ニール・ヤング「自伝」
皆さんこんにちは。今日は読んだ本の感想。
今回取り上げるのはニール・ヤングの自伝。
文字通り、アメリカを拠点に活動するミュージシャン、ニール・ヤングの半生を自ら語る内容の作品だ。
日本ではただシンプルに「ニール・ヤング自伝」という題で発表されているが、英語版では”Waging heavy peace”(重い平和を築く)という少し意味深なタイトルになっている。
定期的に私のnoteを読んでくれている方ならお気づきかも知れないが(そんな人がいるかはわからないけど)、私はニール・ヤングの大ファンである。
いちファンとして、この自伝はいつか読んでみたいと思っていたが、日本では大型書店や古本屋でも見つけることができなかった。
半ばこの自伝を読むことを諦めていた人生だったが、ワーキングホリデーで訪れたオーストラリアのショッピング・モール内の書店に当たり前のように置かれているのを目にし、かなりの衝撃を受けた。
今まで何度も探した幻の書籍がこんなこぢんまりとした書店に置かれているなんて、と。
英語版で500ページ近くの特大ボリュームではあったものの、出会えた嬉しさで思わず購入してしまった。
それからひと月ほどの時間をかけて読破したので、感想を述べていきたい。
英語で読んだため、読み違い・意味の捉え違い等あるかも知れないが、大目に見てね。
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まず、読み始めて気づくのは、これが「自伝」というより「エッセイ集」に近い、ということだ。
以前ボブ・ディランの自伝を読んで、時系列順に書かれていないことに驚いた、とこのnoteで触れたが、ニール・ヤングのものに比べればそれはまだまだ自伝として読まれることを意識して書かれている、親切なものだと感じた。
こちらは時系列順で書かれていないのは当たり前のこと、エピソード間の時間のギャップをチャプターで区切る、という配慮がない部分も多い。つまり、一つの章の中で何度も時間が前後したりすることは当たり前に起きる作品だということだ。
おそらくニールは思うがままに筆を取り、思い出した順番にエピソードを綴っているのだろう。
ただ、こうしたトリッキーな構造も、一旦自伝ということを意識しなければ、彼と雑談しているような軽やかさを感じることが出来るうえ、自伝よりも自由にエピソードを巡っていくエッセイのような魅力を見つけることが出来るのだ。
そんな自由な雰囲気が漂うこの作品だが、しっかりと知りたかった・本人から聞いて見たかったエピソードはしっかりと抑えられている。
かつてのバンド仲間、スティーブン・スティルスとの劇的な再会や、よく比較対象にされるボブ・ディランとのエピソードなど。彼がチャールズ・マンソンに会ったことがあるのには意外だったし、読んでいて驚いたエピソードの一つだった(ニールもマンソンが後に起こした事件にはかなり驚愕したそう)。
当たり前のように彼の日常には歴史的な人物や著名なアーティストが登場することには流石としか言いようがないし、読んでいて飽きない。本人の性格以上にユニークな体験も多く語られている。
個人的に好きだったエピソードは、彼がバンドを始めたての頃に手に入れた中古の霊柩車についての部分。
霊柩車は他の車よりもバンドの機材やメンバーを乗せるためのスペースを多く確保できる上、周りが誰も使用していなかった部分をニールは気に入っていたという。それについて「僕らのバンドは他にないアイデンティティを手に入れた気分だった」とコメントしているが、その堂々とした不謹慎さに思わず笑ってしまった。
また、彼の名前が知られるきっかけとなったバンド、バッファロー・スプリングフィールド(以降「バッファロー」とする)についても時折触れている。
バッファローは仲違いや方向性の違いで何度も衝突し、すぐに解散してしまっている。それ故に喧嘩別れしたイメージが強く、ニールもあまり良い思い出がないのかと思っていたが、こうして何度も話題に出しているところを鑑みると、思い出深い時期として認識しているのがわかる上、良い時代として認めているのには意外だった。
バンドを離れ、ソロ活動を始めた頃を振り返る記述でも「なぜバッファローとソロを平行してやらなかったのだろう。できたはずなのに」とすら書いている。
バッファローも大好きな私からするとこの部分は少しぐっとくる所だったし、あのままもし、バッファローが続いていたら私たちにどんな音楽を聴かせてくれたのだろう、と思いを巡らせずにはいられなかった。
しかし、そういった興味深いエピソードがどんどん語られる中、自分の車のコレクションやPure tone(ニールが取り組んでいる音楽サービス。本書後半に名を「Pono」と改められる。他ストリーミング・サービスよりも音質にこだわり、アーティストが本来意図した音をリスナーに届けることが目的。現在プロジェクトは中断されているとのこと)についてのみ平然と丸々1チャプター使って語られる箇所がいくつかあり、その手(車・音楽配信技術)に疎い自分にとってはほぼ右から左に流れていった部分だった。
ただ、読者にとって美味しいところのみを届けるのではなく、飽くまで今の自分が関心を持っていることについて語っていくところは、マイペースな彼らしい部分というか、周りを巻き込んでいくアーティストらしい部分と言えるのかも知れない。
そのような部分も含め、ニール・ヤングをかなり感じられる一冊となっていると思う。
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以上が私の「ニール・ヤング自伝」の感想だ。
ステージやインタビューで話す彼から受ける印象と同じく、あっけらかんとした口調で語られるエピソードや思いは何にも代えがたいものだし、このように人生で起きた出来事を他人に語る際は、私も素直でありたいものだ。