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「勝山さと子さん」~究極の“伝統”にこだわって~(後編)

2017年、着物ブランドを立ち上げた帯・着物のプロデューサー、勝山さと子さん

JTACメンバーによるインタビュー後編は、彼女の着物への想いからです。

(前編はこちら

着物がワードローブの一つに選ばれることを目指して

着物のプロデューサーとして日々新たな取り組みを続けるさと子さんに、これからの挑戦と想いについて聞いてみました。

(さと子さん)「どうすればワードローブのうちの1つを着物にしていただけるのか、を考えています。日常着までいかなくても、特別な時に着ていくアイテムの一つに着物が選ばれるようにしていきたいです。
どうしても年齢を重ねると女性は体型にも変化が生まれてきます。そんなときドレスや洋服も素敵ですが、着物は日本人の体型にあった綺麗な着姿が映るので、華やかな衣装の選択肢として着物を選んでもらえると嬉しいです。着物を着て出かけると周りの方たちの扱いも、自身の所作も丁寧になりますしね。
今後着物が多くの方にとってワードローブの一つに選ばれることを目指して着物の魅力を伝えていきたいと思います。」

勝山さと子さん


着物とファストファッション


ここまでの対話で、さと子さんの仕事以外の日常についても気になり伺ったところ、実は一児の母として絶賛子育て中。

(さと子さん)「朝6時から娘のお弁当づくりをする毎日です。まだ小さいので、余裕がなくなりがちですが、和に触れることで心の余裕につながるのかな、と思っています。」

等身大のさと子さんの素顔が垣間見えたので、ファストファッションについてもどう思うのか、尋ねてみました。

(さと子さん)「ファストファッション、私も着ます。(笑)大量生産されたものと、オートクチュールのような仕立て品と、もちろんそれぞれの良さがありますが、ただ、きものの多くの場合が仕立て品だということ、そして孫の世代までも着られるということ。反物に戻すことで何度でも着られます。まさにSDGsですよね。贅沢なお話かもしれませんが、私たちは蚕から作っており、言ってしまえば究極のオーガニック。赤ちゃんのおくるみ、肌着として着ても最高だと思います。また、作るまでに携わった人の顔が見えるところも良いところです。」

(さと子さん)「コロナ禍で影響がありましたが、オートクチュールである着物も、ネット販売が増えていくと思っています。お客様を限られたところで奪い合うのではなく、いかに分母(ファン)を増やしていくか、が課題だと思っています。」

勝山さと子さん

コンセプト設計から、生地選定、糸やデザインの考案まで、全体プロデュースして着物や帯の作品に仕上げるという仕事を、育児をしながらこなしてしまう、さと子さん。

その背景には、さと子さんが作品づくりに果敢に挑戦し続けられる、大きな影響を与えてくれている人達がいました。さと子さんのお兄さんであり、勝山織物五代目の勝山健史(かつやま・たけし)さんが設立した勝山織物の絹織研究所の糸づくりのお話を通じて、その方々のことを伺いました。

勝山織物が誇る糸へのこだわり

長野県上伊那にある勝山織物(株)絹織研究所では、西陣織の帯や着物づくりだけでなく、その素材となる“糸から作る”から作っています。

(さと子さん)「今から20年ほど前、兄が昔の裂地(きれじ)を見た時に明治より以前の絹織物はなぜこんなにも美しいのかと疑問に思ったところから、今流通している絹と何が違うのか、という探求が始まりました。
明治以降の絹は効率を追求し、使用する繭、与える餌、保存方法、糸の引き方、全てが変わり大量に均一である糸を作りだしました。そのおかげで1900年ごろには日本は生糸の輸出量が中国を抜き、世界1位になったのですが、手間暇かけて作っていたその良さとは違うものになっていました。昔の絹は今ではもう再現できないものと、どのようにして作られたか分からないものもたくさんあります。でもその素晴らしい絹織物を作りたいという、兄の強い想いから、同じ志で当時絹の研究をされておられました、愛媛県野村町にあるシルク博物館の研究所の講師などを務めていた志村明さんと出会い、2003年養蚕の地に適した長野県上伊那に養蚕から絹織物ができる工房を作りました。
世界を見ましても、養蚕から絹織物まで一貫した生産をしているところはおそらく個人を除いては弊社だけだと思います。」

最初は養蚕から手掛けるという決断に、周囲からは反対されたのだそう。それでも、、とことんMADE IN JAPANにこだわりたい、という想いは、きもの研究科の方々からも支持も得ました。

まさにSDGs

勝山織物(株)絹織研究所で行っている養蚕による糸づくりは、お蚕さんの餌づくりから始まるのだそう。

(さと子さん)「まずネズミ返しという古来からある桑を植えるところから始まります。一般的には稚蚕の時は人工飼料で飼育されておりますが、弊社では桑を細かく刻んで与えております。そしてお蚕さんが繭を作り、そこから羽化するまでは1週間ほどですので、それまでに糸をとるか保存しなければなりません。」

糸をとる際も古来の手法にこだわります。

(さと子さん)「長野工房では生きたままお湯に浸けながら糸を引く、生引きを採用しています。また、保存する際には、お漬物を漬けるように塩と繭を交互に入れて最後を泥で密閉する塩蔵というやり方をしています。一般的には熱風乾燥です。そうして、手で糸を繰ります。一般的には自動繰糸です。」

ただ、このような伝統手法では生産量は限られます。なかなか商業ベースにのせられないこともあり、この手法での糸づくりで作られるものはほんの一部の商品と重要文化財の修理などにも充ててきたのだそうです。その実績が認められ、2021年、文化庁からの支援を得ることとなりました。

(さと子さん)「わたしはこのようなものづくりを傍らで体感してきました。
長野の糸はわたしの商品には使えませんが、一からものづくりをしている心強い方々に囲まれ、ものづくりができるという立場に恵まれています。」

お蚕さんから作られた生糸


今回の対談を通じ、さと子さんや勝山織物のみなさんの様な方々が、さまざまな逆境を乗り越え挑戦を続けてくれているからこそ、日本の着物という誇らしい伝統が守られ継承されていることを深く実感しました。

つくり手さんのように作品を自らつくって世に残すということは私はできないけれど、

“私が買うことで伝統が守られる”という考えも、伝統を守っていくための1つの手法かもしれません。

SDGsと着物―。そして伝統。いま一度その深いつながりを考えてみても良いかもしれません。

後書き:着物は好きだけど、着物作りの知識はまだしも呉服業界の“いろは”なんぞ全く知らなかったわたし。インタビュー前は「そんなのも知らないなんて!」みたいに怪訝な顔されたらどうしよう(;;⚆⌓⚆)ドキドキ…と思っていました。でもさと子さんは、とても気さくで優しいお姉さんという感じで、勝手に親近感を覚えました。考え方に共感するお話も多く、私たち日本人が伝統の中で引き継いできたものの中に、SDGsに向き合うヒントがあるのでは、と改めて感じました。

(筆:Takae)


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