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パパになった日の思い出
長女が生まれたのは、かれこれ5年前のお話。
冬が始まりそうで始まらない12月初旬。この日は、雲ひとつない青空で妙に空気が澄んでいた。日差しに冬の柔らかさはなく、ピーカンもピーカンの天気だった。
予定日の一週間前、嫁さんは、出産前最後の定期検診で病院へと出かけた。私は仕事をしていた。お昼前、車で烏丸通を北上しているとき、病院にいる嫁さんから連絡がきた。
嫁「血圧が高すぎるから、緊急入院することになった」
出産後期、嫁さんのふくらはぎは、パンパンにむくんでいて、かなり大きく腫れていた。歩くたびに痛い痛いといっていた。どうやらその異常は、「妊娠後期高血圧症候群」といわれるやつで、即入院案件だったらしい。入院グッズ持ってきてくださいな、と指令を受けたので、すぐに用意を取りに家に向かった。そしてすぐに病院へ直行した。12時半には、病院に到着した。
着いてびっくりした。嫁さんは、分娩室にいた。そして、着くやいなや紙切れをペラりと渡された。手術の同意書だった。
嫁「緊急帝王切開で14時から手術になった。母体もしんどいやろうし、お腹にの中にいる赤ちゃんもしんどいから、この際、切っちゃいましょう!ってなった〜」
分娩台にどっしりと横になってる嫁さんは、あっけらかんとしてた。こうもすぐに切り替えられる嫁さんのメンタル的タフさは、さすがとしか言いようがない。アタフタするのは、いつも男である。こちとら、急展開すぎてメンタル置いてけぼりである。
*
ひとまず、両家のおかんおとんに連絡した。13時30分には、全員到着。みんな落ち着こうとしているけど、落ち着けていないあの感じを醸し出している。すると、間も無くして、嫁さんが手術室にドナドナされていった。見送る一同、運ばれていく嫁。私は、どんな顔してたのだろう。とにかく無事で帰ってきてくれって気持ちだった。
少ししてから、お昼休憩明けでスッキリとした顔の先生がエレベーターから出てきて、澱みのない流れで手術室に入っていった。「さて!仕事仕事!」って感じでサラッと普通に入っていった。あの人が執刀するっぽい。貫禄のある先生だった。
さて、ここからの30分が長かった。ただただ、待つしかない。たったそれだけの時間。これが長かった。別に何をするわけでもない時間。まだかな、まだかな、無事生まれますようにと祈る気持ちで窓からピーカンの天気を眺めていた。それにしてもええ天気やなぁ、と意味もなくつぶやいていた。そのへんをウロウロして、時々つぶやくだけの男。なかなかの不審者である。
待合と手術室の間には長い廊下があって、産まれた瞬間に「おぎゃー」とは聞こえなさそうだった。そういうの期待してたけど、現実は、こんなもんだ。「おぎゃー」と言った気がしたけど、気がしただけだったみたいなのが2回ほどあった。待合の空気中には、ソワソワが充満し尽くしてた。
*
14時10分、ついにこの瞬間。手術室の扉が開いて、中から看護師さんが出てきた。「おじゃー!おじゃー!」と泣いている赤ちゃんを抱っこしながら、「産まれました〜!」とこちらの方へやってきた。嫁ドナドナから30分ほどの出来事だった。
全員歓喜。一同拍手。
「おぉ〜!」ってなった。
私は、看護師さんに呼ばれて、一緒に処置室に行き、赤ちゃんを台に乗せて、体重を測ったり、手足があるとか指の本数とかを数えたりした。傷がついてないかとか、体全体を一緒にチェックする。
確認作業が終わると、赤ちゃんとは一旦お別れして、待合で嫁を待つ。すると、嫁さんがゴロゴロと運ばれてきた。安堵した。無事で何より。お疲れ様、と手を握った。
嫁さんは、りんごのように赤い顔だった。真っ赤っかも真っ赤っかだった。ここ、感動の一言を言う場面だったが、あまりにも顔が赤かったので「いや、顔真っ赤やなw」と素直な一言がポロリとこぼれた。嫁さんは、顔を真っ赤にして「嘘やん、マジ!?きゃー!」と返事して、顔を手で覆いながら、部屋へと運ばれていった。
*
今思い出しても怒涛の3時間だった。なんだかんだでテンポよく生まれてきた目の前の長女5歳。今この瞬間、ソファでダラダラとドラえもんの映画を見ている。
・こぼれ話
手術室では、終始和やかな雰囲気の中、帝王切開の手術が行われていたらしい。嫁曰く、執刀してくれた先生は「旦那さん、東南アジア系だね〜?顔濃いね〜!」とか「なんで立ち会いしないの〜!?旦那さん、アホやな〜!」とかなんとか旦那いじりの話題で会話を楽しんでいたらしい。すると、急に「はーい、生まれたよ〜!」って感じで生まれたとな。「なんか知らん間に生まれてた」と回想していた。
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