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過去、情報やデータの増大が引き起こしてきた学問のパラダイムシフト。今後はデータサイエンスが新たな学問・研究領域の再構築を担うのか、注目!

学びの場に吹く“新風”

前回は、「文・理分け」には問題があるけれど、だからと言って、頭ごなしの「文理横断」も難しい、ということをお話しいたしましたが、
ここでもう一度、ビックデータやデータサイエンスにスポットライトを当ててみたいと思うのです。

と言いますのも、
それらによって、学問に新しい兆候が生まれている、ように感じ、
あるいは、学びの場に“新風”が吹いている、と思われるからです。


情報の増大が学問の発展に

前回ご登場いただいた名古屋大学大学院の隠岐さや香教授は、自著のなかで、文・理分けを含めた学問の分類について、興味深い話を紹介してくれています。

 「歴史を振り返る限り、「文系・理系」を含め、学問の分類を大きく変えてきたのは、人間が扱える情報の増大と、学問に参入できる人の増加です。たとえば、活版印刷が生まれて本が普及したことは、近代的な諸学問が発展したことと無関係ではないでしょう。その意味で、近年の情報技術の発展が私たちに何をもたらすのか、未知数の側面はあります」

隠岐さや香著「文系と理系はなぜ分かれたのか」2018年,星海社新書 237頁

隠岐先生の御趣旨を敷衍させていただければ、昨今の情報やデータの爆発的な増大も、今後の学問の枠組みを大きく変える可能性を秘めている、ということにつながるでしょうか。

たとえば、それによって、従来の学問が持つ固定概念がリセットされ、一見無関係に思える学問同士が結びついたりする・・・

そうすることによって、今までありえなかったようなパラダイムシフトが起きるかもしれない、ということです。

世界中の市民と学者が協働

隠岐先生は、「学術が、科学がどうなるのか。未来のことは誰にもわかりません」としながら、「むしろ、明白な変化が起きているのは、人と人のマッチングや交流のあり方です」と述べていらっしゃいます。

そして、今後のことを考える上で、ヒントになりそうな実例を紹介されています。


♦ 自然科学系について、もともとアマチュアなどインディペンデント・スカラーといえるレベルの人々の研究が盛んだった彗星発見や鳥類の観察では、近年、Webをはじめとする情報技術の進展により、特殊な専門知識を持たずとも計測し、データを共有できるようになっている。
♦ 世界中でたちあがっている集合知により、数学の問題を解く試みや、バイオ燃料になりうる食物を探す試みなどのさまざまなプロジェクトが行われている。
♦人文科学系については、もともと歴史学では参加型研究が盛んだったが、情報人文学、あるいはデジタル・ヒューマニティーズと呼ばれる領域で歴史的文献をデジタル化して全世界に公開し、それを世界中の人々が解読したり、注釈を行ったり、あるいはビッグ・データとして統計的分析の対象としたりするためのプラットフォームがいくつも立ち上がっている。
♦京都大学古地震研究会が立ち上げた「みんなで翻刻」プロジェクトでは、過去の災害を記録した膨大な歴史史料をデジタル化し、その文字を活字にして、データとして利用しやすくする作業を行っている。など・・・
 

隠岐さや香著「文系と理系はなぜ分かれたのか」2018年,星海社新書 より文中要約

こうした数々の取り組みから、「様々な分野で、壮大な挑戦のため、世界中のアマチュアや研究者が協働している」様子がよく伝わってきます。

特に、最後に挙げられている京都大学の古地震研究会の「みんなで翻刻」プロジェクトでは、すでに膨大な量の古文書の翻刻に着手されており、その対象は過去の大地震のみならず、くずし字解読や史実解明などさまざまな分野に及んでいるとのこと。
とても興味深いですね。


媒介役はビッグデータ

ここで注目すべきは、これらの事例には、共通して、ビッグデータが存在するという点でしょう。それが、一般の市民やアマチュアなど多くの人々を惹きつけ、さらに専門家も結びつけて、データサイエンス的な“協働”が行われている、というわけです。

ビッグデータ、そしてデータサイエンスが、キャンパスの枠組みを越え、
専門家でない一般の多くの人々を巻き込みながら、学問・研究が新たなステージへ進む。

さらには、その学問の魅力や醍醐味の再発見が行われ、また、それが新たな人を呼ぶ。

かつて類例をみなかったような好循環が起きそうですね。



学問が蘇るためのヒントに?

現在、他国に比べ、決して高いとは言えない日本の大学進学率。
そして、博士を含めた大学院への進学率も低迷の一途。

つまり、理工系のみならず、大学進学自体をいくら煽っても、若者にとって、大学における学問・研究自体に魅力が感じられなければ、進学率の飛躍的な向上は望めないのです。

こうした状況を改善するには、これまで行われてきた学問が、本当に若者にとって魅力のあるものなのか、再点検が不可欠ということではないでしょうか。

その点で、データサイエンスがもたらす可能性、あるいは、隠岐先生が挙げた京都大学の古地震研究会をはじめとする事例などは、それぞれの学問が蘇るための大きなヒントになり得るのでは、と敢えて申し添えます。


「データサイエンス」というパスポートを手に

最後に、データサイエンスについて、政府が進めるもう一つの施策をご紹介しましょう。

それは、文科省が、現在各大学において、「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定」で、大学生の数理・データサイエンス・AIに関する基礎的な能力の向上を図るための機会の拡大を推進しているのです。
すでに、全国の多くの大学でリテラシーレベルや応用基礎レベルとしての認定がなされています。

文部科学省 数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度概要

 データサイエンス学部で学んだ学生たちはもちろんのこと、こうした認定
プログラムなどで、数理・データサイエンス・AIに関する基礎的なリテラシーをせっかく身に付けた学生のみなさんは、これまで築かれてきた学問を単に継承するだけでなく、「データサイエンス」というパスポートを手に、学問・研究領域を積極果敢に開拓する旅へ出かけて行ってほしいものです。
 

大学生の皆さんの健闘を祈ります!


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