語られないゲーム、セットプレー② セットプレーという第3局面、勝点とセットプレーの関係性、流れの中のプレーより関係性が強い
はじめに
前回は、広島を例にセットプレーからの得点増を指摘した。今回は、私がなぜセットプレーを第3局面として捉えるべきか、という考えにたどり着いたかを簡単に説明しよう。注意が必要なのは、局面とは攻守を4局面に分けて分析する現代的なものではない。
単純に、攻撃があって(第1局面)守備がある(第2局面)、というものと理解して頂きたい。まずは、サッカーは2局面のスポーツであるという、一般的な考え方から、勝点と得失点差の関係を見ていこう。下の表が2024シーズンのJ1リーグ、勝点と3つの得失点差である。
勝点と得失点差は非常に強い関係性
勝点と得失点差は非常に強い関係性があることはご存じだろうか。つまり、上の表では1番左の数字と右の数字の関係性である。グラフで示そう。2024年J1リーグの最終結果を、縦軸が勝点、横軸が得失点差してプロットしたものである。
かなり綺麗な右肩上がりの関係にあることが分かると思う。(相関係数0.96)
なぜ勝点と得失点差は非常に強い関係性にあるのか
各チーム1シーズン38試合ほどを戦うと、得失点差が大きいほど勝点は大きくなるという関係があることがサッカーの世界では知られている。これをどのように解釈するかは、解釈者の方に委ねられる。
私は、「サッカーという競技は、ほとんど点が入らない」ということが関係していると考えている。
草サッカーを別として、プロのサッカーリーグなら、多くの試合が2点差以内の勝負であろう。つまり、どれだけ強くても、ある程度戦力が均衡しているプロリーグなら、7-1や10-4といった野球のような点差の試合はほとんどないのである。
そのため、得失点差は、チームの勝点に対して非常に安定した数値を返してくれるのである。
つまり、10−4、得失点差6で勝ったチームと、1−0、得失点差1で勝ったチームの評価に悩まむことがほとんどないのである。単純に、勝ち勝点3、負けに0と記録すれば良いのである。
例えば、サッカーの親戚であるラグビーでは、「ボーナス・ポイント」という制度があることをご存知であろう。ラグビーの世界では、50ー6という試合が存在するため、何とかその点を評価しようと、トライ数に応じてボーナスポイントを与えているのである。
サッカーに戻る。W杯でもそうだが、ほとんどの国のリーグでは、勝点が並べば、次に得失点差で順位を決める。これには、上述した論理が背景にあると私は考えている(但し、スペインは別である。直接対決の結果で決める。)
セットプレーを取り出す
さて、ここで、分析の精度を少し上げよう。第1局面、第2局面から、セットプレーという事象を取り出して、それらを合わせて、第3局面としよう。
総得失点差が勝点と非常に強い相関があることは、上述した。ここで、勝ち点と第3局面の関係を私が知りたいのではあるが、第1局面と第2局面との関係も知りたい。その場合、変数が3つになってしまう。上のグラフのように、平面の散布図が書けない。三次元になってしまう。
回帰分析
そこで、少しだけテクニカルになるが「回帰分析」というものを行おう。すると、以下のような式が得られる。
この式は単純に考えて良い。つまり、セットプレーから1点とれば、勝点は0.731増える。それ以外では、0.623増える。注意が必要なのは、失点すれば-1となり、勝点は-0.731となるということだ。
神戸を例に
例えば、神戸を例に採ろう。神戸のセットプレーからの得失点差は、14である。そして、セットプレー以外からは11である。勝ち点の予測値は、68.9となる。
多少、誤差があるがある程度は信頼できる式と言っても良いだろう。
しかしながら、驚くべき結果である。セットプレーからの得失点差の大きいチームのほうが、それ以外からの得失点差が大きいチームより勝点が多くなるというのである。これは、単純に係数の大小で判断して良い。つまり、0.731>0.623である。
結論 サッカーの素直な見方
さて、我々がどのような作業をしたか、振り返ってみよう。まず、①攻撃と守備を第1局面、第2局面とした。そして、②それぞれからセットプレーを取り出して、第3局面とした。そして、③残りをそれ以外とした。つまり、セットプレーを第3局面、セットプレー以外の第1局面、第2局面に分けた。
このような分け方は、我々のサッカーの見方に素直であると思う。我々は、攻撃、守備、そしてプレーが止まりセットプレー、このような循環でサッカーを見ている。ただし、本文の最初の第1局面と第2局面は、セットプレーを第3局面として取り出したときに、定義が変わっていることにご留意頂きたい。
以上より大変素朴ではあるが、私はセットプレーを第三の局面と呼ぶべきだ、との結論にたどりついたのである。
次回は、それではセットプレーという第3局面に入る前の、第1局面、第2局面に何が起きているかを、セットプレーというアングルから迫りたい。