①≪東大≫第1段階選抜 厳格化②「勉強」を問い直す③日本の教育の当事者は誰か【教育ニュース最前線vol.13】
①≪東大≫第1段階選抜 厳格化
7月に行われた東京大学の記者会見で、2025年度入試「第1段階選抜」の予告倍率が変更になることが発表されました。
▼一般選抜(前期日程)の概要(東京大学)
2024年度の志願倍率/予告倍率 ⇒ 2025年度予告倍率
を比較してみましょう。
文科一類 約2.9倍/約3.0倍 ⇒ 約2.5倍
文科二類 約3.0倍/約3.0倍 ⇒ 約2.5倍
文科三類 約3.2倍/約3.0倍 ⇒ 約2.5倍
理科一類 約2.8倍/約2.5倍 ⇒ 約2.3倍
理科二類 約4.2倍/約3.5倍 ⇒ 約3.0倍
理科三類 約4.3倍/約3.0倍 ⇒ 約3.0倍
今回の変更により、第1段階選抜がより狭き門となり、二次試験に進める受験者が1,000人程度減ると見込まれます。受験生の出願動向への影響がどう出るか…強気の出願をさせにくくなったという高校現場からの声もちらほらと聞きます。
予告倍率の変更理由として記者会見では、
①答案枚数を減らし丁寧に採点するため
②障害のある人などの特別な配慮を必要とする受験生の増加
③共テによる基礎学力重視
の3点を挙げていました。
東大が言うように丁寧な採点をするとなれば、1枚当たりの処理時間が増します。③の低スコアの受験者を第1段階選抜でふるいにかけることで、より二次試験の採点に時間をかけ、東大が必要とする人材をより見定めやすくすることが狙いであると思われます。
これまでは、共テ:2次=1:4ということで、2次に重きを置きすぎて共テ(1次)を軽視してしまう向きがなきにしもあらずでしたが、今後はそういうわけにはいきません。受験生としては、共テ対策と二次試験対策のバランスにこれまで以上に留意することが必要になってきます。
なお、理科三類については、2023年度に予告倍率を既に変更(約3.5倍→約3.0倍)しているため、2025年度での変更はありません。
★関連記事★
☟東大が発表している「高等学校段階で身につけてほしいこと」とは?
☟東大の学費値上げ論争が引き起こした波紋
☟大学入試における「評価」とは?
②「勉強」を問い直す
代々木ゼミナールの 富田 一彦 講師が、「勉強」の意味やどんなことを考えて教えているかについて、簡潔に語っています。
▼「勉強は、自分を知るための努力です」富田一彦先生(代々木ゼミナール・8/23)
インタビュアーの次の質問に答えています。
富田講師は、授業で必然性と再現性を常に大事にしています。
「他の文章を読むために、この話をする必要があるか」
「この話をしておけば、別の文章を読むときに再現できるか」
自転車と同様、「時間が経っても再びできる」英語の基本的なシステムの理解と習得を目指しています。最初が肝心。基礎をみっちり教えます。
そして、勉強を通して、自分で一生懸命考えて、自分で選び決めることの重要性を強調しています。
💡研究員はこう考える
日本は、高度経済成長、円高、Japan as NO.1を経て、バブル経済が崩壊し、「失われた30年」と言われる経済の低迷が続いています。経済以外の分野でも相対的な地位が低下しています。日本について、明るい見通しが語られることが少ないように思います。
そうした中、教育に対する期待は大きく、教育改革のスピードは加速しています。
ただし、山積する課題の原因が従来の教育にあるとして、これまでのやり方を安易に否定し過ぎているのではないかと思うことがあります。
「一斉授業」や「チョーク&トーク」が槍玉に上がります。「勉強」も人気がなく、「学び」が多用されます。かく言う私も、「学び」の言葉ばかり使います。
しかし、物事は多面的であり、すべてのものに強みと弱み、成果と課題があります。理論ではなく現実を重視するべきであり、誰がどのように授業を行なっているのか、誰がどう参加しているのかといった具体的な中身が大切です。
受験について言えば、「一点刻みの点数で合否が決まる」「一発勝負の学力検査で決まる」ことが批判されます。
しかし、そこに至る知識・技能の習得、思考・判断・表現力の訓練、そして主体的に学びに向かう態度の継続と更新があったはずです。
*
私自身は、40数年前に大学受験をしました。共通一次試験制度の3年目です。
「進学校」で、先生から「勉強しなければならない」と頻りに言われましたが、単なる義務でやるのは嫌でした。やるからには楽しくやろう、自分で納得いく形でやろう、勉強することの価値を他者から与えられるのではなく自分で創り出そうと思い、試行錯誤しました。
「学問に王道なし」と認識し、学び方を試行錯誤しながら、アップデートし続ける。「苦手」「不得意」に立ち向かい、真の理由を突き止め、戦略・戦術を考え、突破する。
時間をマネジメントする。合理化・効率化を図り、気分転換を工夫する。PDCAサイクルを回し、評価を改善につなげる。集中力を高め、持続させる方法を発見する。
こうしたことを探究的に実践し、学びました。
何より、富田講師が言うとおり、自分で決めることの喜びがありました。もちろん、それはスポーツでも何でも構いません。
私の場合は、高校時代、自分で考え、自分で選択・決定することを学んだのは、とりわけ勉強を通してだったということです。
*
「勉強」は義務ではありません。権利です。
その権利を行使した努力は、生きる力を高める方法の一つだと思います。
③日本の教育の当事者は誰か
2023年5月、文部科学大臣の諮問を受け、中央教育審議会の初等中等教育分科会に「質の高い教師の確保特別部会」が設置されました。
以降審議を重ね、8月27日、「『令和の日本型学校教育』を担う 質の高い教師の確保のための環境整備に関する 総合的な方策について」の答申が文科大臣に手交されました。
▼「令和の日本型学校教育」を担う 質の高い教師の確保のための環境整備に関する 総合的な方策について(文科省・8/27)
副題は「全ての子供たちへのよりよい教育の実現を目指した、学びの専門職としての『働きやすさ』と『働きがい』の両立に向けて」です。
マスメディアの報道では、教職調整額の仕組みを維持し増額することばかり取り上げていますが、実際には内容は多岐にわたります。
章立ては次のとおりです。
諮問に先立ち、文部科学省の調査研究会により「質の高い教師の確保のための教職の魅力向上に向けた環境の在り方等に関する論点整理」がまとめられています。
さらに、政府の「経済財政運営と改革の基本方針2023」(2023年6月16日閣議決定)において、教職に係る改革の方向性が明示されています。
特別部会は13回の審議ののち、2024(令和6)年5月に『審議のまとめ』を公表し、パブリックコメントを募集しました。
集まった数は、実に18,000件です。世間の関心の高さを物語っています。問題意識、危機感の高さも表しています。
💡研究員はこう考える
まずはじめに用語を確認しておきましょう。
「諮問」は専門家や関係者に意見や助言を求めることであり、それは、課題に対する決定に大きな役割を果たします。
「答申」は「諮問」への回答です。
大臣が「諮問」したものですから、軽いものではありません。「答申」は政策決定や計画立案の重要な参考資料となります。
他方、「答申」はあくまで意見であり、必ずしもその通りにしなければならないという法的な拘束力はありません。
*
私は、そうした性質を持つ「答申」を日本という国の「経営」「マネジメント」に位置付けて考えたいと思います。
「マネジメント」を「理想を実現するために”何とかする”こと」と定義します。
理想と現実があり、その間に「差」があります。理想は、期待や願望によっては実現しません。時間が経てば”何とかなる”わけではありません。
また、実現するための環境や活用できる資源(人・金・モノ)が完璧ということはありません。エネルギーや時間も有限です。それを嘆いていても、文句を言っても、どうにもなりません。
いまここにあるものを最大限活用し、様々な要素を組み合わせ、足し算どころか掛け算による力を生み出し、”何とかする”しかないのです。
では、「マネジメント」のどのような手法が望ましいのでしょうか。どうすれば”何とかする”ことができるのでしょうか。
*
「マネジメント」の代表的な理論の一つに、OODAループがあります。
私は校長として、PDCAサイクルを回すことに加え、OODAを常に念頭に置いていました。
OODAは、Observe(観察=現状把握)、Orient(状況分析・方向づけ)、Decide(決定)、Act(行動)の頭文字です。
一般的に、OODAループのメリットは、変化の激しい環境に適応できること、迅速かつ効果的な問題解決ができることと言われています。
*
では、中教審「答申」はOODAループのどこにあるのでしょうか。「OO」に役立つ資料、意見です。特別部会の資料も含め、現状を認識し、方針を決定するのに大いに役立ちます。
その上で、大切なことは、ここから先です。「DA」、決定と実行です。
つまり、全てはこれからです。
そして、私が言うまでもなく、現在、教職に就いている人たち、教職への希望を持っている人たち、これから学校で学ぶ子どもたち、その保護者の皆さんも、DAに向けてどのように事が進んでいくのかを最高度の注意深さで見ていくことでしょう。
「現状はわかった。どう考えているかもわかった。それで、何を決め、何を行うのか?」と。
Dにおいて、大事なことは、決定する内容に5W1Hが適切に含まれていることです。
Why、説得力のある目的、理由、根拠。
What、具体的な施策。他ではなく、これでなければならないという納得感。
Who、政府、省庁、自治体、学校等、役割と責任が明確であること。Where、それをどこで、どの場面で行うのか。
When、いつ、どのようなスケジュールで行うのか。
OOからDへ、ここでも”何とかする”努力が必要ですが、最大のポイントは何でしょうか。
それは、「答申」の当事者は誰か、です。
これは、教職、教育に限ったことではありません。
医療・福祉のことであれ、インフラ、交通、環境、税金のことであれ、何であれ同じです。当事者は、政府、内閣府、国会、官僚、、、誰でしょうか。
私は「答申」の当事者は、全国民だと思います。
なぜなら、国民が暮らすこの国の未来を創るのは、これからの子どもたちだからです。そして、子どもたちは、学校教育によって育っていくからです。
当事者であり、教育のことが本気で大切だと思うなら、DAをただ待つ必要はありません。マスメディアがどのように取り上げ、教育評論家がどんな発言をするかを黙って見ている必要はありません。
「答申」を読み、リアルに、またネットで意思表示をすることが大切だと思います。
意思表示や意見交換をすることなしに、よりよい教育も、よりよい社会も実現しません。
当事者のあなたも、まずは「答申」を読んでみませんか。
ぜひマガジンもフォローしてください👇