一部に受験生へ使用禁止を打ち出す大学も。そこに込められた大学側の懸念と、これからの大学入試のゆくえとは
受験生に対しての生成AIのメッセージは
ChatGPTをはじめとする生成AIの出現以来、国内の大学は矢継ぎ早に、それぞれのメッセージを出し続けています。
しかし、そのほとんどが、学内の関係者=教職員、学生が対象になっていることは前回申し上げました。
では、間もなく開始される2024年度(令和6年度)入学者選抜についての対応は、どうなっているのでしょうか。
上智大・青山学院大は明確に“禁止”
調べてみると、選抜要項などにおいて、受験生に対して、生成AIに関する注意書きやメッセージを掲載している大学が、ごくわずかですが、判明しています。
上智大学は、公募制推薦入学試験における自己推薦書用紙の注意書きに次の記載があります。
「自己推薦書の作成において、
ChatGPT 等の生成 AIを利用することは認めません。」
かなりはっきりしたスタンスですね。
前回ご紹介した大学としてのメッセージと同じ方向性であり、首尾一貫していることがわかります。
在籍する学生だけでなく、受験をしに来る高校生や受験生に対しても、まだ得体の知れない生成AIは、使ってはならぬ、というわけです。
青山学院大学は、自己推薦入学者選抜要項のなかで、
「出願者自身で考えた文章で提出してください。
人工知能等での自動生成や他者による作成を禁じます。」
との注意書きを入れています。
こちらも、はっきりと、生成AIの使用を禁止しています。
出願者自身で考えた文章、が大切なのですね。
どちらも書類の事前記入に対しての注意喚起
上智大と青山学院大は、どちらも自己推薦の出願書類に関する注意喚起になっています。つまり、受験生が出願にあたり、あらかじめ記入する書類に対する制約です。
現在のところ、生成AIが入り込むのは、事前の書類作成の段階に限られる、ということです。
もし受験生が作成段階で生成AIを使ってしまうと・・・
本来、大学が受験生に期待していた行為——
受験生自らが考え、記入するという作業がAIで代替されてしまい、受験生本人の資質や意志、そして大学や学問に対する姿勢がわからなくなってしまう、
あるいは、本人に関しては本当の情報ではなく、ウソの情報が記入されてしまうかもしれない、
さらには、文章作成能力に秀でた生成AIが、本人の文章作成能力の欠点を覆いつくしてしまうかもしれない、 等々
大学はこうしたいろいろな危惧を想定し、公表を発するに至ったと想像できます。
しかし、仮に受験生が、そうした公表を無視し、こっそり生成AIを使って自己推薦書を作成して提出してしまった場合、どうなるのでしょうか。
受け取った大学側のスタッフや先生は、書類を読んだだけで判別できるのでしょうか。
あるいは、その後の個別面接で、漏れなく使用した痕跡を見抜る可能性はあるのか。
マナー&エチケット学習は入学前から?
ここは、あくまで性善説に立って、受験生たちはきっと守ってくれることを信じて、メッセージを発信している、と言えるでしょう。
でも、今後の生成AIの普及度合によっては、受験生や高校生に、完全に使用させなくするのは難しくなるのかもしれませんね。
それよりも、大切なことがあります。
これから大学に入ってから学問を修めるプロセスでは、外部の人が書いた論文や資料・データを利活用、あるいは引用する上での基本的なエチケットやマナーを身につけることが不可欠です。
これらの注意喚起は、それらについての学習が出願の段階から始まっているのだ、と解釈した方がよいのかもしれません。
ちなみに生成AIにおいては大規模言語モデル(LLM)が基盤となるわけですが、LLMが膨大な文献・データを“学習”する段階 において、著作権をどう扱うのかについては、現在世界中で活発に議論が進められていますし、すでに訴訟も起きているようです。
つまり出自のはっきりしない生成物を学生や受験生たちが、易々と用いることの危険性や、著作物に備わる権利についてのルールは、受験生や高校生といえども、十分に弁えておかなければいけないからです。
生成AIに個人情報を入力してしまうことの危険性
横浜国立大は、学校推薦型選抜のみならず、入試全般についての注意喚起を行っています。
前述の2大学のように、使用を直接禁止したりはしていませんが、たとえば、高校時代の成績や活動歴等が生成AIを使ったことで事実に反した内容になってしまったりして、あとで取り返しのつかない事態に陥るようなことがないようにと、生成AIの持つ危険性に触れながら、「不正が疑われたり、入学後に学修上のミスマッチが起きたりしないよう」に、やんわり注意を促しています。
「生成AIに入力した情報は、AIの学習に利用されたり・・・」との部分は、自身の個人履歴について生成AIとやり取りすることで、個人情報が外部に漏洩してしまう危険性あるということを指しているわけです。
確かに、意図しない個人情報漏洩も十分に注意をしなければいけませんね。
こうしたことも高校段階で知っておいた方がよいでしょう。
ほとんどの大学はまだ様子見か
ここまで、24年度入試に関して、生成AIについて触れた事例を、ごくわずかですが見てまいりましたが、逆に言うと、ほとんどの大学が入試についてまでは見解を示していません。
考えてみれば、ChatGPTが世間の話題になりはじめたのは昨年の暮れあたりからですから、まず、学内の教職員と学生への対応が先で、24年度入試にまで手が回らなかったというのが正直なところかもしれません。
むしろ、間もなく始まる24年度の学校推薦型選抜や総合型選抜などでは、事前に書かせた書類において生成AIがどのように影響しているのか、面接の際には、提出書類と本人の面接内容に齟齬や乖離がないのかなど、とりあえず試験内容の状況をみて、25年度以降に何らか手を打ちたいというのが、大学側の本音かも知れません。
面接は、別の意味で、ますます重要に
もう一つ、面接の在り方についても影響があるでしょう。
多くの大学は、今回の対応については、とりあえず最終的に面接というプロセスがあるのだから、生成AIの関与はそこでチェックをすればよい、と考えているのかもしれません。
面接は、とくに学校推薦型選抜や総合型選抜では、欠かすことのできない選抜における大事なプロセスであると言っても過言ではないでしょう。
なぜならば、面接官と受験生が直接対話をすることで、その受験生がもついろいろな側面や可能性、あるいは医学部であれば医師としての適格性を見抜くことができる(はずの)貴重な機会だからです。
ところが、今回、生成AIの出現によって、面接は別の意味合いで重要にならざるをえなくなってきたわけです。
受験生の提出した書類はちゃんと自分の言葉で書いたものか、作成段階で生成AIを使ってはいないか等について短い時間でちゃんと確認しなくてはいけなくなったのです。
でも、
非の打ちどころのない書類と、面接ではそれとの齟齬が見当たらない好印象の受験生であれば、生成AIの手助けを受けていない好人物、と判断していいのか。
これから、面接とは何なのか、がますます問われそうですね。
いずれにせよ、対面での面接や口頭試問は、今後は生成AIの出現によって、面接官には新たな観察視点が要求されるなど、別の意味で、その重要性がますます高まることは必至でしょう。
生成AIの影響は中高の教育、受験対策にも
さて、ここまで大学側から発信された生成AIについてのメッセージを見てきましたが、生成AIは中学校や高等学校の教育や受験対策においても大きな変革をもたらす可能性がでてきました。
次回以降は、生成AIが大学や大学入試に与える影響を、
別の角度から見てまいりましょう。
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