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フィンチャー新作「ザ・キラー」は映画館で観るべき成金ノワール

2023年11月3日

デビッド・フィンチャー監督の最新作「ザ・キラー」を映画館で観てきました。Netflixで11/10から公開されると知ってはいたのですが、音量への配慮が必要な我が家のホームシアター環境でフィンチャー作品を観るのは前作の「マンク」鑑賞時にコリゴリだったので、恐らくNetflix公開までの1〜2週間で上映が打ち切られるであろう映画館に急いで足を運びました。そして、その選択は大正解でした。

映画自体にはノワールということ以外に何の説明もいらず、極上の音楽と映像美に身を任せて没入すればいいだけです。身もフタもないので一応説明しておくと、久しぶりに見るマイケル・ファズベンダー(オッサン化進行中)が、ある理由から連続殺人を行っていく様子を、マントラのように繰り返されるモノローグを交えてストイック、かつスタイリッシュに描いた映画です。

ノワール映画の定型なのですが、まずは、その様式美とシンプルさがいい。徹底的にノワールの様式美にこだわり、突き詰めた内容になっています。

監督のデビッド・フィンチャーは「セブン」や「ファイトクラブ」でブレイクした後に、アカデミー賞狙いの作品(「ベンジャミン・バトン」、「ソーシャル・ネットワーク」)を連発したことがあったのですが、最近はクラシック映画やノワールなどの本来の自分の趣味に原点回帰している節があり、大人の余裕というか、もっと単刀直入に言うと、超富裕層が趣味で好きな映画を撮っているかのような余裕を感じさせます。

自身のレガシーを考え始めるような年齢に達しつつあり、世の中にどのように記憶されたいかを考えた上での選択なのかもしれません。

フィンチャー映画は毎回そうなのですが、今回も相当カネがかかっており、殺される側も殺す側も超富裕層です。そうです、今回も超富裕層サークルの中でひたすら繰り返されるノワールなのです。

マイケル・ファズベンダー演じる主人公は、人里離れた場所に豪邸を持っています。そこで家中のスピーカーから低音の効いた爆音で流れているのがポーティスヘッド。最高にシビれる瞬間です。今後の自分の人生の目標がこれになりました。

また全編で流れるのがThe Smithsであったり、ペントハウスに住む殺しのターゲット(超富裕層)のオッサンが着ているTシャツがSUBPOPだったりと、フィンチャー自身のインディー・オルタナな音楽趣味も炸裂しており、ニヤニヤしてしまいます。この映画から浮かび上がるフィンチャー像は、「超富裕層になったサブカルオタク」そのものです。

こんなカネのかかった極上の映像美と、ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナー&アッティカ・ロスの極上のサントラを家のNetflixでしか体験できなかったとしたら、何ともったいないことでしょう・・

スコセッシ監督の新作もAppleがスポンサーだったり、パンデミック以降、ストリーミング・プラットフォームと良い映画の企画は切っても切り離せない関係になっているのかもしれません。しかし、やっぱりフィンチャーやスコセッシなどの良心的な映画クリエイターの新作ほど、映画館の環境で鑑賞したいという思いは強いです。パンデミックも終息した今、映画館での上映がなかったり上映期間が1ヶ月もないというのはやめてほしいものですね・・

映画の内容に戻ると、主人公のマイケル・ファズベンダーに加えて最高だったのが、ティルダ様。出た〜!

彼女が現れるだけで映画に深みが生まれ、セリフに重みが増すという現象は一体なんなんでしょう。最高です。

公開終了までに間に合ったらぜひ、映画館での極上体験を味わってみてください。
★★★★★



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