ほんとうの丁寧に気づかせてくれた一冊「ひぐらし日記」を読んで
小学校の低学年だった頃、図工の時間に先生から、画用紙の白いところを残さずに、全部色で埋めなさいと言われたことがありました。めんどくさいなと思いながら、妙に空ばかりの絵を描いた記憶があります。
そんな私がこのコミックエッセイを手に取って最初に抱いた印象は、隅々まですごく丁寧に描かれているなということでした。
舞台は、昭和の日本、利根川沿いの村です。
例えば、台所の排水パイプのうねり、木製電柱から宅内への配線と電気メーター、道路側溝の蓋の欠け。
こういうところが正確に描かれいてると、うれしくてたまりません。だって、絵の中に入って行けるんですもの。
パイプのうねりをねじってみたり、電線をゆさぶってみたり、側溝の上を踏んでガタガタさせたり、この本の絵を眺めているだけで、いろいろ楽しめてしまえます。
今も見つけたんですよ、振り子時計に、ネジを差し込んで巻く穴があることを。
この本は、日暮えむさんとえむさんのひいおばあちゃんであるとしょさんとの、保育園からとしょさんが亡くなるまでの、いや、現在までの暮らしのエッセイです。
日暮えむさんは、小学3年から日記を書き続けておられるとのことですが、そのためでしょうか、このエッセイに綴られている出来事が、かなり昔の出来事であるにもかかわらず、まるでここ数日内に起こった出来事のように感じられます。
ドラえもんのタイムマシンに乗っかって、ポンと飛び降りると、そこにえむさんととしょさんがいて、目の前でお話している、そんな感じです。
何でこんなにリアルに感じるのでしょう?
これは私の勝手な想像ですが、えむさん、もしかすると、えむさんには今もとしょさんの声が聞こえるんですよね。だから、日々の出来事をこんなに丁寧に描写することができるんだ、そんなふうに思えました。
そんな二人の関係が、このエッセイを読むとまざまざと伝わってきます。
としょさんが生きていた昭和には、まだ習わしや言い伝えが多く残っていたようです。現在では、非科学的なものとして排除する向きがありますが、あの世に行った人から今生きている人への愛情の証と捕らえてみてはどうでしょう。そしてそれを丁寧に伝えていく。このことこそ、あの世へ行った人たちへの愛情のお返しになるのかなと、そんなことを思いながら、あっという間の読み終えてしまいました。
(おわり)