『さざなみのよる』
「死ぬって言われてもなぁ」とナスミは思う。今は亡き母の姉が、高齢にもかかわらずわざわざ遠方からやってきた。病室に入るなり、「ナスミちゃんッ!」と叫んで、小走りで近寄り、ナスミの顔を見ると「わッ」と顔をおおった。「タカちゃん、ぜんぜん知らせてくれんへんから」と、ナスミの癌を知らせてくれなかったことによほど腹が立っているらしく、何度もうらめしそうにそう繰り返した。姉の鷹子が、この伯母に自分の病状を知らせたということは、いよいよ危ないということだろうとナスミは思った。
木皿泉 『さざなみのよる』 2018 河出書房新社 p3
私は静かに本を閉じ、思いとどまった。
私は最初から〝死〟が分かっている物語を好まない。映画に関しては、主人公の〝死〟が分かっているのものは絶対に観ない。それは始まる前から辛いことが分かっていて、泣けることが分かっている訳で。それをわざわざスクリーンで再確認する必要があるか?と自問自答する。
この物語は冒頭で主人公らしき人物ナスミの〝死〟を予感させる。それでもナスミのあっけらかんとした最初の台詞が気になりページをめくる。第1話を読み終えたナスミの最後の台詞は「ぽちゃん」だった。
石が水面に届く音。「ぽちゃん」
水面の上に到達する音。「ぽちゃん」
章ごとに描かれてある〝○〟は何だろう。
第1話はナスミの視点。第2話は姉鷹子の視点。一人の女性の〝死〟から広がる残された人たちの〝生〟の物語は第14話まで続く。そして〝○〟は少しずつ形を変化させながら居続ける。
「ぽちゃん」
それは水面に広がる波紋のよう。
それは次々と周囲に及んでいく影響のよう。
そう、そんな物語。
『さざなみのよる』 タイトルが先? 内容が決まってからタイトル? それは優しく穏やかなイメージだけど、中身はなかなかのパンチ力。43歳で亡くなったナスミの言葉は力強く生き続ける。
「だからぁ死ぬのも生きるのも、いうほどたいしたことないんだって」
木皿泉 『さざなみのよる』 2018 河出書房新社 p195
あぁやっぱり、私は 木皿泉さん が好きだ。
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