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「カフカ断片集」 頭木弘樹 著 新潮文庫

カフカの小説は、分からない。「変身」を読んだ時、「なんで朝起きたら虫になっているんだ!」と混乱したものです。カフカの作品は完成を目指していないので、伏線回収なんてことはどうでもいいのでしょう。どの作品を読んでも、どこか突き放されたような感じになります。

この本は、未完のメモのような文章の断片を集めたものです。断片だからこそ、割れたグラスの断面のような感じで、印象に残ります。

例えば
〔失敗することさえできない〕
家庭生活、友人関係、結婚、仕事、文学など、
あらゆることに、私は失敗する。
いや、失敗することさえできない。
(八つ折り判ノートH)P.14
・・・どっ、どうすりゃいいんだぁ!って叫びたくなります。

〔正しい道筋〕
正しい道筋を永遠に失ってしまった。
そのことを、人々はなんとも深く確信している。
そして、なんとも無関心でいる。
(八つ折り判ノートB)P.30
・・・わわわ、今の日本みたいだ!いや世界みたいだ!

〔内側からそっと〕
人は世界を外側から理論によってへこませ、勝利することはできる。
しかし、自分もそのへこみに落ちてしまう。
だから、自分と世界を、ただ内側から、静かなままにあるがままに保つ。
(八つ折り判ノートG)P.54
・・・忍々。静かに静かに、目立たないように生きよう。

〔救い〕
隠れ場所は無数にあるが、救いはひとつしかない。
しかし、救いの可能性は、隠れ場所の数だけある。
(八つ折り判ノートG)P.57
・・・まずは、僕の隠れ家を見つけよう。

〔虚栄心〕
虚栄心は人を醜悪にする。
だから、ほんとうは虚栄心を押し殺さなければならないだろう。
だが、虚栄心は押し殺されることはなく、傷つくだけだ。
そして、「傷ついた虚栄心」となる。
(八つ折り判ノートG)P.64
・・・救いがありませんなぁ。どうか、手負のトラにならないでいただきたい。

〔教育とは〕
そう、あらゆる教育は、おそらく2種類に分けられる。
ひとつは、まだ何も知らない子どもたちが、真実に向かって猛烈に突進していくのを防ぐこと。
もうひとつは、骨抜きにされた子どもたちを、そっと、気づかれないように徐々に、虚偽へと導いていくことだ。
(「ある犬の研究」削除箇所)P.141
・・・子どもに真実を知られると、大人は困りますからねぇ。
(・・・の後は、僕の感想です。)

0か1かのデジタルの世界の中で、カフカの文章は、0でも1でもない、そこにまだ現れていない何かを感じさせます。

そろそろ僕も虫になろう。



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