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ショートショート

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ショートショート「ブロック薬」

ショートショート「ブロック薬」

Y博士は長年の研究の末、現実世界で相手をブロックする薬を発明した。
その薬を飲むと8時間の間、一番嫌いな人物が見えなくなり、声も聞こえなくなって、どうしても大嫌いな相手が同席していてもブロックして気にならなくなるという、精神衛生上非常によい薬だ。

Y博士「さて、薬ができたのはいいが、人間でまだ実験していない。自分で飲んでも効き具合がわからない。そうだ。妻で試してみるか。」

Y博士「妻よ。これを

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ショートショート「僕の名は?」

ショートショート「僕の名は?」

気づいたらスクランブル交差点の真ん中にいた。僕は誰だろう。必死に考えた。そのうち信号が変わって車からホーンを鳴らされたので渋谷駅の方へ走った。

交番を見つけたので聞いた。
「僕はだれでしょう」
「免許証は?」
「ありません」
「じゃあわかりません」

ヒントを探しにしばらく行くと役所があった。
「僕はだれでしょう」
「マイナンバーカードは?」
「ありません」
「じゃあわかりません」

しばらく行

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ショートショート 「宿命」

ショートショート 「宿命」

私には先祖代々受け継がれている宿命があった。これは江戸時代末期から代々当主が引き継ぐこととなっている。僕は32年の歳月と親から引き継いだ遺産を、すべてこの宿命につぎ込み成就する見込みが立った。

早速私は一張羅のスーツに着替え、銀座の寿司屋の名店松寿司に入った。ここミシュランで一つ星を取り、あまりにも高級で高いので、予約しなくても入れるところがいい。

カウンターに座りおまかせで握ってもらう。最初

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博多の名物ば教えちゃるばい

博多の名物ば教えちゃるばい

まずはなんと言っても新鮮な魚ばい。玄界灘で捕れた魚ばすぐに水揚げして店に持ってくるけん、どこの店でもうまか魚がくえるとばい。あとは呼子から生きたままイカば持ってくるけん、イカの活き造りはおいしかー。歯ごたえがプリプリしとるばい。

モツ鍋はうまかばってん、あれはバブルの頃に流行って定着したとやろ。ばってん安かし、どの店で食ってもうまかばい。

水炊きはうまかー。出汁がうまかばい。みんな福岡にきんし

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ショートショート「効きすぎた薬」

ショートショート「効きすぎた薬」

203X年、性格を自由に操れる薬が発明された。本来は気分が落ち込んでいる人を元気にするために開発されたのだが、成分の配合によっていろいろな性格に変化させられることがわかった。明るい、暗い、怒りっぽい、おだやか、etc

病気ではないので保険は効かないが、街の薬局で買うことができ、みんな気軽に飲んで、その日の状況に合わせて性格を変えていた。

デートの時はウキウキする薬、葬式の時は泣ける薬、上司とゴ

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「洞窟」

「洞窟」

俺「ここはどこだ?」

あたりは真っ暗で何も見えない。

俺「体がおしつぶされて動けない。落盤事故にでもあったか?

ところで俺は誰なんだ?今までの記憶が全くない。」

俺は、洞窟と思われる場所の出口を必死に探していた。

そのうち、ものすごい力で体が押しつぶされてきた。段々と体が一方向に押され始めた。

俺「きっとあっちが出口だ。いいぞ、その調子だ。くるしいが耐えるんだ」

俺「なんとか頭は出た

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「親友との別れ」

「親友との別れ」

その親友は俺が幼少の頃いつも家に独りで留守番させられてたので、ずっと話相手になってくれた。いろんな話を聞かせてくれて、それで言葉を覚えた。俺が話かけるとオウム返しで応えてくれたっけ。

親友は歌を覚えるのが早くて、テレビで歌番組があると親友と一緒に観て、親友が覚えてから、後で教えてもらっていた。

親父の車で出かけるときは、いつも一緒に乗ってカーステ代わりに歌を聞かせてくれたよな。

大学受験でよ

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「悪魔の選択」

「悪魔の選択」

男「はあ、はあ、はあ・・・」

砂漠の中を男がひとり歩いている。

車で砂漠を横断中に、車が故障してしまい歩いて砂漠を渡ろうとしているようだ。

男「もう、だめだ、俺も終わりか・・・」

そう言って倒れ込んだ瞬間、目の前に悪魔が現れた。

驚く男を気にせずに悪魔はこう言った。

悪魔「今から言う物の中から一つだけ選べ。いいか一つだけだぞ。」

そういうと悪魔はニヤリと笑って言い始めた。

悪魔「ひ

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アメゾン 嫁宅配サービス

アメゾン 嫁宅配サービス

Y氏「俺ももうすぐ35才だし、そろそろ結婚でもしてみるか。通販サイトのアメゾンでも嫁さんの宅配サービスやってたな。」

Y氏「オッケー!ゴーグル!アメゾンのサイトを開け。」

ゴーグル「アメゾンを開きました。」

Y氏「嫁さんを探してくれ。年齢は22歳から28歳で、条件は、これこれこうで・・・」

アメゾン「5人候補が見つかりました。ご希望の女性をお選びください。」

Y氏「そうだなあ、2も捨てが

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楽園

課長に怒られて気分がムカついた僕は、いい天気の屋上のベンチでふてくされてたのさ。
「あーあ、どこかに楽園でもないかなあ」と深呼吸して思いっきり空気を吸い込んだら、風船みたいに体が膨れて空中に浮いたのさ。
風に流されてそのうち海の上に出たら、偏西風に乗って遠くまで流されたのさ。
ふと下を見るときれいな珊瑚礁の島が見えたので、降りてみることにしたのさ。
息を吐き出すとだんだん高度が下がっていき、島の住

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僕は童貞の魔法使い

30才まで童貞を守りきった僕はついに魔法使いになれた。まずは初級魔法の相手を眠らせる呪文ラリホーを覚えた。
でも僕は魔法使いになりたくで童貞を守っていたわけではない。早く童貞を捨てたい。
前から気になっていた職場の女の子を勇気を出して飲みに誘ってみる。少し尖った耳が魅力的で不思議なオーラをまとった娘だ。同い年で少し大人だが僕にはちょうどいい。
居酒屋に誘ったらあっさりOKの返事がもらえた。
居酒屋

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お財布

キャッシュレス化が進んだK国では、現金をなくして、すべて指紋で決済することに政府は決定した。
全国民の指紋が採取されてデータベースに登録され、買い物はすべて指紋で決済できるようになった。
しかし、指紋を盗んで3Dプリンターで印刷し、指に貼り付けて他人になりすまして買い物をするという事件が多発したため、すぐさま顔認証に切り替えた。
しかし犯罪者も手慣れたもので、複数の角度からの写真からマスクをつくり

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雨の降らない村

水を粗末にして神様の怒りを買ったその村は、それ以降雨が降らなくなってしまった。
農作物は枯れ、村の存続の危機に立たされた村人は、村人の全財産を集めて、その国で一番とされ、必ず雨を降らせるという祈祷師に雨乞いをお願いすることにした。
祈祷師に使いを出すと、1週間後に祈祷師が弟子を連れてやってきた。
すぐに雨乞いが始まった。
一日の雨乞いが終わると祈祷師はご馳走と酒と女を要求した。
だが、1週間たって

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毒をくれないか

「毒にも薬にもならん」というが
並の薬じゃ俺の死にかけた魂には効かない
いっそのこと死ぬかもしれない
強力な毒が欲しい
その毒をくらって生死の境を彷徨ったら
体の奥底に眠っている
最後の生命力が眼を覚まして
魂が活き返るかもしれない
死んでしまったら所詮俺には
それだけの価値しかなかったってことで
この世とおさらばするだけよ