アイデンティティ・クライシス [ソフィアの母]
Independent Women's Forum(=IWF)は、保守系の女性権利運動NPOである。
今回は彼女たちの新しい試み——ジェンダー・イデオロギーによって引き裂かれる母と娘の苦悩を描くドキュメンタリー、『Identity Crisis(アイデンティティ・クライシス)』シリーズ第1作目が早速反響を呼んでいるので紹介する。
以下の記事と動画を参考にまとめた。
元記事・動画リンク先;
参考記事、ポッドキャスト;
帰らない娘
シカゴ在住のジャネット・クーパー、44歳。キリリとサイドを刈り上げたヘアが印象的だ。
進歩派リベラルの民主党支持者で、自称ラディカル・フェミニスト。教育者として子供たちに囲まれる仕事をしながら、ジャネットは自身を愛情深く責任感のある母親だと考えていた。2015年に夫と離婚し、週6日7晩、娘ソフィアの親権を勝ち取った時も、2人はボードゲームや進歩的な政治話で絆を深め、幸せで健康的な母娘関係を共有していたという。
しかし、2019年7月22日、当時12歳だった愛娘ソフィアは、定期的な父親の家への滞在の後、ジャネットの元へ帰宅するのを拒否した。
そして翌朝、ソフィアは自分がトランスジェンダーであり、母親のそばにいると「安全でない(unsafe)」と感じると告げた。
突然の告白
ジャネットは、ソフィアがなぜ母に対し「安全でない」と感じるのか理解できなかった。娘には、ありのままの自分を受け入れることを常に明確にしてきたはずだ。
性別移行しようとするティーンエイジャーに関するニュース記事を見た時に、「こうした子供たちは、性別という枠に嵌まりすぎず自分の体に慣れ、個性を認めてくれる人たちを見つければいいのだ」というような考えをソフィアの前で披露したことがあったかもしれない。でも、まさかそれが?
そもそもソフィアは、これまで性別違和の兆候を示したことはなかった。実際、ステレオタイプのジェンダー観に一切囚われないジャネットと比べても、ソフィアはよりフェミニンな行動や嗜好を多く示していた。
元夫が育児協定に反してソフィアを家に留めてから8日後、ジャネットは娘を自分の保護下に戻すよう緊急請願を提出した。
ソフィアの父親は、「娘は思春期が始まり自我に目覚めたため、母親の家に帰すことが精神的、感情的に安全でなくなった」と主張し、法廷で反論した。そして養育時間の全て、意思決定の全権を要求し、裁判所と裁判所の命令による児童代理人の同意なしにジャネットがソフィアと会ったり、連絡を取ったりすることを禁止するよう要求した。
裁判所は父親側の主張を受け入れ、家庭内調査を命じた。
信念を捨てて
突然、最愛の娘と引き離されることとなったジャネットは、自身の内にある確固たる信念を曲げ、ソフィアの新しいジェンダー・アイデンティティである「アッシュ」に宛てて、3ページに渡り突如始まった娘の変化を「肯定する」内容の手紙を書いた。
目の前に突きつけられた現実を無理やり受け入れようとしていた、とジャネットは振り返る;「それが私のやるべきことだと思っていたんです。」
手紙は失敗に終わり、「書かない方がマシだった」と撥ねつけられた。
ジャネットは、元夫の再婚相手で心理療法士の資格を持つソフィアの継母が、ソフィアをジャネットから引き離すように促したと考えた。継母は、ソフィアを「救う」という名目で親権を変更するように仕向けたのだ、とジャネットは言う。
ソフィアがトランスジェンダーであると主張した直後に出された仮の裁判所命令では、ジャネットは、疎外された子供と親を和解させるための特別な家族セラピーに参加する場合に限り、娘に会うことが許されていた。ジャネットはそれを楽しみにしていた。
しかし、元夫の妻も参加させるという条件があり、ジャネットとソフィアの個人面談を含め、継母は家族療法の内容全てにアクセスすることができた。ジャネットはこの取り決めには不服であるとセラピストに訴えたが、「同意しなければ娘に会えなくなる」と言われたという。
「継母の介入に同意しないなら、娘は私に会うことを拒否する、と言われました」とジャネットは語った。「選択の余地はなかった。ただもう娘に会いたかったんです。」
セラピーは、ぎくしゃくした親子関係を和解させるのに成功しなかった。それでもジャネットは、悪夢はすぐ過ぎるとどこかで考えていた。
家庭内調査
元夫が、母親のそばにいては娘が「安全でない」と主張したため、ソフィアの身体的、精神的、または感情的な健康に対して両親のどちらかが危険な可能性を判断すべく、裁判所は「包括的な親権調査[604.10(b)]」 を命じた。これで自分の無実が明らかになり、娘と再会できるとジャネットは信じていた。
元教師で、現在はデポール大学で教育学の博士号候補であるジャネットは、調査の必要性は理解している;「子供が危険だと言っているのなら、それを調査するのが裁判所の責任です。だから、それに関してはいいんです。正しいことだと思うから。」
臨床心理士による7ヶ月の調査には、心理テスト、家庭訪問、それぞれの親との何時間もの面接を必要とした。
「報告書が出た後、私は、きっとこれで事態は解決すると思いました。明らかに虐待もネグレクトも発見されていないわけですから。私を危険視する理由を彼らは見つけていないんです」とジャネットは言った。
理解の強制
ジャネットは報告書の内容を共有することはできないが、調査後に公開された裁判所の文書には、虐待やネグレクトについての言及はない。しかし文書には、「未成年者の性別違和に対するサポートについて理解を深めることが必要」とジャネットについて書かれた一節があった。
「トランスジェンダーの性自認という概念について、私は理解しています。ただそれは、彼らが望む概念ではないんでしょうね」と彼女は言う。
「『自分の体に何か問題があるという子供の主張を肯定すること』こそが良い子育て、そんな概念、私はとても従えません。そんなことはしたくない。それが良い子育てだとは思えません。」
「彼らは私に、生まれつきトランスジェンダーの子供というものが存在し、それがその人であるという一定の理解を求めています。私はそれを真実だと思ってません。裁判所に嘘をつくつもりはありません。信じてないことを信じていると述べるつもりはありません。私は「真実を語る」という宣誓をそれはもう固く守っているからです。私の娘は女の子で、私は彼女にも他の人にも嘘はつけません。それこそがより良い子育てじゃないでしょうか。」
娘を守るために
昨年、娘にも会えずセラピーも行き詰まった中で、ジャネットは自発的に新しい条件を飲んだ。3年近い法廷闘争と終わらない審理によるトラウマを、ソフィアのためにもジャネット自身のためにもこれ以上深くしてはいけないと、考えた末の決断だった。
最終合意の条件では、ソフィアは引き続き父親の監督下に置かれ、裁判所の命令あるいは元夫の同意がない限り、ジャネットの面会交流権はないままだ。ジャネットは何度も娘に会わせてくれるよう要求したが、元夫は同意しなかった。
しかし、娘に会えない代わりにジャネットが手に入れたものがある;それは、裁判所の命令またはジャネットの書面による許可なしにソフィアは医学的な性別移行ができない、という法的な約束だ。
未だ15歳、成長を続ける健康な身体を切り刻む手術やホルモン治療から、娘を守ってやれる唯一の手段だった。
再会を夢見て
突然の別離から3年、ジャネットは娘の13歳、14歳、15歳の誕生日を祝えなかった。今年8月に16歳の誕生日を迎えたソフィアが、車の運転を習っていることをジャネットは知った。「教えてあげられたらいいのに…」ジャネットはポツリと言った。「私、そういうの得意だから。」
ソフィアが住む家も、通学先も知っている。しかし母は娘に会うことができない。唯一許された娘との繋がりは、郵便のみ。
「刑務所にいる殺人犯の方がまだ、子供たちとの触れ合いを許されてる。こんなの、おかしいでしょう?」
しかし、裁判所やソフィアの父と継母らの目に映るジャネットは、トランスフォーブ(トランス嫌悪者)だ。そしてそれは、どんな罪よりも深い。
2019年にソフィアが家を出てから、母がその姿を見たのはたった8時間半。3年の間に、たったそれだけ。
家にある無数の家族写真は、箱にしまった。泣かずに思い出を振り返ることができないからだ。最後のスクールフォトは、娘が7年生(13歳)の時で止まっている。元夫は写真すらジャネットに許してくれない。
ジャネットが再び裁判所にソフィアとの面会を申し立てするには、セラピストと面談し、ルーリーズ小児病院の「ジェンダーと性発育プログラム」と呼ばれるトランスジェンダーの子どもを持つ親や保護者のためのサポートグループに3回参加しなければならない。ウェブサイトによると、このプログラムは「家族に教育、例外、『肯定的』臨床ケアを提供」している。
トランスジェンダーのケアには「肯定」以外の選択肢がない。どんなに幼くとも子供が「わたしはおとこのこ」、「ぼくはおんなのこ」と言えば、それに口を挟むことはトランスフォビアにあたり、親といえども子のアイデンティティを傷つける危険な存在として排除されてしまう。
ジャネットのように。
ジャネットは、昨年の秋に5回のセッションに参加した。裁判所が指定するセラピストには空きがなく、待機者名簿は満杯だという。他の保護者たちの境遇を思う。
「娘と会えるために必要ならば何でもします。これ以上何ができるのか、私にはわからない。」
声をあげる母
ジャネットと同じような問題に悩む親は、何千人もいる。
2022年6月のピュー調査によれば、30歳未満の成人の5.1%がトランスジェンダーまたはノンバイナリであると回答。30歳未満の成人のおよそ半分が、トランスジェンダーを自認する人物を個人的に知っているとし、成人のおよそ10人に1人が、18歳未満のトランスジェンダーを自認者を知っていると答えている。
爆発的な勢いで若年層にトランスジェンダリズムが浸透しているのだ。
ジャネットが運営を手伝っているトランスジェンダーの子どもを持つ親のためのFacebookグループには、2,500人の親が参加している。他の親たちを支持するグループにも、12,000人以上のメンバーがいる。
家庭裁判所で何が起きているのかを説明し、自分たちが孤独ではないことを知ってほしいと、ジャネットは考えている。
「悲しいですが、誰にでも起こりうることなんです。私が話をすることで、娘と私を引き離した制度が変わればいいのですが。」
「突如ソフィアが私から引き離されることが確定したプロセスは、彼女を傷つけています。娘のトラウマになってるんです」とジャネットは言う。「家庭裁判所は、虐待やネグレクトの証拠もなしに子を実の親から引き離すべきでありません。間違ってます。私にも、どの親にも起こってはならない。娘はこの状況下で最大の被害者です」
最近、ソフィアは「自分はトランスジェンダーではない」と気づいたという。ジャネットは正しかったわけだ、と言いたいところだが違う。ソフィアは「自分はノンバイナリだ」と言っているそうだ。そして"Xe,Xer"の代名詞を使っていると。全くの
ナンセンスだが、こうしたジェンダー・アイデンティティの主張は思春期の少女たちに顕著だ。
そして周囲の大人たちはそれを無条件で受け入れ肯定するようメディアや「専門家」に諭される。
ジャネットは自分の直面している境遇を多くの大人たち、主に専門家のせいだと思っている。決してソフィアのせいではない。娘は普通に思春期を迎えただけだ。
友人、学校、インターネット、そして心理療法士の継母の影響も多分にあったことだろう。
「娘に対し怒りはありませんし、失望もしてません。子供の成長と発達を保護し、支援することができなかった大人たちに失望しています。娘の気持ちはわかります。苦悩しているのに、誰も彼女に寄り添い問題を解決しようとしてくれず、自分で判断なさいと言われたようなものです。『あなたが身の危険を感じていても、危険だと思わせるような証拠は何も見当たりません。だから、どうしてそう感じるのかを考えてみましょう。あなたの苦しみを支えてくれて、そこから抜け出すまで一緒にいてくれる大人を、あなたの道程のあちこちに見つけましょう』というのがなかった。」
ジャネットは、こうして自分のことを語る母を見たソフィアがどう反応するか、わからない。しかし、やがて事態が好転しないかと期待している。いつかソフィアが真実を貫こうとする母の決意を理解し、親としてジャネットがやっていることに気がついてくれるかもしれないと。
「私の子供は海に浮かぶ一隻の船なんです。彼女はもがいている。荒波の中にいる。そんな彼女を見てきました。私が言われたのは、娘に先導させよ、娘の進む方へついて行け、というものです。そんなことはしたくない。それは良い子育てと思えません。親として、私の船を彼女の船に括り付けないことが私の責任でしょう。灯台になるのが私の役目です。いつもそこにいて彼女が見えるよう行く先を照らし、ずっと変わらず導いてやるんです。」
「それが私の責任です。親権を失った今もそうしています。私はもう医療的な判断も教育的な判断もできない。教育上の決定権もない。郵便以外での連絡手段もない。娘の電話番号も知らない。彼女がどこに住んでいるかは知ってますが、そこに行くことはできない。彼女の通う学校も知っているけど、そこにも行くことは許されない。でも、これも子育てなんです。例え彼女と実際に触れていなくても、私はまだ親です。私は彼女の母です。そして今もまだ子育てをしているんです。」
(終わり)
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ジャネットと同じように子供をトランスジェンダリズムから守ろうとして親権を剥奪された親は増えている。幼い頃からから母親に女児化させられてきた少年ジェームスの父親、ジェフリー・ヤンガー氏も未だに息子の性別移行や親権を巡り、闘争を続けている。
テッド・フダコ氏も同様のケースだ。別居中の妻からある日突然「息子はトランスジェンダーだ」と告げられ、それきり会えなくなってしまう。家裁の判事もトランスジェンダーの子を持つ熱心なLGBTQアライで、あれよあれよという間にフダコ氏は親権を奪われてしまう。
両親の離婚、小児科医やセラピストの親の存在、ジェンダー・イデオロギーが浸透した学校・医療機関・家庭裁判所など、相似点はいくつもある。