透明なこども
私は一人っ子だ。母と父との三人からなる私の家は、地方の田舎にありながらも年に一度旅行をし好きなものは何でも買ってもらい、端から見れば恵まれた公務員家庭だった。
外側を語ればこのように恵まれた子供に思えるが、私には両親との思い出がひとつも無い。私に笑いかける両親の顔の記憶が無い。あるのは眉をしかめ怒鳴り付ける母の顔、頼りなく身体を丸め二階へ逃げる言葉の無い父の背中の記憶ばかりだ。それでも私は"厳格な親"なのだとばかり思い込み、もちろん愛されていると思っていた。
私は親に愛されず育った透明なこどもだ。
それに気付いたのはついこの間、平成が終わりを告げる4月のことだ。
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