止まれ。お前は入国できない
確か高2の夏だったと思う。
うら若き河内少年はカナダへ飛び立った。
海外研修プログラムへの参加のためだ。ホームステイ&語学学校で2週間弱のプログラムだった。
実はこれは2回目で、高校に入る前の春休み、似たようなプログラムでオーストラリアに行っていた。
物価がめちゃくちゃ高かったのと家の中で犬が狂ったように暴れていたことしか記憶にない。
前回の反省を生かし、前よりは英語も上達し意気込んでカナダへ向かった。
トイレに行きたいのに、機内食を配っている間、機内食のガラガラが完全に通路を塞いでいたためにトイレに行けなかった。
ようやくカナダについた頃には長時間のフライトで体はクタクタだった。
到着したら金属探知機をくぐらねばならない。
ベルトやネックレスなど金属が付いていたら音がなるアレだ。
僕はこの機械の常習犯だったので、今度こそは引っかかるまいとよくチェックした。
アクセサリーもベルトも外したしもうだいじょう「ブーーーーー!」
「Oh My God.」
また鳴った。
おかしい。全部外したのに。
職員さんも「変ねぇ」みたいな顔をしている。
すると突然、めちゃくちゃガタイのいい黒人2人が僕を囲んだ。
「終わった。ありがとうお母さんお父さん」
僕の頭は驚異的なスピードで回転し、気づかぬうちに運び屋に利用された哀れな若者を放映する仰天ニュースの再現ドラマまで考えていた。
絶対死ぬと思った。この人達、確実に僕を殺りにきている。こういう人映画の中にしかいないと思ってた。
恐怖でいっぱいだった僕に、2人の黒人は質問を始めた。
「きみはいくつだ」
「いいえ(恐怖でパニック)」
「何歳だ」
「いいえ」
「どこからきたのか」
「じゃぱん」
「英語はわかるのか」
「Soso」
「…(だめだこいつ)。こっちへ来い」
(おわった)
連れてかれた先にはガラス張りの大きな大きな円柱状の全身チェッカー(?)だった。
ウィィィィンと機械がうなり、僕の周りを何度も上下する。
(ああ、これから僕は香港かインドネシアに連れてかれて散々利用されて死ぬんじゃ・・・)
恐怖を感じている時に、意外と自分の体は動いてくれない。
機械が止まり、扉がスッと開いたら先ほどの黒人2人がにっこり笑っていた。
僕が諦めきった瞬間だった。笑顔の方が怖い。
「You!なんにもなかったよ!よかったな!この金属探知機さ、正常に動いてることをエブリワンに分からせるために、ランダムに誰か引っかかるようになってるんだよ!わっはっは!怖がらせてわるかったな!良い旅を!」
「……え??」
拍子抜けis thisだ。
心の中にビックリと安堵と怒りが一緒に生まれた結果無心になり「僕は16歳だ」と黒人ガードマンに伝えて金属探知機を後にした。
なぜあのタイミングで年齢を伝えたのか本当にわからないし、お願いだから日本人に変な印象を持たないでほしい。
その後もカナダではマックの店員さんに「Take Off, Please」とありがちな言い間違えをして離陸させようとしたり、フィッシュ&チップスの味に感動したりとても楽しい日々だった。
カナダのヴィクトリア島というところだ。僕が今まで行った旅先の中で最も美しい街だったから、あなたも機会があれば是非行ってみてほしい。