分類できない実用の書〜『相続地獄 残った家族が困らない終活入門』
『相続地獄 残った家族が困らない終活入門』(2021年/光文社新書)を読みました。著者は、経済アナリストで大学教授、メディア出演も多数ある、森永卓郎さんです。
テレビにもよく出ていた彼のパーソナリティを知っているから、とても読みやすく、体験談だから説得力を持って届き、エッセイとしても面白いし、知識の補強にもなりました。
どんな本?
『相続地獄』というインパクトあるタイトルですが、内容は多岐にわたります。
父親の死から、長男としての10カ月にわたる「相続」のご苦労にはじまり、それ以前の介護の体験記なども含めて、森永家ならではのストーリーが明かされます。
あえて「地獄」と表現した相続手続きに至る過程や、知っておけばよかったと後悔した手続きのこと、地獄にならないためのノウハウが詰め込まれていました。
残った家族として困った経験を、残った家族が困らない手引きとして提言しつつ、ご自身も家族が困らないようにと生活を見直して実行されていて、それが終活入門となっている、という豊かな構成です。
経済アナリストなのに苦労するし、お金を無駄にしちゃってる? というのは、意外なところに盲点がある証拠で、学びが深いです。もちろん、そうならないためのケーススタディも取り上げられています。
さらに、趣味のオタク収集癖が昂じた私設博物館「B宝館」の自慢話が楽しそうでほっこりするし、それがまた遺産整理の課題に対するノウハウやヒントになっているという……一冊で何度美味しい?という実用新書でした。
分類は相続法?
じつはこの本、図書館で借りたのですが、 図書管理上の日本十進分類法では「324.6」の棚に分類されていました。
320 法律
324 民法
324.6 親族法.家族法.身分法
法律の棚もよく見るようになったから見つけたのですが、一見して法律書ではないな、という印象。読んでみると、法律ありきの社会のルールに翻弄される場面や、前提としての説明はあるものの、大きなテーマは、親が死ぬ前にやっておくべきこと、と受け取りました。
いわゆる「終活」の本が並ぶのは、たいてい以下の分類です。
360 社会
367 家族問題.男性・女性問題.老人問題
367.7 老人.老人問題
あるいは「親が死んだらやるべきこと」と考えれば、こちらもあり。
380 風俗習慣.民俗学.民族学
385 通過儀礼.冠婚葬祭
385.6 葬送儀礼:葬送,殉死,服忌
こうした図書の分類って、どうやってなされるのでしょうか。
実際の運用でどう決まるのかまでは分かりませんでしたが、なるほど『相続地獄』ではタイトルから「相続」中心と見做されたのかな、と。
副題の「残った家族が困らない終活入門」と入れ替わっていたら、きっと「終活」のほうの棚に並んだのでしょう。
そう考えると、やはり図書館はウロウロしないと出会えない本もありそうですね。
図書館はともかく、書店ではどのコーナーに並ぶかが売上を左右すると言います。そのあたりは、出版社による戦略があるのでしょう。新書はタイトルが命みたいなところも見受けられますしね。
ただ、この本に関して言えば、どの切り口をもってしても面白いし、勉強になって、読んだ人になんらかのきっかけを与えそうでした。
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森永さんは、糖尿病をライザップ(そういえばCM出てらっしゃった!)で克服して、いまは週末に無農薬野菜を育て、健康生活をしていらっしゃるとか。ご自身の終活への備え、趣味を楽しむ生き方も語られていますよ。
相続地獄のあとは、長生き地獄、なのですね。お金に特化したお話も気になります。
最期まで読んでいただけただけでも嬉しいです。スキをいただいたり、サポートいただけたら、すこしでもお役に立てたり、いいこと書けたんだな、と思って、もっと書くモチベーションにつながります。 いつかお仕事であなた様や社会にご恩返しできるように、日々精進いたします。