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『明子のピアノ 被爆をこえて奏で継ぐ』を読んで

「明子のピアノ」と呼ばれる、一台のピアノにまつわる壮大な物語。

このピアノを弾いていた河本明子さんは、広島に落ちた原爆により19歳という若さで突然この世を去った。その後、被曝したピアノは両親の家で長い間眠りについていた。

2002年、家の取り壊しが決まり、ひっそりとピアノが捨てられてしまう寸前のところで、物語が動き出す。「これは捨ててはいけないピアノです」と預かった調律師の坂井原や、明子の母と交流のあった二口、クラシック音楽の大手マネージメント会社KAJIMOTOの佐藤らによって、不思議な展開を見せていく。

そして2015年、世界最高のピアニスト、マルタ・アルゲリッチが「明子のピアノ」と出会う。さらに作曲家・藤倉大がピアノ協奏曲「Akiko’s Piano」を作曲する。

ピアノの音色を通して、明子さんの記憶はこれからも世界中に伝わっていくだろう。「平和への願い」として。

どのピースが欠けていても、こうした展開にはならなかった。想いのバトンが受け継がれ、様々な「偶然」が折り重なるストーリーには深い感動を覚えた。

著者である兄がどのような経緯でこの本を書くことになったのかについては紹介されていないが、きっと「明子のピアノ」にまつわる人々と同様、不思議な縁があったのだろう。

広島やワルシャワでの丁寧な取材に基づいた文章だけでなく、音楽的知見に富んだ兄ならではの描き方が、「明子のピアノ」にまつわる物語をより深く、胸に迫るものにしている。

今年8月15日には、ドキュメンタリードラマ『Akiko's Piano 被爆したピアノが奏でる和音』がNHK BSプレミアムで放送されるとのこと。そちらも楽しみにしている。



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中村洋太
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