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「その先にあるもの、とは」【感想文】

某劇団様の舞台を観に行った時の感想文。
今でも思い出せるのはこの時初めて(自分にとって)「面白くない」と
感じる舞台を観劇したということだ。
これまで何が「面白い」と感じ「面白くない」と感じるか、
良さが分かるか、悪さを感じるか、そういったことが全く分からなかったのだが、
「面白くない」を知ることが、その後の演劇人生に大変に糧になった。
あの時この芝居に出会えてよかったと思う。
自分にとって心に響かないもの、というのを知れた時間は、貴重だった。



 dracom Gala公演 ウイングフィールド提携公演「たんじょうかい」(演出 筒井潤)が5月17日(金)から19日(日)に行われた。「たんじょうかい」は短編戯曲の三本立ての上演会であり、それそれが個々の世界観を持つ(非常に強い世界観だと自分は感じた)舞台であった。独特の雰囲気に引き込まれはしたが、その解釈にたどり着く前に次の作品が始まってしまったことは残念であり、自分の理解力の乏しさを痛感した。演劇を鑑賞し、そこから何か得るための力を身につけることを今後の課題にするべきだと気づけた点はよかったと思う。
 三本立ての戯曲のうち、自分が最も印象的だった劇を抜粋して感想を述べようと思う。その劇が一番に演じられ、集中して見れた点もあるが、唯一劇の終わり方が(自分が思うに)登場人物たちが報われた話だったと感じたのでこの一本を選んだ。
 「スカートにバター」(サリngROCK)はとある夫婦の間に起こった問題を取り上げた作品で、コスプレが趣味である妻のインパクトが強すぎて話の内容どうこうより彼女の演技力の高さに圧倒された、というのが素直な感想だ。特に、冒頭や随所(妻がネットの住人と会話するとき)に行った、ノートパソコンを顔の真ん前に広げ、台詞と同時にキーボードを強く叩く行為だ。そのとき彼女は普段とは違う、ミルク(ネットでの彼女の名前)としてコスプレのイベントへの参加を熱弁する。
 自分で作った自慢の衣装を愛でていると、夫が帰宅する。ここで夫婦が揃う。笑顔で迎えた妻とは対照的にどこかうんざりしたような遠い目をする夫。そんな彼に気づいていない妻は自分が明日東京へイベントに行くと告げ、夫は彼女に父親の晩御飯はどうしたと問う。その答えはファーストフードで済ませた、お義父さんがそれでいいと言ったから、など、呆れるものであり、夫は彼女に明日は一日中家にいなさい、と言い付ける。最初は反抗するもうまく言葉が見つからないのか、彼女は再びパソコンを持ち上げるとイベント不参加の旨を伝えはじめる。
 そこへ登場するのは夫の父親。何故か夫と同じ顔(役者が同じ)設定である。妻が度々見間違えて話しかけるという描写があったが、どうしてその設定を付け加えたのか自分にはよく分からなかった。
 父親を出した点としては、自分にも息子(夫)にも趣味がないということをはっきりさせた役割のためだと解釈した。つまり自分が夢中になれる趣味を持っていない夫は、妻の趣味にかける熱意を理解出来ないのだ。
 自分のやりたいことに理解がない夫に複雑な思いを抱える中、夫から差し出された離婚届けに彼女はふっきれたように一人で全てが終わったイベント会場に向かう。
 ここで彼女のマイクパフォーマンス(歌と、歌の合間の台詞)がある。一人寂しく誰もいない会場でコスプレをする彼女の寂しさや報われなさが伝わってきて非常に良い演出だったと思う。またそのシーンで使われた照明も彼女の孤独を表しているようでよかった。
 帰宅した彼女を迎えた夫との会話は、お互いが付き合いたての頃である思い出を回想し、お互いが交わした約束を思い出す。
 昔、自分がプレゼントしたケーキを笑顔で食べる夫に、「一生笑顔でいてくれるようによくできた奥さんになる」と考えていたはずが、いつの間にか自分の趣味に走り家事を疎かにしていた自分の行動を反省し、夫も一生懸命彼女にアプローチしていた頃を思い出し、二人は離婚を回避してまた生活していく。
 ちなみに、題名である「スカートにバター」という言葉を象徴するシーンがラストにある。ケーキを作った昔のように料理をはじめる妻のスカートにバターが零れ落ち、それを夫が写メを撮るのだ。そこで二人の心がようやく通じたようには感じることができた。

 と、こんな感じでまとめてみたが、結局なにが伝えたかったのかは(これを言ったら元も子もないが)自分にはよくわからなかった。最初にも言った通り自分の理解力の乏しさが一番の原因だと思うが、この劇を通して何か伝わってきたか、と問われれば即答でそう答えるだろう。蛇足かもしれないが残りの二つの劇も同じような感想を述べることになる。解釈に正解はないのかもしれないが、この三つの戯曲は難しくて世界観が強かったこともあり自分としてはあまり心から楽しめる舞台ではなかった。それと同時に、もっと率直でベタにわかりやすい演出でも面白い作品が生まれると感じた。次回はそういった舞台を期待して(そのときには自分の理解力も高めてから)ぜひ観に行きたいと思う。










素敵なサムネイル画像、お借りしました。
https://www.pixiv.net/artworks/47428415

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