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「父が娘に語る(中略)経済の話。」〜『マトリックス』、『ブレードランナー』とのつながり

2019年5月の読書会レジュメです。映画に続く、素晴らしい誘導があったのので、本はもちろん、その流れで映画まで辿ってみるの、おすすめです。

「父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい 経済の話。」

ヤニス・バルファキス著/2019/03/7発売/ダイヤモンド社

4月末頃ですでに10万部突破、5刷とありました。

余談ですが、「ブレイディみかこ氏絶賛!」とあるのにこの方を存じ上げなかったところ、彼女のプロフィールの著書に「いまモリッシーを聴くということ」という唯一手を差し伸べてくれそうな一冊があり親近感がわいております。英国在住、気鋭のコラムニストさん、気になってしまいました。

選書の理由

経済」というと普段関わり合いが薄いですし、書店で見てもスルーしてる可能性が高いのですが、Twitterでフォローしている凄い人がおすすめしているのに出逢ったんですね。

即検索。私が興味を持つ時点で経済関連書という括りから外へ、じわじわきている証拠です。守備範囲外のジャンル(ほとんどだけど)については、SNSや知人からの口コミはとても有り難いし、それでもピンときて行動に移すのはタイミングや縁だと思っています。

それが後追いでも、気になった感情が増し増しになっていきませんか?

もうひとつは、経済というより「お金」について、身近な問題として正体を知りたいから。お金を稼ぐための労働があり、その賃金が適正かどうかって誰が決めるのか、とか、お金を集めたり投資したり、いろんな稼ぎ方もある訳で……モヤモヤしている時期なんです。
そしてお金を使うことについても、それが経済をまわすことにどう繋がっていくのか、無自覚でいるところに、タイトルが引っかかりました。親としてまず、教えを請いたい! と。
やはり30,40代の読者層に売れているそうで、私も同年代に是非おすすめしたいと思いました。

著者:ヤニス・バルファキス

ヤニス・バルファキス(Yanis Varoufakis) ★本人公式1961年アテネ生まれ。2015年、ギリシャの経済危機時に財務大臣を務め、EUから財政緊縮策を迫られるなか大幅な債務帳消しを主張し、世界的な話題となった。長年イギリス、オーストラリア、アメリカで経済学を教え、現在はアテネ大学で経済学教授を務めている。

ヤニス・バルファキス氏(@yanisvaroufakis)はギリシャの財務大臣を務めていたというものの、在任期間は2015年1月21日〜 7月6日の約半年間にとどまっているんです。それはこの本が出版されて1年以上後のことで、ちょうどギリシア危機が広く世に顕在化した時期というところもドラマティック。詳しい経緯については不勉強ですが、ギリシャがあの時期を乗り切れたのはこの人のおかげなんじゃないか、と思ってしまいます。
現在はアテネ大学で教鞭をとるお父さんなんですね。この本はヨーロッパにはじまって、米国へ、そして25カ国で出版決定しているというからその生活は大きく変わっているかもしれません。それだけのインパクトです。

サマリー

「経済✕文明論」で、資本主義=市場社会を解き明かし、人間の本質までもを歴史や身近な経験を通じて、提示してくれる本です。

プロローグ 経済学の解説書とは正反対の経済の本第1章 なぜ、こんなに「格差」があるのか?── 答えは1万年以上前にさかのぼる第2章 市場社会の誕生── いくらで売れるか、それがすべて第3章 「利益」と「借金」のウエディングマーチ── すべての富が借金から生まれる世界第4章 「金融」の黒魔術── こうしてお金は生まれては消える第5章 世にも奇妙な「労働力」と「マネー」の世界── 悪魔が潜むふたつの市場第6章 恐るべき「機械」の呪い── 自動化するほど苦しくなる矛盾第7章 誰にも管理されない「新しいお金」── 収容所のタバコとビットコインのファンタジー第8章 人は地球の「ウイルス」か?── 宿主を破壊する市場のシステムエピローグ 進む方向を見つける「思考実験」

ダイヤモンド社のサイトで、第1章の半ばまで、ためし読みできます。

また、全8回ものハイライト解説には、一部抜粋も。(おすすめ)

ここにある通り、本書は娘からの問い「どうして世の中にはこんなに格差があるの?人間ってバカなの?」に答える体裁をとっています。専門用語を排して読みやすく、興味が持てる例えを用いて書かれているので、日本人で大人の私も難なく読み進められました。より広く、経済を自分ごととして考えてもらいたい、固定観念を外して精神的に自由であって欲しい、という著者の願いが感じられます。「大切な判断を、他人にまかせてしまうことに疑問を持って!」と訴えかけているのです。

不思議と惹き込まれる体験

まず格差社会を歴史から紐解こうと、オーストラリア生まれの娘に寄せて「アボリジニがなぜイギリスを侵略しなかったのか(逆にされたのか)」という問いから、スタート。そこから1万2千年前に一気に遡り農耕文明のはじまりが「経済」と呼べるものが生まれた時代、もっと言うと「文字」の起源が、債務の記録のためだったということに及んで、なるほど! となります。

そうして、文明の開花→文字→債務→通貨→信用→国家→官僚→軍隊→宗教→テクノロジー……と時代を駆け上がりながら、経済という概念の成り立ちを説明しているんです。文字面だけだとなんのこっちゃ? かもしれませんが、テンポよく進むから、ジェットコースターに乗っているようでした。導入が素晴らしく、飽きずに次々と興味がわいてくるという、本の世界に惹き込まれてしまう体験をしました。

すると、経済を自分の問題としてとらえられることになるのです。


事例、教訓、知らなかった世界から学べる

この本には、教訓にするべき事例がいくつも出てきます。

クリストファー・マーロウの戯曲『フォースタス博士の悲劇』やゲーテの『ファウスト』(19世紀初)を知らなくても、文脈からその意図を知ることができます。今までになかった解説で、教養に目を向けることが出来ます。

良質な問いについて考えるとき、こうして派生して、いや根本からひねって考えてみることで、繋がる世界があるということを、体感することができます。

悪魔による悪い予言は自ら実現しがちであることは、ギリシアのソポクレスによる『オイディプス王』(紀元前429年/ギリシア悲劇・戯曲)から。労働市場とマネー・マーケットに置き換えられて、悪魔とは人間らしさそのものであるという気付きを得ます。

メアリー・シェリーの小説『フランケンシュタイン』(1818年)では、人間が生み出したものが人間に牙を剥き、恐怖に陥れる様を描いて、テクノロジーが社会に与える恐ろしい影響をみることができます。という風に。

映画が見たくなる!

後半からは、映画も出てきます。『モダン・タイムス』(1936年)では人間をロボットに置き換えたかのような機械化した社会を見せられていたし、さらに『マトリックス』(1999年)や『ターミネーター』(1984年)、『ブレードランナー』(1982年)といったSF映画を引き合いに、それぞれメタファーを通して機械と人間との境界、違いから経済を考えていきます。

こんな秀逸な映画紹介はないのではないか、という嬉しい登場だった映画を、速攻で見直してしまいました。

『ブレードランナー』を観てまず気づくのが、設定が2019年11月ということ。おぉー、その未来今年ではないですか! アーティスティックな設定が古びない新鮮さもありながら、レプリカントと人間との境界に思いを馳せることができました。『ブレードランナー 2049』はより難解だったので、もう一度見直さねば。

『マトリックス』からは、本の中でも多く触れられていて、こんなに見どころのある映画だったことに、当時はまったく気づいてなかったですね。それこそCGテクノロジーに目がいっていましたもので。エージェント・スミスの言葉にハッとしたり、人間だからこその「交換価値」という概念が、経済につながるという観点はたいへん面白いものでした。

過去の作品ながら、その物語を現代の経済に重ねてみたら、気付くことが少なからずあるという体験を経て、人間が映画や小説、物語を後に残す意味を感じずにはいられません。後に残ってこそ、とも思いました。

まとめ

本が面白く為になったのに加え、GW後半に旧作映画をじっくり見ることができて大満足でした。映画を見る動機って普段はっきり意識しないこともあるけど、今回はしっかりしていたからこそ、初めて得た気づきが多かったんですね。

 「本→映画」または「映画→本」のつながりを自分なりに見つけてみること、面白そうなのでやっていきたいと思いました。これも発見。

以上です。

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