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読書録:伊坂幸太郎『死神の精度』


こんなにもポップに、
「明日死ぬかも」と考えさせられる小説ある?

伊坂ワールドは、“日常からのほんのちょっとの踏みはずし”みたいな感じがとても好きだけど、この小説1番かも。
ミステリーのようなファンタジーのような、でも遠い世界の話になり過ぎなくて、あっという間に読んでしまった。


主人公は死神。
名前は、「千葉」。

死ぬ候補になった人間のところへ行って、
「可」つまり死んでも問題ないか、
「見送り」つまり先延ばしにするべきか
調査するのが仕事。

サラリーマンのように、定期的に人間界に派遣されて、律儀にはたらく姿が何ともおかしい。

(この設定のせいで、
満員電車でふと、もしかしたら死神が紛れてるかも、と挙動不審にニヤニヤするようになってしまった。)



そして設定以上に、千葉のキャラがずるい。
とにかくずるい。


死神というと、残酷な悪魔のようなイメージをしがち。でっかいカマ持ってて。

千葉は冷静で淡白で、その点はちょっとイメージする死神に近いかも。


でも、馬鹿がつくほどまじめ。


人間たちに共感したり入れ込んだりすることはないけど、適当に「可」「見送り」を判断することはしない。

ときには調査対象の人間と一緒にヤクザにとらわれたり、殺人事件に巻き込まれたり、対象に頼まれて何時間もビラ配りしたり。

かなり、まじめに仕事する。


そしてちょっと、人間の常識や言葉に詳しくない模様。

雨男だね、と言われたら、“雪男”もそういう意味かと答えるし、
ステーキ食べてると、死んだ牛は美味いか、と聞いてくるし。




「明日死ぬかも」とイヤでも思いだす小説なのに、千葉と人間のかけあいがポップでおかしくてセンスがありすぎて。


そして、まじめな死神・千葉の言葉はかざりや忖度がない。

人間はなぜこうなんだ。
きまじめに、純粋に投げかけられる疑問が、ことりと響いてくる。

ところどころふき出しながら、
ところどころじんわりと温かいものを感じながら。
かろやかに、でも力強く、「明日も生きよう」と考えさせられました。


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