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【詩】 夜桜

タバコを吸いにベランダへ出ると

桜の花びらが一枚

床に張り付いていた。



影も持たないほど薄いくせして

夜目にも鮮やかに

己の居場所を告げている


この春、僕が

ロクに花見もできなかったことを

君は知っていたのだろうか?



この狭いベランダから

道路一つと

小さな柵と

二つの街灯を置いたところに

君はかつて住んでいた。


君の兄弟たちは

先週の豪雨と

今なお続く荒々しい突風によって

散り散りになった。

そして君も同じように

この薄汚れたベランダまで

流されてきたのだ。



今年の春は

何か感じる前に

終わりを迎えたように思えたが

君は

たった今色づいたかのように

瑞々しい色を保っている。


今年の桜も美しかったと

挨拶しにきてくれたのだ。


僕に

ほんの一瞬の春を

残してくれた

この便りない訪問者を

大切にもてなしたかったが

僕が今、持っているものといえば

己の体を蝕むためにこしらえた

歪なタバコと燐寸だけ。


だから

また来年会おう。

今度は君達のすぐ側で。


その時までに

君達を讃えるためだけの

うってつけの形容、比喩、詩的な表現を

用意しておくから。


君たちは文字を読めないだろうから

僕が読んで聞かせよう。


だから

24度目の春よ

今度は僕を置いてかないで。




最後の桜が散ってから2週間ほど経っただろうか。すっかり暑くなった。
今年は花見ができなかったな。勿体無い。
そんなことを、いつもこの時期(具体的には、半袖のシャツを押し入れから引っ張り出している休日の昼間)に思う。

僕の人生に、あと何回春が訪れるのか分からないが、今年の春も適当に過ごしてしまった。

そんな後悔を抱きながらベランダに出ると、桜の花びらが一枚、ベランダに落ちていた。
その色が、なぜか妙に懐かしく感じられたので、詩にしました。

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