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【教育ニュース最前線vol.09-3】①"教員"のウェルビーイングを妨げる思考②教育長のあり方から考える、管理職がやってはいけない「6つのこと」

【教育ニュース最前線vol.09-3】
日々報じられる教育関連情報から、教育業界への影響が大きいと思われる内容を、代ゼミ教育総研 研究員が厳選してピックアップ。
それぞれの分析・私見を述べます。
教育・学校・入試について関心がある方々の、考えるヒントとなりましたら幸いです。

\\ ✨Vol.09は3日連続投稿 ✨//
09-1は映画特集!話題の映画を 2 本ご紹介🎥
09-2は2024年上半期に物議を醸した教育ニュースをご紹介📰
09-3は夏休みこそじっくり考えたい教員・管理職のウェルビーイング
👨‍🏫


 


①"教員"のウェルビーイングを妨げる思考

株式会社Studio947のデザイナー・ライターである狩野さやか氏が、パーソル総合研究所が実施した「教員の職業生活に関する定量調査」を紹介しています。

この調査は、教員のウェルビーイングに注目したものであり、目的は働き方改革に生かすことです。全国3,800名の教員が回答しています。

▼教員の「はたらく幸せ実感」とは?ウェルビーイングの調査から働き方改革の鍵を見いだす(こどもとIT・7/16)

 まず、教員の仕事における「はたらく幸せ実感」は0〜10の11段階で平均4.3であり、一般の正社員平均4.19を少し上回っています。

「幸せ」「不幸せ」の因子を7つずつ設定し、教員と一般を比較したところ、「はたらく幸せ因子」については、「自己成長」「チームワーク」「他者貢献」が高く、「リフレッシュ」「役割認識」「自己裁量」は低くなっています。

「はたらく不幸せ因子」では、「オーバーワーク」の要素が高いのですが、業務時間以上に精神的な余裕のなさが窺えます。

さらに、ワーク・エンゲージメントと心理的ストレス反応の高さを数値化し、教員のタイプを4つに類型化しています。「ワーカホリック教員」「ワーク・エンゲージメント教員」「バーンアウト教員」「不活性教員群」です。

特徴としては、教諭は「バーンアウト教員」の率が高くなっています。特に20代が非常に高いです。

具体的な業務については、やりがいがあるのは「授業」、負担になるものは「クレーム対応」「調査・統計への回答」です。「クレーム対応」を個人で抱え、組織的な対応がなされていないことも問題です。

その他、狩野氏は、教頭・副校長の課題、教諭の複雑な思いも指摘し、教員のあり方を全否定するような極端なイメージに走ることなく、プラス面も大切にし、改善の余地のある点を一つひとつ解決していく「働き方改革」の必要性を主張しています。

 

💡研究員はこう考える

誰でも、働かなければ生きていけません。

マスメディアでは、教員や特定の業種のことばかりが取り沙汰されているように思うのですが、いかがでしょうか。

誰でも働く以上、幸せに働きたいものです。働きやすい環境で働きたいものです。

はっきりしていることは、なかなか理想どおりにはいかないということです。理想どおり、と言える人はどれくらいいるでしょうか。少なくとも、完璧、とはなかなか言えないはずです。

パーソル総合研究所の調査でも、一般の「はたらく幸せ実感」の平均が10段階で4.19となっています。高い数値とは言えません。

メディア等で言及される「World Happiness Report」(2024)では、日本の幸福度は51位(137カ国中)です。教員だけの問題ではありません。

また、職種で括ることができ、共通した課題に取り組む必要もありますが、必ず、個別性があります。

学校の教員と言っても、時代、地域、校種によって、そして、学校ごとの歴史や文化、体制によって異なります。

さらに、同じ学校にいて、共有する面があるとしても、ウェルビーイングという主観的な「感覚」については、人それぞれです。

したがって、オープンなメディアであれ、個人的なコミュニケーションにおいてであれ、ある職業について取り上げるときは、慎重さや丁寧さが必要だと思います。

自分が見聞した「事実」が本当にそのとおりなのか、「事実」から帰納的に推論するだけの確かさがあるのか、認識や判断における自分のバイアスに自覚的であるか、過度の一般化を行っていないか、複数の視点を無視し一面的、決定論的な見方をしていないか、、、自問自答しながら、自分の意見を表明するべきではないでしょうか。

特に気をつけなければならないのは「二項対立」の図式的な思考です。

0か1か。白か黒か。

 文化庁次長の合田哲雄氏は事あるごとに「二項対立」思考に警鐘を鳴らしています。

デジタル時代の初等中等教育と大学経営 子ども達の認知や関心に応じた学びへの転換/内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局審議官 合田哲雄(リクルート進学総研)

学校教育や教員の仕事が「ブラック」と言われます。しかし、それを言う人たちは、「ホワイト」に働いているのでしょうか。

どのようなことであれ、外から一方的に言われ、応答したり、対話をしたりする可能性がなければ、精神的に辛いです。

当事者ではない人たちから「他人事」として言われるのは、大きなストレスにならないでしょうか。私は、お互いに、ストレスを与え合うような社会を変えていければよいと思います。

私たちは仕事をし、それを通して、他者とつながっています。つながりなしに働くことも生きることもできません。私の「ホワイト」は、他者の「ブラック」の上に成り立っているかもしれません。私の幸せは、名前も何も知らない遠くの誰かの犠牲のお陰かもしれません。

したがって、生き方・在り方、そして働き方を「ブラック」と「ホワイト」と簡単にきれいに分けられないと思います。全ては「グレー」と言えるのではないでしょうか。

「ブラック」「ホワイト」のレッテルを貼って満足するのではなく、「グレー」の中の「ブラック」の面を改善しようと、協力して努力するのがよいと思います。

対話を通して、ともに解決策を考える。そして、互いのウェルビーイングのためのよき手を打ち続けましょう。

具体的な「よき手」についてはこちらもご参照ください☟



②教育長のあり方から考える、管理職がやってはいけない「6つのこと」

2023年8月に鎌倉市教育委員会教育長に就任した高橋洋平氏が、教育改革に精力的に取り組んでいます。

高橋氏は文部科学省や外資系コンサルティングファームに勤めており、文科省では学校教育のデジタル化や福島県の震災復興などに携わりました。

▼脱管理型で「学校主役」の教育行政に転換、高橋洋平・鎌倉市教育長の手腕(東洋経済・7/3)

高橋氏は、教育の専門職が十分に創造性を発揮できるよう、助け、支え、励ます「伴走型の教育委員会」を目指し、新たな職「教育行政職」を公募し、2024年度4名を採用しました。

定期的に「戦略会議」を行い、25の小中学校の個別伴走に生かしています。

各学校が「自ら学び続け、変わり続ける組織」になることを目指しています。

2020年度から推進されてきた「鎌倉スクールコラボファンド」で集まった寄付は、学校が企業など外の組織とコラボレーションし、魅力的な教育活動を展開するために活用しています。例えば映画監督と学ぶ映像制作ワークショップやパラスポーツ団体とコラボした総合学習が行われています。

不登校支援については、2021年度から「かまくらULTLA(ウルトラ)プログラム」を実施しています。森、お寺、海などの鎌倉の地域特性を活かした三日間のプログラムであり、参加者一人ひとりが個性や特性に応じて自分らしく学んでいく方法を見つけていくことを目的としています。

加えて、2025年4月に「学びの多様化学校」が開設予定です。鎌倉全体を生かす体験・探究重視の場づくりを目指していて、不登校対策のみならず、学習者中心の学びのヒントにしたいそうです。

教育長としては、教育政策のリーダーとしてより高度な資質が求められる重責を自覚しているとのこと。今年の3月には「教育政策のリーダーシップにより多様性と専門性を」をコンセプトに「一般社団法人LEAP」を立ち上げました。

💡研究員はこう考える

少子化・人口減少、教員の成り手不足、経済の低迷。学校を取り巻く状況は決して明るくありません。
教育長の役割はますます大きくなっていると言えます。

教育の課題は山積し、多岐にわたります。教育は、0歳児から、幼少中高、そして社会教育まで、全ての年齢をカバーします。

「教育は人なり」と言われますが、「人は教育なり」です。教育で人が変容し、その人が社会の未来を創ります。

そのトップである教育長の役割は大変重要です。教育長は法的に職務が定められていますが、実際に、どう行動するべきでしょうか。

こうした問いに対し、私は「やってはいけないこと」を明確にしようとします。

成功する要因を考えるのは難しい。しかし、失敗する理由はわかりやすい。まずは、失敗に陥らないように努めなければなりません。

それでは、教育長の経験のない私が、大胆にも、教育長が失敗する要因を挙げてみます。一般企業の管理職の皆さんにもご参考にしていただければ幸いです。

第一に、前例踏襲に徹すること。

教育施策の目的を真剣に考えることなく、教育を巡る環境の変化の本質を見定めることなく、「とりあえず」や「無難」を重視するなら、失敗します。

第二に、チャレンジしないこと。

課題があり、改善するためには、それまで行われていなかった何かを実施する必要があります。現状維持では何も変わりません。失敗を恐れてチャレンジしないことこそが、失敗です。

第三に、現場を見ないこと。

現場を見るのは当たり前に思えます。実際、教育長は学校視察を行います。しかし、予定調和的な視察になっていないでしょうか。理想と等しい現実のみを見ようとしてはいないでしょうか。

古代ローマのカエサルは「人は見たいと思うものしか見ない」と言っています。現実をあるがままに見ること、多様な視点で見ることは簡単ではないことを十分に自覚し、よさと課題、可能性と危険を把握することが、真に現場を見ることです。

第四に、理念を語って終わること。

正しい理念や素晴らしい戦略を口にすることは誰でもできます。それが「言わなければならないから言う」となっていないでしょうか。ひたすら抽象的な「絵に描いた餅」になってはいないでしょうか。理念と結びついた施策を決定し、実行に責任を持つことが教育長としての仕事です。

第五に、他の教育長と交流しないこと。

自治体は全て異なっています。それぞれの歴史と文化、社会の特徴を有しています。様々な課題は一般論では解決しません。しかし、他の自治体の教育長と交流することで触発され、新しい視点を獲得し、様々なヒントを得られることは間違いないと思います。

そして、

最後に、リーダーシップはトップダウンだけでよいと思うこと。

リーダーシップについては、様々な理論があります。

現代のような混乱期においては、明確なビジョンを示し、組織を力強く引っ張る変革型のリーダーシップが必要であるとも言われます。

しかし、実際のリーダーには様々な要素が求められます。複雑で変化する現実に対し、どのような「リード」が望ましいのかを判断し、事柄に応じてリーダーとしての役割を演じる必要があります。

難しい課題が多い。人々に余裕がなくなり、分断や孤立が目立つ。そうした状況であれば、粘り強く対話し、本音のやり取りの中から方向性を見極め、現場のモチベーションが高まるよう働きかけるリーダーが必要ではないでしょうか。

鎌倉市教育委員会、そして、高橋洋平教育長は、私が挙げた6つの失敗タイプから思いっきり身を離し、現場に伴走しながら、教育の質の向上に取り組んでいるように思います。

こうした動きが広がっていくことを願うばかりです。


vol.10 もお楽しみに📓

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