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【オトナになることのうた】松崎ナオ その1●大人になってゆくほど…「川べりの家」
アメリカの大統領は再びトランプに……うーん。
彼の思想やキャラクターはかの国でも全面的に支持されてるわけではないと思うのですが、天秤にかけると、というところでしょうか。日本で国民投票やったら人柄がどうとかを気にすると思うけど、今のアメリカではそういうのでない、もっと実利の部分が求められてるということか。ううーん。
日本では、楳図かずお先生がお亡くなりになりました。僕は『まことちゃん』で知った世代ですが、それ以上に近かったのはゲキメーションのアニメ『猫目小僧』でした。また、のちに読んだ『恐怖新聞』、オリジナルな解釈に振れた『ウルトラマン』。そして『わたしは真悟』には圧倒され、呑み込まれましたね。
多くの方々と同じく、僕も街中で楳図先生をお見かけしたことがあります。吉祥寺ではなく、自分が住んでいた井の頭線近くの杉並区内で、あのシャツで颯爽と歩いておられました。
ご冥福をお祈りします。
今週火曜日は、獨協大学の講義に登壇しました。学生のみなさま、関係者のみなさま、ありがとうございました。
写真、僕の頭上に書かれてるのは「利権」という文字です。利権! しかし「紅」でヘドバンしたせいか、髪がボサボサ。 えーと、左から…僕が持っているのは、THE...
Posted by 青木 優 on Friday, November 8, 2024
それからそれから先日は、Laura day romanceというバンドを観ました。とても魅力的なバンド。
さて、今回は、松崎ナオです。
NHK『ドキュメント72時間』のテーマソングにして名曲「川べりの家」
シンガーソングライターの松崎ナオのことは、1998年にエピックからメジャーデビューした時から認識している。僕はあの頃、彼女のCD作品のレビューを雑誌に3回ぐらい書いた。とくにデビューシングルの「花びら」はよく覚えている。翳りのある歌と声が印象深かった。
ただ、その初期から現在まで……つまりもう26年もの時間が流れているわけだが、彼女とは何の接点もないまま来ている。まあ音楽について書く仕事をしていても、こういうことは往々にしてある。
ただ、その間に松崎ナオの歌を耳にしたり、彼女の名を聞いたり、姿をテレビやネットで見ることは何度かあった。
ひとつは椎名林檎とのコラボである。ふたりは同じ1998年のデビュー組。僕は、この時期はむしろ椎名のほうの仕事をよくしていて、この共演で両者に交流があることを知った。
そしてもうひとつは、楽曲「川べりの家」である。
「川べりの家」は2006年に発表された作品。もう18年も前だ。
この歌は、何と言ってもNHKの番組『ドキュメント72時間』のテーマソングとして知られている。
曲ができてからの時間を思うと最近のことになるが、2019年にこの曲のMVが作られていて、これが先の『ドキュメント72時間』の映像作家が監督したものだという。「川べりの家」と番組との親和性がよく出た作品になっているので、ぜひ観てみてほしい。番組を知らない方でも、雰囲気が伝わるはずだ。
「川べりの家」はこの番組が始まった2006年から翌年にかけてのテーマ曲だったというが、当時の自分は番組自体を知らなかった。それが第2期というか、2013年から番組が再開した際にもやはり「川べりの家」がテーマソングに使用されることになった。僕が知ったのはその2013年のことだった。
それだけ『ドキュメント72時間』は2013年以降はよく観ていて、数年前まではかなり熱心に観ていた。秋田の自販機の回などは有名で、やはり名作回だと思う。
コロナ禍の時期には過去のエピソードの再放送があって、そこでは以前番組で取材された人たちの現在をフォローする構成になっていて、視聴者として感慨深かった。この番組は、今でもたまに録画して観ている。
この10数年の間に『ドキュメント72時間』は人気番組となり、いつしか年末にはスペシャル番組が組まれるほどになった。
そして毎年そのプログラムの最後に、ゲストとして招かれた松崎ナオが「川べりの家」を唄うのも、TVモニター越しに観てきた。
また、彼女が小田和正の『クリスマスの約束』に呼ばれて、この歌を唄うのも観た。素晴らしかった。
松崎自身は「川べりの家」について、過去にインタビューで何度か話している。
まずは2016年のこのインタビュー。対談相手である行(ゆき)さんは、長いこと会ってないが、僕の知人である。お元気ですか。
行:“川べりの家”は、もう神曲だね。
松崎:ホント?
行:まずこの曲が使われてるNHKの番組(『ドキュメント72時間』)が超いい番組なんですよ。僕はNHK史上最強だと思ってるくらい。
松崎:って言う人もいるくらい、度肝抜かれますよね。3日間同じ場所を撮り続けて、そこで行き交う人々を映すだけの内容なんですけど、72時間何にもないときもあったりして、でもそれもそのまま流しちゃったりするんです。それがまたいい。
行:そういうときでも、最後に“川べりの家”がかかると、必ず泣けてくるくらい、この曲のパワーはすごい。
NHK史上最強とまでは思わないが(行さん、すみません)、NHKのドキュメンタリー番組の粋を集めた番組だとは思う。市井の人々の日常の機微を捉えるというスタンスである。
―もともとは2006年に作られた曲ですが、当時どんな心境で作った曲なのでしょうか?
松崎:引越ししたくて、川べりに住みたかったんです。でも、お金ないし、川の氾濫とか怖いなと思って、じゃあ曲にしとこうと。ホントそれだけ(笑)。
行:じゃあ、神格化したのはNHKの番組のおかげ? 俺、毎回泣けるもん。
松崎:そうなんだ(笑)。嬉しいな。
そう、番組終わりで流れるこの歌は、なぜか泣ける。じんわりと、しみるのだ。
僕はおぼろげながら、その理由をずっと考えてきた。この10年以上。
「川べりの家」についての松崎ナオ自身の言葉を、もうちょっと探してみた。
次は2022年12月、この曲がアナログ盤のシングルとして発売された際の、松崎のコメント。
「川べりの家」をレコードで新たに発売できる事になり、この曲を作った頃の事を思い返してみました。水や空や風、木々は日々変化して同じ様子の日はないし、単調に見える毎日や人もこれと同じではないか。そんな気持ちがうっすらあって作った様に記憶してます。でも、単純に川べりに住んでみたかったのもあります。
NHK「ドキュメント72時間」のエンディングで使って頂いて、こんなに長く聴いてもらえる曲になり、今回新たにレコードになる。レコードは自然界のように空気感がより伝わりやすくなっていると思うので、あらためて聴いて頂けたらとてもうれしく思います。
しかし川べりに住んでみたかったとは、驚きである。
僕は自分の住居から少し離れたところに川が流れていた時がある。その時は、すぐそばに住んだら氾濫した時には怖いだろうなぁと思ったくらいだった。
少し物足りない日常の大切さを知る大人世代に
次は、2023年の『女性自身』のインタビューである。
「『川べりの家』のジャケットは私がデザインを担当していて、この不機嫌そうに胡座をかいている男性は高田純次さん(76)。『コミカルな人にこういう役をしてほしいな』と考えていたので、高田さんにお願いしました。いいジャケットに仕上がったのは高田さんのお陰ですし『川べりの家』の“影の立役者”といえるかもしれませんね」
ちなみに高田純次は、僕も『じゅん散歩』をよく観ているほど好きなタレントだ。さらに言えば、実は遠い昔、うちのカミさんとほんの少しだけ仕事での関わりがあったそうなので、いっそう親近感を抱いている。
その彼が、「川べりの家」のシングル盤のジャケット写真を飾っていた。
「『川べりの家』は『ドキュメント72時間』を好きなかたを中心に、私が放っておいてもたくさんの方に聴いてもらえる曲なんだと思います。その分、『他の曲も聞いてもらえるようにいろいろ考えようかなぁ』って思っていて。だからそろそろ売れたいなぁって、ぼんやりとね。ふふふ(笑)」
「『ドキュメント72時間』の音響効果の担当者さんが『番組に合う曲はないかな』と思ってレコード店に行ったら、ちょうどこの曲が店内で流れていたそうです。店内で流れているってことは、この曲の収録されたアルバムの発売日だったはず。たまたまこの曲を耳にした担当者さんは『この曲だ!』と思ったそうで、偶然に偶然が重なった形です。
その後、こちら側に連絡があって、スタッフの方々を交えてご飯に行きましょうと誘ってもらって。そこで『曲を番組に使いたい』と直談判されました。偶然の出会いだったからこそ、担当者さんも嬉しかったみたい。私も喜ぶ姿を見て『よかったなー』みたいな(笑)」
そんな松崎だが「『番組に曲を使いたい』と言われたとき、最初は『この曲でほんとにいいんですか?』って思ったんですよ」と明かす。実は「川べりの家」は5分でできた曲なのだ。
「この曲を作ったとき、川べりに引っ越したかったんです。本当にそのまんまなんですけど(笑)。電車でたまに、中州の真ん中にポツンと家があったりするのを見るたびに『帰りづらい家に住むのっていいな』って思っていて。でも実際には難しいし、じゃあ想像で川べりの家に引っ越しちゃったことにしようと思いつきました。
それで、川べりの家に住んでいることをイメージしながらピアノを弾いていたら、この曲がスルッと……。何にも考えずに5分くらいで、いきなりできました。だから、手応えゼロ(笑)。多分、無意識で曲のイメージを積み重ねていたとは思うんですけど」
「川べりの家」は、大人になってゆくほど……という唄い出しから入る。静かな始まりではあるが、しかしその静けさから、徐々に、じわっ、じわっと引き込まれてしまう。
歌は、ひとりで生きていけると信じていること、それが淋しいことも知っているからあたたかい場所へ行こうよ、と続く。生きることの歌である。川べりの家は、あたたかいところなのだ。
さらに、幸せを分けてあげる、というくだりや、2コーラス目の水槽の描写。最後の、一瞬しかない、のくり返し。
まさに、一瞬しかない時の連続だと思う。生きることは。人生というやつは。
そして、ひとりで生きていく、生きていけること。でも、その裏にあるのは淋しさ。欲しいのは、あたたかさ。
ここまでの表現は、やはり大人と言われるくらいの年齢でないと、なかなかできないのではないかと思う。
「川べりの家」を発表した時の松崎は、30歳になっていた。
曲ができた当初は「短い曲だし、なんか物足りない」と感じていたという。しかし、今では「その物足りない感じがよかったのかも」と考えるようになったようだ。
「番組で流れているのを聞いて、『番組の最後のパーツっぽいな』と思ったんですよね。少し足りないからこそ番組に馴染んでいて、視聴者のかたの邪魔にもなっていないのかなって。もしかしたらこの曲の反応がじんわりと広がっていったのも、あまりにも番組に馴染みすぎていたからなんじゃないかな。『愛されるのに時間がかかる曲って、いいなぁ』って思います」
番組内での「川べりの家」は、その回が終わる最後の1分半ほどでそっと流れる程度(そもそも曲の全長が3分しかない)。その、ひとつも大仰でない、楚々としたエンディングが、この番組にも、そして「川べりの家」という曲にも、とてもマッチしている。
そこに、ちょっと物足りないというか、少し足りない感じを覚える。ただ、それがこの歌のポイントのようにも思う。
というのは、日常とは、人々の日々というものは、物足りないことだらけ、足りないものだらけだから。そして人は、それでも生きていくことの大切さをわかっているから。そう言ったら、簡単すぎるだろうか。
また、愛されるのに時間がかかる曲をいいと思う松崎の感性も、またまたユニークだ。この人には、時間というものに対する独自の感覚があるのではないかと思う。
この歌が『ドキュメント72時間』という番組にハマっているのは、視聴している人のほとんどが大人世代であること、あるいは、大人になっていくことを心のどこかで気にしながら生きている人たちだからではないか、と僕は考えている。
そもそもこの番組を観て、何かを強く感じ入るような層は、すでにそれなりに人生を生きてきた人たちだと思うのだ。
いや、もちろん番組には(取り上げる内容や対象にもよるが)若者も子供もよく登場する。これを観て感動したとか、涙が出たという若い子も、きっといるだろう。
ただ、この番組の味わいとか機微をより深く感じるのは、絶え間なく続く日常を生きること、なんてことのない毎日を生きていくことの大切さをより知っている人ではないかという気がする。その多くは、おそらくは、大人である。
人生の機微を捉えた『ドキュメント72時間』のような番組は、大人世代にはとくに刺さる。それと「川べりの家」で唄われている世界は、そっと、静かに、あたたかく、重なっている。
<松崎ナオ その2に続く>
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中華そば(小)、700円。
実はこの後に到着した焼きめし(小)とのセットで
1150円でした(若干お得)。
どっちも黒いがゆえの香ばしさがたまりませんわっ。
ほんとは本場で食べてみたいけど
京都は観光客でごった返し続けてるみたいで、
なかなか足が向かないな~
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