突如紛糾した改革会議…大学の不祥事との関係は?“私大ガバナンス改革”を振り返る①
2021年から文部科学省の有識者会議で議論されてきた私立学校の組織体制をめぐる改善策、いわゆる、「私立学校に関するガバナンス改革」がいよいよ大詰めを迎えようとしています。今回から私立大学を中心とした学校法人ガバナンス改革の現状と今後の行方、そして、大学の“当事者”にどのような影響が及ぶのか見てまいりたいと思います。
※記事中の所属・役職・日付は執筆当時(2021-2022年)のものです。
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重要な報告書、相次ぐ
3月末、私学ガバナンスをめぐり重要な報告書が相次いで公表されました。
最初に、文部科学省の学校法人審議会学校法人分科会に設置された学校法人制度改革特別委員会(以下、特別委員会)は、3月22日に全6回の会議を終結し、報告書を3月29日に提出しました。
また、これと歩調を合わせるように、政権与党である自由民主党の文部科学部会は、文部科学大臣に対して独自に私立学校のガバナンス改革への提言をまとめ、提出しました。
この自民党の提言は、報道各社によると、
とのことですので、特別委員会が出した報告書と、方向性としては概ね軌を一にしているものと推測されます。
文部科学省では、これらの報告書をもとに私立学校法の改正案を作成し、今国会に提出する予定となっています。
▶日本大学の不祥事をめぐる動き
もう一つ触れておかなければいけないのは、日本大学の不祥事をめぐる動きです。
日本大学は、3月31日に、「元理事及び前理事長による不正事案に係る第三者委員会からの調査報告書」、および「日本大学再生会議」からの答申書を公表しました。
同大学は、この答申書を受けて、4月7日に、「本法人の健全な管理運営体制の構築に向けた改革について」を発表し、文科省に対する回答書「学校法人日本大学の前理事長及び元理事に係る一連の事案に対する本法人の今後の対応及び方針について」を公開しています。
もちろん、日本大学の動きは、前述の学校法人ガバナンス改革とは別の動きになりますが、同じ文部科学省の所轄の案件となるわけで、この事案が学校法人ガバナンス改革の議論に大きな影響を与えていることは間違いなく、回答書を受け取った文部科学省が、日本大学に対してどのようなリアクションをするのか注目です。
さて、一大騒動となった私大ガバナンスについて、これまでの議論の経緯をみてまいりましょう。
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紆余曲折の議論
これまで、私立学校のガバナンスに関する議論は、長きにわたって政府や文部科学省において議論されてきました。
というのも、過去に、経営を巡る不祥事が多くの学校法人で起こり、なかには理事長が懲役の実刑判決を受けたり、理事が背任容疑で逮捕されたりする例が相次ぎ、大きな社会問題となっていたからです。そこに、先ほどの日本大学を巡る不祥事が加わったことはみなさんもよくご存知のところです。
政府は、行政改革の一環として、学校法人のガバナンス改革を求め、他の公益法人と同等のガバナンスにすべし、との方針を打ち出しました(令和元年6月21日閣議決定「経済財政運営と改革の基本方針2019 について」)。
この基本方針では、
を行うことが謳われています。
つまり、社会福祉法人や公益法人に倣って、学校法人のガバナンスを改めよう、ということでした。もちろん、この背景には、日本でも重視されるようになってきたコーポレートガバナンスの影響があることは言うまでもありません。
文部科学省は、こうした流れを受け、2020 年 1 月に「学校法人のガバナンスに関する有識者会議」を設置して本格的な議論を開始したのです。
この有識者会議は翌年の2021 年 3 月に報告書を提出し、さらにこれを受けたかたちで、これをさらに具体化すべく、外部有識者だけで構成される「学校法人ガバナンス改革会議」(以下、改革会議)を設置し、私学法改正に向け11回にも及ぶ会議が開催され、いよいよ最終報告書が取りまとめられることになりました。
しかし、ここで会議が思わぬ事態に陥ったのです。
改革会議、突如紛糾
最終回となった12月3日の第11回の学校法人ガバナンス改革会議(改革会議)が、まもなく終了するという時刻に近づいたとき、突然騒動が発生したのです。
その時点でほぼまとまった最終報告書のその後の取り扱いについて、突如文科省サイドからパブリック・コメント(意見募集)に付すというスケジュールが告げられ、委員から一斉に猛反発が起きたのです。
実はパブリック・コメントに付すという段取りについては、委員にはじめから伝えられていませんでした。この最終報告書は、そのままいよいよ私立学校法の改正の土台となることを前提に議論を進めてきたわけです。
などと、委員たちは強い調子で抵抗しました。さらに、「この報告書通りに法案が作られると理解していいか」と文科省にただす場面もありました。白熱した一幕でした。議事要旨から当日の生々しいやり取りが伺えます(「学校法人ガバナンス改革会議 第11回議事要旨」より)。
▶後味の悪い改革会議の終焉
最終的には、文部科学省はパブリック・コメントの実施を撤回して、改革会議は実質幕を閉じました。非常に後味の悪い終わり方でした。
同省にしてみれば、パブリック・コメントを取るという格好で、あとで軌道修正してしまいたい、というシナリオは崩れてしまったわけです。陰でコソコソ直してしまうというような真似はできなくなってしまったというわけです。
その後、最終報告書は21年12月9日に文部科学大臣に提出されました。
改革会議の座長を務めた増田宏一氏や同会議のメンバーは、提出後、記者会見を行い、報告書の内容を説明しました。「今は理事長らの暴走を食い止める仕組みがない」と改革の必要性を改めて強調し、会見を開いた経緯については、報告書に対し私大団体側が猛反発していることを挙げ、「報告書通りの内容になるかは不透明だ。同会議の委員からは、文科省が提言を骨抜きにした法改正案をまとめるのではないか」と懸念を抱いたことを理由に挙げました。
私学側が抱く不信感
では、なぜ、このような事態に陥ったのか?
実は、最終報告書がまとまる前から、私学側はこの報告書案には真っ向から反対の声を挙げていたのです。
まず、私立大学を含めた私学諸団体には、不信感がありました。
改革会議そのものが当事者である私学関係者を除外して審議が進められたからです。つまり、改革会議では、当事者が議事に参加できなかったのです。
さらに、改革会議の審議の途中では、私学側へのヒアリング機会はあったものの、最終的には報告書に私学側の意向がほとんど反映されなかったのです。こうしたことが私学側を憤慨させた大きな理由と言えます。
私学側にとって、このままでは、長年日本の教育に貢献してきた私立学校の存在意義が軽視され、今後の運営そのものが立ち行かなくなるのではないかとの危機感に晒されたわけです。そこで、文科省や政権与党に対して、この最終報告書がそのまま法制化されることを何とか阻止しようとする活動が始まった模様です。
その結果、文部科学省はそうした動きに抗うことができなくなり、最終的に、あのようなパブリック・コメントを付す作戦に出たものと考えられます。
一方、弁護士や公認会計士など、有識者を中心にした改革会議の委員たちは、これまで長い時間をかけ、社会の要請に応えられ得る学校改革の改革をしようと粛々と議論を進めてきたわけで、せっかく辿り着いた結論を強引に捻じ曲げようとした文部科学省の動きに対して、そもそもの話と違う“約束違反”であると、激怒したのも当然でしょう。
公開の会議のなかで、このような騒動が明るみに出てしまい、学校法人のガバナンス改革にまつわる状況や当事者たちの思惑がメディアを通じて世間に対して一斉に報じられるところとなりました。と同時に、私学側の改革への後ろ向きとも受けとれる姿勢や、文科省における見えないところでの策略めいた動きも拡散され、国民の目に触れるところとなってしまったわけです。
さて、このことが、その後の議論にどのような影響をもたらしたのか、次回見てまいりたいと思います。
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