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ヒーローたちの喧騒【戯曲/コント】

『別役実のコント検定』(白水社)に収録されている「ヒーローたちの出発」という作品
この作品は高校生の頃、演劇部だった時に稽古の際に使用したそれが、
なんとなくずっと忘れられなくて、でもこの作品の名前もどの本に載ってるのかも
まったく手掛かりがなく。ただただ、ヒーローが出てくる、コント。
それだけを大学の講師陣に投げかけた結果。
見つかるもんなんだなぁ。(しみじみ)
大好きな作品と再会した喜びは大きかった。
その後の物語、という名目で書き下ろし、上演した。
(上演というと大きく感じるが、小さな箱でやる無料イベントで披露した。)
ただただ楽しさを前面に出した作品なので、舞台というよりコントとして
カテゴライズしたい作品。
ちなみにイエロー役と演出をやりました。すごく楽しかった。こういう作品をいっぱい書きたいし、
演りたいです。人を笑わせたぁい!


キャスト
レッド          
ブルー          
グリーン         
イエロー         
ピンク          


遠くに雷が鳴っている。雨の音。
以下、グリーンの登場シーンまで続く。(FO)

舞台後方からレッドが早足で歩いてくる。そのすぐ後ろをイエローが追いかける。


イエロー   (追いかけながら)ねぇ、レッド!
       ちょっと、ちょっと、待ってってば‼
レッド    …。
イエロー   ねぇ、レッド!レッドの考えも分かるけどさ、でも…
レッド    イエロー。(立ち止まる)
イエロー  (レッドを見上げる形で立ち止まる)…。
レッド    いいか、イエロー。よく覚えておけ。
       …男には、絶対に譲れないものがあるんだよ。
イエロー   でも、でもさ、だからって、殴ることないんじゃ…ブルーだって、
レッド   (遮って)イエロー。いいか…よく聞くんだ。
       …男には、絶対に譲れない、
イエロー   レッド。
レッド    (食い気味で)まだ喋ってるぞぉ。
イエロー   …。
レッド    …男には、絶対に譲れな、
イエロー  (遮って)レッド、返り討ちにされてたじゃん。
レッド   (イエローが言い切る前に)イエロー‼いいか、よぉーく耳を澄まして聴くんだ。
       男には、
イエロー  (遮って)レッド、ボコボコにされてたじゃん。
レッド    イエロぉー‼いいか、五感を研ぎ澄ましてよぉぉぉぉく聴くんだぁ。
       男に、
イエロー   レッド、泣いてたじゃん。
レッド    イエロー、
ブルー   (後方から、レッドの声と重なる感じで)イエロー‼放っておけ、そんな弱虫。


舞台後方からブルーと、その後ろにピンク。喋りながら登場。 


イエロー   ブルー…。
ブルー   (レッドと対峙するような形で舞台上に)こんな分からず屋になァ、何言ったって時間の無駄だ。
レッド    それはこっちの台詞だ。
ブルー    …あぁ、そうかよ。…お前とは分かり合えないってことかよ。はは、俺達、今までよく一緒に闘ってこれたよな。信じられねぇよ。
イエロー   ちょっと、ブルー!やめなよ、そんな…
ブルー    イエロー。お前は俺と同じなんだから、もっと胸張っていいんだぜ。
レッド    ハッ…!(鼻で笑う)
ピンク    …アタシ達…もうダメなのかしらね…。
イエロー   ピンク!
ピンク    …今まで…ありがとうね、イエロー…。(イエローの前を通り、レッドの傍へ)
ブルー    ピンク、お前…。
ピンク    …ごめんね、アタシは…レッドについていくわ。だって…アタシは…
レッド    ピンク…みなまで言うな…!
ピンク    アタシは…自分に素直でいたい…!
イエロー   や、やだよ、みんなっ…!
レッド    イエロー…。お前も、強くなるんだ。自分を、信じろ…。たとえそれが、俺と違う道でも、な…。
ブルー    …俺達、…どこで間違っちまったんだろうな…。
ピンク    もう…戻れないのね…。あんなに…幸せだったのに…。
レッド    …ミラクルレンジャーは…、今日、この瞬間をもって…、解散、する。
イエロー   …そんな…(膝から崩れ落ちる)
ピンク    …。(口をさえて涙を堪える)
ブルー    …くそっ…!(背中を向ける)
レッド    ……ミラクルジェット、発進準備オッケー、(見事な男泣き)(ポーズはかなりダサい)
ブルー    発進準備、オッケー…!(これまたポーズはダサい)
ピンク    発進準備…オッケー…!(美しい泣き顔)(独特な奇抜なポーズ)
イエロー   ……は、発進準備…オッケー…!(鼻水止まらないタイプの泣き方)(ポーズはわりと普通)
レッド    愛と平和を守るため…!ミラクルジェット…発っし、(言い切る前にグリーンの声)


グリーン、後方から登場。手にはピザのチラシ。


グリーン   いやぁ、やっぱり俺分かんない!ピザに乗ってるパイナップルの存在意義だけは分かんないわ!
      (歩きながら)パイナップルってデザートじゃないの?フルーツだよフルーツ。
それがピザに乗っかっちゃってたらそれはもうピザじゃないよ、いやピザなんだけどね。
ピザであることには変わらないんだけどね、俺パイナップル乗ってても食べるし、うん、逆に新鮮でいいよね、
パイナップル。パイナップル食べる機会ってなかなかないし、逆にピザと一緒に食べるっているのも乙だよね。
あ、なんか、すごいイイ気がしてきた。そう考えると酢豚にもパイナップルって入っているし、間違いではないってことだよね、
うん、そうだ、そんな気がしてきた。
サイドメニューは骨付きフライドチキンでいい?
(ここまでなるべく一息で、間をあけずに)


グリーン、ステージ上で俯く他のメンバーにようやく気が付く。


グリーン   …え、みんなパイナップル嫌いだっけ…?
レッド    ………ピザじゃなくてピッツァって言えーーー!!(グリーンに殴り掛かる)
イエロー   レッド、落ち着いて!
ブルー    放っておけ、イエロー。俺達はもう、チームじゃないんだから。
レッド    …。(動きを止める)
グリーン   え、何事なの?
ピンク    解散したから、アタシ達。
グリーン   ワオ!
ブルー    …俺達、どこで間違っちまったんだろうな…。
レッド    …ミラクルレンジャーは…、今日、この瞬間をもって…、解散、する。
イエロー   …。(膝から崩れ落ちる)
ピンク    …。(口をさえて涙を堪える)
ブルー    …くそっ…!
グリーン   俺がいないのに決まったの⁉
イエロー   決まった。
グリーン   ワオ!あっさり!
レッド    …ミラクルジェット、発進準備オッケー、(見事な男泣き)(ポーズはかなりダサい)
ブルー    発進準備、オッケー…!(これまたポーズはダサい)
ピンク    発進準備…オッケー…!(美しい泣き顔)(独特な奇抜なポーズ)
イエロー   ……は、発進準備…オッケー…!(鼻水止まらないタイプの泣き方)(ポーズはわりと普通)
レッド    愛と平和を守るため…!ミラクルジェット発っし、
グリーン   発進しないで!俺、今、けっこうびっくりしてる!なんだったらだいぶびっくりしてるよ!
ピンク    でも、決まったことだから。
グリーン   ワオ!揺るぎない!
レッド    (グリーンの顔面ギリギリで)いいか、グリーン。よく覚えておけ。
       …男には、絶対に譲れないものがあるんだよ。(グリーンの顔面にめり込む勢い)
グリーン   だいぶ……近いねぇ。
ブルー    それは…突然のことだった…。(客席に向かって)
グリーン   始まるの?何か始めるの?レッド、ちょっと近いねぇ、(離れないレッド)
ピンク    いつもの朝。アタシ達にとって平和な朝を迎えることは、何よりの幸せで、何よりかけがえのないことだった。
グリーン   始まってる?もう始まってるのこれ?レッド、ちょっと、近いねぇ。(離れないレッド)
イエロー   僕たちの平穏は、脆くも儚く、崩れ去ったのだった。


レッド、ブルー、ピンク、イエロー、突然のサイレント芝居。(瞬時に行う)
空気椅子で食卓を囲んでいる様子。
レッド、新聞を読んでいる芝居など。
ブルー、髪型を気にしている芝居など。
ピンク、人数分のボウルが載ったお盆を持って、それを置く芝居。
イエロー、ピンクのお手伝い。
以下、グリーンの台詞中も芝居を続けている。(グリーンの声に合わせて、その動きをするイメージ)


グリーン   始まってるね!確実に始まってるよこれ!パニック!でもでもでもでも~!
       俺は空気の読めるグリーン!みんなよろしくね!音楽カモン!


グリーンの掛け声(指パッチン)を合図に、音楽。(ベートーベン『運命』交響曲第五番第一楽章)流れる。


グリーン   ピンクから手渡された牛乳を…順番にボウルに注ぐ…レッド…ブルー…イエロー…ピンク…。
       そして…手を合わせて…いただきます。
       その瞬間、すぐさまボウルの中身に食らいつく…ブルーとイエロー。
       呆気にとられるレッドどピンク。
       レッドの顔が怒りに歪む。ピンクは頭を抱える。
       ブルー、一気に掻き込む。
       イエロー、不穏な空気を察知する。
       ブルー、ご馳走様でした。
       レッド、音を立てて立ち上がる。
       宙に舞うお皿たち。
       レッドの拳がブルーめがけて飛ぶ!
(ここから全員の動きがややスローモーションに)(照明できればストロボ風に…)
       ふっとぶブルー!
       顔を覆うピンク!
       お皿をキャッチしてどや顔のイエロー!
       ブルーに馬乗りになるレッド!
       と見せかけて背後を取られるレッド!
       ブルーの逆襲!殴る!殴る!止まらないブルー!
       レッド、降参!
       しかし止めない!止まらないブルー!止めてあげて!レッド泣いている!
       そしてフルボッコにされているレッドの写真を
インスタグラムとTwitterにあげるピンクとイエロー!(ボコられているレッドを背景に自撮りをする二人)
現代っ子、末恐ろしいッ!
       そして叫ぶ、レッド!


レッド    まだコーンフレークがしっとりしていないでしょぉぉぉおうがぁッ!

音楽CO。
全員動きが正常に戻る。何事もなかったかのような戻り方。


レッド    ―――というわけでだな、
グリーン   いや、どういうわけよ!え!俺今何してた⁉自分で自分が怖いッ!
ブルー    こういうわけだ。分かれ。
グリーン   わかんねー!
ピンク    なんで分かんないのよ!
グリーン   わけわかんないよ!そんなことで解散しようとしているみんながわけわかんないよ!
レッド    そんなことって言うなぁーっ‼
グリーン   えええめっちゃ怒ってるぅーっ!
レッド    牛乳をかけてすぐに食べるなんて、邪道オブ邪道。まさに下衆の極み。
いいか、牛乳がコーンフレークにしみこんで、しっとりとしてからが勝負なんだ。
それなのにこいつらは…信じられない。悪魔の所業だ…!
ブルー    黙っておけば、何を勝手な事を言ってやがる。牛乳をかけて放置するなんて、それこそまさに鬼畜の所業。人にあらず…。                     
さくさくした触感を味わってこそ、コーンフレーク本来の味を楽しめるってもんだ。
       なんだったら俺は…
レッド    ま…まさか、お前…!
ブルー    …そのままでも……イケる。
レッド    …カハァッ!(吐血)
ブルー    牛乳の力なんか借りなくてもなぁっ!俺は!コーンフレークを楽しめるんだッ!
レッド    …人間の姿をした悪魔め…!(立ち上がれないほどの衝撃を受けている)
グリーン   俺今凄く困惑してる。
イエロー   牛乳いれて3秒くらいが美味しいなぁ。
ピンク    ざくざくは口の中に刺さって痛いから却下。しっとりこそ正義よ!
グリーン   ねぇ、勇気を出して言うね。ねぇ、そんなに重要かなこれ。
レッド    勿論だ。
グリーン   地球を守ることより、
レッド    大事だ!
グリーン   うっわー!言い切った!迷いもしなかった!
レッド    大事だ!
グリーン   聞き返してないのにもう一回言った!
ブルー    で!お前はどうなんだ!
グリーン   え~…何がぁ~…
レッド    俺たち、
レ・ピ    しっとり派か!(荒ぶるポーズ)
ブルー    オレたち、
ブ・イ    ざっくり派か!(荒ぶるポーズ)
四人     どっちなんだ!
グリーン   えええ~…パニックだよぅ~…
ブルー    …俺達、どこで間違っちまったんだろうな…。
レッド    …ミラクルレンジャーは…、今日、この瞬間をもって…、解散、する。
イエロー   …。(膝から崩れ落ちる)
ピンク    …。(口をさえて涙を堪える)
ブルー    …くそっ…!
グリーン   もういいよ!どんだけ解散したいの!
レッド    …ミラクルジェット、発進準備、
グリーン   全然オッケーじゃないよ!
ピンク    しっとり!(謎のポーズ)
イエロー   ざっくり!(対抗したポーズ)
グリーン   情緒不安定かな⁉
ブルー   (グリーンに手を出しながら)ようこそ、ざっくりワールドへ。
レッド    ハハッ!しっとりランドだよ!ハハッ☆
ピンク    ハハッ☆
イエロー   わぁ‼ミッキーさんだぁ!
ブルー    惑わされるなイエロー!そいつらは腹の中まで真っ黒なしっとりモンスターだ!ボクが本物だよ!ハハッ☆
レッド    ハハッ!
ピンク    ハハッ!
グリーン   いい加減にしろー!
イエロー   (小さく)ハハッ!
グリーン   俺達が考えるべきことはそんなことじゃないだろう!守るべき地球のこと忘れたのかよ!
レッド    (思い返したように)ハッ…!
グリーン   俺たちはずっとずっと一緒に、愛と平和のために、頑張ってきたじゃないか!コーンフレークがなんだよ!
しっとりでもざっくりでも、美味しければそれでいいじゃないか!どちらにもそれぞれいいところがある!
それぞれの良いところを認め合って、生かし合う!力を合わせて強くなる!
そう…俺達みたいに…。
四人     …。
グリーン   ぶつかることもある。腹が立つこともある。それでも…俺達は、五人でひとつ…俺達の絆は絶対だ…。
そう、コーンフレークと牛乳のように…。合わされば、最強だよ。
レッド    グリーン。
グリーン   …でしょう…?
四人     (間)そういうことじゃ、ないんだよな。(ないのよね)
グリーン   え?
レッド    そういうことじゃないんだよ。
ブルー    あぁ、そういうことじゃないんだよな。
イエロー   そういうことじゃないんだよね。
ピンク    そういうことじゃないのよね。


口々に言いながらステージを降り、舞台後方にはけていく。歩きながら、


レッド    ピザ…いや、ピッツァでもとるか!
ピンク    賛成!アタシ、シーフード!
四人     パイナップルはナシ!
ブルー    サイドメニューはポテトで決まりだな!
イエロー   ボク、電話してくる!
レッド    領収書ちゃんともらっておくんだぞ!


残されたグリーン。数秒の間のあと、


グリーン   愛と平和と…俺の胃袋を守るため!ミラクルジェット、発進!


暗転。

数秒後、明転と同時に音楽(無責任ヒーロー)
イントロの間に四人、ステージに戻る。
一番のみダンス。


(幕)








素敵なサムネイル画像、お借りしました。
https://www.pixiv.net/artworks/56681075


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