『損失回避バイアス』が進化した理由。 ─── 不合理な認知バイアスの裏にひそむ、生物学的に"合理的"な論理を暴け #Cogbias Ⅰ｜進化心理マガジン「HUMATRIX」

”失いたくないものがあるのは、いい人生の証だ。“ ───映画『キングスマン: ゴールデンサークル』

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#行動経済学がビジネスマンの間で大ブームに

2021年現在、行動経済学はビジネスマンの間に広く受け入れられている。

人間の意思決定は不合理に偏って (バイアスして) いると説き、認知バイアスの呪文を唱えることがマーケターたちのプレゼンを成功に導くのだから、このワザを覚えない手はない。

なんでそんなプレゼンがウケるのか？

マーケターというのは、口先で何を言っていようと、愚かな大衆というアホどもに不要な商品を売りつける── 存在しない需要を創出する！──ことを四六時中企んでいる連中だからだ。

CMで劣等感を刺激して商品を買わせるのは、顔面をブン殴ったあとに絆創膏を売るのとおんなじだ。ただし精神面への攻撃は物理的な暴力を振るってないので違法じゃない。クソどもの考えていることは俺もクソ人間だからよくわかる。

だから彼らは「バイアスバカ」の認知特性を利用するという「悪巧み」を一緒にやりませんか？！という誘いにはホイホイ乗っかる。ちょっと悪いことを一緒にやる仲間はたがいに惹かれあい、コアリション心理が活性化し、仲間意識が育まれ、個体間の信頼が増幅する（その進化的説明はまた今度する）。

ここ十数年の間に行動経済学がマーケターや広告代理店のビジネスマンの間で大きな支持を受けるようになったのも納得だ。愚かな消費者共は合理的意思決定をする力を持たない！バイアスに惑わされ不合理な消費をする！────認知バイアスの呪文があなたのプレゼンを成功させるのだから。

いまや学術的に名付けられ分類されている認知バイアスの数は236個かそれ以上にものぼる。

その名前と内容を記憶するだけでも大変だが、呪文の使い手としては誰も使ったことのない新しいスペル［呪文］がどんどん辞書に追加されていくというのはワクワクするものだ。

────だが、一つ問題がある。認知バイアスが生じる理由を誰も理解していないことだ。

“理由“ だって？ウィン・ガーディアム・レビオーサ！と唱えれば、羽が宙に浮く。それ以上に何を理解する必要があると言うんだ？

────魔法の世界ならそれでもいいかもしれないけど、科学の世界の話をするなら、「人間の意思決定はこんなふうに歪むんだよ、不思議だね」で済まさず、それが起こる原因を突き止める必要がある。

（否、科学の定義をよく参照すればかならずしもそんな必要はないのだが、真の科学的精神とはそれを突き止めたいという探究心を抱くことだと信じる科学者は多いはずだ）

過去数十年の研究で認知心理学者たちがシコシコと一つずつ見つけてきた認知バイアスの長ーーーーーーーいリストをただクルクルと巻き物にしてその内容を記憶しているだけで知った気になってちゃあいけない。