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ラショナル‪·‬アニマル〜サピエンスの生態学的合理性。 #Ratian|進化心理マガジン「HUMATRIX」

人間の行動には、絶対に、絶対に、理屈はない。でも、それなのに、それなのに、この気持ちを抑えられない。そして、地図はない...。────ビョーク『Human Behaviour』

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アイスランドのレイキャビクに生まれたものの、どこか日本人的な顔立ちをしている世界的な女性シンガーソングライター・ビョーク。

彼女がハウスを取り入れたポップサウンドに、野生的で生命力のある自由闊達なボーカルを乗せて全編を歌い上げたアルバム『Debut/デビュー』(1993)。そのオープニングソングとして選ばれたのが、冒頭で歌詞を引用した「Human Behaviour』だ。


この曲を書いた当時のことを振り返って、ビョークは英『The Guardian』誌のインタビューにこう応えている;

“『ヒューマン・ビヘイヴィアー(人間の行動)』を書いた当時、私は自分の子供時代について回想していたの。たぶん、人間と一緒にいるよりも、一人で外を歩いて歌を歌ったりしている方が気楽だという話をしたかったのだと思う.....子供どうしの交流や、レイキャビクを囲む山や海、そして動物たちとの調和は心地よく味わったけれど、大人たちとの関わりはどちらかというと混沌としていて無意味(ナンセンス)だと感じてた。“

“ 6年生になると私は、科学、数学、物理など、堅い教科を選択した。心理学、人類学、社会学、歴史などはロジックが貧弱な学問だと思っていたから。たぶん、アイスランド人の大多数は同じように考えてると思う。…… “

“ でも、私自身、年を重ねて大人になってからは、自然なテーマを大切にするようになったんです。最近はじめて心理学についての本をたくさん読んだし、私の最後のアルバム『Volta』には人類学の観点があったと思います.....つまり、人間について少し学んだんです。今では、他人とかなり会話を続けることができるようになったし(世間話はまだ苦手だけど)、自分の人生経験を通して、人間を少しは理解できるようになったのだと思う “

- ビョーク、20年後の「Human Behaviour」について語る、The Guardian誌 (2011)

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ビョークは、人間という存在にいったい何を求めていたんだろう? ────理屈であり、ロジックだ。


それさえあれば(おそらく孤立しがちだった)じぶんにも人間というものが理解できる、調和できるはずだ・・・と彼女は信じていたんだ。

でも、それなのに、それなのに、人間というものは、行動の論理を明かそうとしない

論理的な筋道の見えないものにヒトは苛立ちを覚えることがあるが(これは認識的情動/e.e.と呼ばれる)、おそらく幼いころのビョークは、その傾向が他の子供達よりもかなり強いタイプの個体だったんだろう。

〈人間の行動には、絶対に、絶対に、理屈はない。〉

大人たちはみな、彼女にそう教えてきた。心はただフィーリングを介して感じるものであって、ロジックや理屈で理解するものじゃありませんと。

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しかし、彼女は地図が欲しかった。

理解しがたい人間の心というものを、ナビゲーションしてくれるものが。

そんなものはない───ほんとうに?人間の行動を動かしている論理の地図は無いんだろうか?人間のこころの働きに設計図はないのか。

だとしたらなぜ、感情には一定のパターンがあるのか。たとえばだれかにモノをブン盗られたヒトは、なぜ涙目になって爆笑するのではなく、アタマに血を上らせて怒るのか。その感情の筋道は?論理は?


人間が理解できない────。

ビョークと同じような困難を抱えて悩んでいる人たちに手を差し伸べる学問がある。そう、進化心理学(Evolutionary Psychology)だ。

人間の行動には、絶対に、絶対に、理屈がある。


現在ビョークと同じような悩みを抱えている世界中の子供たちに向けて、俺たちは果敢にもそう言い切るんだ。

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