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当事者でない人にも読んでほしい! #YourChoiceProject初の著書『なぜ地方女子は東大を目指さないのか』レビュー

2024年8月20日に特定非営利活動法人 #YourChoiceProject 初の著書となる『なぜ地方女子は東大を目指さないのか』(光文社刊)が発行されました!

この本は、2023年に発表されて大きな話題となった#YourChoiceProject(以下#YCP)の調査レポート「なぜ地方女子は東大を目指さないのか」をもとに、データやインタビューを付け加えて編集されたものです。調査結果だけを見てもとても充実した面白いものでしたが、この本はその調査にインタビューや背景の説明、考察なども加えられて、さらに読みやすく、非常に論理的で理解しやすい内容になっています。

ずっと存在していた違和感を可視化

東大学内に伝統的に存在していた「東大女子お断りサークル」が表すように、良くも悪くも「東大女子」というのは稀有な存在です。こちらの記事にも書かれているように、いまだに「東大女子2割の壁」は越えられていません。さらに地方出身となると、その比率は低くなり、2021年度入学者でたった9%だそうです。当事者が少ないからこそ、プロジェクト立ち上げ当初、地方女子には大きな障壁があるという課題意識そのものに理解を得ることがとても難しかったといいます。

難関大学の女子比率の不自然さ、その背景にある構造的差別に気づいていないのは、東京大学の学生だけではありません。東京大学内には#YCPだけでなく、こういった構造的差別の解決に向けて取り組む団体が複数存在します。一方で、その他の難関国立大学である、京都大学、東京工業大学、一橋大学も、前述のように女子比率の低さが問題となっていますが、それに取り組もうとする団体は一つも存在しません。当事者ですら、問題と感じていない、問題と感じていても動こうとする学生は滅多にいないのです。ぜひ、本書を通じ、 そういった学生の「問題はない」という認識だけでも変えられたら嬉しいです。

第1章  課題の背景 より

ずっと「あたりまえ」だと思ってフタをしてきたモヤモヤを違和感で終わらせるのではなく、データで示していくことで「地方女子の課題」を浮き彫りにするーー。本書では、「地方女子」が抱えるさまざまな「構造的差別」について丁寧に解説し、当事者以外にも問題意識を投げかけます。

女性を苦しめる「地方の呪縛」の正体

「地方女子」の問題といえば、2024年6月、NHK『クローズアップ現代』で「女性たちが去っていく 地方創生10年・政策と現実のギャップ」というテーマが放送され、話題となりました。実際、日本全体の4割にあたる744の自治体では、2050年までに20〜39歳の女性が半減し、「最終的には消滅する可能性がある」と言われています。地方女子に首都圏への進学を促すプロジェクトの趣旨は一見すると、こうした社会問題の解決に逆行しているように思われるかもしれません。それに対して本書では以下のように説明します。

女性ばかりが地方に戻ってこないという現状は、「女性を地元外に出さない」ことで本人の可能性を制限して食い止めるのではなく、女性が戻りたいと思える地域を作ることによって解決すべきです。そのためには、なぜ地元を離れた女性が戻りたくないのかを知る必要があります。

第7章 「女子は地元」に縛られて より

女性の流出に対して多くの自治体が行っている施策は、子育て支援や出会い・婚活支援など「産む」ことにばかりフォーカスしたものが多い印象です。これらは女性をあくまで「産む」ための存在扱いし、地域に縛り付けようとしているようにも見えます。少なくない女性が地元を嫌う理由に、「結婚しろ」「子どもを産め」といったプレッシャーの強さがあるのではないでしょうか。本書では、「なぜ地元を離れた女性が戻りたくないのか」という視点に立ったとき、「生き方の多様性を認める寛容さ」が鍵だとしています。

LIFULL HOMES総研の調査では、女性を地方から遠ざける「ファクター X」を、「寛容性」であると結論づけています。「女性の生き方」「家族のあり方」などの6つのジャンルで在住者の寛容性を測るアンケート調査を行ったところ、在住者が感じる地域の寛容性は、地方出身者のUターン意向と強い相関関係があるというのです。このような地方の「空気感」は、まさに地方のジェンダー意識の低さと密接に関係しています。「女子だから」勉強はしなくていいのよ、結婚が大事よと言われる社会に、自立を志す女性が帰ってきたいはずがありません。女性の多様な生き方が許されない非寛容な社会が改善されない限り、地方はこの先も女性に選ばれない「地方」であり続けると、私たちは考えます。

第7章 「女子は地元」に縛られて より

これを裏付けるようなアンケートとして、内閣府が発表した「令和4年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャスバイアス)に関する調査研究」というものがあります。それによると進学や就職などで地方から東京圏に移動した経験がある人の移動理由の中で、男性より女性で高いものは、「娯楽や生活インフラが充実している」とともに「他人の干渉が少ない」「多様な価値観が受け入れられる」となっています。「地方でも首都圏に進学できる 」多様性を推進することは、地方の魅力を向上させ、女性のUターン促進につながると考えられます。

大学卒業後のロールモデルの不在

結婚や出産へのプレッシャー以外にも、地方独特の多様性のなさは枚挙にいとまがありません。例えば、私が育った神戸市というのは、どちらかというと“おしゃれな街”として知られていますがその分、プライドも高く、多くの他の地方都市と同じように「地元至上主義」や「公立至上主義」が蔓延っていたように思います。加えて関西では、「慶應より神戸大学のほうが上」と本気で言う人がいるなど、なぜか東京を目の敵にするフシもありました。

そしてその価値観の視野狭窄ぶりは、職業選択においても同様です。「地方には仕事がない」とよく言われますが、実際には全国の有効求人倍率は都内とそこまで変わらないらしく、厳密には「仕事のバリエーションがない」というのが実情のようです。私自身、卒業後に出版社に就職しましたが、約6割以上もの出版関連事業者は東京に集中しているそうです(2019年度の帝国データバンクの調査より)。そうした実情についても本書では指摘しています。

 いわゆる「大企業のビジネスパーソン」がどんなものかを実際に知る地方学生は少ないかもしれません。
 事実、東京の企業数は約25万社で、全国の15・3%を占め、資本金10億円以上の企業数は全国の50・6%を占めています。つまり、名前を聞いたことがあるような有名企業に勤めるサラリーマンは東京に集まっており、地方の学生がそういった職業ロールモデルに出会うことは難しいのが現状です。

第3章 原因の探究①資格重視傾向 より

解決への取り組みと目指す世界

こうした「地方のロールモデル不在」に対して、本書では第8章に「解決への道のり」として、具体的な取り組みをいくつか紹介しています。

その中の1つが、#YCPで実践している#MyChoiceProjectという、地方の女子高校生向けのメンタリング事業です。メンタリングプログラムの中には、2ヶ月に1度行われるキャリア講座というものがあり、さまざまな進路へ進んだ社会人が登壇しています。地方にいると、教師と保護者以外の大人に接する機会もほとんどなく、キャリアやライフイベントに関する先輩の話をじっくり聞くことのできる機会は滅多にありません。こうした取り組みによって、本書の著者であり#YCPの代表でもある江森氏の母校である静岡高校では東大を目指す女子が増えてきているということで、一歩ずつですが着実に効果が出てきているように見えます。

毎年話題になる「ジェンダーギャップ指数」、日本の順位は2024年度で118位(146ヵ国中)でした。日本で特に遅れているとされるのが、政治・経済の2つの分野だと言われています。国会議員(衆議院議員) の女性比率は1割に満たず、企業の女性管理職の割合も13.2%という低水準にとどまっています(男女共同参画白書令和4年度版)。#YCPの取り組みは、これを「採用」段階の男女差を縮めることで解決しようとするものです。

人材の供給源である大学での男女比が偏っているのであれば、採用結果も偏ってしまうことは当然の帰結と言えます。
 この、供給源における男女比の影響は、政治の分野で見るとより深刻です。出身大学別国会議員の数は東京大学が1位で、女性議員だけに絞っても東京大学が1位。東京大学出身以外の議員を増やす必要もありますが、東京大学の男女比が8:2のままでは女性議員が増えないことは容易に想像できます。

第1章 課題の背景 より

少子高齢化が進む中で生産性を上げるためには、ジェンダーギャップを解消し、現在1割程度しかいない政界や企業での女性リーダーを増やすことが喫緊の課題です。そのためには、今までリーダーとして育成される前の“入り口”の段階で諦めさせられていたたくさんの可能性に目を向けることが必要があります。ずっと「あたりまえ」だとされてきた無数の呪縛を次世代に引き継がせないためにも、まずは多くの人に「地方女子」が抱える課題を本書を通して知ってほしいと思います。

本書に興味を持った方は、ぜひ以下のリンクからご確認ください。試し読みも可能となっています。
また、本書の感想も募集しています。本記事にコメントをするか、または #なぜ地方女子は東大を目指さないのか でツイートしてくださると嬉しいです!Amazonのレビューもお待ちしています。よろしくお願いします。
『なぜ地方女子は東大を目指さないのか』(光文社刊)

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