#大学入試 #小論文指導|添削と日常生活のポイントは?
10月になりました。
各高校でも3年生の入試対策に、より一層熱が入っていると思います。皆さん、小論文指導はどのように行っているでしょうか。
今回は私の経験から、
小論文指導の基本
について書いてみます。
どれも当たり前のことばかりです。しかし、基本ほど大切なものはありません。プロフェッショナルほど基本を大切にしています。
例えば、元サッカー選手の中田英寿さんも
「派手で美しいプレーを見せようと思ったら、地味な練習を死ぬほどしないと。基本があれば、1を100にだってできるんだから。基本がない選手は、いつか消えていくでしょう」 と言っています。
まずは、学校の指導体制が大切です。
うまくいかない事例を挙げます。
・指導計画(5W1H)に問題がある。
・指導計画に対する共通理解が弱い。
・特定の教員の過負担になっている。
・指導方法に関する研修がなく、担当者に任されている。
管理職の先生方は、是非ともこれらの体制を一度、確認・見直しをしていくと、学校全体の指導レベルが上がっていくと思われます。
(こうした問題は、面接指導とも共通していますね。こちらを併せて読んでみてください。)
さらに、小論文では過去問を活用した指導が必須です。難易度が高い課題には、教員側にも余裕のあるスケジュールが必要だということを、併せてお知りおきください。
さて、
生徒が書いた文章への指導ポイントは?
第一に、次のような文章の基本を守ることです。
① 主述が正しく対応している
② 誤字・脱字がない
③ 語の用法が適切
④ 接続詞が適切
⑤ 文章構成(序論・本論・結論など)が整っている
⑥ 簡潔でわかりやすい(不要な言葉や繰り返しの表現を避ける)
基本の指導は大切です。完璧な文章を書き続ける生徒はいませんから、最後までチェックを怠ってはいけません。
第二に、問題文を正しく理解しているか確認すること。
問いに正対することが意外とできていません。何を問われているのか、何が求められているのか。
問題の資料(文章、グラフ、図など)について、基本知識があればより良いですが、与えられたものを正確に読み取れば十分解答できることがほとんどです。
したがって、落ち着いて読み解くことが大切です。慌てていると、思い込みで分かったつもりになってしまいがちです。よく読み、内容を咀嚼することがミスを防ぎます。
問題文の字数指定を守れているかどうかの確認も必要です。
第三に、客観と主観を区別できているか。
誰にとっても同じ客観的事実と、自分の主観的意見。
これも慌てて書くと混ざってしまい、どこが書き手が考えたことなのか伝わらない文章になります。「ここが私の主観=意見」だと認知させます。
それが単なる思い込みではないか、どこかで聞き齧ったことを鵜呑みにしているだけではないか、自分の数少ない経験から独断していないか、別な視点で考えることはできないか、など批判的に検討することが大切です。
第四に、論理的で説得力のある文章にまとめること。
ポイントとしては、
・理由や根拠を示す
・比較し、論じる
・具体的な事例を示す
・よく使われている重要語をあらためて定義する
などがあります。
重要語の定義とは、例えば――
「主体的・対話的で深い学びが求められる。ここで”主体的”とは、興味・関心を持ち、自ら問いを立てて答えを出そうとすること、学びのプロセスをメタ認知し、調整・改善することを意味している。」
このように使います。
次に
教師の皆さんへ、添削についてアドバイスです。
生徒に代わって書かないことが大原則です。
先生が直してしまうと、生徒は考えなくなります。直された文章がどんなに素晴らしくても、応用ができません。
答えを与えるのではなく、粘り強く問いかけ、生徒の思考と表現を促しましょう。
ただし、問答の繰り返しに時間がかかってしまい、次の練習に進めないケースもよくあることです。
したがって、やむを得ず解答例を示さなければならないこともあります。その際は、生徒自身の文章や考え方をできるだけ生かすこと、そして、なぜそうした解答例になるのか、生徒が理解したことを確かめることが大切です。
ところで、今は生成AIを活用することも可能ですね。
私はこの夏、管理職試験に向けた校長採用の練習論文の添削を行いました。
試しに生成AIへ「論文題に正対した解答が示されているか」「論理的か」「日本語の文章として問題がないか」などの観点から添削の指示をしました。結果として、それなりのアドバイスが出てきたと思います。
また、次は同じ論文題で「解答例」の作成を指示してみました。
概ね適切な回答でしたが、北海道(特定の地域)の教育事情を考慮するのが難しかったようです。また書き手の「個性」を入れることはできません。(私のプロンプトがより適切であれば、そこも加味した文章になるかもしれませんが)
いずれにせよ、生成AIの文章は参考にはなります。
文法上の誤りは指摘してくれますし、一般的な回答を見れば、自分に不足している知識や抜け落ちている視点に気づけます。
しかし、それはあくまで参考です。その文章から学んだ上で、再度、自分の言葉で自分の考えを書き綴ることが大切です。
最後に、強調したいことは、
日常の教育活動が小論文を書くベースになる
ことです。
小論文を書くのに必要なのは、読む力、書く力、幅広い知識です。(読解力の指導については、このシリーズが参考になります)
何よりも、日常的に読む習慣がなければなりません。
毎日読んでいる教科書から得られる知識や視点は大切です。しかし、教科書以外の本にも慣れる必要があります。
新聞はどんどん読まれなくなり、今や、先生でも読まない時代になってきました。しかし、小論文を書くためには新聞で取り上げられたニュースを知っておくことが必要不可欠です。
財政支援により、学校には必ず新聞があります。 先生自身が新聞に目を通し、生徒を誘うのが望ましいです。
かつて同僚だった公民科のN先生は、授業でこんな取り組みをしていました。
まず生徒がピックアップした新聞記事の内容と感想・意見を述べます。先生はそれに補足説明、コメントをします。生徒がどの記事を選ぶかはわからないので、先生は特定の準備ができません。生徒たちはその場の即興、真剣勝負に聴き入っていました。
また、別のS先生は「朝新聞」に取り組んでいました。
新聞記事と質問を載せた、お手製プリントの配布です。生徒は記事を読み、理解と思考に関わる質問に回答します。最初はS先生のクラスだけでしたが、他の先生から「うちのクラスでも」、ということで学年全体で実施するようになりました。
他にも、NIEの実践も参考になるでしょう。
もちろん、書く習慣をつくることも重要です。
長い文章でなくて構いません。書くことへの抵抗感をなくし、記述の基本を確かにします。
これについては、元茨城県立並木中等教育学校校長の中島博司さんの実践が素晴らしいです。「R80(アールエイティー)」といいます。
授業を振り返り(Reflection)、再構成する(Reconstruction)のRです。重要なポイントについて必ず二つの文を接続し、80字で表現します。
また、私は度々「三行日記」を勧めています。頭と心を整えながら、書く習慣を身につけるのに役立ちます。
知識については、何と言っても「授業の活用」です。
授業参観をしていて「もったいない」と思うことが度々ありました。
授業の内容を、ニュースや一般的な知識・話題に結びつける。それだけのことで変わってくるからです。
「今日はゲストとして、日本銀行の支店長様にお越しいただきました。」
日本銀行で思い出すことといえば?/最近、銀行のニュースはありましたか?/金融について知りたいことは?
「今日はバスケットボールをやります。」
バスケットで何を連想する?/『スラム・ダンク』を読んだことある人?/八村塁はロサンゼルス・レイカーズに所属しているね。ロスについて知っていることある?
などなど、全ての教科・科目で実践できるでしょう。
朝や帰りのSHRでも、知的好奇心を刺激する題材を提供できます。
私は若い頃、SHRでの伝達事項が多くて必死になっていたときに、先輩の先生から「おい、ハヤシ。ただの連絡黒板になっていないか?」と言われ、ハッとしたことを覚えています。
・進路指導は、そのために用意された時間だけのことではない。
・学びのモチベーションを上げるのは、授業中だけのことではない。
・「知りたい」という気持ちを刺激する場は、いつどこでもつくれる。
少しずつ、そう考え、実践するようになりました。
小論文を書くこと。
問いを理解し、自分が有する知識や視点を引っ張り出し、論理的に説明すること。
人生を生きるためにも、よりよい社会をつくるためにも、大切な力を育むことができる素晴らしい機会です。
<参考書籍>
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