祖父は岡山県の一級河川「高梁川」の漁師だったので、夏になるとよく一緒に鮎漁に連れて行ってもらいました。3~4メートルの竹棹で舟を押しながら、川を横切るように刺網(カーテン状の網)を仕掛けて鮎が網の目にかかるのを待つ漁法です。
高梁川の漁師は、刺網のことをタテアミと呼び、攩網のことをテダマと呼びます。漁師用語にも方言らしきものがあるというのは面白いですが、とりわけ生き物の方言名は豊富で、図鑑に載っている名前では逆に通じない場合も結構あります。
その方言名の中には、インターネットでヒットしないものもいくつかあり、このまま誰も文字に残さなければ誰に知られるともなく消失してしまうかもしれないので、何となく記録に残しておくことにしました。
生き物の呼び方一覧
※2000~2010年ごろに高梁川中流域(総社市)で70~80歳の漁師たちが使っていた言葉をまとめました。標準語と同じものも一応全部挙げています。
高梁川のあたりで見かける(あるいはかつて見られたらしい)典型的な生き物で思いつくのはこのあたりです。
このほかにも、誰も名前を知らない種類の小魚がいくらか存在しており、そういう魚は大抵「ジャコ」と一括りに呼ばれていました。当時図鑑で見比べても同じものが見当たらなかったので、今となっては分からずじまいです。
おわりに
下は、僕が高校生のときに描いたスミヒキの絵です。
真ん中に墨を引いたような黒い線が走っており、標準語名のムギツクよりも方言名のスミヒキのほうが、よく似合っていると思います。
スミヒキは1帖の網に何十匹もかかるので、当時はありふれた魚のつもりでしたが、祖父は数年前に死んで漁具も舟も漁場も人手に渡ったので、もうこの魚と会う機会は一生ないかもしれません。したがって、「スミヒキ」という名前を口にすることもないかもしれません。
この魚を「スミヒキ」と呼ぶという情報はネットでは見当たらないので、誰かが使い続けてあげなければ、この魚が持ちつづけてきた「スミヒキ」という名前はまもなく消えてしまうわけですが、せめて高梁川の漁師の間にはこういう独自の呼び方がある(あった)という記録だけでもネットの世界に残しておきたいと思い、今回のような記事を書きました。
おしまい。