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なぜBig Dealなのか〜戦略的選択の本質を問う〜
はじめに
「Big Dealを取ろう!」という掛け声は、多くの営業現場で日常的に聞かれます。しかし、その前に立ち止まって考えてみる必要があるのではないでしょうか。なぜBig Dealを追求するのか。その動機や意図は何か。本稿では、この根本的な問いから、営業戦略の本質を考えてみたいと思います。
数字の裏に潜む真実
同じ1億円でも
年間100万円の案件を100件受注して1億円を達成する営業と、3年かけて1億円のBig Dealを1件獲得する営業。一見すると同じ成果に見えますが、その本質は大きく異なります。
リスクとリターンの現実
Big Dealには、確かに魅力的な側面があります。しかし、そこには無視できないリスクも存在します。商談期間が長期化することによる機会損失、意思決定プロセスの複雑化、競合との激しい競争。これらは全て、受注確率に大きな影響を与える要素となります。
戦略的な選択の重要性
動機の本質を問う
Big Deal受注を目指す前に、私たちは「なぜその金額を目指すのか」という本質的な問いに向き合う必要があります。単なる数字の大きさや、見栄えの良さだけを追い求めていないでしょうか。
確実性という選択肢
同じ期間で1000万円を10件受注できる可能性が高いのであれば、それは十分に魅力的な選択肢となりえます。受注率60%の営業担当者であれば、6000万円の確実な売上を選択する方が、戦略的には賢明かもしれません。
組織としての判断
持続可能性の視点
組織として重要なのは、持続可能な成長モデルの構築です。安定的な小規模案件の積み重ねは、以下のような利点をもたらします
キャッシュフローの安定性
リスクの分散
顧客基盤の拡大
組織的な知見の蓄積
もちろん、組織つまり会社の創業からのステージによっても考え方は変わります。創業間もなければより広く認知とシンボリックなお客さまを求めるかもしれません。
人材育成の観点
小規模案件の積み重ねは、若手営業の育成にも大きな意味を持ちます。成功体験を積み重ねながら、着実にスキルを向上させることができます。一方、Big Dealのみを追いかけることは、時として若手の成長機会を奪うことにもなりかねません。
より確実な目標達成へ
戦略的思考の重要性
組織として、また個人として、より目標達成の可能性が高い方向を選択すること。それこそが真の戦略です。単に「Big Dealがカッコいい」という感覚的な判断で、貴重なリソースを投入することは避けるべきでしょう。
バランスの取れたポートフォリオ
理想的なのは、Big Dealと小規模案件をバランスよく組み合わせることです。しかし、そのバランスは組織の状況や市場環境によって柔軟に調整されるべきです。
おわりに
Big Dealを追い求めることは、必ずしも間違いではありません。大きな目標に挑戦することで、組織と個人は大きく成長できます。また、営業メンバーのモチベーションや向上心を高める効果も確かにあるでしょう。
しかし、それが唯一の、あるいは最善の選択肢とは限りません。重要なのは、組織として、また個人として、最も効果的な成果を上げられる方法を冷静に見極めることです。時として、それは地道な小規模案件の積み重ねかもしれません。
営業メンバー一人ひとりの成長目標やモチベーションを大切にしながら、「一か八か」の発想ではなく、確実な成果につながる戦略的な判断をしていく。その判断の上に立って初めて、組織は持続的な成長を実現できるのではないでしょうか。