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忘れられた傑作たち 『ボルグとマッケンロー テニスで世界を動かした男たち』、スティーヴン ティグナー (著), 西山志緒 (翻訳)、ハーパー・コリンズ社、2018年

本書は、「テニス」がプロ化されたことにより「大衆化」し、それに伴い、生れた「グローバル・スター達」を描いた群像ノンフィクションである。

著者は、Stephen Tignor、元テニスマガジンの記者で、現在は、Tennis.comに寄稿する現役の記者である。

題名では、「ボルグとマッケンロー」となっているが、その他のスター達も描かれている。例えば、コナーズ、ゲルレイティス、ナスターゼ、レンドル等。扱っている時代は、1960~1980年代である。

当時の「テニス界」をご存じの方には、大変興味深い本であろう。また、当時のことを知らなくても、著者はその素晴らしい取材力と筆力で、私たちをその時代まで連れて行ってくれる。

この本は、日本では「ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男」という映画に合わせて、出版された。

映画の方は、ドラマに仕立て上げるため、「ボルグとマッケンロー」のライバル関係が主軸に上げられている。ラストシーンは伝説のウィンブルドン決勝である。二人がそこに至るまでを、心理劇として描いている。

映画は、評判が良くないみたいだ。確かに、映画は二人の現在と幼少期を往復することで、心理劇を作ろうとしている。

しかし、その幼少期を読み解くには、背景知識が必要となり、知らなければ途中で置いていかれる。どの層に向けて、この映画が作られたかは分からないが、もう少し説明的なシーンを増やしても良かったのではないだろうか。

さて、本にもどるが、私の一つのテーマは、スポーツの「大衆化」を考察することである。その点では、この本は大変面白く読めた。

ウィンブルドンがプロに門戸を遅く1968年である。「テニス」は、今メジャーとなっているスポーツの中で、最も「大衆化」が遅れたスポーツであった。つまり、「テレビ」が入ってくるのが最も遅かった。

そのため、「テニス界」に一度「テレビ」が入ってくると、既に「テレビ」を中心とした「スポーツ・ビジネス」は、他のスポーツにより完成されていたため、一気に商業化が進んだ。

このことにより、テニスのグローバル化が進み、テニス選手は、世界のどこに行っても「スター」だった。このような状況に、翻弄されたのがコナーズ、ボルグの世代で、それを当然のように、受け止められたのがマッケンローだったのではないか、というのが私の見立てである。

ボルグが翻弄されたといっても、彼は当時テニス界では最も成功したビジネスマンであった。

今や、テニス界で大きな影響力を持つようになったアメリカのスポーツ広告代理店IMGと組み、30社以上とスポンサーシップを交わしていたみたいだ。

色々、面白い逸話は本書で生生しく描かれているので、その点も本書の魅力であろう。本書に出てくるエピソードは、かなり赤裸々なものなので、当時を知る人には面白いだろう。

さて、このような舞台が整った上で、選手たちが「大衆化」した「テニス界」を正にサバイブしていく様子が本書で描かれる。

現在の私たちは、様々なドキュメンタリーで「スター選手達」の舞台裏を見ることができるが、その意味での「スター選手」の走りが、ボルグやマッケンローだったのではないか。と私は本を読みながら思った。


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