになっています。
これにより、顧客満足度が高まり、リピーターの増加につながっています。

【結論】

トレーダージョーズのマーケティング戦略は、徹底した顧客中心のサービス展開によりとにかく温かみが感じられるスーパーマーケットでした。

まとめ【「顧客への価値」はどこにあるのか?】

これら、3つのスーパーマーケットはそれぞれ異なるマーケティング戦略を通じて競争力を高めています。
ウォルマートは低価格と幅広い商品ラインナップで市場を支配し、アルディはシンプルで効率的な運営と高いプライベートブランド率でコストパフォーマンスを強調しています。
一方、トレーダージョーズはユニークな製品と人が温かみを感じられる接客を通して顧客中心のサービスを提供しています。

3社含めアメリカの流通小売りは、明確に戦略を押し出し一貫して価値を提供することで、各社明確に差別化を図り、それぞれの企業が市場での地位を強固にしています。

ここで考えたいのは、タイトルにも書いた「顧客への価値」です。

そもそもスーパーマーケットが提供する「価値」とは何なのか?
1930年頃に登場したスーパーマーケットという業態は、欲しいものごとに何軒も店を回るのではなく、ひとつの店でいろいろなモノが買える。その上で「安くて、近くて、便利で、大きい」事が元来のスーパーマーケットの「価値」でした。

しかし、流通小売市場は当時から大きく変貌を遂げ、EC・D2C・コンビニ・専門店など数え切れないほどの業態がひしめくようになり、スーパーマーケットという業態に求められる「価値」は時代の流れで変化し続けていると思うのです。

そして、その「価値」は顧客の属性によっても大きく変わります。

とにかく安さを求める顧客へ価値を最大化できるのはアルディであり、
店員とのコミュニケーションを大切にしたい顧客へ価値を最大化できるのは、トレーダージョーズであり、店舗でもECでも、どこでも買えて、どんな価格帯でも選べるという利点を求める顧客への価値を最大化できるのは、ウォルマートです。

今回視察した3つのスーパーマーケットは、このターゲットとする顧客への価値最大化を「安くて、近くて、便利で、大きい」事以上に集中させることで、独自の付加価値を生み出しているわけです。

現代の日本のスーパーでは各社で取扱商品や価格に大きな差はなく、看板を隠すとどこのスーパーか分からないなどリテールにおけるマーケティングの姿勢にアメリカと大きな違いがあると感じています。

今後は少子化などの環境要因により、今後流通業界にも大きな変化が起こると考えられます。各社スーパーの特徴や戦略を中心に据え、顧客に一貫した価値を提供していく事が、今後日本のスーパーに求められると思うのです。

※今回は、米国流通視察ツアーに参加のため、特別に店頭撮影の許可をいただいております。