対話は心のキャッチボール、ゴールをめざすパス【進路面談の前に読みたい】高校教員応援マガジン
対話の持つ力
毎日、様々な相談を受けます。
あちこちに困り事、揉め事があります。
それは同じような事でも、違いがあります。
関わっている人間も、場も異なるからです。
過去、同じような事があったとしても、解決は簡単ではありません。
問いも答えも唯一無比。
したがって、まずは、相談に耳を傾け、問いをつかもうとします。
問いを立てようとします。
また今の時期、学校では進路に係る面談(二者ないし三者)が行われていることでしょう。
話の答えが決まっていることもあるでしょうが、そんな時にも決まり方、決まったことの確認の仕方は大切だと思います。
先生からの一方的ではない話し合い、つまり対話が必要です。
対話については、以前、【教育ニュース最前線】で「対話の力」を語りました。
同じような事をお話しするかもしれません。
しかし、よい対話をするためには基本をくり返し思い起こし、1から、時には0から考え、実践し、しっかりと振り返るしかないのだと思います。
お付き合いください。
まずは、話してみないとはじまらない
私が、ただ話す・話し合うのではなく、対話というものを意識したのは、教員として2校目の学校で教務の副部長になってからでしょうか。
教育課程の担当でした。
▸「こっちを説得しに来ているな」紛糾する教育課程委員会での最大限の納得と理解を
教育課程委員会の議論はいつも紛糾します。
各教科が多くの単位を要求するからです。
3つの学年にどう置くかということにも譲れない方針があります。
結果、全ての教科の希望を満たすことなど不可能です。
調整の拠り所は、教育課程の編成方針です。
しかし、容易ではありません。
総論賛成、各論反対です。
学校が向かうべき方向性は概ね一致していますが、具体的な科目の配置と単位数については、様々な組合せがあるのです。
結論を出すのは極めて難しいです。
かといって、多数決で強引に決めるわけにはいきません。
組織においては物事の決め方が士気に影響します。
最大限の理解と納得を求め、対話をするしかありません。
その対話も難航します。
相手は「こっちを説得しに来ているな」と身構えます。
教科の代表ですから、簡単に妥協するわけにはいきません。
「明日、あの教科のところに行かなければ」と思うと私の胃は時々、痛みました。
しかし、その対話は何のためなのか。
生徒たちにとってよりよい教育課程を編成するためです。
生徒のためなのです。
ベストではないかもしれませんが、ベターを求めることはできます。
気持ちを整え、様々な展開を予想し、対話に赴くしかありませんでした。
▸「どうせ話したってわからない」話してみなければ分からないことがある(教科主任との対話)
教科主任と粘り強く対話をして気づいたことがあります。
それは話してみなければわからないことがあるということです。
当たり前のことですね。
しかし、その当たり前をおろそかにすると「どうせ話したってわからない」という感情に囚われます。
この「どうせ」が皆さんの周りにもありませんか。
話してみて、他の教科の考えや事情がわかります。
学習指導要領を読むだけではわからない何かです。
もちろん、良い点もあれば問題点もあるでしょうが、とにかく、外からはわからない。
それを頭ごなしに否定すると、対話はストップします。
私の案に対する反論を受け止め、やり取りするうちに、少しずつ相互理解が進んでいきます。
相手は理解された、伝わったのだなと思うと、別な面が出てきます。
相容れない部分がなくならないとしても、考えや思いの共通点、類似点が見つかります。
私も自分の案に対する別な視点を手に入れることができます。
場合によっては、別な案を思いつくこともあります。
そして、たとえ結論が変わらなかったとしても、理解し合うことには、絶対に価値があります。
対話を拒むなら、関係性は固定的になります。
組織は硬直化します。
人の組織はスイッチを入れれば調子よく動く機械ではありません。
不信感や反感が強ければ、うまく動きません。
結論があればそれで十分、ではありません。
▸対話で得たことが別な面で生きる
教務の副部長を5年、部長を5年務めた中で、様々な失敗やピンチがありました。
教務の事務的な部分はなかなか複雑であり、注意して点検、確認を行なってもミスが起こりえます。
授業参観、初期指導、授業評価をめぐって様々な提案をした時に、理不尽な反発を受けたことがありました。
そうした時、多くの人が助けてくれたのは、対話を大事に物事を進めたからではなかったかと考えています。
熱い対話を経て、出てくる答え
▸「やりましょう。覚悟の問題です」学校祭の翌日に講習を行うのか?否か?
忘れられないエピソードの1つがあります。
教務の副部長をしながら、学年の学習指導のチーフをしていたときのことです。
定期的に5教科会議を開催していました。
国数英理社。家庭学習、定期考査、講習や模試のことを話し合います。
共通理解を深め、ベクトル合わせをします。
一部の科目が図抜けてよくても、生徒の目標達成にはなりません。
生徒のキャパを超えた学習課題が出ていないか、確かめることも必要でした。
ある日、学校祭の翌日に講習を行うかどうかで揉めました。
その後のスケジュールを考えると実施した方がよいのですが、青春のパワーを燃焼させ、盛り上がった祭りの次の日です。
強い反対と賛成、弱い反対、お任せ、なかなか決着がつかず、まとめ役の私も困りました。
そのとき、いつも意見を言わない数学の先生が
「やりましょう。覚悟の問題です」と発言しました。
生徒の覚悟、先生の覚悟。
祭りが終わり、夜寝て切り替える。
全力で楽しむ。が、翌朝の講習は講習で努力する。
結果、やることになりました。
もちろん、私が言いたいのは、それが正解だったということではありません。
熱い対話の場があったからこそ、思いも寄らぬところから、そのとき最適な結論が飛び出したのです。
対話なしに決めていたならば、講習のみならず、その後の学習指導にしこりが残ったことでしょう。
組織が前進するための対話
▸「あのように聞いてくれたのは初めてです」教頭としての最初の職員会議で出た強い問題提起
もう1つ、対話をめぐるエピソードを紹介します。
教頭試験に3度落ちた後、ようやく、町立の農業高校の教頭になりました。
年度初めの休業中、教頭としての最初の職員会議がありました。
初めてのタイプの学校であり、農業のことなどを事前に調べたり聞いたりして会議に臨みました。
順調に進んだのですが、「その他」の教員の親睦会に係る事項で、M先生から強い問題提起がされました。
担当者は返答に窮しつつも、丸く収めようとしました。
しかしM先生は譲らず、厳しい口調で言い返しました。
私は内容がよくわからず、どうしようか躊躇しました。
担当者の提案どおり、としてもよいような雰囲気でしたが、親睦会のこととは言え、物事は雰囲気や流れで決めるものではありません。
私は問題のない部分を確認し、指摘のあった点については、一旦保留にしました。
会議が終わってすぐにM先生を別室に呼び、話を聞き、彼に一理あることがわかりました。
しかし、全てを彼の提案どおりにすることは全体の理解が得られないと判断し、
「Aはそのとおりにしよう。しかし、Bは今後検討し、年度末に決めよう」と言いました。
彼は納得したようでした。
その後一緒に飲んでいるとき、彼は言いました。
「私はいつも自分の意見を言ってきました。しかし、まともに取り上げてもらえませんでした。周囲からは常に”生意気だ”と思われてきたことでしょう。あのように聞いてくれたのは初めてです」
彼の言い方がきついので、やや避けられたところがあったのでしょうか。
しかし、きついとかきつくないとかの問題ではありません。
多様な人間によって構成される組織が、少しでも心を合わせ、力を合わせ前進していくためには、対話が必要なのです。
M先生との関係は、以来、十数年続いています。
つまり、対話とは……
こうして、私自身、対話を学び、探究的に実践したことを踏まえ、生徒にはよく言っていました。
対話は、言葉のキャッチボール。
相手の胸を目がけ、取りやすいように、よいボールを投げよう。
ボールがあらぬ方向へ行けば「ごめん」と謝ろう。
ボールが来たら、よく見て、キャッチしょう。
多少取りにくいボールでも、一生懸命つかもう。
うまくいかないのは、お互い様なのだから。
対話はキャッチボール。言葉と心の。
サッカーのパスにもたとえました。
対話は言葉のパス。
相手の行くところを狙い、蹴り出そう。
どこへ転がるかを予測し、パスを受けよう。
パス交換し、ゴールをめざす。
同じ目的を持つ仲間として、よいパスをしよう。
対話はパス。勝つためのパス。
自分の考えを「変えないぞ」と固く心に決めて、人と向き合うなら、対話は成り立ちません。
自分の主張か、相手の主張かの勝ち負けに固執するなら、対話になりません。
自分の考えをただ述べるなら、相手の考えをただ聞き流すなら、対話とは言えません。
私とあなたの新しい何かをつくりだそうと、言葉をやりとりするのが対話です。
一緒に、ともに話すこと。
創造的な「共話」と言えるかもしれません。
皆さん、ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
実は、私は札幌の高校の副校長として、S校長に3年間仕えたときに、対話の精神をみっちり学んだのです。
愛と信頼をベースにした学校経営。
校長は、あれこれと意見を言う私に毎日付き合ってくれました。
それがなければ、こうして対話について語ることもできなかったと思います。
そのときのことは、そのうち、マガジン【人生を変えた恩師】に書きます。
高校教員応援マガジンでは、高校教員の皆さまからのお悩み相談も受付中!
ベテラン教員や代ゼミ研究員が回答いたします。本記事のコメント欄にてお気軽にご相談ください♪(お悩み回答はランダムです)