批評:『UNTOLD ホープ・ソロ対アメリカサッカー』、NETFLIXオリジナル、2024年
本作は、アメリカ女子サッカー史上最高のゴールキーパー、ホープ・ソロのサッカーキャリアを振り返った傑作である。これまで、何作かNETFLIXのUNTOLDシリーズを紹介してきたが、本作が一番面白いと思う。
ホープ・ソロは、2000年よりアメリカ代表に召集されるようになり、2005年から2015年W杯まで、アメリカ代表の正ゴールキーパーとしてゴールを守った。プロとしては、202試合に出場し100点しか許さなかった。これは、驚愕の数字である。Jリーグに例えると、年38試合して19失点である。
ホープ・ソロに通じていない方もいると思うので、あえて男子サッカー界におきかえると、フィールド上での存在感は、ドイツ代表のマヌエル・ノイアーと言ったら良いであろうか。
本作では、ソロの特異な家庭環境から、本作の題名である「ソロ対アメリカ・サッカー」までが描かれる。そこに至るまでのアメリカ女子サッカーの歴史も描かれているので、女子サッカーに興味がある方は必見である。
ネタバレするので、ソロについてはこれ以上は書かないことにする。これからは、スポーツ・ビジネスのより構造的な問題を指摘したい。以前、下のUNTOLDシリーズの批評でも書かせていただいた。
スポーツ・ビジネスは、独占が許されている世界である。例えば、本作品では、多くの選手、元選手がインタビューに答えるのを断ったというが、その理由は「サッカー業界で生きていけない。」という端的なものである。
女子サッカーは、W杯という大会を持っているが、それと同等にオリンピックも重要な大会である。オリンピックが絡んでくると、ややこしくなるのが、IOC(国際オリンピック協会)との関係である。
オリンピック憲章を解釈すると、IOCは国の競技別連盟をその国で一つしか認めないということが分かる。すなわち、その国の競技の経済的独占を認めていることになる。そして、オリンピックから得られる利益は、その一つの連盟を通して選手に支払われることになる。
ここに、オリンピックを中心にして活動をせざるを得ない、スポーツの弱点がある。例えば、男子サッカーでは、オリンピックには重点は置かれていない。U23代表ということからも分かるであろう。そして、何よりプロリーグが存在するので、サッカー連盟に頼らなくても、選手は報酬を得ることができる。
私は、様々なところで書いているが、IOCを頂点として末端の選手までの、このピラミッド構造が様々な問題を起こしているのである。このドキュメンタリーを見て改めて、その考えが強くなった。
パリ五輪前に、「オリンピック憲章を読む」というシリーズで記事を書いたので、興味がある方は、私の記事を読んで頂きたい。あまり、読まれていなかったので、かなり文筆が乱れたが、ニュアンスは分かってもらえると思う。
https://note.com/yosuke232/n/n2cdc121bba1e