米国GenZ向けビデオ通話アプリに挑戦する起業家の話
こんにちは、HoloAsh岸です。
さて、前編からピボットをしていくことになりました。前編はこちらでご覧ください。
新しいことをやるにあたって、いくつか決めていたことがあります。
居場所を作ることにはこだわる
広がりを意識したプロダクトにする
自分たちがユーザーになるものにする
自分たちが存在する意義に立ち返ると、「テックジャイアントに忘れ去られた人たちの居場所づくり」で、作った自分から自分らしくいられる場所を作ることでした。
そして、それらは自分たち自身のことでもある、ということです。僕自身、発達障害があり、メンバーも一般的な社会からは弾き出されたように感じてしまう、こういった社会を変えていきたい、ということでした。
何をやるべきか
プロダクト発想のきっかけ
ニューヨークでの体験
その時、僕はニューヨークにいた。
ニューヨークは正直暗くて陰気な雰囲気が好きになれなかった。
僕がいたのは、ジャクソンハイツ。Little Indiaと呼ばれる、チベット人とバングラデッシュ人が多く住んでいる地域。
フードが安く、最安$6-7でもご飯が食べれるNYでも最安級なのではないか、と思われる。
マンハッタンに行く時には、地下鉄を使ってすぐ行けるアクセスも悪くない地域だ。
そんなある日、TiktokではThe Green Goblin Gang(グリーンゴブリンギャング)という集団が話題になった。普段使っている地下鉄に突如現れたグリーンタイツのその集団は次々に乗客の金品を奪っていった。
いつもの光景、いつもの場所で普通に行われる犯罪。
思えば、ホームレスの方にオークランドでは襲われそうになったり、New Yorkでもこの有様。
さらに、2022年も2023年も大量の銃乱射事件が起きていた。
孤独な社会
外に出ない大学生
大学生の多くは、アクティブでクラブやパーティなんかに出かけてる、と思っている。
もちろんその側面はあるが、銃撃事件に非常に敏感にもなっている。
僕らのインターン生の子の家から5マイルほどの距離(渋谷駅から東京駅程度?)で、銃乱射事件が起きている。
親が外に同伴するケースや外に一緒に行くケースなんてのも増えている。
夜家に帰る時、ビデオ通話しながら帰る人も多く、それが安心感に繋がっているという。
孤独というパンデミック
WHOが21世紀の最大の疾患は孤独だ、とCOVIDのパンデミック起こる前は多くの人が理解できなかったかもしれない。
でも、孤独であること、人と話せないことは辛いことだ。
アメリカの大学生の31%は移民、さらにアメリカの大学生の約6割は大学外での一人暮らしをしている。
統計によると、約7割のアメリカの大学生は非常に孤独だ、と感じているらしい。実際、彼らに話を聞くと、毎日ビデオ通話している、と言っている。
僕が彼らに「なんでビデオ通話するの?」って聞くと「だって会えないことも多いから」と笑いながらも悲しそうに答えていたのが印象的だった。
ソーシャルメディアは人を孤独にする
ソーシャルメディアの利用が孤独感と深い繋がりがあることはすでに証明されている。
このソーシャルメディアと孤独との関わりは、世代が違えど、パートナーがいようといなかろうと、雇用や健康への不安があろうとなかろうと、ソーシャルメディアを使えば使うほど孤独を感じることがわかっている。
ソーシャルメディアは繋がりを保つことや楽しいコンテンツを提供してくれる面もあるが、今の若い世代は、1日の4分の1をスクロールするだけで過ごしてしまっている。
消費するよりも、誰かと体験を共にすることを。
ソーシャルメディアからどう可処分時間を奪えるか?と思った瞬間からこのプロダクトの発想につながっていった。
プロダクトの開発
離れていても一緒に体験するビデオ通話
そこで着手を始めたのが、weCallという新しいビデオ通話のアプリ。
僕らがやりたいのは、現状のソーシャルメディアに思考を奪われてしまう文化を変えていくこと。
スクロールする時間よりも友達を大切にしてほしい。自分の居場所を見つけてほしい。自分らしくリアルな友達とリアルタイムにリアルな自分を受け入れてほしい。
友達と消費するのではなく、体験をする時間を持ってほしい。
それがぼくらの想いだ。
weCall: Real Time, Real Friends, Real You
プロダクトはバックグラウンドにいろんなコンテンツをシェアしながら楽しめるビデオ通話だ。
フロントとバックカメラが同時に起動する新しい体験が、よりお互いの距離を縮めてくれる体験を提供している。
コンセプトである、Real Time Real Friends Real Youが肝だ。
お互いフィルターのかかってない状態でお互いが顔を見ながら体験を一緒にビデオ通話上でできる。
家に帰る時にフロントとバックカメラを同時に起動しながら帰っているユーザーや、移民の学生や一人暮らしの学生で、自分たちの風景を見せてあげたりする。
体験したことを写真で共有しながら通話を楽しんでくれているユーザーもいる。
その他、バックグラウンドに動画やゲームをシェアしながら通話を楽しむ、消費よりも共に体験するアプリになっている。
ユーザーインタビューの日々
ユーザーインタビューも日々行なっている。
どれくらいビデオ通話するのか?その時に気に入らないことは何か?といった直接的な質問から、普段見ている映画、アニメ、ドラマ、宿題の量などなど。
ユーザーインタビューは難しい。
ユーザーインタビューで難しいのはこちらがいかに誘導せずに質問できるか、ニュートラルに接することができるか、そして本音を引き出せるか、である。
そんな時、インタビューについてベンチャーキャピタルであるAMLを運営する白石さんと出会った。
白石さんは、米国起業に同じくチャレンジしている方にインタビューを伝授した方。
その白石さんから、ユーザーインタビューの仕方を学ばせてもらった。
いまだに苦労しているがインタビュー方法も変わってきた。
具体的にどうしているか。
僕はコミュニケーション能力が低い。だから台本を作り、その台本をもとにインタビューをする。
そして、できるだけこちらの印象を押し付けない、仮説を押し付けないようにインタビューする。
あとは、彼らの言葉、ちょっとしたことでも聞き逃さないようにすることを意識している。
が、一番本音を引き出せるのは、結局同種と思ってもらえること。
「最近Netflixで何見てる?Never Have I Ever新しいの始まったよね、チームPaxton、それともBen?」みたいな会話から始めること。
彼らが使う言葉でどこまで話せるか、というのは1つのキーだと思う。
米国若者の動向
米国の若者のスマホの中身
皆さんは、アメリカのティーンのスマホに何が入ってるか想像できるだろうか?
10代の男性と女性のスマホ画面の違いを想像できるだろうか?
僕は毎日ように彼らと話を続けて、スマホの中身を見せてよ、と言い続けている。
例えば、LocketというPhoto Widgetアプリは米国の13歳以上から大学2-3年生程度までの女の子の間では、皆さんが想像するより彼らのスマホに入っていたりする。
必然的にその彼氏や仲良い友達も持っている。
僕が、直近1ヶ月で会話をした大学生の数は17人だ。
平日はほぼ毎日話している計算になる。
そして米国の大学生の多くが、毎日ビデオ通話をしていること。またTiktokを大好きな人もいれば、大嫌いな人がいて二極化している傾向を感じている。
これは、日本のZ世代とは大きく異なる特性だと考えている。
Mindless Scrolling
1つ学んだ言葉としては、Mindless Scrolling(マインドレス・スクローリング)という言葉がある。
スマホをひたすらスクロールし続け、思考を失って気づいたら2−3時間経ってしまう。TiktokもInstagramもYT Shortも、リコメンドされるがままスクロールしていく。
特に高校生から大学生はこの意識が強い。
僕は、彼ら自身がこの言葉を使うことに衝撃を受けた。
「アルゴリズムのせいで、自分が何に興味があるかわからなくなっている」というようなコメントをしている彼らとの会話から、米国のZ世代は、ソーシャルメディアがいかに自分を操ってくることを強く意識していることがわかる。
SNSのアルゴリズムがいかに素晴らしくて同時に辟易としているかを語ってくるのだ。
ソーシャルメディアは時として敵にもなりうる。
だからこそ、リアルな体験や友達との時間を大切にしたい、という需要が生まれている。
ビデオ通話文化
日本ではビデオ通話をする人たちはいるものの、アメリカほどは多くない。
アメリカの若者の43%は毎日ビデオ通話をしており、全体の7割以上が少なくとも週に数度はビデオ通話をしている。
ただし、1日の平均ビデオ通話時間は20分程度と言われていて、ソーシャルメディアを利用する時間が圧倒的に長い。
一方で、ビデオ通話のプラットフォームはiPhoneユーザーはFaceTime、その他はDiscord、SnapChat、Instagramと分散している状況で、決定的にこれがいい!といったものもなく、スクリーンシェア時のプライバシーの問題(みなさんもPhotoの中身見られたくない人いますよね)やFaceTimeジョイン時にアプリが落ちがちであることなどがあった。
元Discord CMOが仲間になる日
筒井さんと出会う
さて、ようやくこの話をしたい。
ある日、GFRの筒井さんと会った。
筒井さんは、GREEのアメリカファンドGFRで米国スタートアップへの出資をしている、その傍で米国で挑戦する日本人起業家への支援もしている。
プロダクトの話をしている中で、Eros Resminiという人物の話になった。
Eros Resminiは元DiscordのCMOをやっていた人物で、シリコンバレーでは名の知れた優れたマーケターである。
アドバイザーになってもらう!
米国でBtoCプロダクトのチャレンジをするにあたって、ベストな機会だと思い無理を言って紹介していただいた。
Erosは非常に厳しくも夢のある人物で、投資先にはOdyssey Interactive (a16zなどが出資)やQuilt(MaryFieldなどが出資)、RTFKT(Nikeに買収)などがある。
ちなみに、RTFKTをa16zに紹介したのはErosらしい(筒井さんのブログ参照)。
そして、彼からのオファーは単なる投資家ではなく、投資家兼アドバイザーとしてもやってくれる、というものだった!
なぜ口説けたのか
筒井さんからの紹介であること、トレンド、大きな夢、あとは相性なのではないかと思う。
英語が喋れなかった日を思い出すと驚きだが、MTGをするにあたって気をつけていたのは、とにかく自分が何を成し遂げたいのかを伝えることだったし、わからないことをちゃんとわからないと伝えることだった。
日本は比較的コールドのアプローチが効きやすいが、アメリカではほとんどが紹介などがないと相手にしてもらいづらい。
もちろん、時にはDMやEmailで突破もできるが、できるだけ紹介の道を模索することが一番大事なんだと思う。
ErosとNickからのアドバイス編
Erosはファンドを運営しており、ErosとNickが中心になって当社の主にユーザー獲得と組織についてのアドバイスをしてくれている。
1-2週間に1回のMTGをさせてもらって、事業やプロダクト、組織づくりのアドバイスをもらってきた。
「Discordの初期のグロースハック手法」や「データを見ながらの意思決定」をどう実現していくか、といったこと。その他、本当に日々の細かい面倒な事件。それから、ErosとNickがいたスタートアップのOpen Feintの時代に、悪質なユーザーとどうやって向き合っていたかなどの話を聞いて、自分たちならどうするかをあーでもないこーでもないとみんなで言いながら改善を続けている。
彼らと過ごす日々はとても有り難く、紹介してもらった筒井さんにはとても感謝している。
ネットワークを構築するアプリの初期戦略
ソーシャルネットワークやコミュニケーションを主体とするアプリは往々にして初期ユーザー獲得が大変で、多くのアプリは初期のユーザーがいないと盛り上がらず、盛り上がらないからユーザーもつかないスパイラルに陥る。
weCallの場合、1人では使えないアプリで、誰も知らないアプリで、誰かがいないと使えないアプリで、誰も知り合いがいないので表示すらされない、という問題がある。
ここには書けないほどやってきたことはあるのだが、参考になればと思うので少し詳細に書いていく。
ツールで惹きつけネットワークで引き留める
この言葉はクリスディクソン(a16z)の言葉で、インスタグラムの初期を形容する。
インスタグラムは、当初は写真加工アプリとして機能していて、初期のユーザーの65%は誰もフォローはしておらず、ただFacebookなどに投稿するための加工として使っていたと言われている。
Twitterも最初はマイクロジャーナリングのツールとして存在し、そこからemailでつながる機能が出てきてネットワーク化していった。
weCallでは、「ビデオ版BeReal」が一人で体験できるようになっている。
BeRealは日本ではそこまで流行っていないが、少なくとも米国の大学生高校生くらいの間では「友達使っているから仕方なく使い続けてる」くらいには流行っている。
コアはその瞬間をフロントとバックカメラで切り取る加工されてないリアルさ、という点にある。weCallはそれをビデオで収録することができ、まずはツールとして使ってもらうことができる。
戦略的に繋がりを起こす
BeRealは約2年、ユーザー獲得に苦労していた。
彼らがシードラウンドで約$2Mの投資を受けたとき、フランスで多少ユーザーがいるくらいで、投資を受けるタイミングでは数千から数万程度だったと言われている。
もちろんアプリ内の体験もそうだが、その後、キャンパスアンバサダーによるマーケティングキャンペーンと時期を同じくして急激に伸び始めている。要素は複雑に絡み合っているものの、大学内でのグロースは凄まじかった。
大学内での濃い繋がりを捉える
濃い繋がりはプロダクトによっても異なる。
一般的に、ゲームのプロダクトなら大学生という括りはワークしにくいように思える(もちろんゲームによっても異なる)。
大学生よりも高校生、中学生が良い可能性もあるし、その繋がりも十分濃いだろう。
大人の世界でも、趣味で繋がっている人は非常に濃い繋がりになっているだろうし、そこは検証しながら見えていくことなのだと思う。
僕らのプロダクトは電話する友達の塊を発見する作業と言える。
だいたい、アメリカ人の大学生の電話帳には、電話番号が数千程度入っていて、そこの中でもよく通話する相手がどこにいるか、というところがポイントになる。
これは僕らが数十数百と試している細かい実行策のうちの1つでしかないが、ここがハマってきた。
テキサスを中心にダウンロード
当社のアプリも当社のインターン生を中心にアプリが広まっている。University of Texas、University of Dallasが中心地となって、大学から広まっていっている。
アプリの特徴的な点は20%以上のユーザーが友達をインバイトしてくれてる点で、4月のローンチ当初は全く誰も使ってないアプリだが、6月7月と入ってきて、どんどんアプリのインストールと利用が増えてきており、2ヶ月で3000名ほどが使ってくれている。
電話番号で繋がっている同士を選定していく努力は今後も続けていくが、その1つハマったのが大学だった。
大学生の中でも移民の層は、僕らのプロダクトの機能の1つフロントとバックカメラを使って、出身国の友達とビデオ通話していたりもする。
今後はネットワーク効果をより高めていくために、各大学でのユーザー獲得を進めていく。
今後
ソーシャル上で他人と自分を比較するのではなく、スクロールする時間よりも、自分の友達とリアルな自分と向き合う文化を作っていく。
アメリカのコンシューマー向けプロダクトは最も難易度が高いといっていい。
でも、そこをやり切った会社は世界の文化のあり方を変えてきた。
今、1日の時間で、多くの人が起きている時間のうちの約3分の1から4分の1がスクロールに費やされてしまっている。
InstagramもTiktokもあらゆるソーシャルメディアは人気者のための場所。自分と人気者、または現実の自分と理想の自分との比較に悩んでしまう場所。
そうやってテックジャイアントに忘れ去られてしまった人たちが、自分たちの居場所を見つけていけるように。自分の居場所を作りやすくできるように。
weCallでは、フィルターされてない、リアルな自分になれる、友達との体験を大切にする、それを文化にしていきたい。
ソーシャルメディアでひたすら消費する時代から、共に体験する時代を作っていきたい。
最後に
前編でも書きましましたが、皆さんには本当に感謝しています。
投資以外のところで大変お世話になったICJ吉沢さんやGFRの筒井さんも本当にありがとうございます。
ここまで来れたのは皆様のおかげです。
世界の文化を変えていくコミュニケーションアプリになっていけるよう引き続きお願いします。
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